第18話 メンバーの不祥事はグループの不祥事
今日は凛が夕方前に仕事から帰宅し、
早めに晩御飯を済ました俺たちはリビングでイチャついていた。
「ねぇー、疲れたぁー」
凛がそう言いながら俺にもたれかかってくる。
「はい。お疲れさまです」
抱き寄せて頭を撫でてやる。
「えへへ・・・」
最高に幸せな時間。
普段はファンに向けられる笑顔が、今は俺だけのものだ。
「あ!そういえば冷蔵庫のプリン勝手に食べたでしょ!」
凛が怒ったように頬を膨らませ、上目遣いでこちらを見てくる。
「食べてないよ!」
「嘘だー!じゃあなんで無いの?」
「知らないって」
「かーくん以外に食べる人いないじゃん!・・・まさか、他の女連れ込んでるの!?浮気だー!」
冗談めいた口調で言いながら、俺の腕をブンブン振り回してくる。
アイドルの彼氏は最高だ。
だってこんな美少女とファンに対する背徳感のある甘いやりとりができるのだから。
「そういえば凛、明日オフだよね?」
「そうだよ!嬉しい?」
「めっちゃ嬉しい!」
しかし凛がオフだからといって、
週刊誌対策として軟禁されている俺は一緒に出かけることはできない。
大体オフの日は2人で家にいて、まったりする。
「明日は1日中イチャイチャできるね。何する?」
凛が最高の提案をしてくる。
「そんなの決まってるだろ?」
ニヤニヤしながら凛の肩を掴む。
「もう!変態!」
「いっそのこと今日から始めるか?」
ぐへへ、と気持ちの悪い笑いを浮かべながら手をモミモミする仕草を凛に見せる。
「えー、どうしよっかなー」
俺を焦らすように凛が悪い笑みを浮かべる。
自然と2人の顔が近づいていく。
もうすぐで唇が触れ合うと思った瞬間、
プルルルル!と2人の時間を遮るように、凛のスマホが鳴った。
「あ、マネージャーさんから電話だ」
くそ!なんだよこんな時に!
不満を漏らしつつ、凛の電話している姿を見守る。
「お疲れ様ですー」
凛が仕事モードに入る。
多分、電話相手は前に家に来た女性のマネージャーさんだろう。
「え!?本当ですか!?」
凛が急に大声を出した。
それも嬉しそうな声ではない。
どんどん凛の表情が曇っていく。
「はい、はい。そうですね・・・」
これは何かあったっぽいな。
もしかして、俺という彼氏の存在がバレたのか!?
会話を聞こうと耳を澄ませる。
「分かりました・・・」
凛はそう沈んだ声で電話を終えた。
そしてすぐに、はぁ、と大きなため息をついた。
「な、なんの電話だったんだ?」
恐る恐る聞いてみる。
「週刊誌に撮られたって」
「え!?」
心臓が飛び跳ねる。
つ、ついに俺の存在がバレてしまったのか!?
目の前が真っ暗になる。
「週刊誌に撮られたのよ、メンバーの〇〇ちゃんが!」
「メンバーの〇〇!?なんだよ、俺たちのことじゃないのかよ!」
ホッとして意識が戻る。
凛の所属するアイドルグループ「ヴィーナス」のメンバーが週刊誌に撮られたらしい。
「まずいことになったわ・・・」
凛が険しい顔をしている。
「別にいいじゃん。関係ないんだし」
「いや、ダメなの。メンバーの不祥事はグループの不祥事なの」
「え、そうなの?」
まあメンバーの1人でもそんなことをすれば、グループ全体の印象が悪くなるか・・・
「週刊誌の奴ら、新曲発売に合わせて出してきたのよ!」
ヴィーナスは来週、新曲発売だ。
「性格の悪い奴ら!」
凛が怒っている。
「おいおい、大丈夫なのか?」
「うーん、その子まあまあ人気な子だし、新曲のイメージは悪くなるかもね」
凛がまた、はぁ、と大きな溜息をつく。
「それでね、明日その子のレギュラーのラジオがあるんだけど。私が代役で出演することになったの」
なるほど、そのお願いの電話だったのか。
「だっる!面倒臭い役割任された!」
凛が手で顔を覆ってうなだれている。
「じゃあ明日は・・・」
必然的に凛とのイチャイチャは無くなる。
「ごめん・・・」
凛が申し訳なさそうにしている。
わざとらしくしょんぼりする。
「ほんとごめんねぇー!次のオフの日の楽しみにしとこう?」
慰めるように凛が俺の頭をよしよしする。
「うん・・・」
まあ今回、凛は全く悪くない。
むしろ被害者だ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翌日、ワイドショーでは早速その話題が取り上げられていた。
「あのヴィーナスの人気メンバーがまさかのスキャンダルです!」
司会の人が大きく声を張り上げて言う。
「まあ恋愛禁止のアイドルですから、これはダメでしょうねー」
そして話題を振られたコメンテーターが好き勝手言っている。
コメンテーターっていいよな、好き勝手言えるし。
そういえば、そろそろ凛の代役のラジオが始まるな。
聞いてみるか。
スマホのラジオアプリを開く。
「こんにちは!姫野凛です!ちょっと〇〇ちゃんが体調不良で今日は私が来ました!今日だけは私で我慢してください!では最初は・・・」
始まりと同時に代役のことを説明し、
そのあとすぐに話題を変えて番組を進めていく。
さすがグループを引っ張るアイドルだ。
そして番組が終盤に差し掛かった時、
凛が今回のスキャンダルについて話し始めた。
「それでは最後に私から。今回はメンバーのスキャンダルでお騒がせして申し訳ありません。私自身も驚いていますが、気づいて注意できなかった私たちにも責任があると思っています。でも、言わせていただきたいのは、ヴィーナスのメンバーは真面目にやっている子がほとんどです。全員が全員同じようだとは思わないで欲しいです」
うわ、平気で嘘ついてる。
これはファンは信じちゃうわな。
そしてラジオ終了後。
SNSを見てみると、ラジオを聞いたファンが反応していた。
「さすが真面目にやってる凛ちゃんはすごいな!」
「まあ凛ちゃんは大丈夫だよね!」
「これからもついていきます」
そんな反応を見ながら、
「いやー、大丈夫じゃないんだなー」
と凛の彼氏である俺は一人呟いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます