第33話 訪問者

 新しい家の前で日々飛行訓練だ、魔力を纏い羽根を作るとゆっくりと前進左旋回右旋回後進停止などをひたすら繰り返す。

 

 ノイエマンがやって来て収支報告書の確認と住宅の賃貸状況の説明で訓練の邪魔をする。

 文句を言えば王都の冒険者ギルドで魔獣や野獣を相当数売り払った、その代金の振込みを確認してくれと言われた。

 

 暇な時にギルドに顔を出しサブマスやギルマスの求めに応じ、魔獣や野獣に在庫の薬草と大分捌いたからかな。

 薬草も結構引く手数多でギルマスがホクホクしていたよ。

 最後には各種パープル種とレッド種を三体ずつ置いていけと脅されるし、時々オークションに出して購買欲を煽って高値で売るぞと張りきっていたギルマスさん。

 

 妖精の実の自然発酵熟成された酒は見せなかった、之は暫く市場には出さずに俺一人で楽しむんだ。

 持って来てくれた一族の長の名からサランドの酒と命名する。

 之はエルクハイムに帰り着いてからフィーェ達が遊びがてら競争で森に行き沢山収穫して来るので在庫が膨れ上がっている。

 

 ノイエマンに見せた処、地下の食料庫の隣に酒蔵を造る嵌めになった。

 集まったサランドの酒は例の蜜を入れている徳利と同じ物を作って入れ保管しているので、元の材料がどの様な物か分からないだろう。

 

 今日から本格的な飛行訓練を始める、基本の浮く前進後進左旋回右旋回上昇下降と速度は遅いが出来る。

 フィーィやフィーェ達に護衛されて森の中を飛ぶ訓練だが、障害物の多い森の中はまるで迷路だ障害物を避けている間に自分の進行方向が判らなくなる。

 

 移動は森の上を飛ぶことにした、森の中を飛ぶ時には妖精族の案内で飛ぶのが無難だ。

 飛行速度は精々30~40キロメトル位だろう、練習次第で伸びる余地は在ると思う。

 

 飛行練習と森で魔力を多く溜め込む魔力の実のなる木の採集に励む日々で楽しい、屋敷の庭は森の縮小版にするつもりなので草花や薬草類も収集してはせっせと移植している。

 屋敷の左右を挟む公園は花木を集めたので季節毎に様々な花が咲き住民を楽しませるだろう。

 

 花の見事な季節に伯爵様に相談して屋台祭りの様な催し物で旧市街から新市街への興味を煽り、移行を促進し旧市街の再開発に拍車を掛けたい。

 一度要相談だな。

 

 ◇  ◇  ◇

 

 飛行訓練から帰るとホールに客人がしかも護衛付きだ、ノイエマンが渋い顔で応対している。

 

 「ただ今、お客人かな」

 

 ノイエマン曰く王都のベルーノ商会からお越しのダガルドと名乗り、魔獣のパープル種とレッド種を買い付けに来たらしい。

 護衛の六人は少し薄汚れていて目付きに一癖も二癖も在りそうな物件だ。

 ダガルドが俺を上から下まで嫌な目付きで値踏みする。

 

 「王都のベルーノ商会から参上しましたダガルドです。王宮で魔獣のパープル種とレッド種の即売の時に、主人のベルーノが買い損ねましてねわざわざエルクハイム迄買い付けに来た次第ですよ」

 

 「お引き取りを、個人的な取引はしておりません。王都の冒険者ギルドにてオークションに出す物を数点預けて有りますからそちらから御購入願います」

 

 「そうは言ってもマジックバッグからホイホイ取り出していたそうじゃないか、どうせ頼まれて処分しているのだろうから少し位回してくれても良いのだろう。王都の貴族様からベルーノ商会に直々に依頼が有りましてね、商会と繋がりを持てば悪い様にはならないよ」

 

 「ベルーノ商会ですか、王都なんかに興味が無いのでどうでも良いです。お帰りを」

 

 「良いのかベルーノ商会を敵に回すと侯爵家が控えているんだぞ。エスコンティ伯爵家では相手にならないし、エルゴア国内での生活に不都合が出るよ。こんなに良い家に住んでいるのも長くは無くなるな」

 

 「逸れは脅しか、ダガルド」

 

 護衛の連中が目付きを鋭くし身構える。

 面倒事は嫌いなのにホイホイ擦り寄って来る。

 一罰百戒方式で行くか。

 

 「小汚いちんぴら共を連れて大人しく帰れ。帰ってお前の飼い主に売って貰えませんでしたと、尻尾を垂らして報告しろ」

 

