第44話 世代交代

 執拗なのはヘラルドン帝国の派遣大使を名乗るクルーガーだ、帝国皇帝からアルバートを帝国に呼べ手段は問わないと厳命され懇願されていた。

 

 「クルーガー大使それ程願うなら貴国に赴いても良いが、先日俺が言った事は覚えて居るか」

 

 「重々承知しております。されど皇帝陛下の命に逆らう術を持ちません。お怒りを承知でお願いするしか無いのです」

 

 「どうせ手段は問わないから俺の前に引きずって来いとか抜かして居るんだろう。いいだろうヘラルドン帝国に行ってやるよ。お前が先に帰国して皇帝に伝えろ、30日後に皇帝の住まう城の全ての城門を破壊する。それが俺が到着した合図だ、お前は城に居て俺の合図を確認したら皇帝の要求を俺に伝えろ。目印は・・・長槍の半分の大きさの赤い布を槍に付けて振れ」

 

 真っ青な顔でクルーガー大使はアルバートの下を去ると、国王への挨拶もせず即座に帰国した。

 

 30日後、日も高くなりはじめた頃ヘラルドン帝国の帝都カザンカに一人悠然と侵入して来る人影。

 アルバートは高度200メトル程の高さで真っ直ぐに城に向かった、城は掘りを巡らしていて城門の数は7つだ。

 正門から順次破壊する、高度200メトルから下方45度の角度で撃ち下ろせば巨大なクレーターを作り破片は城に向かって飛ぶ。

 悠然と飛び城門を次々と破壊すると、正門前で止まり宮殿らしき建物を見下ろす。

 

 待つこと暫し一人の男が現れて俺を確認すると、赤い布を長槍に付けた物を振る従者を従えて進み出る。

 

 「久しいなクルーガー、皇帝陛下の御機嫌はどうかな」

 

 「貴方の言葉を伝えた瞬間から死を覚悟していますよ、先程の城門破壊を目にしてさえ貴方をどうにか出来ると思っています。魔法師団に攻撃命令を出しましたが師団長が必死に止めています」

 

 「判った、今回は初回限定サービスで逃げる時間をやろう。練兵場に居る者だけは攻撃対象から外してやる、その連中が攻撃して来なければな。陽が中天に上るまで待つと阿保に伝えろ」

 

 城外の草原に降り立ちフィーィ達とお茶を楽しむ、面倒事がなければ長閑な一日になるだろうに憂鬱。

 フィーィ達と上空に居る他部族には練兵場に集まった奴等の周囲に三度程威嚇の一斉射撃をしたら上空で旋回していて貰う。

 

 宮殿の上空で直径8メトル程のファイアーボールを作り、中央部分を狙って撃ち込む。

 オー中々の威力だ、宮殿の中央にクレーターが出来ているよ。

 破片が練兵場まで飛んでいるがそこまでは面倒見る気が無い、宮殿は記念にこのまま放置して周囲の構造物を破壊していく。

 

 練兵場の背後の城壁だけを残して破壊が終ると、練兵場に居る赤い布を付けた槍の傍に行く。

 

 「クルーガー皇帝陛下とやらを出せ!」

 

 クルーガーが人混みを掻き分け、集団の中央付近に居る豪奢な衣服の男の前に跪き何かを伝えている。

 クルーガーの歩いた後、俺とクルーガーの間は人波が割れて良く見えるが俺を見て首を振る。

 クルーガーを呼び戻す。

 

 「後継者は居るか」

 

 驚きの顔で俺を見つめ震える声で答える。

 

 「王子が五名に王女が四名おります。皇太子殿下が御聡明であられます」

 

 「では彼を呼べ」


 ◇  ◇  ◇

 

 「ヨセフ・オーソン・ヘラルドンです」

 

 「アルバートだ、お前の父親は馬鹿か」

 

 「ハイとは言い難い質問です。どの様になさるおつもりですか」

 

 「それを俺に聞くか、俺には如何なる手出しもするなやれば潰すと警告しておいたぞ。クルーガーもお前達に説明して止めた筈だがな、警告を無視されたのでその身に教えに来ただけだ」

 

 「私の現在の立場では、皇帝陛下を諌める事は出来ません」

 

 「聡明な王太子だと聞いたが」

 

 「皇帝陛下もそうですが親族共の横暴で帝政は淀んでいます」

 

 「それ等を省けばこの国を治められるか」

 

 頷く王太子に命じて皇帝とこの場に居る公,侯爵全員と迎合する親族を連れて来させた。

 次いでこの場に居る全ての貴族を彼等の後ろに立たせて宣言する。

 

