第30話 力の誇示

 御者台の左側は本来見張りなのだがサイナムは生活魔法の練習に余念が無い。

 サイナムの生活魔法は灯は割合早く覚えたらしいが水で苦戦中、昨日食事中に水のイメージを聞けばコップの水をイメージして強く念じているらしく顔を真っ赤にしている。

 出来なかったものをいきなりコップ一杯の水は大量の魔力を使って辛いだけだろと聞くと脱力感が凄いとうなだれる。

 使えない魔法の練習より小さい物をイメージするんだと教える。

 

 先ず力むと無理矢理魔力を使うから疲れる、魔力切れを起こすと碌な事が無いので力まない。

 魔法はイメージに魔力を乗せるだけだと諭す。

 サイナムに掌を合わせて水を掬う格好にさせ水滴を一滴一滴受けるイメージをさせる。

 出来ないなら目を閉じて掌に雨粒を一つ一つ受ける事を想像してご覧って、目を閉じたサイナムの掌に水が一滴落ちてきた。

 ウォーってサイナムの雄叫び、お前は虎人か狼人かと突っ込みが周囲から入る。

 サイナム掌を見て涙を浮かべているが水滴より涙の方が多いぞと又からかわれていた。

 今御者台でサイナムはコップに細い細い水を受けている、力みも無い様だ。

 

 キャンプ地で食後はウーニャ・サイナム・ヘム達は魔法の練習に余念が無い。

 キルザは魔力を練る練習と魔力を体内に巡らせる練習を黙々としている。

 ウーニャは妖精族に教わった球体をいきなり作るのでは無く、水滴に水を注ぎ込むイメージに変えて割合スムーズに水球を作れる様になりホクホクしている。

 だが投擲はヘロヘロの水球が飛んでいる。

 

 俺も水球作りを頑張っている、小さな水球を作るのがこんなに気を使うものとはな。

 テニスボールをイメージしては投擲を繰り返す。

 速度は海面上を音速で飛ぶジェット戦闘機だ、音速を超える時に機体の周囲に水蒸気を発生させ突き抜けて行くイメージだ。

 的に造った壁に当たってドンドンいっている。

 隣では妖精族の面々が同じ様に魔法を打ち込む。

 最初は俺の方が早かったのだがイメージの方法を教えたら、俺の隣で同時に魔法を撃ってイメージを固めた結果同等の速度で魔法をバンバン撃っている。

 俺は慎重にテニスボール大に念じて造っているのに、なんてこったい。

 

 街の通過は面倒だがそこは陛下から貰ったブラックカードを使わせて貰う。

 時に小僧がブラックカードを出すものだから衛兵に疑われるが、責任者が呼ばれた時点で解決する。

 

 まぁ見た目何の変哲も無い馬車だし護衛は冒険者二人に見えるからね。

 一応ウーニャ達には揃いで冒険者風の衣服と革鎧にブーツね。

 一見裕福なお家のボンボンと護衛の一行に見えるらしい。

 

 王都アラマダに着いたのはエルクハイムを出て18日目、三週間掛かったが以外に早く着いた感想だ。

 王都の貴族専用の通路に進む様にキルザに伝える。

 通路の途中で衛兵が馬車の前に立ちキルザを怒鳴り付けるが降りていってカードを見せると即座に道を開け敬礼で見送ってくれる。

 入口で確認中の責任者を名乗る騎士から声を掛けられた。

 

 「アルバート様ですか」

 

 「はい、アルバートです」

 

 「宰相閣下とエスコンティ伯爵様からの伝言です。宰相閣下からは、王都に到着したらなるべく早く王宮に来て欲しいそうです。エスコンティ伯爵様からは到着次第連絡を頼む、との事です」

 

 馬車を預けて泊まれるホテルの場所を聞き礼を言って王宮に入る。

 皆初めて王都に来たので興奮気味、ホテルは中々のものでお高いんでしょう。

 と突っ込みたくなったが自制する。

 フロントでブラックカードを出し護衛の四人と俺の部屋を借りる。

 

 序でに紙とペンを借り(宰相閣下に王都到着とシリエラホテルに投宿の旨を書き)手紙をフロントに渡し王宮の門衛にアルバートから宰相閣下へと告げ渡す様頼む。

 エスコンティ伯爵にはウーニャとヘムに道を覚える序でにと王都到着とシリエラホテルに投宿したと伝言を頼んだ。


 ◇  ◇  ◇

 

