第17話 番組アンケートは超重要




 俺は今、キッチンに立って包丁を握っている。

今日は凛の仕事が夕方に終わる予定で、家で一緒に晩御飯を食べることに。


 献立は凛の大好きな料理ばかりだ。

帰ってくる頃には料理が完成しているよう、テキパキと進めていく。


 凛はアイドルなので食事には気をつけている。

なので作る側の俺はバランスの良いメニューを心がけ、カロリーは控えめを意識している。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ただいま〜」



ちょうど料理が完成間近の時に凛が帰ってきた。



「晩飯もうすぐできるから!」



凛の手には大量の紙袋が握られている。



「ありがとう。これ、差し入れで貰ったお菓子」


「うわ!この前テレビでやってたやつじゃん!」



 実は凛が持って帰ってくる差し入れが楽しみだったりする。

さすが芸能界、どれも美味しいものばかりだからな。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「いただきます」



 テーブルに対面で座り、

食事を楽しむ。


 忙しいアイドルの彼氏となると、

帰りが遅くなって必然的に顔を合わせる回数も少なくなっていく。


 そんな日常の中でこういう2人だけの時間が大事だったりする。

やはり一緒に食卓を囲むことが重要なコミュニケーションの一つになっているのだ。



「ごちそうさま!」



食事を済ませた凛はカバンから何やら数枚の紙を出してきた。



「なにそれ」


「これは番組アンケートだよ」


「あー」



 番組アンケートとは、

テレビ制作側が出演者に番組の企画の質問やエピソードなどを聞き出すものだ。

このアンケートを元に制作側は内容を考えている。

俺も元テレビのADだし多少は理解している。



「最近はスマホとかで答えることも多いんだけどね」



 そう言う凛はスラスラとペンを動かして書き進めていく。

よく見ると空欄をびっしり埋めて記入している。



「すごいな、そんなにちゃんと書かないとダメなのか?」


「そうだよ!アンケートって本当に大事なんだから!」


「でも大変だろ?ちょっとぐらい適当にやっても・・・」


「ダメ!ちゃんと書かないとやる気ないって思われるし!」



 おお、さすがだ。

こういうところが凛の良いところだよな。

手を抜かずにしっかり仕事に取り組んでいる。



「空欄で出すアイドルとかいるの?」


「いるよ。そういう奴は番組でもあんまり出番ないよ」



 大変なんだな。

アイドル、いや、芸能界は弱肉強食の世界なんだな。



「アイドルはこういう地道な努力を積み重ねていくのが大事なんだよ」



アンケートを書き終えた凛は大きく伸びをしている。



「まあアンケートは正直面倒臭いけど、これも仕事だから。スタッフさんも仕事としてやってくれてるんだから出演者もちゃんとしないとね。それにグループなんだから、一人が適当なことしちゃうとグループ全体が悪い風に見られる。まあ大人数グループで全員が全員真面目なわけじゃないしね。まあアイドルは可愛ければ許される時もあるの、だから難しいよね。でもグループの中のメンバーに、アンケートをちゃんと書くのをスタッフに媚びてるとか言うバカもいるのよ。そういうのは言わせておけばいいのよ。どうせそいつは一生、日の目を浴びずに卒業していくアイドルよ。私はこういう小さな努力は報われると信じたい」



 凛がノンストップで愚痴を放っていく。

これはかなりストレスが溜まっているようだな。

だんだんと口も悪くなってきた。


 まあこういう愚痴を聞くのもアイドルの彼氏の大切な仕事だ。

俺もしっかり仕事をしよう。



「そうだよな。うんうん」



俺は相槌を打つだけの機械になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る