第24話 重いもの

 まもなく隆は大学を卒業する。

父の会社に就職することになるから、就活はしていない。

周囲から見れば、御曹司はいいなんて言われるが、これからが隆にとっての正念場になる。

今までは学生だった。

二十歳にデビューはしても、バックには遥がいてプランニングのチェックや手直しをしてくれたし、周囲だってまだ優しい目だった。

夏夜が襲撃されたときの秋華も、何も言わなかった。

しかし、これからは別だ。

隆の成功も失敗も、全てが月嶋のそれになる。

もし、信用を無くしてしまえば、四家の統制にも関わる。その判断は比較的速い。

もちろん仕事だけの問題でもない。

しばらくは「仕事に必死」で済む。

しかし、隆は長子なのだ。

その長子が、次の世代を残せるかだって注目されている。

秋華と遥が人知れず苦しんでいたように、うまくいかなければ周囲だって黙ってはいない。

現に夏夜を迎えると言った時、分家の叔父は、子どもが産めない女を入れてどうすると捲し立てていた。

この叔父は、夏夜が華麗な実績を誇っていた時など、隆の相手にいいと言っていたのに。

勝手なもんだな。

まだ「産めない」なんて決まっていない。妊娠しにくいだけだ。

それだって確率の問題だろうに。


大学を卒業して父の会社に入り、期待と好奇で見られ続ける日が迫っている。

『重い』

肩にのしかかるもの。

父もこんな思いをしているのだろう。

自宅では飄々として、母をいつまでも「そのちゃん」なんて呼ぶ、睦まじい父である。

隆と同年の綾女も卒業だ。

彼女も長子だから同じような思いなんだろか。

匠は医学部であと二年か。

医者としてのトレーニングは厳しいだろう。

まして、彼が目指すのは救命救急医だ。家業との平行も至難の技だな。

この頃の隆は自室で、こんなことをよく考える。


 夏夜を月嶋に迎えたいといった時、父に覚悟はあるかと聞かれて頷いた。

あの時の父はいつもより冷たく鋭くて、怖いくらいの目をしていた。ほんの一瞬のことだったけれど。

後悔なんてしていない。

しかし、これからのことを考えると不安は湧き上がってくる。


 最近の隆は、少し乱暴な時がある。

夏夜の返事を待たずに体を押し付けてきたり、何かを忘れるために夢中になってる時も。

理由が夏夜にはわかっている。たぶん。

できるだけ拒否しないようにするしか、今は思いつかなかった。

けれど、その後の済まなそうな、苦しそうな隆をなんとかしたかった。


 ジムに一緒にきて、カフェで綾女と落ち合う。

綾女は匠に続いて、プランナーとして無事にデビューを終えていた。

綾女がアイスチャイとドーナツを持ってやってきた。

「おまたせ!新作チーズケーキはベリーだったんだね、美味しい?」

「お疲れ様。さっぱりしてていいよ。ごめんね。卒論で忙しいのに。」

「いいのいいの。私も会いたかったし、ほとんど終わったから。隆は終わったって?」

「昨日提出したみたい。」

「赤ちゃんズは元気?ええと、橙子さんの飛悟ちゃん。秋さん家の千桜ちゃんと薫ちゃん。」

指を折りながら三人の名前を並べた。

「やっと夜、長めに寝てくれるんだって。私もだいぶ解放されたの。」

「でもその割に、夏夜はちょっと疲れてるね。隆が原因?」

「そう見える?」

「そうね。夏夜は疲れてるし、隆は最近ジムでペース上げすぎで、遥さんによく注意されてる。となれば隆に原因ありそうよねぇ」

「.....」

「じっと手を見る夏夜さん、跡がついてるよ?」

どう話そうか迷っている夏夜の首の後ろを、ツンと突いた。

咄嗟に両手で首を隠すように押さえる。

「嘘よ。」

「綾女ちゃん...焦った。」

「てことよね。夏夜が困っているのは?」

「綾女ちゃんは卒業したらどうするの?結婚のこととか言われたりする?」

「たまにはね。」

「跡をついだら、きっと子どものことも言われるんだよね?」

