夢世界転移者を許すな
黒木耀介
第1話 三つ巴の転移者
森の中を死に物狂いで走ったことがあるだろうか。異世界から来た少年『
体験したことがないくらいの速度で、木々の間を過ぎ去っていった。
上体が引っ張られる感覚。つま先が深緑の草木に隠れた根っこに引っ掛かる。これまで通りの
だがこの世界では違う。脳から発せられた信号は、
足元からじわりと青い炎が滾る。落としかけた視線を上げて、再び走り始める。
「逃げなきゃ……こんなところで死にたくない!!」
その瞬間、頬を過ぎる冷気とともに、目の前に剣が突き立てられた。
「罪人が逃げられると思うな」
色褪せた長い金色の髪がたなびく。白いコートを纏った少年は地面に突き刺した剣を引き抜いて、鎚を振り払った
「なんでオレが、お前に殺されなきゃならねぇんだ!!」
「……お前は自分のやったことを言われなきゃ気づけないか」
冷徹な青い瞳が
少年はトーンを変えず語り始める。
「
青い瞳の少年は吐き捨てるように言い放った。
「お前の能力は『群青の炎』。能力そのものが魔法攻撃や身体強化に作用でき、使用に伴う魔力消費はゼロ。だが普段の戦闘では活かせず、冒険者との戦いでは全敗。周りには『燃えカス』なんて揶揄されてたみたいだな。動機はそういう奴らへの腹いせだろう なあ、“異世界の英雄”サマ?」
「違う!!!」
「オレは人殺しなんてしてない!! 確かに試合には負けまくった! でも負けたからって誰かを殺すわけないじゃないか!!!」
「それが殺してるんだよ。お前の『群青の炎』がこれ見よがしに現場から検知されている。何ならお前が燃やした奴の灰からは本人の微弱な魔力が確認され、本人だと断定された。解らないとでも思ったのか? いい加減その被害者面を捨てろ。この人殺し。」
「俺じゃない……俺じゃないのに!!! うわあああああ!!」
少年が手を左から右に振るうと地面の草木が凍結して一面白く広がっていった。
「あ、足が……くそ……!」
「残念ながら、俺には“スキル”の類いは効かない…………抵抗するな。殺すぞ」
「こんなの、チートじゃないか……なんでオレ以外が優遇されてるんだよ……」
青い瞳の少年の眉がぴくと動く。
少年は目にも留まらぬ速さで
「ふざけんじゃねぇ!! テメェの力でどうにもできねぇ奴が、恵まれた奴が不幸を嘆いてんじゃねぇよ!!!」
「え────────」
冷気が体中を巡る。足を固めた氷がさらに腰にまで広がり、掴まれた胸ぐらが凍り付いていく。
「テメェは最初っから優遇されてんだよ!! 生まれ変わって、神様から能力を授かっておいて、負けても後で殺せばいいやってか? 一から積み上げて戦ってきたやつを踏みにじって優越感に浸ってんじゃねぇ!!!!」
「違う、ちが────いたっ!!」
少年は右足を
「や、やめてくれ…………オレは、オレはここでも死にたくない!!!!」
「テメェが殺してきた人たちはなぁ!! 明日の大会で勝利を目指していたんだ!! それを、テメェは無為にしたんだ!! 皆何も言えず死んでったんだぞ!!! 最強の力で倒した気分はどうだったよ、なあ!! お前の痛みは夢の中で消えていった奴らの感じた苦しさだ。地獄で腹割って詫びやがれ!!」
「嫌だ…………しに、たくない、死にたくない!!!」
「トーヤ、彼を殺さないでほしい」
けだるそうな口調が聞こえてくる。森の中から茂みをかき分けて歩いてきた男は、トーヤと呼ばれた少年の目の前に立った。
長い前髪を垂らして左目を隠し、紅色の詰襟を纏っている。黒くて丸まった髪で若く見える顔つきだが、ロボットのように表情は変わらない。
「何してんだ……」
「僕は、僕の役目を果たしに来た」
「そうじゃねぇ……なぜ止めたんだ、徳地カルマ!!!!」
徳地カルマは黙ってトーヤを見続けている。
「転生者殺し」と「異世界事件を解く者」。
発端は数時間前へと遡る。
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