第40話 エルクの塔

 ハイド子爵が領地受け取りの為にアラモナに旅だち静かな午後のひと時、の筈が木陰で微睡む俺の周囲は低空で飛び交う妖精族の子供達で危険地帯と化していた。

 

 《フィーィ、子供達にもう少し高く飛ぶ様に言ってくれ》

 

 《初めて来た子達が多いのではしゃいでいるんだよ。何せあの塔は評判でねあんなに住み心地が良くて、香りの良い住まいは無いと皆見物に来るから切りが無いんだよ》

 

 《それは判るけどさー、逸れよりこんなに沢山来ると泊まれるのかい》

 

 《無理な時は林に泊まって貰っているから大丈夫だよ》

 

 フィーィ達の一族が住まう塔は大評判(妖精族比)になり、入れ代わり立ち代わりって言葉通りの大盛況だ。

 俺はお土産物屋でも遣ろうかなと本気で思うほどだ。

 

 屋敷が完成しているのだが今も片隅のドームで寝泊まりしながら働いている者達もぶつかりそうでヒヤヒヤだ。

 今も50人以上が屋敷内の草毟りから馬車道や車回し周辺の手入れ、屋敷外周の掃除と働いている。

 一人一日の賃金が銅貨5枚の5.000ダーラで50人として一日250.000ダーラ彼等が一人前に成れば良い働き手になるだろう。

 俺の腹の上ででんぐり返りをする子達を見ながらそう思う。

 

 キューロがとんで来て来客を告げる。

 

 「アルお客様だ、宰相閣下がお越しだ」

 

 「えー・・・呼んでも無いのに面倒な、留守だと言っといて」

 

 「呼んで来るって言っちゃったよ。ホールで待っているよ」

 

 屋敷のお披露目をする気は無いし招待したい貴族でもないのに態々来るかねー。

 欠伸をしながらホールに行くとウーニャ達がアワアワしているし、壁際には近衛騎士が10名程立っている。

 ジロリと宰相閣下を睨むと後ろに人影が、思わず顔を片手で覆い項垂れてしまった。

 大きな溜息が出たのは俺のせいじゃない。

 

 「何をしているんですか、てか招待していませんよ陛下。王宮を抜け出して来る所でも無いはずですがねー」

 

 傍らに控えていた執事のエドルマンやメイド達とウーニャ達が慌てて跪く。

 

 「あーいいよいいよ立って立って、余計な客だから必要ない」

 

 陛下爆笑してやがるし宰相閣下も口を押さえて俯いている。

 近衛騎士の頬が引き攣ってるが知るか!

 

 「来たものは仕方がない。お茶でも出しましょう。俺の居間で宜しいですね。サロンの方は未だ完成していませんから」

 

 「いやーすまんアルバート。どんな屋敷か興味が合ってな、彼等が乱舞していると噂になっているぞ」

 

 「エドルマンお茶を頼む。宰相閣下は彼から報告は受けて無いんですか」

 

 「そんな面倒はしないよ。君が危機的状況になったか、その恐れが在るときのみ報告せよと命じているから」

 

 肩を竦めて返事の代わり。

 

 「それにしても良い香りだな、妖精木の香りに似ているが」

 

 黙って天井の一角をを指差す。

 あれはの問いに、妖精木ですよ香炉で燻さ無くてもこの程度の香りは出ます。

 部屋の天井四隅に長さ1メートル程の妖精木が四本ぶら下がっている。

 最も止まり木が四本十字に突き刺さっていて妖精族の子供がぶら下がったり腰掛けたりしている。

 

 「妖精木の真骨頂はこの香りと燻した香りの混合に有るんです。小さな木片しか手に入らないから判らないんでしょうがね」

 

 「飽きれるね、あんな物をぶら下げている宮殿は存在しないぞ、一欠片に目の色を変えるのにな」

 

 「それ、この間エドルマンに言われて初めて知りましたよ。森の奥の裂け目を二つ三つ越えた奥に、倒木として有ったのをフィーィ達の好きな香りの木だと聞いて持っていただけですから」

 

 今度は陛下が片手で顔を覆い溜息をついているよ、ざまあって処だね。

 

 「ハイド子爵に手土産に渡したのは俺への嫌がらせか」

 

 「当然です。成りたくも無い貴族にされちまったから。俺は売りませんよ、欲しければハイド子爵に頼むんですね。この国で妖精木を持っているのは俺とハイド子爵だけですから」

