第33話 ハイド子爵の災難と覚悟

 内装工事に来た三階を受け持つ業者に、フィーィ達の住居である塔の内装工事を先にやって貰う。

 一階は土間で高さ2m程それからは各階の高さは床から天井まで70cm程度で時々高さ90cmの部屋を造り、中央に1.5m穴が天井まで貫通している物だ。

 穴は昇降用の通路だ、妖精達に階段などは不要で上下移動は穴に飛び込めば良し。

 天井には縦横に桟を張り巡らしハンモックを架けやすい様に工夫している。

 業者もフィーィ達妖精族を見て、微笑んで工事に掛かった。 

 

 一階の土間には香炉を造り香木の細粉を用意して何時でも香木の香を愉しめる様にしてある。

 逸れと三本の香木の一本を昇降用通路の中心にぶら下げていて、木の香りが塔全体に巡り楽しめる様にした。

 この塔は常に香木の香りに満たされている事になるだろう。

 これにはフィーィやフィーェ達妖精族に大好評で、造った甲斐があった。

 完成して外部から人が入れない様にする前に、魔道具屋から買い集めた魔道ランプを各階に設置し出入り口を封鎖した。

 灯くらい皆使えるが、ランプは便利だからね。

 

 エドルマンに頼んで王都内の移動用に二人乗りの馬車と四人乗りの馬車を用意してもらう。

 後は執事とメイド長用の2台と、買い出し用等複数台買うことになったが、貴族って物入りだねー。

 だから貴族って嫌い。

 

 二人乗りとは言え御者は必要だ、ちょっとチョロキューみたいな感じで笑った。

 驢馬の一頭立て二輪馬車は極めて便利なので重宝している。

 俺の常用馬車は全て円の十時重ねの家紋付きだ、前方左右と後方中央の上部に左右のドアに付けなければならないらしい。

 家紋は小振りで目立たぬ様に配慮したが伯爵位を示す赤い線が二本家紋の下に付いている。

 面倒臭せー、陛下の野郎今に見ていろ! と毒づいておく。


 領地受け取り手続き中のハイド子爵の王都屋敷へ陣中見舞いに訪れたが、人手不足を歎いている。

 一度俺の所に来て現在教育中の者の中から、ハイド子爵家に仕えても良いと言う者を採用すれば良いと伝える。

 俺の処もベテラン以外は教育中だが優秀な者多数で、希望者を各部署に配置していると教えると、やり方を参考にしたいのでお邪魔するよと嬉しそうだ

 

 手土産の香炉を渡すと不思議そうな顔で眺め、目で問い掛けてくる。

 香炉自体は普通に売られている物だ、火種を用意させナイフの刃で香木を薄く削る。

 窓を閉めさせて削り屑を香炉に入れると柔かな何とも言えない良い香りが漂う。

 

 「ほうー、素晴らしい香りだが何の香木だい」

 

 「妖精香とか妖精木と呼ばれる物だよ」

 

 ハイド子爵様、香炉を持って固まっていますよ。オーイ帰っておいで。


 「領地拝領と陞爵の御礼に、オーセン宰相を通して陛下に献上すれば良いよ」

 

 そのまま献上しそうなので表に出てナイフで小割にする、一本が2cm角で長さ20cm程度にし端材は長さ10cm程に切る。

 ハイド子爵の所に戻り見栄えの良い一本を手渡し残りをハンカチで包むと金庫に仕舞わせた。

 

 「献上品はこれ一本のみで良いよ、それ以上渡しては駄目だからね。その木片の半分も宝物庫に有るか怪しいものだ。そいつを上等な布で包んで宰相閣下に差し出すんだ。宰相閣下も一目見れば察しがつくだろうからな。手元不如意になったら、その半分以下の物をオークションに出すか、商業ギルドに売れば少々の困り事は片付くよ」

 

 執事を呼んでグラスと氷を用意させ、サランドの酒を呑ませる。

 

 「一息ついたかい。明日辺りオーセン宰相に渡した後、俺の所に来れば良いよ」


 「ああ有り難う、お前には何時も驚かされるよ。子爵風情の俺が、王家に手渡す御礼の品が有る筈も無く困っていたんだ」

 

 「王家も子爵から贈られる物に期待はしてないから、気にする事は無いのに。俺なんて、どんな仕返しをしてやろうかと思案しているのに」

 

 「それはそれで怖いものがあるぞ、陛下も大変だ。明日オーセン宰相に渡したら君の所にお邪魔するよ」

 

 * * * * * * * * 

 

 ハイド子爵の訪問を受け、オーセン宰相も領地拝領に対する何時もの儀礼的訪問だと気楽に面会した。

 ハイド子爵が懐から取り出して差し出した物を見て、顔色が変わる。

 マジマジと見つめ香りを確かめた後、暫し待てと言って足速に消えた。

 待つこと暫し、宰相閣下が香炉を持って帰って来たが後ろには陛下の姿がある。

 急いで立ち上がり跪こうとするのを、陛下が押し止める。

 

 「良い、まぁ座れ」

 

 陛下に言われ、恐縮しながら陛下と宰相の前に座る。

 オーセン宰相は香炉に先程の木片を削り落とす。

 馥郁たる香りが部屋を満たし暫しの沈黙。

 

