第7話 子供のための教育
「エーテル。起きて」
「…スリープ状態解除。挨拶、おはよう」
エーテルと共同生活する一日目か二日目か分からないけど…とりあえず共同生活が本格的にスタートする。でもエーテルは何もすることが出来ないから、今日は研究所は定休日だからエーテルに色々教えてあげようと思っている。日常生活で必要不可欠なものを…とか。昨日は料理を教えたけど、料理には色々な種類の食べ物が作れるからそれをいちいち教えると結構時間がかかる。相当な月日が必要となる。
「質問。当機が手伝えること、ある?」
「あるから。心配しなくてもいい。…今日は仕事が休みだから、エーテルに色々な事を教えてあげる」
「感謝。ありがとう」
最初は何を教えたら…朝ごはんの時間帯だし、ついでにエーテルに新しい食べ物のレシピとか調理方法を教えた方が良いかも。効率がいいかは分からないけど。
私はパン派だからいつも朝はパンだった。と言っても普通の食パンをずっと食べているという数日で飽きそうな食生活をしているというわけではない。目玉焼きを乗せたり、ジャムを乗せたり、シンプルにバターを塗るときもある。ご飯に比べると選択肢は少ないように思えるが、私は米を食べている国の出身ではないのでパンを食べている。遠い外国出身だからね、仕方がないね。いや、食パンに限定しなければご飯以上にパンは種類あるかも。
「オーブンの使い方を説明するからよく聞いておいてね」
「理解」
エーテルは集中して私の説明を聞いた。「役に立ちたい」と思っているのだろうか。助けてくれた恩人だから恩を返さないといけないと思っているのだろうか。それとも自動機械の使命に従わないといけないから何も知らないままではなだめだと思っているのだろうか。自動機械でも内面は分からない。そもそも機械に内面なんて存在するのだろうか。機械というのは心を持たないからこそ裏の顔がない。ただ何も疑問を持たずに役に立つ。…機械こそ純粋なんじゃないかと思い始めた。人間よりも機械のほうが何十倍も綺麗なんじゃないかと思い始めた。
「理解。当機、オーブンの使い方、完全に理解した」
「それはよかった。じゃあ、朝ごはんにしようか」
…子供を教育している母親のようになってきた。本当にエーテルが口調が子供っぽくて私の子供のようになっている。いや、私、結婚もしていないし子供も作っていないんだけどね。捨てられた子供を拾って介護している感じだから、私。…でも、それでもみんな拾った子供のことを自分の子供のように愛するんだっけ。血は繋がっていないから自分の子供じゃないのに…。そう思っているけど今の自分を見ていると私もそういう類にしか思えない。完全に矛盾している。エーテルを自分の子供のように世話をして…初めて会った時とは比べ物にならないくらいエーテルに対する評価が変わっている。…可愛いと思ってしまったからかな、その事を後悔してはいないんだけどね。
「それじゃあ次は庭の手入れの方法を…」
「理解。今すぐついていく」
いつかエーテル一人でも生活できるようにしていかないと。巣立ちというやつを子供はいつかしないといけないんだから。エーテルは自身のことをちゃんと受け入れている。…私もいつか受け入れないといけないのかな。あの事を…。
私が犯した罪のことを。
「これ…教えてくれないかな…」
「何を言っているの?自分でやりなさい。馬鹿なんだから自分でやらないとだめでしょ?」
「そうだそうだ!馬鹿なら努力しろ!」
「そうよ。努力しないのだからいつまで経っても馬鹿のままなのよ」
「…ご、…ごめんなさい…」
心の奥底にある思い出したくない記憶。これだけでは別に思い出したくないと思うことはない。この記憶には続きがある。その部分が…一番見たくない記憶だから。エーテル…「貴方」もいつか私のことを知りたいと思えるのかもね。私も「貴方」の全てを知りたいって思えるのかもね。つまり、「貴方」を受け入れたいと思える日がいつか来るかもね。
「さぁ、庭に案内するから」
「…楽しそう」
そう無表情でエーテルは言った。内心は恐らく笑っているんだろうね。
「次のニュースです。数ヶ月前から先日まで発生していた連続盗難事件ですが、今日は発生しませんでした。警察はこれを機に犯人の特定と確保を急いでいます」
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