第34話 サランドの酒
ハイド男爵がガルムやバルドスと共に多数の衛兵を引き連れてやって来たよ。
「アルバートに脅しを掛ける猛者が居るとはな、顔を見に来たぞ」
「引き取って呉れないんですか、森まで連れて行って埋めるのは面倒何ですが」
「埋めたら証人が居なくなるだろう」
「良いんですよ。王都に行ってベルーノさんとシャイマール侯爵様を静かに埋めてしまえばそれで終わり」
「アルバートなら簡単に出来る処が怖いな。こ奴等は王都に送ってベルーノとシャイマール侯爵の裏事情を全て吐かせる必用があるから諦めろ。俺達に押し付けたのだから後は任せろ」
ガルムやバルドスが笑っているぞ男爵様。
面倒事を押し付け遅い夕食を済ませ早々にベッドにダイブして爆睡した。
◇ ◇ ◇
伯爵様から夕食の御招待、ダガルドたちを押し付けた小言だろうが仕方がないので行くか。
伯爵邸に出向くとナリヤードの出迎えで食堂に、席に着くと伯爵様の愚痴が出るので口封じを出す。
「お代官様ベルーノ商会とシャイマール侯爵の事は良しなに」
そう言って空間収納から徳利を二本差し出す。
「以前の物と違い容器の色が違うでしょう、之は大人の逸品です。そのままでは粘りが有りますので同量の冷たい水で薄めてお召し上がり下さい」
傍らに控えるナリヤードに渡す。
受け取った伯爵様が香を嗅いで満面の笑みでハイド男爵に手渡す、ハイド男爵も香で察したのかニヤリと笑う。
「ナリヤードグラスと氷を頼む」
「伯爵様同量の水で薄めないと濃厚で粘りがあるので呑みにくいですよ」
「味見は?」
「絶品です。持ち主の特権でたっぷりと味見致しました。好みにも依りますが同量の水で割るのが好きです、贈り主の名をとってサランドの酒と名付けました。未だ外には出して居ません」
食事の間は俺が帰った後の王宮の様子や茶番劇の顛末を教えてくれたよ。
公爵様以下半数以上の貴族の屋敷から不審な婦女子を多数発見した。
調べたところ人身売買に関わり自らも婦女子を監禁していた様で、爵位の剥奪と家財没収のうえ成人している家族共々犯罪奴隷に落とされたとの事だが自業自得だ。
ノイエマンが書き取った内容だけではベルーノ商会の会長ベルーノを捕縛出来ないが証人が七名も居れば大丈夫だろうとの事
ベルーノを捕縛すればシャイマール侯爵との関係と依頼内容も明らかになるだろうなと。
王都への護送は伯爵側の責任者数名で他は冒険者ギルドに任せ犯罪者の護送に偽装するらしい。
サランドの酒は暫く公表しないつもりだったが一本金貨10枚で10本だけ伯爵様に譲った。
ハイド男爵には内緒で一本渡しておいた。
サランドの酒は王家以外のエスコンティ伯爵と懇意な貴族や大商人に密かに配られた。
王家にすら献上されていない極上の逸品、その香り芳醇にして琥珀の液体の円やかな事天上の酒と称されると囁かれ。
恐ろしいもので噂は噂を呼び今やエスコンティ伯爵と深い誼みを持つ物だけが手に入る天上の酒と言われるに至る。
知らぬはエスコンティ伯爵当人と彼に酒を卸したアルバートだけで在った。
ハイド男爵は部外者の立場から噂の片鱗を聞き及び、真相を確認しょうとした。
が下手に突くと我が身に危険が及ぶと判断しそれとなくエスコンティ伯爵に、アルバートのサランドの酒は危険だと忠告したが時既に遅しの段階で在った。
陛下から親書が届いたが件の親書には巷で噂の芳醇なる香りの酒を所有しているとか、予は寡聞にてそれを知らず芳醇なる香りと天上の酒と唄われるその味わいに預かれず不幸の身を歎くばかり・・・
陛下が臣下に切々と酒のおねだりをしているよ。
出所の察しは着いているが俺がごねると手に入るらなくなる恐れが在るので、言及せず何とか伯爵の尽力で入手して欲しいと懇願している。
他国への贈答や外国要人を招いての晩餐会で使いたいのだそうだ。
伯爵様直々に俺の家に来ての交渉だ、断り難いが在庫は山程有るし良いか。
「で、伯爵様如何程御入用ですか」
「取り合えず100本追加を頼むかも知れないが陛下以外には渡さぬから頼む。ついては一本金貨20枚支払うよ」
「高すぎませんか、前回の倍ですよ」
