第41話 宝珠果

 フィーィ達と以前魔法の練習をした場所に飛び漆黒の妖精木を探す。

 腕程の太さの木よりも3~4センチの太さの木の方が良く香るとは知らなかったし、生木よりも良く乾燥した木の香りが素晴らしかった。

 エルクの塔の妖精木を細いのに取り替えよう。

 王都の塔の木もだ、太いのは奴に売り付けてやろうと悪巧み。

 

 この木は不思議な木で余り枝を出さない、根本から真っすぐに伸びていてときたま二股の枝分かれが見られる。

 鑑定してみて驚いた妖精木の若葉が、ハイポーションの原料の一つだよ。

 最近鑑定を使っていなかったから驚きだよ、以後事有る毎に鑑定を使って能力アップに努めよう。

 

 早速妖精木の若葉をせっせと集めて回るアルバートと妖精族達で在った。

 太さ3~4センチの木ばかり集めたがこの太さだと長さは精々5~6メートルでしかなかった。

 

 嬉しい余禄は宝珠果,連結果と呼ばれる果実を見つけた事だ、実が三個ずつずれて縦に実り一粒が約4センチ、16~19粒の房になる。宝石の様な色取りどりの透き通った美しい実だ。

 爽やかな何とも言えぬ甘さが有り尚それぞれが微妙に味が違うのだ。

 この実は妖精族の為に備蓄する事にして夕方までは果実の収穫に充てた。

 

 森の里エルクに二泊して王都に帰ったが他の一族の反応が凄く、結局他の妖精族の住み家も順次造る事になった。

 

 床板を大量発注して出来上がり次第各地へ出向き塔を建てる。

 もう慣れた作業となっていて、妖精族の拠点から拠点への旅も何度となく熟し飛行速度も上がった。

 時にはエルクハイムの屋敷に顔を出しコステロの料理が、懐かしいと感じる程長く王都と森を飛び交っている。

 

 飛行速度と言えばフィーェに飛んでいるときの結界を視覚化して見せて貰ったら球形だったので、ラグビーボールの様な形にすることを提案したら速度が五割程上がったと喜んで皆に教えていた。

 

 俺、俺は元々遅いので空気抵抗の減少は必須だから初めからラグビーボール形の結界だよ。

 

 ◇  ◇  ◇

 

 王都の屋敷で夕食の時にウーニャがアル魔力の循環と操作の訓練をしていて、何かもやもやした感じが続いているんだが何だろうと質問を受けた。

 

 俺はピンと来たね。

 

 「それって小さな物でそこに在るのは判るけど何か判らないって感じのものだろう」

 

 「そっそんな感じで気になって気になって困っているんだよ」

 

 「おめでとう空間収納の発現だよ。今日からは魔力の訓練を済ませ、寝る前に魔力の全てをそのもやもやに注ぎ込め。一月経ったら使い方を教えてやるよ、注ぎ込む魔力に依って収納力が変わって来るから魔力の全てを注ぎ込めよ」

 

 ウーニャ喜んだね。

 

 「収納量に依っては高額の賃金で引く手数多だ」

 

 「いやいやアルの所を辞める気は無いよ。飯は旨いし酒はなお旨い仕事も楽しいからね、それにアルがぶっ飛んでいるから。魔法を教えてくれて有り難う」

 

 一ヶ月後ウーニャを呼んでスプーンを手渡す。

 

 「もやもやの中に袋が有るとイメージして、袋に放り込むつもりで投げてみろ」

 

 十数度の失敗の後スプーンが消えた。

 

 「成功だ袋の中にスプーンが有るのが判るか」

 

 頷きながら泣いているウーニャ、仲間達が祝福している。

 

 「よし感覚を忘れない内にどんどん練習だ」

 

 逸れからは俺が土魔法で作った50センチの球体を次々に収納させた。

 それ等を全て取り出させて、今度は1メートルの球体だ10個収納したところで取りだし。

 次は5メートルの球体を5個収納した処で半分埋まった感じがすると言ったので小さな家一軒分位の収納量だと教えておく。

 之からは生活洋品の全てをそこから出し入れして訓練する様にさせた。

 そして余り他人には教えず知られても冒険者用のザック2,3個分だと答える様に教えた。


 ◇  ◇  ◇

 

 アラモナに行き久し振りにハイド子爵の顔でも見て、王都とエルクハイムから多数送った者達の様子も知りたかった。

 

