第31話 和解

 血相を変えて立ち上がる二人に殺意を向けた。

 魔獣や野獣と対するときには使う事も在ったが人に対しては初めてだった。

 

 「陛下が話を聞きたいとの事で参上したのですが、此処は査問の場ですか」

 

 二人に殺意を向けたまま陛下に問い掛ける。

 伯爵様必死に立ちあがり何か言おうとしているが、顔色が蒼白っての初めて見たよ。

 あー陛下も宰相閣下も極めて顔色が悪いね、大丈夫かな。

 

 「まっ待ってくれアルバート君」

 

 部屋の外が騒々しい、ってか踏み込んで来ないのか。

 

 「エスコンティ伯爵様、妖精族がエルクハイム救援に来た時に私が持たせた手紙の内容を陛下以下彼等にも話ましたか」


 扉の外には多数の人の気配、しかも明確な殺意を持って続々と集まっている様だ。

 

 「そもそも私が魔獣や野獣が集まりエルクハイムに向かっていると知ったのは、暗闇の森と呼ばれる裂け目を越えた向こう側です。森の里と呼ばれる集落にいた時に、妖精族の一団が気配に気づき知らせてくれたのが最初です。距離は歩いて12日の遠さです。伯爵様ご存知のフィーィ達の一族が私と共に居て、エルクハイム救援を申し出てくれました。私はフィーィ達一族だけでは無理だと思いましたが、知らせてくれた別の一族も協力を申し出てくれ他の部族にもエルクハイム救援要請を発しました。それが陛下が知りたいエルクハイムに多数の妖精族が集まった真相です」

 

 「一つだけ聞いても良いか。何故妖精族がアルバートお前にエルクハイム救援を申し出たのだ」

 

 陛下が喉に痰が絡んだ様な声で聞いてきた。

 

 「簡単ですよ。私とフィーィは妖精族の名に掛けて、と友誼を誓った仲です。討伐が終わっても何一つ要求しなかったのは、俺と妖精族の友誼の為に力を貸しただけで報奨の為じゃない」

 

 「私と敵対しますか妖精族を之からも迫害しますか。返事は三日待ちましょう。それと以後妖精族に対し、攻撃や捕獲等冗談でも彼等に危険を及ぼす行為には死をもって報復しますから。例え子供が投げる小石に対してもです。小石と謂えども妖精族にとっては当たれば死を意味しますからね。死にたく無ければ妖精族に手を出すなって告知して下さい」

 

 そう言ってから二人に対する殺気を消した。

 

 「宰相閣下帰りますのでご案内願えますか。通路に控える者達を殺したくはないでしょう」

 

 蒼白な顔で震える宰相の露払いで王宮からホテルに戻る。

 

 ◇  ◇  ◇

 

 アルバートが出て行ってからの部屋では

 

 「お前達の間抜けな言葉に冷や汗が出たぞ、伯爵の言葉を何一つ聞いていなかったようだな。話を聞きたいと懇願するから同席を許したが間違いだった、お前達二人には謹慎を命ずる。下がれ!」

 

 「魔獣のレッド種を一撃で倒す相手を並の相手と高をくくり殺意を向けられただけで震え揚がって一言も言えずか。笑ってしまうが陛下はどうされるつもりですか」

 

 「敵対出来ると思うか」

 

 「だが彼は王国を陛下を信頼して居ませんよ」

 

 「何故だ」

 

 「一つは彼との約束を破り笑い話で済ませた事、先程の軍務卿と魔法総監の同席です。私が昨日彼と話し合った内容を伝えて尚あの有様です。彼の意思は伝えましたが、陛下貴方は彼を軽んじて対応を間違えたのです」

 

 宰相が室内に戻ると青ざめた顔のまま沈思する国王とそれを冷ややかな目で見る伯爵の姿が在った。

 

 「陛下直ちにアルバートに謝罪すべきです」

 

 宰相の言葉に力無く頷く国王、渋い顔の伯爵。

 

 「謝罪は宜しいが何を謝罪されるおつもりです。先程の二人の態度ですか謁見の時の素顔を晒さない約束を反故にした事ですか、今回アルバートを呼び寄せた事に対してですか」

 

 「先ず今回エルクハイム救援でアルバートの知る詳細を聞きたかったが妖精族に対してエルクハイム救援の謝意も示さず敵対と侮りとも取れる数々の言動に対してだ」

 

 「なら取る手立ては一つだけです。先ず妖精族との和解です。妖精族に対し現在迄の迫害を謝罪し、今後王国として妖精族に対し如何なる攻撃も許さず断罪すると約束する事です。今一つは現在流布される妖精族に対する言われ無き中傷を訂正する事です。お約束出来ますか」