「安すぎる位なんだよ。前回譲って貰った2本と買い取った10本の内4本を我が家の秘蔵に回し、残り8本を秘密を条件に懇意な相手に贈ったんたが、皆目の色を変えて入手先を教えろと煩くてな、なかには一本金貨50枚出すとまで言い出すから参っているんだ何卒の宜しく頼む」
「それは大変ですねー」
と、棒読みで返答しておいた。
「それにな陛下に献上したレッド種二体の礼に多額の褒美を貰っているのだ気にするな。陛下もサランドの酒を買い値以上の価値を持たすさ」
納得してサランドの酒を王家に100本売ることを了承した。
序で伯爵様も大変お困りの様ですが100本程度融通しましょうかと持ち掛ける。
「私は嬉しいが良いのか」
「王家に渡せば出所は公然の秘密ですからね。伯爵様の手元に無ければお困りでしょう」
「では私も100本、いや200本頼む。どうせ王家から追加で100本位の要請が在るからな」
「判りましたでは合計300本を伯爵邸迄お持ちします。伯爵様に100本も融通するのですから、シャイマール侯爵とベルーノさんの様に以後も良しなにお願いしますよ。ヘッヘッヘ」
伯爵様涙を流して爆笑しているよ、護衛のガルムとバルドスも肩を振るわせて下を向いている。
お帰りになる前にガルムとバルドスを夕食に招待したいと伝えると、快く了解され明日の夜で良いかと言って帰られた。
当日ガルムとバルドスの訪問を受け居間に招き、食膳酒に良く冷やしたサランドの酒を差し出す。
グラスを揺らし香りを確かめると溜息をつく。
「こりゃーぁ、伯爵様も目の色を変える訳だぜ」
「酷だねー、之を呑んだら他の酒の味に満足出来なくなるぞ」
琥珀色の酒を口に含み薄い笑みを浮かべ呑み干すとゴールデンベアの干し肉を噛み締めて又一口、陶然としているが食事の準備が出来たので食堂へ移る。
メインはゴールデンベアのレッド種のステーキ、コステロ腕を上げたね。
食後は再び居間で少し濃いめのサランドの酒で歓談だ。
バルドス曰く伯爵様帰るまでニヤニヤ笑いが納まらず、最後には俺はシャイマール侯爵の様な下手な事はしないぞと笑っていたそうだ。
伯爵様はサランドの酒を受け取ると早々に王都に旅だって行かれた。
◇ ◇ ◇
俺は久し振りに森に出かけ飛行練習を再開する。
高度は約450メートル、東京スカイツリーの第2展望台最上階から地上を見たときの人の大きさと同じ位に見えるからそれ位だろう。
高度を上げ続け人が護摩粒より小さくなる、感覚的に高度1.000メートルかな。
纏った魔力を最低限まで薄め落下を始める、ロープ無しのバンジージャンプだグングン落ちていき耳鳴りがする。
一気に魔力を纏う濃度を上げて落下を止め水平飛行に移る、隣をフィーェが飛び周囲には妖精族の子供達が群れる。
フィーィは森に行き、サランドの酒探しをゲームにして一族で成績を競っていて在庫が増える一方だ。
◇ ◇ ◇
王都に到着したエスコンティ伯爵は早速王宮の宰相閣下に連絡をとる。
翌日王宮の宰相閣下の応接室に入ると国王陛下も同席しているではないか。
「首尾は」
「取り合えず100本を手に入れました。ワゴンを用意して頂けますか」
持ち込まれたワゴンにマジックポーチから次々とサランドの酒を取り出す伯爵様。
「追加が必用で在れば私が100本預かっております。不要なら私が処分致します」
一本を手に取り香りを確かめていた陛下が慌てて止める。
鑑定をさせた後グラスと氷に水を用意させ味の確認だ。
「アルバートは水と同量が最善だと申しておりましたが私も異論はありません」
陛下と宰相閣下二人がグラスの酒の香を確かめ口に含む、暫しの沈黙の後で陛下が恨めしそうに呟く。
「之をアルバートと二人で楽しんでおったか実に怪しからん」
「いえいえベルーノ商会とシャイマール侯爵の尻拭いの謝礼に、二本貰い余りの美味さに懇願して10本売って貰いました。条件として誰にも話さない事でしたから」
軽く陛下に頭を下げてしれっとしている。
結局予備の100本もその場で陛下が引き取った。
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