綾女がキッとした顔になって夏夜を見る。

「隆がなんか言われたの?それとも夏夜になんか言ったの?」

「ううん。誰も何も。でも最近考え込んでいることが多くて、それに....なんだか余裕がないっていうか....」

綾女が夏夜をじっと見る。

「ほっとけば?」

ドーナツを頬張った。

「苦しいんだと思うけど....」

「今更のことよ。結婚した分の責任が私やたくよりはあるだろうけど。でも手に入れたものがあれば、重くなるのはしょうがないでしょ。」

「......」

「夏夜ってば優しすぎ!

そんなの考えるのが当たり前だし、メリットもデメリットもあるのが普通でしょ?

ただ、夏夜が何か迷惑を被っているなら話は別。甘えてんじゃねぇってことよ。はっきり言ってやりなよ。」

はぁ..とため息が出てしまった。


夏夜を強引に引き寄せようとする隆の手を抑え聞いてみた。

「ねぇ、隆、苦しいんじゃない?大学を卒業するから、仕事もだけど、家のこととか色々。」

「イヤなの?イヤならそう言っていいんだけど」

「イヤじゃないよ。だけど最近の隆はちょっと乱暴。なんだか怒りの吐口みたいな感じ。」

「抱きたいだけ」

「楽しんでない。隆がそんなに苦しいなら私がしてあげる。」

「へえ、やったことないくせに。できるの?」

「隆だってして欲しいって言わなかったでしょ?」

子どもの喧嘩みたいなノリだ。

隆がムッとする。

「じゃあやってよ。」

夏夜だってムッとなった。

「わかった。ちょっと待ってて!」


夏夜が自室から戻ってきた時、手にはタブレットを持っていた。

画面をスクロールして漫画の一部を出す。

ドンと突き飛ばすようにベッドに座らせると、隆の足元に膝をついてジーンズのボタンを外した。

隆はドキリとした。

『マジか⁉︎』

そうっと手を伸ばして片手で触れた。

ちょっとビクビクしている。そして.,.

ページをめくった。

「ちょっと待て、夏夜!まさかそれ見ながらやるの?」

「悪い?こう持って、ええと」

夏夜の唇が触れそうになったとき、隆が叫んだ。

「わかった!!ごめん。俺が悪かったから。」

夏夜が止まった。

「隆だって、自分のこと言ってくれないじゃない」

半分泣きそうな顔だった。

「あーあ」

ため息とも嘆きともとれる息を出して、ジーンズを戻すと隆がベッドに転がった。両手で顔を覆って言った。

「ごめん。夏夜....」

隆のそばに腰をおろす。

「大学が終わったら仕事だから...不安でしょ?それに妊娠できるかわからないし。」

隆がもぞもぞと移動してきて夏夜の膝に頭を載せた。

夏夜の手が髪に触れて撫でてくれた。なんでこんなに気持ちいいんだろう。

「うん、不安だったんだ。やっと気がついた。

イライラしすぎて正体がわかんなかった。」

ずっと少しずつ思ってきたことが、社会に出ることになって爆発した。

これまでの不満とこれからへの不安。

周囲にできるだけ見せないようにしてきたのに。

夏夜はだまって髪を撫でていてくれた。

隆は積もり積もった不安を口にすると夏夜の膝の上で眠っていた。

『妊娠したらどうしようなら、ちょっとは違ったのかな』

その他に夏夜にできることは、こうして隆が少しでも力を抜けるようにすることくらいのようだ。


 カフェで綾女が隆と夏夜を見ている。

落ち着いたみたい。

結局、夏夜はどうしたんだろう。

綾女の視線に気がついても、彼らがあれこれとオープンなのだと知っていても、さすがに自分から、漫画を見ながら事に及ぼうとしたとは口が裂けても言えない。

隆だって言わずにいてくれるだろう。

それに、あのまま隆が止めてくれなかったらどうなっていたのだろうと思うと、暴れ出しそうなくらい恥ずかしい。

穴を掘って入りたい。そして一生出てきたくないと思うのかも。

でももし、万が一、隆がそれを望んだら?

