第19話 ストーカーは悪
俺はアイドルと付き合い、週刊誌対策として軟禁されて家から出てはいけないのだが、
彼女である凛のいない隙にこっそり外に出ている。
今日はどうしてもコンビニのおでんが食べたくなって外に出てきた。
凛に仕事帰りに買ってきてくれと何度も頼んだのだが、
あいつはいつも忘れてくる。
そしてついに我慢できなくなって自分で買いに行くことにした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺は今、家の近くのコンビニの前にいる。
時刻は昼過ぎ。
凛は夕飯までには仕事から帰ってくるので、
早急におでんミッションを完了しないといけない。
来るのが久しぶりすぎて、ただのコンビニなのになんかドキドキするな。
自動ドアの前で仁王立ちしている俺を、周りの人が怪訝な目で見ている。
まずい、目立ってる。
通報される前にそそくさと店内に入る。
瞬間、様々な商品が目に飛び込んでくる。
アイス、飲み物、おにぎり、菓子パン、お酒、タバコ、一番くじ。
なんだこれは、宝石箱じゃないか。
コンビニがこんにな楽しい空間だったなんて。
思わず店内を歩き回ってしまう。
いやいや、俺の目当てはおでんだ。
5周してやっと気づく。
レジの前には白い湯気が出たおでん。
いい匂いがここまで香ってくる。
えっと・・・おでんってどうやって買うんだっけ。
とりあえずレジに向かう。
「はい、いらっしゃいませ」
レジの店員さんが優しく言う。
素晴らしい営業スマイルだ。
「おでんを頂きたいのですが・・・」
「あ、はい。どれにしますか?」
おどおどしている俺とは違って冷静に返される。
「えっと・・・」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
おでんを購入し、コンビニから出る。
手には容器に入ったあったかいおでん。
汁たっぷりにしてもらった。
本当は家でゆっくり食べたいけど、
おでんの容器で外に出たのがバレる。
だからここで食べてしまうしかない。
コンビニの前で立っておでんを食べる。
冷たい体にあったかいおでんが染み渡る。
うまい、うまいと心の中で呟きながら食べ進めていく。
すると、俺の横に誰か立った。
見ると女の子で、その子も俺と同じようにおでんを食べている。
っていうかめっちゃ可愛いな。
茶髪ロングで整った顔立ち。
明らかに普通の女の子とは雰囲気が違う。
芸能人みたいだな。
「・・・なんですか?」
俺の視線に気づいて女の子が話しかけてきた。
「あ、いや・・・」
「ダメですか?こんな美少女がコンビニ前でおでん食べてたら」
自分で美少女って言った。
まあそうだけど。
「言う通り、すごくお綺麗ですね。お仕事とか何されてるんですか?」
おでんを食べている同士として、
勇気を出して会話を試みてみる。
「・・・ナンパですか?」
「違うわ!単純に気になっただけですよ!」
アイドルの彼女がいる身でナンパなんてするわけない。
「・・・自由業です」
「自由業?」
自由業ってなんだっけ?
なんか聞いたことはあるけど。
「・・・私のこと知らないんですか?」
女の子が聞いてくる。
「え?知らないって、初対面だしそりゃ・・・」
「そうですか、珍しいですね」
珍しい?
この子、有名人なのか?
確かにどっかで見たことあるような・・・
空になったおでんの容器を持ちながら考える。
「では、さようなら」
女の子も同じタイミングで食べ終わり、
先に帰っていく。
「ああ、さようなら」
なんだったんだあの子は。
まあいい、俺も帰るか。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
思ったより時間が経ってしまった。
早くしないと凛が帰ってくる。
にしてもあの子、美人だったな。
顔は凛と同じレベルだったし、アイドルになれるぞ。
そんなことを考えながら帰っていると、
少し前にさっきの女の子が歩いていた。
帰り道が同じなのかな。
この辺に住んでるとか?