 

 頷く国王と宰相

 

 「ではお客人をお招きしたいのですが宜しいですか」

 

 良く理解出来ないが今は伯爵だけが頼りなので頷く二人

 

 《フィーィ聞こえるかな》

 

 《なぁに伯爵さん》

 

 《会えないかな、国王陛下が会って今まで君達妖精族に対し、人族が妖精族を攻撃した事を謝罪し今後人族が妖精族を攻撃しない様に約束したいと》

 

 《判った、近くだから直ぐ行くよ》

 

 《近く?》

 

 《うん、アールがこの街にいる時は此の木に居るの。窓を開けて》

 

 不信気な陛下に許しを乞い窓を開ける。

 驚愕の陛下と宰相を尻目に伯爵に挨拶するフィーィ達。

 二人に妖精族との意思疎通の為の魔力を合わせる方法を教え許可を貰う。

 伯爵がフィーィ達に頷くとフィーェが前に出て二人の額に掌を当てる。

 

 《初めましてフィーィだよ》

 《フィーェだよ》

 

 「ああ、シャイニー・エクスノール・エルゴアだ宜しく頼む」

 

 「陛下口で話さず頭の中の考えを伝えて下さい」

 

 《シャイニー・エクスノール・エルゴアだ宜しく妖精族のフィーェ、フィーィ殿》

 《宰相のオーセンです》

 

 陛下が深々と頭を下げ宰相と伯爵が続いて頭を下げた。

 陛下と宰相はフィーィ達に人族が妖精族に対し行ってきた行為の数々を謝罪し、以後エルゴア王国では妖精族に如何なる攻撃や干渉を許さず反すれば厳罰に処すこと。

 

 妖精族に対する歪曲誹謗中傷を是正する。

 現在迄妖精族は人族を嫌い攻撃的な性格だと伝えられているが、侮蔑や暴行嘲笑捕獲等に対する反撃をしただけで殺してはいない。

 攻撃的で執拗に攻撃して来ると伝えられているが攻撃を受けている者は、過去に妖精族を攻撃捕獲等を試みた者で妖精族に近づかない様に排除しているだけだと。

 

 之以後エルゴア王国内で妖精族に対する攻撃や捕獲等の不正行為が有れば強力な反撃で報いて欲しい。

 それが死に繋がろうと妖精族を咎める事は一切しないと約束する。

 

 上記をもってエルゴア王国国王としてフィーィ達妖精族と和解した

 

 ◇  ◇  ◇


 「大丈夫だったの」

 

 ウーニャが聞いてきたが多分大丈夫だろうと答えておく。

 

 朝食後のお茶をウーニャ達と楽しんでいるとホテルの支配人から宰相の訪問を告げられた。

 

 「オーセン宰相閣下がアルバート様に御面会を望まれております。如何が為されますか」

 

 ウーニャ達四人とも見事にお茶を吹いたよ。

 

 空き部屋が有るか確認すると応接室が有るのでそこをご利用下さいと言われ、そこで会うと告げる。

 支配人の案内で部屋に入ると宰相閣下の最敬礼で迎えられた、テーブルの上にフィーィとフィーェが並んで立っているのを見て結果を悟った。

 支配人が硬直しているよ。

 

 「宰相閣下頭を上げて下さい。それでは話が出来ません」

 

 椅子を勧め向かい会って座ると開口一番

 

 「我々エルゴア王国は妖精族と全面的に和解する事に合意した。就いては以前アルバート殿がエスコンティ伯爵に宛てた手紙の内容に添って勅令を発する事になる。妖精族とエルゴア王国との協定文書の代理署名と立ち会いを願いたい」

 

 やはりそうなるか、伯爵様頑張ったね。

 

 「尚、謁見の際にアルバート殿の顔を公開しない取り決めを反故にした事に対し、正式にエルゴア国王から謝罪したいので受けて欲しい」

 

 「妖精族とエルゴア王国との和解に対する協定文書の調印及び代理署名は喜んで立ち会います。名前を公開した時点でいずれは顔を知られる事は覚悟していたので、謝罪は必用在りません」

 

 「就いては勅令を発するに全貴族と成人しているその家族を王宮に集め玉座の間にて布告となるので暫し猶予が欲しい。それに先だって王都では明日触れを出すことにするが、貴族達を召集するのに時間が掛かるので40日後に調印式を行いたい」

 

 まっ逸れは仕方がないので同意し、逸れまでこのシリエラホテルで待つと伝えて会談は終わった。

 帰り際に宰相閣下は国家行事の主賓の一人と為ったので、このホテルの滞在費はエルゴア王国が全て持つので寛いで呉れとウインクしながら言われた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る