その時は、前に綾女が言っていたみたいに教えてもらうしかない。隆に。

そう思ってチラリと隆を見た。


 エラの課題を書くのは思っていたより難しい作業だった。

自分の嫌いなところはもちろん、良いと思うところを書くのは躊躇う。

嫌いなところの方が書きやすいくらいだ。少し辛い気はするが。

ノートには日付を書いて、見開きで使う。

自分が嫌いだと思う部分を一ページの左半分、好きだと思う部分を右半分。隣のページは開けておくように。

左ばかりが進みそうだ。右側はレポートを書くより時間がかかる。

『自分のダメなところばっかり....』

なんとかかけた右側の欄には、「夫に思うことを言えたこと。」

この間のジーンズ事件の夜にそう書いた。

そのほかには「大学の講座を受けた」とか

小学生の作文のような文言が並んだ。

大学に関しては左の欄に「大学の通学制を選ばなかった。」とあるから文字で見ると変な気がした。

こうして思いついたことを少しづつ書いて、エラと話す。

「少し自分の内側を書きましたねexcellent!」

「小さい子みたいなものしか書けなくて...こんなことででいいの?」

「かや、この宿題は第一に取り組むことが素晴らしいのです。

見たくない、知りたくないことを文字にすることがスタートですから。」

「嫌いなところはたくさんあるの。」

「そのようね。私からの提案は、右に三人のbeby’sに関して、あなたはとてもお姉様たちよく支えたことが入るのではないかと思います。」

「でも、それは当たり前のことでしょ。おば様」

エラは笑って夏夜を見る。

「あなたにとっての当たり前が、他の人にはそうではない事もあるのです。

それにお姉様たちのところに通いながら、レポートの遅れもない。

こんなに手が荒れるほど働いていてるのに。」

夏夜がびっくりして手を見た。3人の赤ちゃんたちのお風呂の手伝いに、洗濯、掃除。哺乳瓶の消毒と産後の仕事は水を使う仕事が多い。

自分でも気が付かなかった。

「誰でもできる、当たり前と考えるのは心理学では危険なことです。人の行動には理由があります。」

そう言ってエラは笑った。帰りにハンドクリームを買いましょう!