 おぉーダガルド顔色が変わったね、小汚い奴等も武器に手を掛けたよ煽りに弱いねー。

 後一押しかな。

 

 「どうした、ベルーノ商会や貴族の名前を出せばエルクハイムの田舎者ならへいこらして応じると思ったか。詐欺師風情がのこのこ来たのがそもそも間違いだベルーノ商会には黙っておいてやるから小汚いのを連れて消えろ!」

 

 おっ抜いたね。

 

 「此処までベルーノ商会が侮られてはな、小僧でも許せん黙って差し出すか・・・」

 

 俺に殺気を向けられた小汚い奴等が震えているよ、ダガルドもだ。

 

 「だから帰れと言ったんだ、面倒事は嫌いなのにノコノコやって来やがって。ベルーノ商会やその侯爵の阿保は陛下から何も聞いていないのか」

 

 小汚い奴等が武器を抜けない、逃げない様に配分しながら殺気を飛ばすって大変。

 

 「ダガルド面白い事を口走っていたな。色々と聞かなきゃならない事が有りそうだ。」

 

 「ウーニャこ奴等とその詐欺師を縛り上げろ」

 

 あーぁウーニャ達迄青い顔しているよ、やり過ぎたかな。

 

 縛り上げた連中を屋敷の裏に連れだし間隔を空けて立たせる。

 先ずダガルドからだ。

 

 「帰れと言われて大人しく帰れば見逃したがベルーノ商会と侯爵様の御威光とやらをじっくり喋って貰おうか。大人しく聞かれた事に素直に答えるか、答えるなら頷け」

 

 睨み付けてきやがる残念ながら俺は王家も伯爵家も気にしない、ましてや見も知らぬ侯爵様なんぞ知った事じゃねぇ。

 全員を胸まで埋めて身動き出来ない様にする。

 小汚い奴等の一人から取り上げたロングソードを抜き、ウーニャに火魔法の練習だと炙らせる

 

 ロングソードが良い色に焼けたので刀の持ち主に聞かれた事には素直になんでも喋るかと聞く。

 態度から拒否と見做し耳を切り落とす。隣に移動して同じ質問で彼も拒否らしいので続行。

 三人目も四人目も拒否、地面に耳が落ちていく。

 

 五人目は素直そうな良い子なので別室にご案内、この手の仕事でどれ位の相手を痛め付けてきたのか問う。

 手口は殺したり傷付けた相手の数は、答を渋るので裏庭に連行して耳を落とす。

 ウーニャに刀を再度炙って貰い反対側の耳も落とす、次は目だが喋るか?と問えば素直に頷くので別室に移動して尋問の続きだ。

 ベラベラ喋るのをノイエマンに書き取らせる。

 裏庭に戻して次だ、六人目も根性が在るのか拒否なので耳を落としダガルドの前に立つ。

 

 「知らないベルーノ商会なんて嘘だったんだ箔をつけ付ければ」

 

 「こいつは素直に喋ってくれたよ、他の奴等も直ぐに喋る様になるさ」

 

 ダガルドの耳も一つ落として最初の小汚い奴の前に、睨んで唾を吐きかけきたので残りの耳と片目を潰す。

 次の奴は何でも喋りますと素直になったので別室へ、いやー素直な人は大好きです。

 時々ベルーノ商会に盾突く者を脅したり闇討ちしたりと活躍してます、胸糞が悪い。

 侯爵様ってだれかと聞いたが会った事は無いが、ダガルドが酒を呑むとシャイマール様って良く自慢していたと喋った。

 ダガルドはベルーノ商会の裏事専門で片腕とも目されているんだとさ。

 

 ダガルドも三度めに俺が目の前に立つと喋る気になってくれたよ。

 シャイマールって誰だと聞いたら口ごもっていたが裏庭で続ききを始めるかと呟いたら素直に喋った。

 シャイマール侯爵が即売会の話を聞きレッド種が欲しくてエスコンティ伯爵に頼んだが断られた。

 それでベルーノを呼び付け直接俺の所にノコノコとやって来たのだと、馬鹿ス。

 護衛達も一人を省いて素直になったので傷の手当をして転がして在る。

 

 結果解ったのはこの五年で10数件の裏仕事を片付けている、護衛の奴等がそれぞれ雇われた時期がずれているのではっきりしないものもある。

 シャイマール侯爵も何件かは関わりが有るのでいざとなれば、保護して貰える約束になっているのだと。

 

 ノイエマンにサイナムとキューロを付けて伯爵に説明するよう送り出した。

 面倒事は伯爵様に限るってね。

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