女の子が角を曲がった。
俺と帰り道が似てるな。
女の子は俺のマンションまでの帰り道と全く同じルートを通っている。
もしかして家が近いんじゃないか?
その後も半ば後ろからついていく感じで帰っていた。
なんかストーカーしてるみたいで嫌だな。
そう思いながら角を曲がると、
女の子が仁王立ちしていた。
俺のことを睨みつけている。
「なんなんですかさっきから!ストーカーですか!?」
「違うって!帰り道が同じなんだって!」
「そんな言い訳は通用しません、警察を呼びますね」
すると女の子はスマホを取り出した。
「マジで違うから!」
「ちょっとコンビニで話しただけで自分に好意があるんじゃないかって思わないでください?勘違いも甚だしいですよ」
そう言いながらダイヤルをかけようとしている。
まずい、このままだと本当にストーカーとして犯罪者になってしまう。
「いや!言わせてもらうけど、お前みたいな女ストーカーしないから!ちょっと可愛いからって勘違いすんなよ!お前より俺の彼女の方が100倍可愛いから!」
カチンときて言い返す。
「へー、私より可愛い人なんていないと思いますけど?なんたって私、芸能人ですから」
ムカつく顔で煽ってくる。
「芸能人?嘘つくな!どうせちょっと可愛いだけで事務所のゴリ押しでテレビに数回出て、それで思い上がって芸能人気取りしてるんだろ!?あー可哀想!」
「はぁ!?」
女の子もカチンときたのか、
一歩踏み出して迫ってくる。
「どうせあんたの彼女は街でたまたまスカウトされて、誰も知らない雑誌の隅っこに載っただけでモデル気取ってる痛い女なんでしょうねぇ!」
2人とも偏見の嵐だった。
「いや!俺の彼女はお前とは違って真の芸能人だから!」
「嘘ですね!まずあんたみたいな髪ボサボサのきっしょい男が芸能人と付き合えるわけないし!あんたと付き合う女なんて程度が知れてるわ!」
「それが本当なんだなぁ〜」
女の子は俺をストーカーとして警察に通報することを忘れているようだった。
「じゃあ証拠見せてくださいよ」
「証拠?」
証拠か・・・
「もしかしてないんですか?えぇ!?」
まるで勝ち誇った顔をしてニヤニヤしている。
「まさか妄想の中で芸能人の彼女を作ってそれを本当だって思い込んでる、なんてことはないですよねぇ〜」
「・・・俺、あのマンションに住んでるんだよ!」
奥に見える、本当に住んでるマンションを指差した。
「え!?・・・確かにあそこは芸能人がいっぱい住んでるマンションですね。でもそれなら誰でも言えます!」
「これを見ろ!」
マンションの鍵を出す。
「・・・本物ですね」
女の子は途端に冷静になった。
「どうだ!これで信じただろ?」
「っていうか私もあのマンションに住んでるんですけど」
「え・・・」
2人の間に沈黙が流れる。
じゃあこいつも本当に芸能人なのか?
気づくと、俺たちの大きな声での言い合いのせいで人が集まり始めていた。
「と、とにかくマンションの中に入りましょう」
2人でマンションに向かって歩き出す。
「離れて歩いてください!関係あると思われたくないので!」
女の子は一人でズンズン歩いて行った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ここまでくれば安心ですね」
マンションのエントランスに到着する。
「とにかく、あなたがストーカーではないことは認めましょう」
「それはよかった」
「それに、彼女が芸能人というのも本当みたいですね」
「そうだよ」
信じてくれたようだ。
「あなたみたいなのが芸能人と付き合えるとはびっくりです」
「俺には見た目以外に魅力があるんだよ」
「はいはい。それで、誰なんですか?あなたが付き合ってるのって」
「流石に言えないわ」
「そうですよね」
安易に教えるのは絶対ダメだ。
ましてや相手が芸能人ならなおさらだ。
「っていうか私もプライベートで男性と関わるのはまずいんですよ」
「へー。お前、女優とかやってんの?」
「・・・アイドルです」
アイドルだって!?
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