エモーションマキナ

岡山ユカ

第1話 低スペックな自動機械

 人間の文明はもはや環境問題を全て解決するぐらい発達した。そして自然災害さえも脅威としない文明であった。

 人間は少し昔、エネルギー問題や環境問題について色々議論されていた。だからこそ太陽の核融合を実現させればエネルギー問題も環境問題も解決するのではとされていた。そして永久機関も環境問題を解決できるのではとされていた。長い年月の研究や試行錯誤でついにその2つが実現し、人間は問題から解放されたのだ。人間には超新星爆発が起きるまでの平穏が約束されたのだ。

 エネルギーが有り余り、とある博士は人間の労働力を補うためにある「もの」を創った。「自動機械(オートマキナ)」と呼ばれる人間に近い容姿をした機械種族を創った。心はなく人間が命令したことを忠実にこなしてくれる頼れる労働力である。博士のなしたことは偉業として世界に知れ渡り、世界にも自動機械が「輸出」されるようになった。それは今でも…続いていた。

 「博士。自動機械制作の依頼がまた来ました」

 「分かった。アフェも手伝ってくれ」

 私はアフェオン・メテール。最近、この国に引っ越してきた外国人で今は和真博士の助手をやっている。名前が長いから博士たちには「アフェ」と呼ばれている。そこまで長くはないでしょと就任したばかりの頃は思っていたけど最近は愛着っぽくて気にしていない。博士の助手でこの研究所で二番目の地位を持つ。権力者?ではあるのかもしれない。

 「制作終わりました。調整に入り、ご主人さまを認識させます」

 「アフェは依頼主を連れてきてくれ。調整は私がやる」

 「分かりました」

 自動機械はご主人さまを認識したら何も疑問を持たず命令を遂行する。かなり人間に近く、様々な機能が備わっているためバグに関しては注意深くならないといけない。バグとか不具合がなければ安全で忠実な「もの」であるため人間にとってはなくてはならない「もの」だ。

 「起動を始め、ご主人さまを認識させます」

 「お〜…これで疲れることがない…!」

 「…個体名…スターエレキメント18234586番起動…。ご主人さまを認識します」

 依頼主を目の前に立たせ、認識させる。

 自動人形には五種類あり、この中で一番使いやすく、扱いやすいのがスターエレメント。そしてノームエレキメント、ディーネエレキメント、サラマンエレキメント、シルフエレキメントの4つがある。これらは四大精霊が由来である。

 スターエレキメントは万能で何でも出来る。その代わりに「価格」が物凄く高い。

 ノームエレキメントは体力が多く、労働力として使われることが多い。

 ディーネエレキメントは水中で呼吸で呼吸できるため、漁業関係で使われる。

 サラマンエレキメントは鉱山など環境が厳しい場所で働いている。

 シルフエレキメントは自然系の仕事が得意で園芸店で働いている。

 「結果。ご主人さまを認識完了」

 「ありがとうございます!お代金はこちらです」

 今日も依頼主に自動機械を作り続ける日々。こんな変わりのない一日に…なるはずだった。

 「ふぅ…」

 家に帰るときだった。営業時間も研究も終わり、私はエネルギーで浮く車に乗っていた。永久機関が入っているため燃料という概念は存在しないからずっと走ることが出来る。私の家は町の外にある。静かなところが好きだからそこに住んでいる。そこへ向かおうとしたときに待合所のところにポツンと置かれた大きなダンボールが目に入った。何か入っているのだろうか?と思って車を止めて近づいてみた。

 中に入っていたのは…え?これ…裸?でも鉄製っぽいから…自動機械?少し触り、起こしてみようとする。自動機械とはいえ裸だから触るのは気が引けるけどどうしてここにいるのか聞くために起こさないといけない。…というかこんな個体…いたっけ?作ったことがない…別会社が作った個体かな?

 「確認。当機に触る生命を確認」

 「あ、起きた」

 「検討。状況整理中…」

 いや、状況を整理したいのはこっちなんだけど。なんでここいる?なんでダンボールの中に裸でいる?自動機械でも服ぐらいは着てよ…全身全裸に見えるから。しかもこの子ようj…少女の姿しているじゃん。ロリコンとか勘違いされそうで…というか通報されないよね!?誰かに見られたら通報されるかもしれないんだけど!?…幸い周りには誰もいないから…通報されずに済みそうだ。

 「理解。当機を拾ってくれる人物と出会えた」

 …はい?

 「救援。当機、救って」

 「いや、何を言っているの?」

 「疑問。当機のことを救いに来たのではない?」

 …自動機械というのは演算機械でもあり、すぐさま計算でき、状況も整理できる。それがこの機械は遅いし、しかも状況整理が的はずれなあたり…あぁ…大体掴めた。これは…「廃棄処分」しないといけない。

 「貴方主人様から捨てられたんでしょ?」

 「否定。捨てられたわけではない。当機は元々廃棄処分される予定だった」

 え?廃棄処分個体がなんでこんなところにいるの?焼却処分されているはずなのにどうして生き残っているわけ?

 「…理解。当機を拾ってくれる救世主ではないというのなら言葉を変更する」

 何を言うつもりなの?こんな「低スペックな自動機械」…。こんなの拾わないし、そもそも「いらない」のだけれど…。

 「…要請、否、懇願。当機を救出してください。当機の…」

 救世主になってください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る