第3話 便利と不便
低スペックな自動機械を招き入れた。というより家で匿ってほしいと言われて無機物で無表情な顔で詰め寄ってきたからしょうがなく家に招き入れたのほうが正しくて詳しい。考えてみてほしいのだけど、無機物で無表情な顔で詰め寄られたら恐怖でしかないと思うのだけど…分かる?もはや脅迫と言っても差し支えないぐらい怖いのよ。実際に経験した私が言うのだから本当だと思ってよ?
「耐水機能ある?」
「回答。ある」
「それなら風呂に入っても問題ないね」
とりあえず、汚れているから風呂に入らせないといけない。…機械に衛生面があるかどうかは分からないけどボロボロではあるから風呂に入らせないといけない。…汚れてはいるんだから入ったほうがいいよね。耐水機能あるって言っていたから壊れたりはしないよね。
風呂に「これ」を連れ出す。服を脱ぐように指示をして風呂場へ。ちなみに私も裸だから地味に恥ずかしい。
「…思ったけど、髪の毛ボサボサだよね。洗ってあげるからそのまま待機して」
「理解」
どれだけの年月、あの待合所にいたのかは分からない。だけどボサボサになっているということは一週間以上はあそこにいたのだろう。流石に一週間もいたら髪の毛もボサボサになる。だからきちんと洗わないと汚れが落とせないし、髪の毛も整わない。「これ」は女の子みたいな容姿だから髪の毛には気を使わせないと。機械に性別は存在しないが一応女の子っぽく、男の子っぽく出来るから。私が拾った「これ」は女の子の容姿に近いから恐らく女の子をモチーフにして作られた自動機械だと思われる。
「…それにしても髪の毛ボサボサも問題だけど…かなり髪の毛長いわね」
「回答。当機は髪の毛の切り方を知らないため放置していたらこんな風になっていた」
「ちょっと切ってもいい?流石にこれだと髪の毛乾かすのにかなり時間いるから…。多分それに数日も立たないうちに髪の毛踏むかもしれないから…というか放置しただけでこうなるの?」
…また何かの不具合でこう髪の毛が伸びるようになっている…とか?
「回答。当機はエネルギー不足に陥っている。原因は他にも存在するが髪の毛の部位が伸びるようになったのは余計な部位にエネルギーを使い成長してしまっている」
「…つまり髪の毛にエネルギーが行き渡っているから髪の毛が伸びるようになってしまった…ということ?」
「肯定。しかし当機は体ごと成長は不可能と断言」
「そりゃあそうよ。内部を弄らなければ背を伸ばすは出来ないわ」
機械が自発的に身長を伸ばすことが出来るとか…なんだか想像しただけでホラーだと思えてきた。機械どうやって大きくなった体に対応出来るのよ…。流石にそこまで人間の再現は出来ていないのか。そもそもエーテルが意識的に自分の体を人間のように改造しているかは不明だけど。…まぁ、聞く限り、意識的に改造はしていないみたい。たまたま機能や性能が人間に近くなってしまった…というのが正しいのかもね。機械の意思なんて分かりっこないから不確定な言い方になってしまうけど…まぁ、科学なんて不確定で溢れているんだから仕方がないね。不確定というか謎が解明されていない議題のほうが多いと言ったほうがいい。この事を博士に聞かれたら多分怒られる。科学を舐めるな!とか言われそう。博士のことは尊敬はしているけど崇拝まで私は尊敬していないから。ヤンデレとかメンヘラのようなレベルの尊敬というか愛なんて持ち合わせていないから。
「えっと…とりあえずここまで切ろう」
ボブのような髪型にするために髪の毛を大幅に切る。…風呂場が「これ」の髪の毛で散乱しそうだけど仕方がない。「これ」の髪の毛を切ると少しの髪の毛は手から滑り落ちてしまったがほとんどの髪の毛は手に持っているため洗面所にある自動で処理してくれるゴミ箱の中に入れる。原理は見えない程度まで木っ端微塵にして最後に燃やす。木っ端微塵にする必要性は燃えやすくするためでもある。あと弱い火を使うだけで簡単に燃え尽きるから。エネルギー問題が解決した今、ゴミ問題はもう解決している。便利な世界でもあるけどなにかが足りない少しだけ不便な生活でもあるかもしれない。
