第43話 力の誇示

 場所は王都郊外の草原に、土魔法使いを使って頑強な砦を築いて貰いたい。

 砦は幅50メートル高さ20メートル厚さ5メートルの壁で良い、出来るならもっと最強の物を造ってくれても良いと伝えた。

 

 他に必要な物は俺が用意するので国内の有力貴族や冒険者ギルドのお偉方と、力の有る商人や外国高官に招待状を送って欲しいと要請。

 その際冒険者ギルドには高ランクの魔法使いや猛者を模擬戦に参加させたいので希望者は参加自由だと伝えて欲しいとも伝えて貰った。

 

 之は各国からの駐留外交官や軍事顧問に対するデモンストレーションにもなるだろと伝える。

 

 宰相は顔色を変えていたが陛下に伝えるので暫し待ってくれと応接室を出て行った。

 陛下を連れて応接室に帰って来たが、先程の話しは陛下に伝えたがどうしても遣るのかと尋ねてきた。

 

 「俺が何故土魔法しか使わないのかそれも含めて俺と妖精族に手出しをしない、嫌出来ないと奴等の頭に刻み込む必要が在りそう何でね。それと俺と妖精族とは友誼を結び片方に対する敵対行為にはもう片方にも敵対する事になると知らせておいて下さい」

 

 「判った魔法総監に命じて最強の壁を造らせよう。その他の要望も全て受け入れる。準備に暫く掛かるが完成次第知らせるから王都に居てくれ。関係者を招待しての模擬戦だから日程の調整も必要だしな」

 

 4,5日は留守にするがそれ以後は王都に居ると了解して辞去する。

 森の奥に飛び倒れて居る巨木を20メートル程度の長さに揃え数十本持ち帰る。それからは街の散策や妖精族との交流の日々を送る。

 フィーィから話しを聞いた妖精族達が我も我もと参加を希望して参ったが籤引きで5部族の参加に止めた。

 

 全ての準備が整ったのは二月後で合った、当日王国魔法部隊と王国騎士団の猛者達に冒険者ギルドから派遣された魔法使いと高ランク冒険者達が揃う。

 彼等の前には幅50メートル高さ20メートル厚さ5メートルの壁、その前に4本2列で8本の巨木が立ち並んでいる。

 巨木一本の太さが6メートル位有る、壁の左右にもそれより明らかに太い巨木が4本づつ並んでいる。

 

 宰相閣下が参加者達の前に立ち、巨木を如何なる攻撃でも良いから倒してくれ。

 攻撃に際し全員で攻撃しても問題無いし是非持てる力の全てを使って攻撃して貰いたいと告げる。

 

 半信半疑で聞いていた冒険者の一人が巨木の一本や二本なら何とかなるがと躊躇う。

 

 「では王国の魔法部隊がやってくれ」

 

 宰相の

 命令に従って魔法部隊の一斉攻撃が始まる、ファイアーボールの一斉射に風魔法で切り刻み雷撃や氷槍を撃ち込む。

 見事8本を打ち倒し後方の壁の攻撃に移るが表面は削り取るが虚しく砕ける魔法の数々、やがて魔力が尽きたのか立つのもやっととなり攻撃が終る。

 

 「中々のものですが之に何の意味が有るのですかな国王陛下」

 

 外国の高官が冷笑混じりに慇懃に陛下に問う。

 それを苦笑で返す陛下。

 

 「本番は之からだが我が王国と友誼を結ぶ者が居てな、如何なる手出しもしないと誓い臣下にも手出し無用と申し命じてある」

 

 「その様な戯れ事を本気で」

 

 「ああその彼が皆に力を示し彼自身や彼と友誼を結ぶ妖精族達にも、手出し無用と教える為にこの場を設けたのだよ」

 

 笑う一同を200メートル程下がらせる。

 直後に現れる大量の妖精族の大編隊、小編隊は11人編成で先頭が指揮者左右に5人づつ続く。

 火魔法,風魔法,水魔法,氷魔法,雷撃魔法を得意とする者達が指揮者に従い飛ぶ。

 その編成で無数の妖精族の大編隊が綺麗に雁行陣で続々と現れては壁の左右の丸太に攻撃を掛ける。

 

 それは見事な連続攻撃で一つの雁行陣が火魔法,風魔法,水魔法,氷魔法,雷撃魔法を順番に一斉攻撃し去ると、次の雁行陣が現れて攻撃を開始する。

 あっという間に左右の大木はボロボロになり倒れる。

 次に始まったのは大編隊の一斉射である、火魔法の一斉射だけで百雷の響きと共に壁が削られる。

 風魔法,水魔法,氷魔法,雷撃魔法と続く、厚さ5メートルの壁に穴が開いた処で攻撃が終わった。

 