この課題は次の面会まで持ち越しだ。

次にはきっと右の欄の記入が増えている。授業の一環であり、夏夜にとって必要なこと。


ハンドクリームはエラが買ってくれた。課題をしてきたご褒美だという。

ホント、子どもみたい。けれども.....右の記入を少しでもしてきたことが良いのだというエラの言葉は嬉しかった。

自分で姉たちの分も大容量で購入した。

それぞれの赤ちゃんにパパとママがいるんだから。

夏夜でさえ手が荒れたのなら、姉たちはもっと荒れている。

そうだ!と思い立って、さきさんの分もプレゼント用に包んでもらった。

この街で少し時間を潰して、隆と待ち合わせている。

ここからは地下鉄でジムまで行き、車で帰宅するという。

隆が大学を出るときにメールが来るはずだ。


 一人で街にいるなんて初めてだ。

『本屋さん、行こうかな』

次のレポートの本も買いたい。

この賑やかな街に来るのは、指輪を買ってもらった時以来だ。

そういえば、隆が連れて行ってくれた文房具屋さんもすぐ近くだ。

あのノートのシリーズは他にもあるかな。

夏夜はかなりの文房具好きだ。

中学の頃から小遣いで気に入ったものを買う。

今の目標は万年筆だ。

一人の時に下見してきてもいいかも。

隆や義母と一緒だと、買ってくれると言いそうだ。

何かのご褒美に、自分で買うのも嬉しいものだから。

少し迷って、文房具店に行く事にした。

すれ違う人が、夏夜の杖にそっと視線を投げる。

敢えて見ないようにしている人も。

そんな視線が少しつらい気がする。あっと思った。

『もしかして…前は自分もそうしていたのだろうか。』

視線を真っ直ぐにしてみる。

盲導犬を連れた人がいた。犬は尻尾をふりふり寄り添っている。

車椅子の人も。

手話をしている人も。


ぼんやりと突っ立っていたら、曲がり角から出てきた人にぶつかられた。

転ばずに済んだのはぶつかってきた人が支えてくれたから。

「ごめんなさい..」

「失礼!よそ見をして...madam月嶋?」

振り返ると、指輪を買った店の彼、黒い髪のリアムの友人だった。

「おひとりですか?monsieurは?」

「彼と待ち合わせなんです。」

「どうしました?」

「...街を見ていました。」

そう言った夏夜は知らずにため息をついていた。彼が見ていた。

「madam、実はぶつかった肩が痛むのです。」

「え、あ、怪我を...」

夏夜が慌てる。ぼうっとして、勢いよくぶつかったのは確かだった。

「ですから、その角のcafeで休憩をとります。一緒にいきましょう?」

夏夜はクスッとした。

深緑の瞳の彼もいたずらっ子のように笑っている。隆がよくこんな顔をする。

あまり大きくは無い静かなカフェ。

通りから一本中に入ったその場所は、街の賑わいから少し離れることができた。

先に夏夜を席に案内しようとする彼を、夏夜が止めた。

「お詫びに私がお支払いします。」

「non、それはいけません。お誘いしたのは僕です。席の確保をお願いします。」

素直に座っていると、暖かいチャイラテが出された。

「どうして...?」

「指輪を選ぶときに聞きました。monsieur月嶋はコーヒー、ですね。」

「そういうことも全て覚えているのですか?」

「non、non!僕の頭が壊れてしまいます。印象に残ったお客様だけ。」

リアムからの紹介だもの。

「madam、思った通り。指輪がとても映えています。ところで、さっきはどうしたのですか」

「夏夜と言います。夫は隆です。

さっきは...いつも爪先だけ見ていたなと思って。人の視線が怖かったから。

私の足と杖を見た人が、どう思うのかばかり考えていて。

でもそう思うのは、私が以前に誰かに向けた視線が冷たかったんだってわかったんです。」

「夏夜は優しいのですね。しかし、自分の足の先だけ見ている気持ちは、僕はよくわかります。失礼、僕はアンドレアです。アンディと呼んでください。」

夏夜には彼の言っている事に少し恐縮し、気持ちがわかるという意味が解らなかった。この人も苦しい経験があるのかな。

ちょっと首を傾げていた。明るくて優雅な雰囲気の彼がどうして。

そんな思いが顔に出ていたのだろうか。

「...少し僕のことを話してもいいですか?」

「bien sûr vas y」

さらりと夏夜の口から返事がでた。

アンディは敢えて日本語でゆっくりと話し出した。

「あの店は僕の伯父の店です。僕は6年前から宝石の仕事につきました。その前はなにをしていたと思いますか?」

「えーと...大学の先生とかファッションのお仕事とか?」

にこりと笑って、アンドレアは両方の肩をすくめた。

「実は軍人でした。大学を出て少佐の地位にいた。当時はシックスパッドだった。けど今じゃね」

そう言ってお腹を撫でた。

その仕草に思わず笑った。

「そんな風に見えない。お店で会った時にとてもきれいな所作だったわ。」

「そう、僕は美しい所作の少佐だった。軍人をやめてもう10年になります。

任務中に僕の軍人としての人生は終わってしまった...これを..」

そう言って、ジャケットを脱いでシャツの袖をあげる。

肘から下が義手だった。

指輪を扱う時は手袋をつけていたから、わからなかった。

夏夜は多分驚いた様子だったのだろう。アンドレアはシャツを戻しながら続ける。

「手を亡くした時にね、愛していた人も去ってしまいました。」

「…それは…」

「僕は自分の体の欠損が許せなかった。もう軍にもいられない。

皆が僕を笑っていると思い込んだ。だから彼女の思いやりも憐れみだと責めた。

当時、彼女とは一緒に暮らしていて、喧嘩のたびに彼女を責め続けた。

やがて、疲れ果てた彼女は出ていってしまった...