一昔前では問題に直面していた人類は試行錯誤を繰り返していたという。そして完成したのがこの世界。便利な世界でみんなが楽して生活できるこの世界。働いている人もだいぶ楽に仕事ができて、便利な世界。だけどそれと同時に何かを失っている気がする。そしてそれを私は少し前に感じたような気がする。…自分でも思っていた、忘れていた言葉。「忘れていたかった言葉」。そして私は思い出すふりをして思い出さないようにするのだろう。思い出したくない、一生忘れたままでいたいから。一瞬感じてしまい、苦い思い出が蘇りたくないから…感じても思い出は無視しているのだろう。…でも「これ」と生活しているとどうしても…感じてしまうのだろう。「これ」は「それ」の象徴だと思うから。
「…可愛い感じになったね」
「感謝、感謝。ありがとう」
…「これ」は…。…いいや。思い出さなくてもいいことなんだから。あの名前さえも…。
「じゃあ、浴槽に入ろうか」
「驚愕。風呂場、広い」
私は自動機械の博士の助手という立場もあってか大富豪ではある。だから家も結構豪華である。一人だから他と比べれば狭いけど二人で生活する分には問題ない。…まぁ、多分10人でも問題ないのだろうけど。
「主張。暖かい、楽しい。わーい」
わーいと言っているけど無表情。でもこれはこれでポーカーフェイスの子に見えて可愛いと思ってしまった。なんだか私の何十倍も可愛くて…そして純粋でもあるような気がした。「これ」は生まれたての子供のように見える。何でも楽しいと思えて、母親の言うことを何でも受け入れる子供。まぁ、容姿は小学生っぽい女の子だから精神年齢的にはあっているけど…機械に精神年齢なんてあるの?
「はしゃがないでよ…出来るだけ」
「理解。でも、楽しい。わーいわーい」
風呂に入るだけで楽しいと思えるんだ、と私は思った。別に自動機械だから風呂に入らせないというわけでもないと思うんだけど。…一部の人も自動機械を風呂に入らせているから珍しいことでもないような気がするんだけど…。…純粋な心を持っているよう見えるなぁ…。…純粋…か…。純粋という言葉を聞いて私は思った。研究者でもあるからなのだろうか…。でも私はまるで論理学者ようになっている。
思ったこと、それは文化の発展について。文化が発展すると人間は少しずつ生活が便利になっていき、楽になる。そして一昔前ではあり得なかったことも、一昔前では革命のようなものが発明される直後はあんなに喜んでいたのに。人間はそれをいつの日か「当たり前」だと思い、その物のありがたさを忘れているような気がする。実際私も忘れていた。便利にはなった。生活しやすくなった。それは確実だった。…だけど同時に何か不便になった。道徳的な意味合いで。人はありがたさを忘れていた。当たり前だと思い、感謝すらも忘れていく。この世界も同じだと思った。みんな物に対する喜びや感謝を忘れている。それにどれだけ支えられたことか。…便利になっていくと同時に他の不便が出てくる。文化の発展は人の心を変えてしまうのだと思った。この世界は便利であり、どこか不便なのだと感じた。
「疑問。どうした?」
「え?…あぁ、大丈夫。そろそろ上がろうか」
「理解」
便利なものだけど不便でもある…それが「これ」を象徴しているのかもしれない。「これ」は複数のモノを象徴しているのだと思う。…だからそれは…人間がもう一度あの頃の心を取り戻すために必要なことなのかもしれない。…戻す必要性はあるかもしれない、だけどデメリットも有る。…メリットがあり、デメリットがある。デメリットは完全に消すことは出来ない。でも小さくすることが出来る。どれだけ小さく出来るのか。それが人間という世界の支配者に課せられる永遠の課題だと思った。
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