参考:特別更生人とは
昔、この国は更生人という仕事がなかったそうだ。
どんな犯罪者も一律に裁判で裁かれる。
死刑を除き、大概が懲役刑になる。。
そして、刑務所内で労働、罪を償う。
そんな仕組みだったそうだ。
人を殺した犯罪者だろうが。
人を騙した犯罪者だろうが。
人を犯した犯罪者だろうが。
死刑を除き、変わらず一律に同じ罪を与える。
懲役という罰を与える。
その罰を達成した罪人は、更生したとみなされて社会復帰する。
そんな仕組みだったそうだ。
なんて阿保らしい制度なのだろうと俺は思う。
労働を通して、性犯罪をしなくなるわけではない。
人を殺してしまう衝動が鎮まるわけでもない。
また、刑務所という社会から隔絶された施設で労働を行ったとして、社会に復帰できるかどうかは別問題だ。
問題の解決につながらない、稚拙で怠惰な更生プログラムとしか言いようがない。
特に優秀な能力を持つ犯罪者を社会に復帰させるにしては、あまりに幼稚だ。
だから、更生人という職業が生まれた。
犯罪を犯した罪人につく、更生人が生まれた。
犯罪を犯した罪人を監督し、それぞれに応じた更生を行う職業が生まれた。
更生人は更生対象である犯罪者の更生を行うことが仕事である。
彼らの基本的人権すべて保持し、生活を管理することで対象者の更生を期待するのだ。
例えば、強姦を働いた人間は、異性との物理的接触を禁止すること。
例えば、暴行を働いた人間は、人と1メートル以上の接近を禁じること。
例えば、詐欺を働いた人間は、自由時間を禁じること。
更生期間は人によってさまざま。
二年程度で解放されることもあれば、十年たっても対象者になり続けている例もある。
ともかく、一定期間、それぞれの犯罪者に社会生活を送らせながら、行動を制限することで更生を期待するわけだ。
その仕組み上、更生人の命令に更生対象者は絶対服従。
仮に更生人が「死ね」と命じれば、対象者は死なねばならないほど。
それは更生人が『更生不能』と更生対象に対し判断した際、発せられる命令で、実際に使用された例も少なくない。
それほどまでに強力な資格だからこそ、更生人資格は厳しい試験を乗り越えたわずかな人間しか持つことができない。
試験内容は筆記のものからサバイバルのようなもの、武術の実技、料理、裁縫、スパイ活動や爆弾処理。多種多様にある。
身体試験、学力試験はもちろん、言語、倫理、常識、心理学、マナーや作法などの細かいものから、様々な文化に適応したマイナーなルールまで。
多くの人を管理する必要性から、広く、そして決して浅くない範囲の試験が課される。
対象者の更生ため、あらゆる知識と経験を蓄える必要があるのだ。
結果、合格者は一年で一名出るか出ないか。
そのため、現代においても犯罪者の多くは特別更生人の管理下ではなく、従来通り刑務所で懲役刑を受ける。
更生対象者となれる犯罪者も限定的なのが実情だ。
対象者となる条件は、二つ。
若いこと。優秀であること。
若ければ若いほど更生の可能性は高く、優秀であれば優秀なほど更生の期待値は大きいのが理由だ。
そして、俺は、その試験の最中。受験者の一人。
七年前に親父に拾われ、高等人になるための教育を受けてきた。
そして今年、初めて受けた試験。
もう何次試験なのかわからないほどの試験。
それらをすべてパスし、文字通り這いつくばってでも通ってきた試験の数々。
その最終試験として、七年ぶりに、俺はこの街に戻ってきた。
試験内容はシンプルかつ単純。
白川夏希、赤石春乃、青木秋葉。
上記三名の更生を実施すること。
――そう。
犯罪者となった幼馴染三名。
彼女たちを社会に貢献する人間に構成することが俺の最終試験。
そして――試験から一年がたった。
俺はまだ、一人の更生もできていない。
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