第2話 転生者殺しと来訪者
『対転生者特別防衛機関』────。
冒険者ギルド『エンデ』の一角に設立された転生者に対抗する組織である。
モンスターと人類の繋がりをコントロールするのが『エンデ』役割であったが、
『転生者』と呼ばれる、偶発的に得た力で私利私欲を叶えんとする者たちにより世界的問題に直面し、窮状を見せていた。
そこで設立された『対転生者特別防衛機関』──通称『
昼下がりのある日、『エンデ』の会議室では、『
「……これで三度目だ」
声の主、雪のように白い肌で青い瞳をした少年は、資料を眺めながら呟く。
少年の名はトーヤ・グラシアルケイプ。見た目に反し、高い俊敏性と戦闘技術を備えており、過酷な訓練により会得した魔力制御で氷の力を使いこなしている。
『
その数だけ、出会いも、別れも、『与えられた能力』そのものにも、彼は苦い過去の方が多かった。
そして今、目を通している資料についても、毛を逆撫でされるかのような腹立たしさを感じていた。
「改めて会議の本題に入る。先日、
はっきりとした声で告げたのは赤髪の騎士エミリア・ゼッケンドルフだ。執行部隊副隊長で、すらっとした身長と、首元に流れるようなポニーテールを垂らした容姿は
「元来、危険度の低かった“転生者”だったが、事件の関連性と、調査班の解析により討伐対象として指定された」
「はい、これね」
眼鏡をかけた銀髪の青年は手元のガラス板を指で操作する。会議室に壁掛けされたガラス板に、立体映像らしき画面が現れた。
白衣の青年ネロ・マッシナーリオ、調査部隊隊長にして天才的な頭脳を持つ。
彼の率いる調査部隊は、転生者の起こす事件の収集・管理から、現場に赴いて、異常事態の現地調査および被害状況の確認を行っている。
画面に映し出されたのは、討伐対象『
「まずは連続焼死事件についてだ。深夜、ラグンア国の住人が焼死体となって発見された。一人目の事件から七日後、今度はオズパーク国内で二人目の焼死体が発見。そして作日で三人目、またラグンア国で被害者が出た」
ネロは手元のガラス板を片手に腰に手をやる。
「すべての被害者に共通しているのは闘技場の参加者だということ。そして、これらの事件現場で見られた魔力痕跡が偶然にも大会参加者──もとい被害者の対戦相手だった」
ネロは手元のガラス板を人差し指で横になぞる。
ぱっと映し出されたのは容疑者の『ステータス』だった。
燃一前 焼輔
職業:剣士
Lv.84
HP:3466
MP:28
攻撃:4595
防御:7385
知力:38950
精神:6840
敏捷:5300
幸運:3700
スキル:
火炎無効:炎魔法によるダメージ、魔法影響を無効にする
クリティカルヒット性能上昇:攻撃の際、幸運値を元にクリティカルヒットの発生率を上げる。クリティカルヒット時、攻撃力が倍増する
魔法(調査時点)
群青の炎 消費MP????
プロミネンス・テンペラ― 消費MP??????
備考:この者は、異世界にいてはならない
ステータス画面を見て、トーヤは違和感を覚えた。
本人の能力と比較してMPが少なすぎる、それに魔法の消費力が本人の素養に伴っていない。
それに備考欄があまりにも異質だった。まるで誰かに向けて警告を出している内容にも取れる。
「妙なステータスだな」
「そう、今まで危険度が上がらなかった理由がこのステータスだよ。こいつはそもそも炎属性が出せないし、出した報告も上がっていなかった。だが今回の検証でようやく尻尾を掴んだんだ」
トーヤは資料に目を通す。ネロの言う通り、焼死体が発見された二つの国では闘技場や冒険者による大会が繰り広げられている。その参加者に、必ず
事件現場では高濃度の炎魔法が検出され、燃一前の微量な魔力反応と一致したようだが、ギルド登録がなかったり、魔法を使用していないという経歴から調査が難航していたのだった。
オズパーク国の被害者の似顔絵は、とげとげしい髪留めで長髪を一つ結びにした強面の男。
他にも二人の被害者が出ている。一刻も早く“転生者”を止めなければと、トーヤは意気込んだ。
エミリアが指示棒を画面に当てて話し始める。
「“転生者”のステータスの低さについては我々の脅威となるものではないが、スキルにおいては強大な火力を引き起こす可能性がある。それではトーヤ隊長より作戦の方針を」
腰を上げてエミリアから指示棒を受け取ると、トーヤはステータスの部分を丸く囲むように動かす。
「こいつの知力の高さは以前の“転生者”と比較しても環境破壊レベルに相当する。犯行時刻の深夜に誘い出し、郊外での処理を────」
「ちょ、ちょっと待って、何言ってるんだいトーヤ」
ネロが隣から声を上げて話を止める。トーヤは辺りを見回して会場にいる職員がざわざわと話し声を立てている。
「ネロ、こいつを捉えるために、国内での戦闘を控えて処理するのが一番だと」
「そうじゃなくて、キミは燃一前の知力の高さを懸念してるみたいだけど、大した程ないじゃないか」
「……は?」
疑念が確信に変わったとき、トーヤは振り返って画面を見ると、ステータスの表示がばちばちと音を立てて文字化けしていく。
「もしかして、ボクたちと見ているものが違うのかい? もしそうならそれは──」
ネロの心配よりも早く反応したのはトーヤ自身であった。瞬時に腕力を強化してガラス板を叩き割る。
亀裂が入った画面は砂嵐のように歪み、中から黒い影が宙を飛び出していった。
「なっ……こいつは」
「中から人が、出てきた!」
ネロが幽霊を見たかのように驚いているが、どこか嬉しそうな声色にもとれた。
顔面を床に叩きつけた青年──トーヤよりも一回り小さい背丈の彼──はうつぶせのまま倒れている。
青年が手を地面につき、ゆっくり体を起こそうとする。数人の隊員が席を立ち、青年を囲みながら携帯していた武器を構える。
「おい、待て……一度武器を下ろせ」
トーヤが命令すると、隊員は目を丸くして彼に目を向ける。
「こいつは、見知ったやつだ」
かつてともに、交差した世界で共闘した青年であった。
叶うことならば来てほしくないと思ったほどである。
床に倒れていた青年は顔を上げる。きょろきょろと辺りを見回し、トーヤを見つけると寝ぼけ眼で瞬きする。
「久しぶり、トーヤ」
「徳地──カルマか」
前髪で右目を隠した青年、カルマと再会することになった。
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