第32話 取り扱い注意

 何とか平穏に終わりそうで何よりだ。

 翌日からは四人と共に王都見物だ、四人は揃いの鎧と服で護衛に見えるので都合が良い。

 伯爵家や王宮からの差し回しの護衛を拒否出来るのは先見の明だね。

 それでも遠巻きに護衛の騎士達が居るけど干渉しなければ問題無い。

 

 6日目には飽きて王都の外で魔法の訓練だが、訓練を始めると近くの森から他の妖精族達がわらわらと集まって来る。

 まるで椋鳥が群れている様で笑って仕舞う。

 先ず100メートルの距離から円弧状に高さ30メートル幅70メートル程の障壁を造る。

 ウーニャ、サイナム、ヘムの三人は障壁から30メートルの所からそれぞれの魔法を放つ。

 

 ウーニャは水魔法と土魔法をほぼ会得し結界魔法を練習中だ、何せ教える妖精族達は生まれながらに結界魔法を使えるから教え方が判らない。

 で俺の出番だが俺は父親に石を投げられて防ぐ練習だったからね。

 ウーニャには小石を上空に投げて防ぐとか虫が飛んで来たら止める事から始めさせた。 

 

 ヘムは雷撃魔法を完全マスターし結界の強化と自分以外に結界を張る練習中だ。

 サイナムはひたすら火魔法のファイアーボールを壁に向かって打ち込む。

 最近は皆イメージが明確になったので少ない魔力で魔法が使える様になり連射も楽々だと喜んでいる。

 この方法は他には漏らさない様に再度確認し頼んでおいた。

 

 一方キルザは魔力を纏い身体強化の練習に余念が無い。

 魔法が使え無いのは残念だが身体強化だけで身体の切れや身体能力の大幅アップを喜んでいる。

 

 問題なのは妖精族達で、俺の造った障壁を射的場の壁代わりに魔法を使っての遊びに夢中だ。

 空間収納から取り出した石を上空から落とすと、下で待ち構える一団が一人づつ魔法を打ち出す。

 風魔法でそれを弾き飛ばして妨害し、ファイアーボールを水魔法で消して邪魔をする等やりたい放題である。

 それも俺のファイアーボールの速度をイメージしているので、速度が上がり普通に的を数個から時には数十個投擲したり落としたりでは百発百中だ

 時には数個から数十個の的が乱舞し実に楽しそうなので黙って見ている。

 

 そんなある日初めての妖精族の訪問を受け、族長サランドの挨拶の後手土産に呉れたのはあの妖精の実だ。

 だが濃いチョコレート色で非常に固い、聞けば固くなる前は妖精族も好んで飲むが固くなると香は良いが飲めなくなる。

 だが魔獣達が好んでこの実を齧り中の汁を嘗めているので多分アールに喜んで貰えると思うと差し出された。

 叩くと硬質な音がする、中身は大分減っているが蒸発したのだろうと思われる。

 腐らずに中の果汁が残っているなら発酵している可能性が高い、旨い酒の予感がする。

 早速上部を切断すると芳醇な香が漂う、思わず笑みが零れるとは此の事だね♪

 もっと沢山有るから持って来るよと取りに行こうとするので、魔獣達の分は残しておいてとお願いする。

 聞けば魔獣達は枝の低い所や落ちた果実を齧っているので心配ない、と言われたのでお願いした。


 集まった果実は70~80個位は有ったかな。

 お礼に魔力玉を渡し必要な一族が居れば分け隔てなく魔力を与えてとお願いし無くなれば何時でも取りに来て良いと伝えて別れた。

 

 フィーィとフィーェが来て同じ実で有れば沢山有ると教えてくれたので機会が有れば持ってきてと頼んでおく。

 

 之は非常に良い物だがそれだけに危険な臭いがするとほくそ笑む俺、取り扱い注意のラベルを貼っておかなければな。

 

 「アルが悪い笑顔をしているとサイナムに突っ込まれた」

 

 ◇  ◇  ◇

 

 王都からの帰りの道中はひたすら、じゆうりよくの解放と空に落ちない工夫に明け暮れる。

 

 最初は布を丸めた物を使用して浮かべる、落ちる力を断ち切る。

 断ち切れば空に落ちる、難儀なり(笑)

 妖精族は自力で浮き上がっているな、でもじゆうりよくを解除または制御している。

 

 長老達は何と言っていた妖精族は魔力を纏い後に羽根がでる、とだ魔力を纏うのは身体強化の基本だぞ。

 キルザに聞いてみると魔力を纏って身体強化した場合、最大で1.5倍の身体能力アップになる感じらしい。

 但し最大では5分も持たないと歎いていた。

 俺が森を歩くときは身体能力アップは2倍位だ、それ以上上げると身体が軽すぎて着地に時間が掛かり森の中では危険だからキルザや皆にも注意しておかなきゃ。

 

