第5話 生命への憧れ

 エーテルと一緒に生活することになるということはエーテルを教育しないといけないということ。普通の自動機械なら見せるだけで覚えていくのだけど、エーテルは違う。ちゃんと説明しながらやり方を教えていかないといけない。まず、何から教えていこうか…料理?掃除?何であってもまずは日常生活でしないといけないことを教えていかないと…。

 「質問。当機が出来ることある?」

 「…教えてあげるからこっちに来なさい」

 エーテルをキッチンへ案内する。最初に教育することは「料理」に決めた。…理由はまぁ、日常生活で出来ないといけない事なのだから。…そういえば、この子って食事とるの?普通なら食べないのだけど…。

 「ねぇ、エーテル。エーテルは食事をするの?」

 「回答。当機は食事と言う名のエネルギー補給をしなければ活動が停止する可能性があり、食事は必要不可欠」

 エネルギーの補給…?どういうことかしら…?永久機関があるのだからエネルギーの補給はしなくてもいい気がするのだけど…。

 「なぜエネルギーの補給を?」

 「回答。当機の動力源、永久機関は不安定、すなわち「いずれ停止する可能性を持つ永久機関」。停止する確率を0にするためにエネルギーの補給は当機にとって必要不可欠。通常の自動機械には食物をエネルギーに変える機能は備わっていない。しかし当機は研究所にて強奪してきた変換機能を備わっているために食物を永久機関を補佐するエネルギー源を確保できた」

 おい、強奪とか犯罪犯している自動機械なんだけど?でも…エーテルにとっては死活問題なのよね…。永久機関の停止、すなわち自動機械の永久の停止。生物の死と同じような…いや、生命じゃないんだから違うか。…でも生きるためにはそうするしかなかったのかな。…「生きるためには手段を選ばない」…か。

 「主張。当機は理解している。いけないことだと分かっていても…このままだと当機の永久停止が待っている。当機、人の暖かさ知りたい。…命、知りたい」

 「…命?生命から程遠いエーテルが?」

 機械に命は宿っていない。生命活動が出来ないのだから。生命活動が出来ていない…そんな機械種族は種族ではない。…だからこそなのだろうか。

 生命ではないから生命のすべてが知りたいのだろうか。自分に命はない。自分には生命活動が出来ない…そして生命は生命活動をして生きている。…憧れ…というものなのだろうか。生命ではない「もの」が生命である存在に憧れていて…それに近い存在になりたいとエーテルは思っているのだろうか。…やっぱり機械らしくない。余計なことを考えなくてもいいのに。

 「…どうしてそこまでして命を知りたいの」

 「…理由。当機は機械種族。当然、呼吸などの生命活動が不必要。…でも、当機…自動機械には「出来ないから」、そして「完璧だから」…知ることが出来ないものがある。それが「命の価値」と「誰かの暖かさ」…知ることが出来なくても知る努力はすることが出来る。…無駄になっても当機は努力し続け…いつか知りたい」

 …無駄だと分かっているのにどうしてやるの、無我夢中に。分からない、その理由でそこまで動けるのか、努力しようと熱中出来るのか。…機械であるのに生きたいと願い、熱中できるのか。…もはや、人間。エーテルは人間っぽい機械だ。完全な人間ではない。けど…人間に近い。そんな機械は今まで存在しなかった、そもそもどうして?…「貴方」を知ればそれも分かるのかな。エーテル。

 「…話してくれてありがとう。それじゃあ簡単な料理を教えるから」

 「感謝。ありがとう」

 ほんの少しだけエーテルが笑ったように感じた。感じただけで本当は笑っていない。相変わらずの無表情。だけどどうして笑っているように見えたのかは分かっている。私が思ったから。エーテルが嬉しいと感じていると思っているから。脳内変換でエーテルが笑っているのを想像してしまったから幻覚が見えてしまった。…脳というのはたまに想像を現実にうつしてしまう厄介なものでもあるのだから。「貴方」の想像もその無機物な目に映る現実で見えるのかしら、エーテル。今は見えなくても、いつかは見えるかもね。見えるためにいっぱい教育しないとね。

 「それじゃあカレーでも作ってみる?」

 「理解。最初は何をする?」

 …私はエーテルにカレーの作り方を教えた。そして出来たのは初心者感否めないけど美味しかった。カレーを作っているエーテルはちゃんと努力していると思えた。…努力…自動機械には努力しなくても全てが分かってしまう。情報社会も分からなければインターネットで検索すればすぐに答えが出せる、説明も出せる。便利な世界…と少し前の私はそう思っていた。だけど考えてみたら…努力しているエーテルを見たら不便な一面もあるのではないかと思ってしまった。努力をする大変さとそれが報われた喜びを人々は味わうことが出来ない。一人でインターネットを頼らず答えにたどり着けたからこその喜びもある。エモーション…つまり感情とはそういうこと。感情を持つ生命は今、感情を出さないような発展をしている。…インターネットが悪いとは言わない。でも便利だからこその不便もあると気づいた。…そして私は最後にこう思った。便利な世界の事を。

 この世に完全に便利なものなど存在しないのだと。

 必ず、ものには便利な面と不便な面があるということを。

 それは…自動機械も同じようなもの。

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