 「お前達の間抜けな皇帝の傲慢さがこの結果を招いた、依って皇帝は退位させる。後継には」 

 

 「お前は何様の・・・」

 

 他に数人が口を開いたが全て死を持って黙らせた。

 黙らせた面々の胸には地面から生えた土槍が突き抜けていた。

 

 「後継には王太子のヨセフ・オーソン・ヘラルドンを皇帝にする」

 

 前に居る間抜けな一党が何か言おうとするのを押さえ。

 

 「皇帝と公,侯爵は国家と民を危険に晒した責任をとって貰う。それに迎合した輩共々な、クルーガーの警告忠言を吟味すべきだったな」

 

 そう告げて目の前に立つ皇帝以下の者達の胸に土槍を突き立てた。

 

 「王宮には手を着けるな記念に残しておけ、あれを見れば俺に手を出す愚を悟るだろうからな。二度と俺と妖精族に手を出すな」

 

 ヨセフ・オーソン・ヘラルドン皇太子にそう告げ、さっさとカザンカの街を後にする。

 胸糞悪いが同じ事が起これば何度でもやり返す覚悟は有る、馬鹿共が諦めるまでな。

 

 ◇  ◇  ◇

 

 ヨセフは去り行くアルバートに深々と頭を下げ、彼がヘラルドン帝国を支配する気の無いことを悟った。

 ヨセフにこの国を任せ以後アルバートと妖精族に手出しをするなとの警告でもあった。

 

 ヘラルドン帝国の王城壊滅と皇帝と主要貴族殺戮の知らせは、周辺国やアルバートの能力の報告を受け疑った国の首脳陣達に衝撃が襲った。

 

 カザンカの街に有るヘラルドン帝国王城の壊滅状態が明らかになるに連れ、それを一人で数時間も掛けずに成したアルバートの怒りを恐れ周辺は静まりかえっていた。

 

 エルゴア王国の首都アラマダにも早馬に依る報告が引っ切りなしに届いたが、主要貴族や要職に有る者達の溜息が洩れるばかりだった。

 陛下はよくぞアルバートに対し、如何なる手出しも無用と全ての貴族に命じた慧眼に感謝した。

 

 知らせが届いて数日後王宮の広い一室で、各国の大使や駐在武官を集め国王臨席の会議が開かれた。

 

 「以前アルバート伯爵に対する我々の立場を説明したが、忠告は無視された結果を君達も聞いたと思う。もう一度君達に警告しておくぞ、アルバートには手を出すな彼と妖精族には触れるな。出来なければヘラルドン帝国の二の舞だ、皇帝と公、侯爵や主要貴族当主の皆殺しだ」

 

 静まりかえる室内にはもう国王やアルバートを侮る気配は一欠けらも無かった。

 集まった外国大使の一人が陛下に問う。

 

 「国王陛下はアルバートに伯爵位を授け臣下になされているが之は他国に対する侵略では無いのですか責任を取る・・・」

 

 手で制する国王陛下、笑いが止まらない。

 

 「臣下、お前にはそう見えるか」

 

 外国大使に対する無礼な言動だが馬鹿が此処にもいるそんな思いだ。

 

 「伯爵位を与えたのは馬鹿がアルバートに手出しが出来ない様にお守り代わりだ。爵位を授けるに臣下の礼もして無いぞ。予が貴族の面々に伝達したのみだ。彼もその意を汲み渋々伯爵位を受けてくれた。アルバートが欲しければお前達の国王自ら跪き招聘すれば良い、我々は如何なる関知もしない。警告を無視しアルバートの怒りを買い、死んだ馬鹿に対し責任など取る気は欠片も無い」

 

 発言した大使は反論すら出来ずに渋い顔だが之以上追求すれば、アルバートへの責任追求となり次は我が身であると察した。

 

 エルゴア国王,オーセン宰相,エスコンティ侯爵の三人は、苦虫をまとめて噛み潰し様な顔でカザンカの王宮の惨状詳細報告書を見ていた。

 王宮の中央部3/5が消失両翼が瓦礫として存在するのみ、他の建築物や城壁等は粉砕消失と合った。

 

 「皆殺しはせずに多少の避難時間は与えた様ですね」

 

 「だが徹底的に潰しているな、怖いのは王宮の潰し方だ、一撃で中央部を潰すだけに止めて左右を瓦礫のまま残した。アルバートの一撃がどれ程どの威力かよく解るが、之でも手を抜いているからな」

 

 「で、彼は今何処に」

 

 「又森を散策しているのでしょうか」

 

 「暗闇の森を散策するか、誰にもなしえぬ事だが・・・」

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