第7話 マネージャー襲来
お昼のワイドショーで芸能人の不倫について特集してある。
「ほんとテレビって芸能人の不祥事とか好きだよねー」
凛が呟く。
「そうだなー」
スマホをいじって煎餅をボリボリと食いながら反応する。
それにしてもこの前はマジで危なかった。
まさか週刊誌の記者に出くわすとは。
あんなことってあるんだな。
「それでは白川さん!解説お願いします!」
「はい白川です!このスクープはですね・・・」
「ねぇ、かーくん見て?こんな若い子が週刊誌の記者やってるんだってー」
「んー?」
スマホからテレビに目線を移す。
テレビには茶髪のショートカットの女の子が映し出されている。
「すごいねー」
スマホに目線を戻す。
・・・ん?
ゆっくりとテレビに目線を戻す。
こいつ、この前の記者じゃねーか!
「どうしたの?そんな驚いた顔して」
「い、いや?若いのにすごいなーと思って」
白川っていうこいつ、テレビに出るぐらい有名なやつだったのか!
最近の芸能人のスクープについて熱く語っている。
「実は最近、すごいスクープを入手したんです!」
なに!?まさか凛のことじゃねーだろうな!
嘘だろ!?バレたのか!
ちょっと会っただけだぞ!
テレビの画面に食い入るように近づく。
「どうしたの?そんなに画面に近づいて」
凛の問いに答える暇はない。
「実は・・・」
心臓がバクバクいってる。
嘘だろ・・・
白川がゆっくり口を開く。
「あの有名漫画が実写化するんです!」
あー!よかったー!
大きく息を吐いてテレビから離れる。
そりゃそうか。
あんな短時間でバレるわけないもんな。
なんか疲れたわ。
「ちょっと昼寝するわー」
「あ!私も寝るー!」
俺がベッドに入ると続けて凛が俺に抱きついてくる。
あったけー。
温もりが伝わってくる。
俺専用のカイロだな。
ずっとこうしてたい。
凛のお尻をムギュー、と触る。
「もー、やめてよー」
「ぐへへ、いいじゃねーかー。もっと触らせてくれよー」
「きゃー、変態!」
キャッキャ言いながらイチャイチャする。
こーいう時間が一番楽しいわ。
ピンポーン、
その時間を邪魔するような音が部屋に響く。
「もー、なに?」
凛が文句を垂れながらドタドタとインターホンに向かう。
「はい、どちらさまですか?」
「凛ー!近くまで来たから寄ろうと思って、それに大事な話もあるのよ。入れてー」
誰だ?
女性みたいだが。
なんか入ってこようとしてるぞ。
「だ、ダメ!今部屋汚いから!」
凛に口パクで”誰?”と聞く。
凛も口バクで返してくる。
”マネージャー”
マネージャーか。
「大丈夫だよー。とにかく入れてー」
「本当にダメだから!今日は帰って!」
めっちゃ言い争ってるな。
「あ!ちょうどエントランスのドア開いたから行くわー。待っててー」
「え!ちょっと!」
おいおい、ここまでくるぞ。
通話は切れたみたいだ。
「え、マネージャーさん?」
「そう!それより早く隠れて!」
「は?なんで?別にいいんじゃないの?」
「ダメ!バレたら絶対別れろって言われるから!」
それはまずいな。
「と、とにかくどっか隠れて!」
「どっかってどこ!」
「自分で探して!」
凛はバタバタと部屋を走って俺のものを隠してる。
ちょっとでも俺の痕跡を消すみたいだ。
ど、どこに隠れたらいいんだ。
オロオロしてしまう。
く、クローゼットでいいか!
開けたりしないだろ。
「俺、クローゼットに隠れるから!」
凛に呼びかける。
「わかった!」
クローゼットを開けて服をかき分け、奥に隠れる。
ピンポーンと玄関のインターホンが鳴る。
凛が玄関に走っていった。
ガチャ、玄関が開く音が聞こえる。
「本当にダメだから!」
「いいじゃーん」
何やら言い争ってるようだ。
「もう!疲れてるからすぐに帰ってよ!」
「はーい」
どうやら入ってくるようだ。
初めてだ。
この家に俺と凛以外の人間が来るのは。
「これ誰の靴?男もんだけど」
まずい!
凛!俺の靴隠しとけよ!