 何時ものフィーィ達や訪れていた他の一族を含む大編隊で飛行、アラモナの領都城壁をいきなり飛び越えるのも不味いので門衛に領主屋敷の場所を聞きに行く。

 一瞬不審者扱いをされるがブラックカードを出して、無事に通過し再び飛んで領主屋敷に向かう。

 門衛がびっくりしているが俺が飛ぶのに驚いたのか、妖精族の大編隊に驚いたのかは不明だ。

 

 嶺主屋敷の門衛にブラックカードを示しハイド子爵に面談を申し込む、門衛の一人は俺の顔を知っていて良い勤め先をご紹介いただき有り難う御座いますと最敬礼されたよ。

 良い扱いを受けている様で安心した。

 

 ハイド子爵の屋敷の前では執事らしき男が向かえてくれハイド子爵の下に案内してくれた。

 

 「やあアルバート伯爵良く来てくれた、領主ってのは忙しくて大変だよ」

 

 「お久しぶり振りですハイド子爵様」

 

 「様は止めてくれ爵位は君の方が上だぞ、アルバートに言われると背中が痒くなる」

 

 笑いあった後は近況報告となった。

 王都とエルクハイムからアラモナに来た者達は、一人も辞めずに良く仕えてくれると嬉しそうだ。

 お茶を持って来たメイドは見知った顔だったので元気かと尋ねると、アルバート様にはお世話になり有り難う御座いますと此処でも礼を言われた。

 

 人手は足りて居るのか尋ねると何とかなって居るが、王都も此処ももう少し欲しいと聞いたので王都とエルクハイムに知らせておくから希望者が居れば連絡すると伝える。

 

 「然し凄い数の妖精族達だな、どうしたんだい」

 

 「最近は妖精族の住み家を建てて回っているんだよ」

 

 「なら家の庭にも建てておけば良いよ。領民達も妖精族を見慣れれば余計な事もしないだろうからな。俺からも厳しく伝えておくよ」

 

 そして領主の屋敷の裏手に高さ30メートル直径8メートルの塔を建てる。

 最近は新たな塔は30メートルに統一している、40メートルの塔は必要無くなったからね。

 ハイド子爵は慣れて居るが執事や他の使用人達は目を丸くしている。

 出来上がった塔に妖精木を取り付け香炉に削り屑を落として完成だ。

 ハイドの塔と命名する。

 

 フィーィ達について来た妖精族達に森へ帰ったら、此処にも塔が有るから気に入ったら自由に使って良いと伝えてと頼む。

 一人の者が我等が住み家にしても良いのかと聞いてきたので自由にどうぞと認める。

 

 「アールにファールとその一族が感謝を」

 

 見ていたハイド子爵に説明すると

 

 《ヨルム・ハイドだハイドと呼んでくれ。ファールとその一族がこの地に住まう事を歓迎する》

 

 《ファールと申す宜しく頼むハイド》

 

 

 

 胸に拳を当てて腰を折る。

 ハイドにも同じ返礼をする様に教えて答える

 家財道具はどうするのか聞かれたので妖精族は皆空間収納が使えるので旅する時は持って出るから大丈夫だと伝える。

 

 屋敷に戻りお茶をしていて思い出した。

 執事にワゴンに大きな皿を用意して貰い、宝珠果を皿に山盛りにして手土産だと差し出す。

 

 「見慣れぬ物だが又暗闇の森の産物かな」

 

 「そうだよ妖精木の生えている近くに有ったんだ、宝珠果って言うんだ美味しいから皆で食べてね」

 

 「宝珠果ですか、王家に献上しなければ」

 

 「あっ、いいよいいよ陛下なんぞに食べさせるのは勿体ない」

 

 執事が硬直しているよ、ハイドは苦笑い。

 

 「気にするなアルバートはこんな性格だ。年金貴族とはいえ、伯爵にされたのを恨んでいるから陛下に嫌がらせをして楽しんでいるんだ。処で嫌でも貴族になったんだから姓は何て付けたんだい」

 

 「あー ショーゴ・アルバートだ家紋は丸を縦に二つ横に二つを重ね合わせた物にした。面倒だよな貴族って、貴族らしい事をする気は無いけど」

 

 一晩ハイド子爵の家に泊まり翌日王都に帰る。

 帰る前に以後街の門を通らず直接屋敷に来るから、ファールに連絡して来ることを伝えるよ。

 執事とメイド長くらいには妖精族と会話が出来る様にしておいてと頼んでおく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る