第2話 機械らしくない

 「…救世主になってください?」

 …そういうということはこの自動機械を拾って…私の家にかくまってくださいということなの?誰も拾ってくれないから、私に「これ」を拾わせて、私の家に「持って」家で働くということ?…低スペックなのに?

 「懇願、懇願。拾って。当機を救って」

 物凄く詰め寄ってきた。機械は願わないはずなのにこの機械は私に向かって願っている。生命維持のための本能?でも機械は生命活動は存在しない。だって生命ではないのだから。

 「お願い。お願い」

 「…怖いから詰め寄ってこないでくれる?」

 …こんなに自動機械が懇願しているなんて事例がない。自動機械は主に反感も抱かないし、主に懇願することもない。そもそもこの自動機械、私をもう主として認識しているの?早すぎない?…もし認識しているのなら断っても、受け入れてもついてきそうな予感しかしない。

 自動機械は主に必ずついていく。主がついてくるなと言ったら待機しているがこの異例な自動機械は断ってもついてきそうな雰囲気がきているんだけど。…ストーカーとかヤンデレ疑惑あるんだけど、「これ」。

 「懇願、否定する?」

 「そりゃあ、否定し…」

 断るという事を言いかけると「これ」はこう言った。

 「否定、否定、否定。捨てないで」

 そう言いながらもっと詰め寄ってきて無表情で無機物のような顔でじっと見つめてくる。とても怖い…本当「これ」どうしようもないぐらい断るの無理じゃない。…このままここにずっといるわけにもいかないし…仕方がない、連れて行くとしますか…。家には自動機械一体もいなかったし。廃棄個体なんて当てにならないのだけど。

 「分かったわよ…連れて行くから離れて」

 「感謝。ありがとう。当機、嬉しい」

 感謝の言葉も無表情で無機物。まぁ、機械なんてそんなものだよね。感情なんてあるわけがないのだから。…でも、この個体…とても機械らしくない。確かに感情はない。だけどこの個体…まるで自分の意志があるかのように動いている。あるかのようにじゃない…私にはこの機械に意思があるようにしか見えない。…よく分からない…不気味だけど肯定してしまった以上、連れていくしかない…か。嘘をつくのは嫌いだから。

 「とりあえず…個体名を言って」

 「回答。当機は廃棄処分個体。個体識別番号22番。全自動機械の最下位のスペックである個体」

 うん。そりゃあ「捨てる」わ。まさかの最下位個体か…そして廃棄処分個体と言っているということは五種類の自動機械のうち「どれでもない」ということ。精霊の名をもらった四種類と星の名前の一種類は最後の工程にどの種類にさせるかの調整がある。…それをしてもらえず廃棄処分された個体…そういう個体はだいぶ少ないはずなのに私は運悪くその個体に狙われたということね…。

 「…服は?」

 「回答。所有していない。現在、当機は人間で言うところの全身全裸状態」

 「うん。わざわざ堂々と言わなくてもいいから…とりあえずタオルまとって。私が通報されちゃうから」

 「理解」

 私はよくわからない低スペックな自動機械を私の家に連れて帰ることにした。料金は払っていないけど「捨てた」ということは「所有権を捨てた」と同義なのだから。だから「これ」の所有権は今は私が持っているということになる。捨てられた「もの」をリサイクル…いやリユースしているのだから何も文句は言われないだろうし。そもそも「これ」は最下位の個体なんだから、誰も欲しがらないでしょ。家に置いとくだけでいいや。何もしないというのなら、迷惑にはならないし…何しろあそこでいつまでもいないでほしいという願いもあったと言えばある。いつか誰かが変質者かロリコン扱いで逮捕されそうだからそうならないようにしたとも言える。…何もしていないのにそういう扱いされるのは嫌でしょ?逮捕されるのも嫌でしょ?だからその要因を事前に回収しておくの。

 「はい。着いたよ」

 「歓喜。当機、誰かいる家に戻れた」

 歓喜と言っているが表情は笑っていない。真顔で「歓喜」とか言われても全く感情が見えない。意思は持っていそうだが感情は全く持ち合わせていないようね。…とりあえず服を着させないと。タオルだけではまだ露出が多すぎる。見た感じ…身長は人間で言う六歳ぐらいかな?小学生一年生ぐらいの個体って…そんなになかった気がするんだけど。私達の研究所で作られた個体ではないのかな。別の研究所で作られた個体なのかな。まぁ、何でもいいや。別に博士からは自分の研究所の個体を使えとは一言も言われていないし。研究員の中には別の研究所が作った個体を持っている人だっているんだし、私も別にいいよね、研究所の中では二番目に地位持っているとは言えど。みんな許してくれるよね。許さなかったら自由権の侵害だわ。