「え、えっと・・・お父さんの!うちによく泊まるから置いてあるのよ!」
大丈夫か!?ちょっと言い訳に無理がねーか!
「えー!お父さんいるの?挨拶するよ!」
ドタドタ部屋に入ってくる音が聞こえる。
「今日はいないから!勝手に上がらないで!」
「え!部屋全然綺麗じゃん!」
「あ、ありがと。ちょっと!勝手に引き出し開けないで!」
なかなか乱暴な人だな。
頼むから早く帰ってくれ!
「えー、凛ってゲームするんだー!」
俺のゲーム機を見てるのか?
「ちょっとやっていい?」
「ダメダメ!」
「えー、いいじゃーん」
「ダメ!それより話って?」
そうだ、なんか大事な話があるって言ってたな。
「実はね・・・」
なんだ?
めっちゃ焦らすな。
「な、なによ」
「実はね・・・凛にドラマの主演が決まったの!」
「ほ、本当に!?」
すげー!
ドラマの主演か!
やったな凛!
暗いクローゼットの中で小さく拍手をする。
「嬉しい!主役は初めて!」
凛がドラマに出てるのは見たことあるけど、
全部脇役とかだったもんな。
「これも凛の努力のおかげだね!でもね、言っておかないといけないんだけど・・・」
「え?・・・なに?」
なんだ?
急に空気が変わったな。
「実はそのドラマ、キスシーンがあるかもしれないの」
凛、断れ。
「え!?キスシーン!?」
「うん、どうする?」
ダメです、絶対ダメです。
キスシーンなんて許しません。
「え、相手は誰なの?」
「相手はね、〇〇さん」
超人気の男性俳優だ。
おい凛!ちょっと嬉しそうじゃないか!?
そんなの許さんぞ!
っていうかいいのか?
女性アイドルのキスシーンなんて。
ファンが怒りそうだぞ?
「〇〇さん!?」
「うん、でもよかったじゃん!めっちゃイケメンだし!」
黙れマネージャー!
俺は絶対に許さんぞ!
凛、断るんだ!
「確かにイケメンだね。カッコいい」
こるぁーー!
俺の方がかっこいいって!
絶対そいつ性格悪いって!
「でもいいの?アイドルがキスシーンなんて」
「でもまだ決まったわけじゃないの。もしかしたらあるかもしれないって。どうする?」
キスシーンなんてだめだーーーーー!
近くにあった箱を蹴る。
ガンッという音が響く。
「なに!?今の音!クローゼットの方から聞こえたけど!」
「な、なにか物が倒れたんじゃないかな?」
「そ、そっか。・・・それでどうする?一応やりますって向こうに言っておく?」
「うーん、じゃあそうしようかな」
嫉妬心が体から溢れ出る。
もう抑えられない。
クローゼットの中でジタバタ暴れる。
「さっきから何!?絶対なんかいるって!」
「だ、大丈夫!この家、最近ポルターガイストが起こるの!」
ジタバタをやめない。
もうばれてもいい。
キスシーンは絶対嫌だ!
「どんどん音が大きくなってるんだけど!?」
「これはまずいかも!知らない人が来て怒ってるのかも!早く出ていかないと危ない!」
クローゼットの向こうでバタバタ聞こえる。
「ど、ドラマどうするかはまた後で連絡するから!」
ガチャッ、と勢いよく玄関のドアが閉まる音が聞こえた。
マネージャーさんを追い出したみたいだ。
足音がクローゼットに近づいてくる。
ガラッ、クローゼットが開く。
「・・・かーくん?」
「ダメ」
「え?」
「キスシーンはだめだぁぁぁぁ!」
クローゼットから飛び出して部屋の中で子供みたいにジタバタする。
「ダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメ!」
「でも主演だよ?」
「それでもダメだぁ!」
「かーくん落ち着いて!」
凛にジタバタを止められる。
「キスシーンなければいい?」
「・・・いいけど」
「マネージャーさんにキスシーンなければやりますって言うから。ね?」
「わかった。・・・そういえば相手役の人、イケメンで喜んでただろ」
「喜んでないよ!全然!かーくんの方がかっこいいから!」
「・・・ならいい」
自分でもわがままだと思うが、
凛が俺以外とキスするなんて考えられない。
絶対にダメだ。
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