 静かになる中で壁の後ろに一回り大きな壁が現れる、左右の大木の残骸の後ろにも壁が立ち上がると轟音が響く。

 壁の左右に有った大木の残骸が地表から消失していた、いや地表を削り取り大地がえぐれている。

 

 先程の高官がなんて魔法だって呟いているが声が震えている。

 国王陛下が哀れむ目て見ながら彼の後ろを指差す。

 

 少し離れて一人の男が、いや少年が5メートル程の足場の上に立っている。

 正面の壁を指差すと彼の掌の前に巨大な火球が現れ消える、直後に背後で轟音が響き厚さ5メートル幅50メートルの壁が消えていた。

 呆気に取られるが背後の壁が消えて後ろにまた大木の列が現れその後ろに又壁が有る、左から水球がぶち当たり飛沫と共に砕け散る巨木。

 次に氷の巨大な塊が二番目の巨木を粉砕する、次いで斜めに切り刻まれて滑り落ちる巨木雷撃を受け縦に引き裂かれ燃える巨木。

 

 一瞬静かに成り轟音と共に残骸が吹き飛ぶと火魔法,水魔法,氷魔法の氷槍,雷撃と連続して壁にぶち当たる。

 火,水,氷,雷と延々と繰り返される攻撃、数十度の攻撃が収まると少年が外国の高官達の前に立ち俺と妖精族に手を出すなと一言。

 暫しの沈黙の後、彼はもう一度釘を刺す。

 

 「俺や妖精族に手を出したらお前達の国に行き王城諸とも吹き飛ばしてやるよ。今回の様な手加減で無く一撃で城を吹き飛ばして見せてやる」

 

 国王陛下に手を振ると妖精族と共に屋敷に帰って行った。

 

 ◇  ◇  ◇

 

 王家から夕食の招待を受けた、晩餐会では無く夕食って事は私的な招待で在り俺と話し合う必要が有るって事だと判断し受ける事にした。

 

 王家差し回しの馬車を断りウーニャに二輪馬車を出させる、夕食の席には陛下と宰相の二人だけだ。

 静かに始まる夕食を黙々と食べる、食後のお茶になって初めて陛下が口を開く。

 

 「之で収まるかな」

 

 「無理でしょう、之からが本番ですからね」

 

 「判っていて力を見せたのか」

 

 「最近俺の周囲でこそこそしている奴等が多かったんですよ。どのみち俺は目立つ存在らしいから他国にばれますよ」

 

 「だがあれだけの力を見せれば」

 

 「甘いねー、ネチョネチョに甘いお砂糖の塊ですか、自分が体験してないのに恐れる訳が無い。報告を聞いてその力を我が物にし他を従えようと考える輩は五万といますよ」

 

 「必ず俺を従えるか懐柔しようと触手を伸ばして来ます」

 

 「どうするのだ」

 

 「受け入れますよ、で相手国に行って王宮を破壊して来ます。何百人死のうと関係ない大元の王族は皆殺し、巻き添えでの被害は大きいが必要悪と割り切りますよ」

 

 「二つ三つ王家を国を潰せば誰も手を出さなく成ります。その点この国はその辺を判っているから住みやすい」

 

 「笑っていいのか何とも、俺も死にたく無いしエスコンティ侯爵に厳しい事を言われたからな。侯爵の忠言無くば俺も危うい処であったよ」

 

 「へええ、なんて言ったんですか」

 

 「色々有るが最終的に伯爵の話しを信じず甘い考えを貫くなら俺もその程度の人間だと言われたよ」

 

 「あは、存外厳しいんですね伯爵様、っと侯爵様でした」

 

 「ああそうだ、その侯爵がハイド男爵がお前を見出だし当時の伯爵に扱いは慎重にし決して敵対するなと進言したと聞いた。今回のハイド子爵の陞爵も彼の強い推薦に依るものだ。一つ疑問なんだが何故ハイド子爵にあれ程肩入れするんだ。彼は確かに優秀だが理由が判らない」

 

 「彼は俺が村の人間を皆殺しにする処を止めてくれたんですよ。彼自身は法に従い処罰しただけですが。彼が俺の住む村に来なければ皆殺しにして村を破壊し消滅させるつもりだったんだ。彼は知らないけど。でも駄目だね一人よがりで他人を平気で傷付ける馬鹿は何処にでも居る、自分の都合の良い様に解釈して行動する」

 

 「肝に銘じて置こう」

 

 「それ程の事でもないでしょう、ハイド子爵は理解力と洞察力は有ると思うよ。公平公正であれと言えばその様に行動するし、片方の意見のみを聞かず相手の意見も必ず聞き確認しろと言えば納得する。それに領民が潤えば領地も潤い領地が潤えば領主も潤うと言えば即座に理解した」

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