 「…えっと…着て。これ」

 「理解。…。…歓喜。とても嬉しい」

 だから笑っていないんだよ、顔が…。でも感情自体は理解しているのか無表情でぴょんぴょんその場ではねている。「これ」に着させた服は幼少期のわたしの服。つまりおさがりと言うやつ。…「これ」は私の娘とか従姉妹とか養子でもないのだけれど。…そんな何も血縁関係もなにもない関係のない存在に私の幼少期の頃の服をあげるなんてね。まぁ、裸でいられるのも困るし、新しく買うのも億劫だから、これが一番手っ取り早いのだけど。ぴったりでよかった。ぴょんぴょん跳ねても何も問題ないみたいだね。買わなくて済む…これで。

 「とりあえず座って。貴方の性能を細かく聞かせてちょうだい」

 「回答。…先程供述した通り、当機は最下位のレベル、つまり最低最悪のスペック。自動機械としては廃棄処分個体。製作途中で廃棄処分を言い渡され、焼却炉で燃やされる工程の途中、当機は脱走した」

 「いや、なんでここにいるかの過程を聞いているのではないのよ。性能」

 「…理解完了。全ステータスは人間と同レベル。知能指数は12歳程度。性能は全自動機械の最低辺」

 自動機械には様々な機能が存在する。「容姿変化」「現実演算」「模倣模写」「思考加速」「既知最適解」…と。「容姿変化」は自分の容姿を自由自在に変化させることができる機能。「現実演算」は現実を演算して全ての数値を知ることが出来たり、攻撃の飛距離、範囲、計算できるものなら何でも計算できる機能。「模倣模写」はありとあらゆるものを模倣したり、模写することが出来る機能。「思考加速」は人間より数十倍の速さで行動できる機能。「既知最適解」は人間が今ある知識を全て知っており、そこから状況の最適解を導き出す機能。…もはや神に等しい機能だけど、人間に作られたのだから人間の「もの」である。

 「全ての性能…機能の状態を細かく」

 「理解。容姿変化は問題なく使用可能。しかし時間制限が設けられており、これを超えると強制スリープ状態。動作が可能になるまでエネルギー補給に費やす」

 …それの時点で少し問題がないかしら。普通の自動機械なら時間制限は設けられておらず永久に容姿変化出来るはずなのに…この個体は時間制限がある…か。…何時間なのか聞いておくとしましょう。

 「何時間まで変化できるの?」

 「…推定12時間。一日丸々は不可能。当機が持たない」

 12時間…つまり半日ということね。半日しか人間の体になれないということ…ね。やっぱり…低スペックね。普通の自動機械と劣り過ぎでしょ。

 「…次」

 「理解。現実演算は使用不可能。模倣模写も使用不可。思考加速は人間の頭の回転が速い者と同レベル。既知最適解は三時間までなら使用可能」

 …ほぼ機能が使用できていない?それって永久機関がある限りありえないことだと思うのだけど…。…ちょっと聞いてみますか。

 「なんでそこまで機能が扱えないの?」

 「回答。当機の永久機関は完成に近い「未完成」。つまり、「不完全な永久機関」であり、動作には問題ないが機能を使うエネルギーを消費するエネルギーの余裕がない」

 …永久機関が不完全?それでほとんどが使えなかったのね…まさか…廃棄処分になった原因というのは永久機関の不完全さゆえに…。つまり研究者が失敗したから廃棄処分となったということね…。動作に問題ないのなら…いいか。…永久機関が不完全なら直せばいいかも知れないけど…失敗する可能性もあるし、このままでいいか。

 「情報提示。当機は不完全さゆえ、スリープ状態となりエネルギー補給、もしくは蓄積に費やす。人間で言うところの「睡眠」と同じ状態となる」

 …ますます「低スペック」だわ…。永久機関が全ての元凶とは言え…流石にね…。

 「…でも、どうして私に願えるの?」

 そうだ、この質問をしなければならない。どうして機械なのに自分の意志があるように行動できるのだろうか。感情は理解できているとはいえ表現できていない。心がないというのは自動機械にとってアタリマエのことなのに…どうして「これ」が願えるわけ?心がほんの少しでもあるとでもいうの?機械が?「機械風情」が?

 「疑問。ただ助けてほしい。だから当機は手を伸ばした。変?」

 「…機械らしくない」

 どうしてここまで機械らしくないのか。これは…観察する価値ぐらいはありそう。

 「疑問。機械らしくないと、だめ?」

 「だめとは言っていないわ。…でも気味が悪いとは思っている」

 どうして機械が心の一部を持っているのか。模倣模写で出来たとでもいうの?でも「これ」は模倣模写は使用不可と言っていた…だから模倣することも出来ないはずなのになんで…。これは…。

 …これは本当に観察する価値はありそうね。

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