僕の家は代々軍人です。

父は軍人でいられなくなった僕を嘆いて、それを聞くのも嫌だった。

全て忘れてしまえたらいいと酒を飲んで飲んで。気がついたらアルコール依存症になっていました。

家を出て..当たり前ですが、片手の軍人上がりなんか雇ってくれる所はない。すぐにホームレスですよ。フラフラしていた冬のある日、路上で動けなくなった。」

夏夜は瞬きも忘れたように目を瞠っている。

「その年一番の寒い夜だった。雪がこのまま僕を隠してくれたらいいと...助けを呼ぶ気も起きなかった.......」

アンドレアの目の中に雪が見える気がした。

「あと少しで毎日泣いている彼女の顔も、嘆いている父からも解放される。そう思った。その時に邪魔をしたのが...」

「リアム?」

「Qui、病院に連れて行かれた。その後も自分の家に連れて行ってくれて。

やがて、宝石商をしている叔父が、僕の世話を焼いてくれるようになった。宝石のことをよく教えてくれました。

二年前にこの街に進出するときに僕に店を任せると言ってくれた。

リアムがmonsieur...隆さんを紹介してくれた時に、あなたたちの話を聞いてメビウスが最適だと思ったんです。」

左の薬指にはメビウスが静かに光っていて、夏夜は無言で指輪を見つめている。

アンドレアがゆっくりと袖を戻し、ジャケットを着ている。

「あの、本当は...彼女のために、デザインしたんじゃないですか?」

今度はアンドレアが目を見開いた。

「.......なぜ?夏夜..」

「間違っていたら、ごめんなさい。そう思っただけなの。」

アンドレアが片手で口を押さえて、長いため息をついた。

「不思議な人ですね。店に来た時は、恋を覚えたばかりの少女のようだと思ったのに。」

なんだかとんでもないことを言ってしまったみたい。

「ええ、そうです。僕が彼女を思ってデザインしました。もう渡せなくなった人へデザインするっておかしいけど。

だからこそ、この指輪が似合う人たちを探していました。僕はあなたたちの元に行ってくれてとても嬉しかったんです。

雨の中、咲きかけた花のような人たちに買ってもらえて。…こんな話は迷惑でしたか?」

「いいえ。大切にします。」

夏夜の携帯が鳴った。隆からだ。

この店の場所を伝えた。

「夫がここに来ます。会ってくれますか?」

「もちろん!」

夏夜の笑顔は、雨上がりに雫を落とした揺れる菫のようだった。


 やっと店についた。

この場所は隆も初めてで、少しだけ迷った。

シックなカフェには夏夜とリアムの友人がいて、隆を迎えてくれた。

この店も、リアムの友人の会社の店なのだという。

ご馳走になったエスプレッソはいつものコーヒーよりどっしりとして、この店の雰囲気とよく似合っていて美味かった。

夏夜がこの店にきた経緯を聞き、一息入れてから、アンドレアと別れた。


 地下鉄に二人で揺られている。

まだ夕方のラッシュには早い時間で、車内は空いていて、揃って座ることができた。

夏夜が薬指の指輪を撫でている。

「隆...」

「ん?」

「...ずっと...大切にするね。」

小声でそう言うと、夏夜がバッグの影で密やかに隆の手を握る。

隆もその手をぎゅっと握った。

考えてみれば、二人きりで電車に乗っているのは初めてだった。


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