 「これは宝物庫行きですね。他国への贈答品に最適ですが、この部屋に2,3ヶ月は他国の使者等を招けませんな」

 

 「ハイド子爵、この香木が宝物庫行きの理由が判るな、2、3ヶ月この部屋にこの香りは残るぞ。良き友を持ったな大事にせよ」

 

 そう言ってニヤニヤと笑いながら、冷や汗が止まらないハイド子爵を残して陛下は帰って行った。

 この後の予定を聞かれて、アルバートの所に行き足りない人手を融通して貰うつもりだと話すと、領地の引き渡し手続きを早くする様にしておくと告げられ、礼を言って宰相の下を辞去した。

 

 ハイド子爵が去ると、オーセン宰相もニヤニヤ笑いが止まらず一日ご機嫌であった。


 * * * * * * * *


 アルバートの下を訪れたハイド子爵は、内装工事中のアルバートの屋敷を見て、エルクハイムの屋敷と殆ど変わらない事にびっくりした。

 キャンプ用のドームの中でお茶を楽しみながら、貧しい者達を教育し良き領民に育てる方法を尋ねた。


 仕事は六日働いて一日休みを与え、毎週同じ日に休みになる不公平を無くし、時には纏まって休みを与えてリフレッシュさせていると聞いた。

 雇えば衣食住の面倒を見るのは当然だが、こざっぱりした服装に美味しい食事と良い住環境は大事だ。

 毎日似たような味の食事に狭い部屋と薄汚れた服は、やる気を無くしてしまうものだと言われた。

 そして最も大事なのは公正であること、不公平は不平不満の元になり結束を乱すので注意が肝心だとも。

 

 ハイド子爵にはその発想は斬新で、領地に行けばその方法でを模倣しようと決めた。

 読み書き計算が出来る者は様々な仕事に就けるし役に立つので、目先の教育費用や生活費を惜しんではならないとの言葉は身に染みた。

 

 アルバートは現在教育中の者達を集め、ハイド子爵が人を求めている。

 執事見習いからメイド、馬丁、御者、小間使いから庭師、料理人と仕事は多義にわたる。

 最初は見習からだが真面目に働くのなら、相応の給金を支払うと約束した。

 衣食住もアルバート伯爵を見習いたいと素直に述べた。

 返事は三日後で良いのでどの仕事に就きたいか、勤め先は王都と領地の二カ所あるので考えておいてくれ、と伝えて帰った。

 

 三日後ハイド子爵は大勢の希望者を前に戸惑っていた。

 アルバートのやり方なら、今は見習でも優秀な者を簡単に集め使う事が出来る。

 たとえ自分の元を離れても、知識を有する者は良き領民になるだろうと思うと、益々アルバートに聞いた話を忘れず実践して行かねばと誓う。

 

 多種多様な仕事希望者20数名を連れて子爵邸に帰ったハイド子爵は、先ず最初に使用人の食事を毎回味見して満足出来るかの確認から始めた。

 次に衣服は常に清潔であるか、住まいの住み心地はどうかを調べ不備は執事を呼び改めさせた。


 使用人で勉強が足りない者には教育を施し、万が一解雇されても読み書き計算が出来れば、何処に行っても仕事に就けると諭した。

 以前からの使用人の態度も変わり、皆生き生きと仕事をしているのが判るのは、信頼の証だと素直に嬉しかった。

 

 アルバートの言った言葉で一番心に沁みたのは、領民が潤えば領地も潤い領主も潤うと言った言葉だ。

 領民から絞り取れば領主は潤うが領民と領地は疲弊するのは自明の理だ。

 あの若さであの見識は恐るべきものがある、しかもアルバートには権勢欲や名誉欲が無い。

 自分やエルゴア王国にとって、最大の幸運だと思った。


 * * * * * * * *


 香木を献上後程なくして、ハイド子爵の下に領地アラモナの引き渡し書類が届いた。

 ハイド子爵はアルバートの下を訪れ、アラモナでの運営に付いて意見を求めた。


 新たに連れて行く使用人と元の使用人との融和や領民に対する統治の方法の心構えを知りたかったのだ。

 アルバートに対し、子供だとか領地も持たない等の偏見は無かったし、卓越した見識に恐れすら抱いていたが、学ぶ事の多さに素直に意見を求めた。


 領地では常に公平であり、諍い事に際し両者の意見を聞き必ず検証と確認をする事が第一だと。

 一方の意見や愚痴を聴き続ければ、必ず判断が偏るので注意せよ。

 貧者から富裕者迄広く意見を求めて常に検証せよ、検証無き判断は愚かなり。

 意見が対立したら両者の利益関係を先ず調べよ。


 常に我が利益を望まず、相手と自分では無く相手と自分と世間(領地)の三方に利益を求め、自らの利益の追求は控えよと教えられた。

 新しい使用人を求めた時の心構えを忘れなければ、余り心配する事も無いだろうと笑われた。


 子爵として伯爵に対する礼を取ろうとして拒否されたが、師と仰ぐに相応しい男だ。

 彼の教えを胸に領地を赴く事にした。

 心強いのは彼がアラモナを見て見たいので、暫くしたら訪れると言ってくれた事である。


 ハイド男爵は知らぬ事だが、アルバートの言葉は彼の記憶の中にある古き日本の教えであり、商人の知恵であった。

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