第12話 ハロウィンの仮装をして外に出ます



 10月31日はなんの日かわかるかい?

そう、ハロウィンだ!

俺はこの日を待ちに待っていた。

なぜなら・・・堂々と凛と外を歩けるからだ!

例えば、何か顔を隠せるマスクをして外に出たら、

バレないじゃないか!

そう考え、数週間前から俺はワクワクしていた。

でもそのことを凛に話すと、



「ダメ!そんなのリスク高すぎるって!」



速攻拒否された。



「大丈夫だって!コスプレのマスクで完全に顔を隠してるんだから!」


「それでもダメ!バレるかもしれないって!」



凛は頑なにOKしてくれない。



「やだやだやだやだ!お願い!絶対バレないから!」



部屋の中で子供みたいに地団駄して駄駄をこねる。



「絶対バレないから〜!」



凛の足に抱きついて離れない。



「もう!わかったわかったから!その代わり、絶対に外でコスプレ取っちゃダメだよ?」


「やったぁ!」



 すぐにネットでジェイソンの完全に顔が隠れたマスクを購入した。

そしてついにハロウィン当日。

ちょうど凛は夕方頃に仕事が終わって仮装した人たちが集まる駅で待ち合わせすることに。

俺もこっそりマンションを出て電車に乗って駅に向かう。

鞄にジェイソンのマスクを忍ばせている。

思えば正式に凛と外に出るのはこれが初めてじゃないか?


 駅は人がたくさんいたが、

仮装している人ばっかりだった。

キョロキョロとあたりを見渡して凛を探す。

・・・いた。


 駅の改札前の柱の前に立っている女の子。

もうジェイソンのマスクを被っている。

雰囲気だけで一般人じゃないのがわかる。

なんだか華奢で綺麗な黒髪の女の子がジェイソンのマスクをしているのが変で笑ってしまった。

ジェイソンのマスクをしていても美人だってことがわかる。

俺もマスクを被って凛のところへ向かう。



「凛!」


「あ!かーくん!」


「凛めっちゃ似合ってるよ!そのマスク!」


「ちょっと!バカにしてるでしょ!」



 2人で笑いあって、駅から少し行ったところにある中心街へ向かう。

そこは仮装した人で溢れかえっているし安全だ。


 人混みを凛と手を繋いで歩く。

なんか変な感じだ。

だれもこのジェイソンのマスクをしてるのが国民的アイドルの凛だと思わないだろ。



「すごい!全然バレてないよ!」


「うん!」



 2人もテンション上がって握っている手をブンブン振り回している。

今日じゃなかったら、

ジェイソンのマスクをした2人が歩いてるなんて完全に頭おかしい奴らだが、

ハロウィンはそんな奴らが街にいっぱい溢れかえっている。


 やっと人混みをかき分けて中心街まで到着する。

周りは仮装した人ばかりでみんなギャーギャー騒いでいる。

警察がメガホンで呼びかけているが、

そんなのどうでもいいという風に誰も聞いていない。

本当に無法地帯だな。


 こんなに人がいるのに、誰も俺たちのことなんて気にしたりしてない。

凛もテンションが上がっているのか大声を出している。

でもそれも目立たないぐらいこの場所は盛り上がっている。



「す、すごいね・・・」



 一通り歩き回り、

休憩として近くのバーに入った。

バーの中は仮装した人が多いが、

静かで休憩に適した場所だった。



「いらっしゃいませ!ジェイソンのコスプレですか?」


「はい!」



俺がそう返す。



「テキーラ!」



凛がそう叫んだ。



「おい、やめとけって。普段そんなの飲まないだろ?」


「今日はいいの!」



 そこからは大変だった。

凛はベロベロに酔っ払ってバーの他のお客さんに絡んだりした。

俺が必死に止めても意味なく、暴れまわった。

それで俺たちは逃げるようにバーをあとにした。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「あーもう!あっつい!」



 凛がそう言ってジェイソンのマスクを取ろうとしている。

それもこんな人混みの中で。



「おい!ダメダメダメ!」



 急いで凛を止める。

ギリギリ顎が出るぐらいで止めることができた。

凛は完全に酔っ払って出来上がっている。



「もう〜!なんで止めるの?」


「なんでって!自分がアイドルだってこと思いだせ!」



小声で凛に伝える。



「そんなの知らな〜い」



 ダメだ。

凛にお酒を飲ませたらダメだ。

凛がその場にへたり込む。



「と、とにかくもう帰るぞ!」



 凛の肩を組んで立ち上がらせる。

ダメだ、電車で帰ろうと思ってたが凛がこの状態じゃ、

何するかわからない。

急にジェイソンのマスクを取ったりしたらシャレにならないぞ。

タクシーで帰ろう。

ここらへんの駅前じゃタクシーなんて拾えないので少し歩くことに。



「おんぶして〜!」


「わかったから!」



 少し歩いて裏道を通ると、

さっきのことなんて嘘だったように静かだ。

凛は相変わらず俺におんぶされながら酔いつぶれている。

ジェイソンのマスクをしておんぶしてる2人組って完全に不審者だな。

まあ、ハロウィンだから許されるか。



「んーっ、んー」


「起きたか?」


「かーくん、どこ?」


「これはまだ酔いつぶれてるな・・・」


「かーくん、ごめんね?家から出してあげられなくて・・・」



え?



「私のせいだよね・・・私以外と付き合ってたら普通のカップルみたいにできるのに・・・」


「・・・・・・」



 そんなこと思ってたのか。

凛が酔いつぶれて本音を話している。

大丈夫だよ、俺の彼女は凛以外考えられないから。

静かな裏道を、酔いつぶれている大切な人をおんぶしながら歩いた。


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