第4話 心は生命だけ?

 「それで…ええっと…」

 「疑問。何か当機に対して疑問がある?」

 そういえば「これ」に名前をつけていない…。自動機械にみんな名前をつけているのか分からないのだけど…。でも名前がないと呼びづらい事この上ないわ。つけてあげましょうか。

 「名前を決めるけど…いい?」

 「理解」

 …どうしようか。どういう名前が一番いいのだろう…。…機械だから…浮かんできたやつでいいか。そこまで考える必要性はないのだからね。

 「…エーテル」

 「…理解。当機の名はエーテルとなった」

 ただ思いついただけ。「エーテル」…元素の名前で四大元素説の天体を構成する五番目の元素。…なんでこれが思いついたのかはわからないけど、いい感じの名前だからこれでいいか。エーテル…なんだか機械っぽくない名前だけど大丈夫だよね。機械だから機械っぽい名前をつけるのはただの誰かの偏見だから気にしなくていい。…でもエーテルって液体のイメージがあるんだけど…大丈夫かな。まぁ、機械も液体のものを使う時もあるし、しかも「これ」は私の「もの」なんだから私が名前を決める権利があるということだからね。

 「質問。当機、救世主の名前を知らない。名前を教えてほしい」

 あぁ…そういえば私も名乗っていなかったっけ。あっちも呼びづらいと思うし、代用で救世主と言われたら恥ずかしい事この上ないのだから、教えてあげてもいいか。…普通の名前だけど。

 「私はアフェオン・メテール。…自動機械を作った第一人者の助手よ」

 「疑問。当機を作った研究所の助手?」

 「…多分違う。私達は完璧な自動機械しか作らないから。廃棄処分個体の中にこんなにも「低スペック」な自動機械はいなかった」

 「…理解…」

 無表情でうつむいてしまった。明らかに落ち込んだとも言える行動で様子。…やっぱり感情は表せないだけで理解はしているの…?機械なのに、無機物なのに意思が存在して、感情を理解できる…?どうしてそうなっているのか分からない。永久機関の不完全さが原因?でもそんな事例なんてない…。そもそもそんな事例がありえるのかどうか…永久機関は不完全でも動作には問題ない、だけど機能の一部は使えない。しかも感情を理解し、意思を持つ…とてもじゃないけど不完全さが原因だとは思えない。博士に相談したほうがいい…?だけど博士も事例がないから原因が分からないと思える…。これは自分自身で解決しろと言われているのだろうか。

 「…心は生命だけなはずなのに」

 「疑問。どうした?」

 「エーテルって…本当に自動機械なのかな?」

 「回答。当機は自動機械。生命の一種ではない」

 機械には魂はない、心もない。…つまり生命活動はしていない。食べ物を食べることもないし、睡眠も取らない。…それならどうして…。…もう聞くしかない。どうして意思を持っているような行動を「取ることが出来る」のか。私はそれが疑問で仕方がない。普通ならありえないこと、なのにありえないことを可能にしている「もの」が目の前にある。研究者というのは好奇心旺盛でなければ常に研究をし続けることは出来ない。私も研究者ではないとはいえ博士の助手だから好奇心旺盛であるから、一度疑問を感じるとそれを追求したい気分になってしまう。…もう聞いてしまおう。

 「…エーテル。貴方はどうして自分の意志を持っているの?」

 「…不可解。意思とは?」

 …意思のことを分かっていない?それなら感情は?それも知らないというのならおかしい…。なんで自分の意志を持っているかのように行動出来るのか。どうして無表情ではあるが感情を理解しているかのような仕草や言動が出来るのか。…あぁ!もう知りたい!どうしてそんなことが出来るのか!博士の助手の血が騒ぐわ!

 「それなら感情は分かる!?」

 「…理解不能。さっきから何を言っている?」

 …理解不能…それなのに「歓喜」やら「懇願」など言えるのだろうか。感情を知らないというのなら怒るということも知らない、つまりはその感情を知っているかのような仕草も発言も出来ないはずなのに。…理解していなくても?…それか頭の奥、自分の無意識の範囲内に理解しているということ?理解していないと言っているけど無意識に感情や意思を持つことが出来る????

 やばい、自分でも何を言っているか分からなくなってきた。研究者なのに全く訳がわからない理論を頭の展開しまくっている。理系のはずなのにどうしてこうなったんだ。頭がいいはずなのに今は馬鹿になっている。知能指数がどんどん下がっていっている気がするんだけど。あぁ…落ち着け…自分は…有名な理系の大学を主席で卒業したのだから…馬鹿になるな…馬鹿になるな…。

 自分は馬鹿とか弱者が嫌いなのだから。

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