第13話 アイドルは体重管理が大事



「ああああああああ!」



 リビングでゴロゴロしていると、

洗面所から凛の叫び声が聞こえた。



「どうした!?」



 すぐに洗面所へ走る。

そこには下を向いて脱力し、立ち尽くしている凛がいた。

見た感じ明らかに普通じゃない。



「まさか、精神的に病んじゃったのか!?やっぱアイドルは辛いよな・・・」


「違うわ!見て・・・」



 俺の推測は違ったらしい。 

凛が何やら下を指差している。

ん?体重計?



「た、体重が増えてる・・・」



そう言った凛が絶望的な表情をしている。



「別によくね?ちょっとぐらいさ、いいじゃん」


「終わった・・・」



 俺の言葉は聞こえておらず、

凛が膝をついて崩れ落ちる。



「この前、楽屋のケータリング食べ過ぎたせいだ・・・絶対そうだ・・・」


「大丈夫だって!太ってないから!」



そう慰めの言葉をかけるが、全く響いていないようだった。



「ダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメ!!」



 やめろ、ゲシュタルト崩壊起こすわ!

凛が洗面所で子供みたいにゴロゴロ転がっている。



「ファンは細かい体重の変化に気づくのよっ!絶対ネットの掲示板に書かれるわ!」



凛のモノマネが始まる。



「【悲報】ヴィーナス姫野凛、激太りか!?ってね」


「大丈夫だって、ファンのみんなは優しいから」


「違うの!ファンはいいけど外野がごちゃごちゃ言ってくんのよ!」



しゃがみこみ、凛の背中をさする。



「まあ落ち着いて。太ったならその分痩せればいいから」


「うっ・・・ぐひっ・・・痩せる・・・絶対痩せるっ」



 凛はウエストも細いし大丈夫だと思うが、

本人からするとダメらしい。

そして凛のダイエット生活が始まった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「え、昼ごはん食べないの?」


「いらない!」



凛が三角座りをして顔を伏せている。



「あらそう」



俺は凛の目の前でカップラーメンを食い始める。



「かーっ!うめー!やっぱこれだよな!」



 わざとらしく声を上げる。

凛が三角座りの隙間から睨むように見ている。



「あれぇ〜?食べないの?」


「うるさい!そんなのいらないわ!」



凛はそう言うとランニングに出かけて行った。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ふんっ!ほっ!やっ!」



 凛が今やっているのは遊んで痩せれると話題のゲームだ。

何か丸くリングのような柔軟性のあるコントローラーを使っている。



「そんなに追い込まなくても・・・」



俺の言葉は届いていない。



「私は本気なの!絶対に元の体重に戻してみせるっ!」



その気迫はアニメの主人公のようなものだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



そして夜、



「お腹減った・・・」



 消えそうな声で呟く凛。

テーブルにへたり込んでいる。



「俺も痩せようかな」


「ダメ!かーくんはそのままでいいの!」


「え、本当?」


「うん!その腹筋が割れてなくてだらしないお腹でいいよ!」



褒めてるのか貶してるのかどっちなんだ。



「そういえば体重計乗ったら?」


「あ、そうだね」



 凛が洗面所に向かっていく。

数秒後、



「ああああああああ!」



 凛の叫び声が聞こえた。

朝と同様、洗面所に走る。



「どうした!?」


「やった!体重戻ってる!」


「おお!よかったな!」


「うん!あとはこれをキープするだけ!」



 リビングに戻り、

2人で喜び合う。



「よかった・・・」



凛が一安心している。



「そうだ凛!ご褒美にお菓子食べよう!」


「なんでよ!頑張った意味ないじゃん!」


「ちょっとなら大丈夫だって!凛がもらってきたあの有名店のケーキ!」



冷蔵庫に急いで取りに行く。



「ほらこれ!」



 テーブルに置いたのは2つのチョコレートケーキ。

凛が目を輝かせて見ている。



「これぐらいなら大丈夫だって!」


「ダメ!今までの努力が無駄になっちゃう!」



ぷい!とそっぽを向いた。



「えー、でも早く食べないと賞味期限切れちゃうよ?ちょっとだけならいいんじゃない?」



その言葉に凛が揺れている。



「食べたらまた運動して痩せればいいじゃん!」



この言葉が決定打だった。



「そ、そうだよね・・・また痩せればいい・・・」



 凛がフォークを手に取り、

ケーキに突き刺す。

そして大きな一口で食べた。



「・・・うぅ、美味しすぎる・・・全身に染み渡る」


「俺も食べよっと!」



結局この夜は歯止めが効かず、2人で家中のお菓子を食べ散らかした。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



翌朝、



「ああああああああ!」



 何度聞いたか分からない凛の叫び声が聞こえた。

俺はまた、洗面所に走った。


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