 

 窓を閉め香炉に火を入れて妖精木の削り屑をひと欠片落とす。

 香炉から立ちのぼる馥郁たる香りに妖精木の香りが混じり合いより鮮烈な香りに変わる。

 

 「之は女性陣には教えられないな」

 

 「あー 之って結構服に香りが染み込むんですよねー」

 

 陛下の顔を見てニヤリと笑ってみせた。

 

 「処でだが空を飛んでいるって噂は本当か」

 

 「ええ飛べますよ、教わりましたから。条件さえ満たせば誰でも飛べます。妖精族を見れば判るでしょ彼等は誰でも飛べますからね」

 

 「条件とは」

 

 「身体に似合わぬ膨大な魔力ですよ。膨大な魔力を纏って空を跳ぶんです。魔法省の総監辺りならひょっとして飛べるかもね。でも飛べば多分落ちて死にますよ。空に落ち地に落ちるって言葉を理解出来ないでしょうから」

 

 「アルバートの魔力はどれ位有るのだ」

 

 「以前エスコンティ侯爵に高さ18メートル幅2メートル長さ600メートルの塀をほぼ一分で造って見せました。それを4,5個余裕で造れる魔力が必要です。妖精族をご覧なさい身体に見合わない魔力を持っていますから魔法も強力ですよ」


 その後は四方山話しとマグレード・バイカル子爵の愚痴を聞かされる羽目になった。

 日頃の行い良からずと降格処分と転封になったらしい。

 アルバートの所に吸い寄せられる様に馬鹿が集まるな、の厭味と共に子爵位がまた一つ空席になったと歎いている。

 

 厭味は聞きたく無いのでさっさとお帰りを願う。

 エドルマンやメイド達が最敬礼で送るなか軽く手を振って終わり。

 やれやれで在る。

 

 それをやれやれで終わらすアルって何者なのとウーニャ達に突っ込まれた。

 

 三階の内装を手掛けた業者に直径9メートルの円盤で一カ所幅2メートル奥行き1メートルの凹み付きを40枚作って貰った。

 追加で40枚同じ物を頼んでおく。

 

 出来上がった40枚を空間収納に納めると、エドルマンに暫く森の里に行って来るから後は任せる。

 何か在れば留守番の妖精族に頼んで森の里迄伝言なり手紙なりで連絡を頼む。

 

 フィーィ達一族と共に王都を飛び立つと遊びに来ていた他の妖精族がそれに続く三々五々飛び立つ妖精族はまるで渡り鳥の大群の様である。

 王都を飛び立って約6時間程で森の里エルクに到着村長のヨシュケンさんに挨拶し、妖精族の住居を新たに建てたいので都合の良い場所を教えて貰う。

 

 使っていない土地を示されたので直径約10メートル高さ約40メートルになるが良いのかと許可を貰っって一気に円筒を建てる。

 円筒内で最下層は天井高約2メートル後は天井高70センチで積み上げて行きランダムに天井高1メートルとか2メートルの部屋を作る。

 王都で作ったのと同じだが一回り大きいのだ。

 最下層に香炉を置き通路には妖精木を一本縦に取り付けて完成、この地に住まう妖精族に贈る。

 

 エルクの里って呼ばれているのでエルクの塔と名付ける。

 塔事態も喜ばれたがエルクの塔の呼び名は事のほか喜ばれた。

 聞けば王都の塔はフィーィ達がアールの塔と呼び名を付けて呼んで居るので、自分達の住み家にも名前が欲しかったらしい。

 

 ヨシュケンさんに約束の俺の家を建てたいのたが場所は、妖精族の住居の側でも良いかと許可を貰ってカマボコ型ドームハウスを作って終わり。

 此処はベースキャンプの様なものなので簡素窮まりない。簡易ベッドとテーブルに椅子を出して食事にする。

 

 《フィーィ、近くに良い香りの木が在るところを知っている、この黒い木だけど》

 

 《前にアールが魔法の練習をしていた場所に沢山有るよ》

 

 《明日取りに行きたいから案内してね》

 

 《いいよー》

 

 カマボコドームの天井に張られたロープにハンモックを吊して寝ているフィーィが手を振って答えてくれる。 

 之から作る妖精族の住居には必ず妖精木を一本内部に仕込んでいくつもりだ。

 逸れには沢山の妖精木がいる。

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