第6話 自然の美しさ
「質問。布団の引き方、整え方はこれで正解?」
「合っているよ。それじゃあ寝る準備」
「理解」
まさかエーテルは歯磨きもしないといけないとは…まぁ、でもそれは分かるような気がする。機械でも金属は金属。手入れしないと錆びてしまうから。それは永久機関で補佐するんだけど…エーテルはエネルギー不足だから出来ないんだろうなぁ…。余計なところにエネルギーを使っているし、永久機関は不安定だからね…仕方ないのかもね。最初は低スペックで毛嫌いしていたけど、今では人間らしくていいのかもしれないと思ってる。機械なのに人間っぽい…そんな「子」なのだから可愛がりたい、そして近くで見てみたい。研究者魂が出ている瞬間だと思っている。
「準備終わったから、寝ようか」
「驚愕。ベットふかふか。わーい」
「寝る時は寝るよ?」
「謝罪。ごめんなさい」
…いつか表情を変える日が来るのかもと思った。そしてその日はそこまで遠くはないと感じた。感情表現ぐらいは出来るからもしかしたらと…。
夜が来ている。窓は閉めて外の様子は見えない。呼吸音は私の呼吸音以外聞こえない。でも呼吸音ではないけど小さい動作音が聞こえる。エネルギーの生成に集中しているから音が出ているのかも。永久機関が小さく心臓の鼓動のように音を立てている。…心臓の鼓動みたいで呼吸のようなリズムで動いている。私はその音に好奇心が動かされて、エーテルの寝顔を覗き見してしまった。普通の少女のように寝ていた。目もちゃんと閉じており、機械だと知らなければ普通の少女だと思えてしまう。純粋な子供…私はそんな心など幼い頃でさえも持っていなかった。持ち合わせていたら…。
…いつもそうだ。私は夜になると記憶が想起される。悪夢として見ることもあれば、突然フラッシュバックして記憶が想起される。だから私は普段からあの思い出のことを思い出さないようにしている。…軽い心的外傷後ストレス障害だった。軽かったというのもあり、医者に診てもらったけど…その症状だと教えられて何もされていない。…私生活に影響はないから私自身不満もないのだけど。悪夢を見て起きる時は目覚ましが鳴る数分前だから別に睡眠不足に陥ったこともないし、遅刻しないから便利ではある。不便なところは思い出したくない記憶を見てしまうということ。この精神の病気は治すのが現代でも少しだけ困難である。でも一昔前に比べると発展して難しくなってはいないという。…便利な世界だけど不便でもある…か…。
そう思っていると青い光が差し込んできた。何事だと思い、光がどこから漏れ出ているのか辺りを見回してみるとカーテンの隙間から青い光が漏れ出ているのが見えた。完全に閉めようと窓に近づいた時…綺麗な満月が見えた気がした。それを確かめるために窓を開けた。すると大きくて青く綺麗な月が私の目の前に現れた。…ブルームーン…月が大気中の塵の影響で青く見える現象。現代の地球ではとても珍しい現象だった、一昔前に比べて。レア度がとても高くなったとも言える。大気中の塵が一昔前までと比べて減少したのが理由。大気中の塵…それはハウスダストも含まれるためそれが減少し、月が青く見えなくなった。…でもまさかここで見えることが出来るなんて。しかも窓に全体が映っている。…思わずカメラを持ってきて写真を撮った。ブルームーンは幸運になるとも言われているから…縁起がいいとも言える。…この障害が治る時が来るという予兆なのか、それともエーテルの幸運なのか。どちらにせよ、いいものが見れた。今夜は悪夢を見ないかもしれない。…そんなわけはないと思っている…けどね。でも自然がとても綺麗だとこの時初めて思った。文化の発展していくと自然は壊わされ、自然は最低限しかなかった。この世界はほとんどが機械で自然なんかほとんど存在しなかった。…自然の最後の美しさ。自然はこの世界で一番儚いもので綺麗だと思い知った。生まれたときから自然の美しさなんて知らなかった自分が恥ずかしい。天才なのに常識的なことも知らなかったのだから。
…これで一つ、この世界に不便なところが増えた。
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