 宰相閣下からは明日早朝迎えの馬車をホテル迄差し回すので参上されたしと在った。

 早いねー返事が、じりじりして居るのが目に見える様ですよ閣下。

 エスコンティ伯爵は夕食前にホテルに来ましたよ。

 部屋を準備して待って居たのに、ドガール様も会えるのを楽しみにしていたので残念がっていたと伝えられた。

 伯爵とは夕食を共にしながら話し合い。

 

 「伯爵様もお気づきでしょうが、初めてお会いした時から私一人でエスコンティ領の全兵力とぶつかっても負ける気はしません。王都の全兵力相手でもです」

 

 「そうだろうとは思っていたよ。特に城壁建設の見本を見せて貰った時にね。少々の大軍相手でも壁で囲って押し潰せば一人で十分だね。君が見本に建てた壁は無敵の強さを誇っている。城壁より少し強固にして有ると言った壁すら、小さな穴を開けるのにどれ程の時間と魔法の全力攻撃を必用としたか」

 

 「その俺が妖精族の力を手に入れたと王家や宰相閣下は考えるでしょう。エルクハイム救援にどれ程の妖精族が来ましたか」

 

 「百以上の群れだったよ。そう群れ単位で行動し攻撃と休憩に交代と見事な連携だった」

 

 「妖精族の一族は、いや集落は普通300人~400人で行動します。フィーィの一族は300人少々です。一群300人として100群で30.000人の空中機動軍団が出来上がります。魔法の威力も十分以上有りますしね」

 

 「ああ、君の手紙で妖精族に対して如何なる攻撃や捕獲を禁じ小石一つ投げるなと書いた意味が良くわかったよ」

 

 「彼等は人族からの迫害に殺さない程度の反撃で許して来ましたが、それが何時までも続く保障は無いのです。私は彼等と友誼を結びましたがエルゴア王家や貴族連中にそれが出来ますか」

 

 「王家は説得出来るかも知れない。貴族は判らない妖精族の本来の力を知れば利用しようとする輩は必ず出て来ると思う。他国もな」

 

 「陛下に伝えて下さい妖精族に手を出すなと、明日陛下との話し合いが決裂すれば私はこの国を出るつもりです。その際はエルクハイムに有る私の資産と権利は全て放棄しますので宜しくお願いします」

 

 伯爵様の返答を聞かず席を立ち踵をかえした。

 多分伯爵様はこのまま王宮に向かうだろうが、説得出来れば良し駄目なら切り抜ける覚悟が必用になるな。

 死ぬ気は無い防御結界と土魔法が有れば逃げる事など訳は無いが一服盛られたらアウトだ。

 油断は禁物だね。

 

 翌朝ウーニャ達に、俺が連絡も無く3日経っても帰って来なければ護衛の任務は解除すると伝え一人金貨10枚をわたして措く。

 その際はエルクハイムでの仕事は伯爵様が引き継ぐと伝えて迎えの馬車に乗った。

 

 ◇  ◇  ◇

 

 「アルバート様がお越しです」

 

 従者の声に入室の許可が出る。

 

 部屋には陛下と宰相閣下にエスコンティ伯爵、他に近衛騎士か王都防衛責任者と魔法使いの様に見える。

 

 「お招きにより参上しました」

 

 「単刀直入に言おう。妖精族をどうするつもりだ」

 

 陛下直球で来ましたね。

 

 「何も、何もしませんよ。私は妖精族と友誼を交わし共に歩むだけです。妖精族に手出したのは手を出し続けたのは人族です。人族が妖精族を攻撃し迫害を続け、捏造の悪辣狂暴な妖精族像を喧伝してきただけでしょ」

 

 「お前は一国の軍事力にも匹敵する力を手にしているのだぞ、奴等をどう使う気だ」

 

 笑っちゃうね。

 如何にも軍人の思考そのもので、話しも聞いちゃいない。

 

 「一国の軍事力ですか、それ位の力なら俺一人で持ってますよ。話しを聞いてましたか、妖精族に対して何もしないと言ったのを」

 

 「済まぬ、座ってくれアルバート君。エルクハイムでの魔獣野獣に対する妖精族の報告を受け衝撃を受けて居るのが実情だ」

 

 「人族と妖精族との確執は知っていますが私は介入する気は有りませんよ宰相閣下」

 

 「報告を受ける限り妖精族共は強力な魔法攻撃を連続で放ち魔獣達を蹂躙していたと有る。これは由々しき事態だと思わないのか」

 

 「何故です」

 

 「我々にとって極めて危険な存在が直ぐ傍に居るんだぞ」

 

 「陛下、彼等は何者です。話の出来る相手ですか」

 

 「侮辱する気か小僧!」

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