 キャンプの食事のときに皆に魔力を纏っての身体強化は、1.2~1.5倍位の感覚が最良でそれ以上強化すると極めて危険だと忠告する。

 理由は身体強化を2~3倍にすると確かに強くなるが反対に隙が多くなり対人戦や獣相手では死を招く事になる。

 

 解り易いのが踏み込みは蹴り出した後着地する迄は空を飛んでいる事になる。

 1.2~1.5倍なら直ぐ着地出来るが2~3倍だとその間何も出来ない事になるんだ。

 実験して見せる身体強化を3倍位にして踏み込み皆には横から見て貰った。

 正面から見れば鋭い踏み込みだが他の角度から見れば隙の塊だ、皆唸っている。

 熟練冒険者が身体強化を上げるとき足は地面から余り離さない歩法を使っているのだろう。

 

 じゆうりよくを断ち切り空に落ちない方は解った、後は簡単だ皆に協力して貰って試してみよう。

 お茶を楽しんだ後ロープを取り出し馬車の車輪に一端を結ぶ、もう一方は腰に回して抜けない様にしてと説明する。

 これから身体強化をする強化し過ぎると、どんなに危険か良く見ていてくれ。

 

 まず3倍でジャンプウーニャの胸の辺りまで上がったが落ちて来るのが遅いその間隙だらけだ、次は5倍だ軽くウーニャの頭を越えるが落ちて来る間に初心者でも楽々攻撃が出来る。

 8倍ではウーニャとキルザにロープを持って貰い軽く地面を蹴る、ふんわりと浮き上がって行く俺を見て呆気に取られている。

 ロープが伸びきった所で身体強化を少し上げると空に浮いたままになり二人にロープを引いて貰って降りた。

 

 何故どうしてと質問責めだが皆の魔力量では無理、ウーニャが今の10倍位の魔力量が有れば少しは出来る可能性が有るかもだね。

 飛べたとしても魔力切れで墜落の危険が在るから止めときなと諭す。

 身体能力の優れた猫人のウーニャでも、身長の5倍10倍の高さから落ちたら大怪我間違いなしだ。

 

 じゆうりよくの話と物が落ちる力を簡単に説明したが解って無いな。

 物は下に落ちるのが絶対の常識だ、これを断ち切れば無限に垂直に飛び上がり空に落ちるのだ。

 

 少し大きな町を抜けるとき長いロープを買ってその夜実験だ。

 ロープを両足に括り付け反対側は車輪に止め魔力を纏って身体強化をする、魔力量をじわじわと上げると身体がふわりと浮き上がって行く。

 普通の身体強化に纏う魔力量の9倍だ8倍だと昨日の様に軽く地面を蹴る必用が有ったが9倍だと勝手に浮き上がる。

 第一段階クリア、ロープは伸びきり俺は夜店の風船状態で安定しない。

 直ぐ隣でフィーィとフィーェが興味津々で見つめている。

 

 《アール飛べる様になったんだ》

 

 《いや、飛べるというより浮いているだけかな、でももう少し練習すれば飛べると思う》

 

 纏う魔力の量を調節して上下に動く、動くというより浮くと沈むって感じかな。

 両手を広げ掌だけ纏う魔力量を少し上げる、両掌を上に向けると沈んで行き下に向けると浮き上がる。

 掌の向きを様々に変えクルクル回る前転後転と思いのままに操れる。

 やっぱり羽根は身体のバランスを取っているんだ、手でやると飛行中は何も出来ないし腕も疲れる。

 

 妖精族の子供達がワラワラやって来て浮いている俺をつつく、足のロープを引っ張るとか玩具にし始めたので中止。

 

 基本が解ったので今日はおしまいにする、下で皆が呆れているから。

 

 《フィーェ飛んでいるとき結界を張ってる》

 

 《張ってるよ、だって虫とぶつかったら痛いし汚れるから》

 

 そりゃそうか、俺だって身体強化しているとき防御結界張っているもんな。

 後は飛行中腕を疲れさせず自由にして飛ぶには羽根が必用ってか必須だね。

 エルフの長老曰く魔力を纏い羽根が生えるて言ってたから、羽根は纏った魔力を羽根の形にしているだけだろう。

 

 エルクハイムの街が見えて来た、皆久し振りの街を懐かしそうに見ている三ヶ月近くだからね。

 家の前に着くと階段の前を塞ぐ柵と貼紙、通用門にお回り下さいって内装完成していたんだすっかり忘れていたよ。

 

 久し振りの我が家だが違和感ばりばりで慣れない、妖精族の子供達は天井付近に付けられた下向きのスイングドアを使って縦横無尽に飛び回っている。

 新しい使用人達が驚いているが直ぐに慣れるだろうし、そこはノイエマンとヤーナに任せて置けば安心だ。

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