第28話 ベルーノ商会

 本格的な飛行訓練を始め、基本の浮く前進後進左旋回右旋回上昇下降と速度は遅いが飛べる様になったので、フィーィやフィーェ達に護衛されて森の中を飛ぶ訓練だ。障害物の多い森の中はまるで迷路で、障害物を避けている間に自分の進行方向が判らなくなる。

 

 移動は森の上を飛ぶことにした、森の中を飛ぶ時には妖精達の案内で飛ぶのが無難だ。

 飛行速度は精々30~40km位だろうが、練習次第で伸びる余地はあると思う。

 

 飛行練習と森で妖精達の好む魔力を多く溜め込む樹木の採集に励む日々で楽しい、屋敷の庭は森の縮小版にするつもりなので草花や薬草類も収集してはせっせと移植している。

 屋敷の左右を挟む公園は花木を集めたので、季節毎に様々な花が咲き住民を楽しませるだろう。

 

 花の見事な季節に伯爵様に相談して屋台祭りの様な催し物で旧市街から新市街への興味を煽り、移転を促し旧市街の再開発に拍車を掛けたいので、一度要相談だな。

 

 飛行訓練から帰るとホールに客人が居て、しかも護衛付きだ。

 ノイエマンが渋い顔で応対していた。


 「ただ今、お客人かな」

 

 ノイエマン曰く、王都のベルーノ商会からお越しで、ダガルドと名乗り魔獣のパープル種とレッド種を買い付けに来たそうだ。

 護衛の六人は少し薄汚れていて目付きが悪く、一癖も二癖もありそうな物腰だ。

 ダガルドが俺をジロジロと無遠慮な目で見て値踏みをしている。

 

 「王都のベルーノ商会から参上しましたダガルドです。王宮で魔獣のパープル種とレッド種の即売の時に、主人のベルーノが買い損ねましてねぇ。わざわざエルクハイム迄買い付けに来た次第ですよ」

 

 「お引き取りを、個人的な取引はしておりません。王都の冒険者ギルドにてオークションに出す物を数点預けて有りますので、そちらでお求め願います」

 

 「そうは言っても、マジックバッグからホイホイ取り出していたそうじゃないか。どうせ頼まれて処分しているのだろう、少し位回してくれても良いだろう。王都の貴族様よりベルーノ商会に直々に依頼が有りましてね、商会と繋がりを持てば悪い様にはならないですよ」

 

 「ベルーノ商会ですか、王都なんかに興味が無いのでどうでも良いな。お帰りを」

 

 「良いのか、ベルーノ商会を敵に回すと候爵家が控えているんだぞ。エスコンティ伯爵家では相手にならないし、エルゴア国内での生活に不都合が出るぞ。こんなに良い家に住んでいるのに、長くはないな」

 

 「逸れは脅しか? ダガルド」

 

 護衛の連中が目付きを鋭くし身構える。

 面倒事は嫌いなのに、ゴキブリ共がホイホイ擦り寄って来る。

 一罰百戒方式で行くか。

 

 「小汚いちんぴら共を連れて、大人しく帰れ! 帰ってお前の飼い主に売って貰えませんでしたと、尻尾を垂らして報告しろ」

 

 おぉー、ダガルドの顔色が変わったぞ。

 小汚い奴等も武器に手を掛けているのは、煽りに弱いチンピラ丸出しなので、後一押しかな。


 「どうした、ベルーノ商会や貴族の名前を出せば、エルクハイムの田舎者ならへいこら応じると思ったのか。詐欺師風情が、のこのこやって来たのがそもそも間違いだ。ベルーノ商会には黙っておいてやるから、小汚いのを連れて消えろ!」

 

 おっ、抜いたね。

 

 「此処までベルーノ商会を侮られては、小僧でも許せん! 黙って差し出すか・・・」

 

 俺に殺気を向けられた小汚い奴等が震えているし、ダガルドも顔面蒼白になっている。


 「だから帰れと言ったんだ。面倒事は嫌いなのに、王都くんだりからノコノコやって来やがって。ベルーノ商会とその候爵の阿保は、陛下から何も聞いていないのか」

 

 小汚い奴等が武器を抜けない、逃げだせない様に配分しながら殺意を叩き付けるのって大変。

 

 「ダガルド、面白い事を口走っていたな。色々と聞かなきゃならない事が有りそうだ。」

 

 「ウーニャ、こ奴等とその詐欺師を縛り上げろ」

 

 あ~ぁ、ウーニャ達迄青い顔しているのでやり過ぎたかな。


 縛り上げた連中を屋敷の裏に連れだして、間隔を空けて立たせるとダガルドから尋問開始。

 

 「帰れと言われて大人しく帰れば見逃したが、ベルーノ商会と候爵様の御威光とやらを、じーっくり教えてもらおうか。聞かれた事に素直に答えるか? 答えるのなら頷け」

 

 睨み付けてきやがるが、残念ながら俺は王家も伯爵家も気にしない質だし、見も知らぬ候爵なんぞ知った事じゃねぇ。

 小汚い奴等の一人からロングソードを抜き取り、ウーニャに火魔法の練習だと言って炙らせる。

 

 その間に全員を膝上まで埋めて、倒れない様にしておく。

 ロングソードが良い色に焼けたので、刀の持ち主に聞かれた事には素直に喋るかと聞く。

 態度から拒否と見做して耳を切り落し、隣に移動して同じ質問だが彼も拒否らしいので耳を切り落とす。

 三人目も四人目も拒否するので地面に耳が落ちていく。五人目は素直そうな良い子なので奴等から離れた場所にご案内。

 この手の仕事で、どれ位の相手を痛め付けてきたのかを尋ねる。

 手口は? 殺したり傷付けた相手の数は? 答を渋るので裏庭に連れ戻して耳を斬り落とす。

 焼けた剣で切り落とすので血止めとなり、余り血が流れないが火膨れが痛そう。


 ウーニャに再度刀を炙ってもらい、反対側の耳も切り落とし次は目だが喋るか? と問えば素直に頷くので、離れた場所に移動して尋問の続きだ。

 ペラペラ喋る内容を、ノイエマンに書き取らせる。

 裏庭に転がしておいて次だ、六人目も根性があるのか拒否なので耳を切り落とし、ダガルドの前に立つ。

 

 「知らない! ベルーノ商会なんて嘘だったんだ。箔をつけ付ければ・・・」

 

 「さっきの奴が素直に喋ってくれたよ。他の奴等も直ぐに喋る様になるさ」

 

 ダガルドの耳も落として最初の小汚い奴の前に立つと、唾を吐きかけ睨んできたので残りの耳と片目を潰す。

 次の奴は何でも喋りますと素直になったので離れた場所へ、いやー素直な人は大好きです。


 時々ベルーノ商会に盾突く者を、脅したり闇討ちしたりと活躍している様で胸糞が悪い。

 候爵様とは誰かと問えば、会った事は無いがダガルドが酒を呑むとシャイニー様って良く自慢していたと答えた。

 ダガルドはベルーノ商会の裏事専門で、片腕と目されているそうだ。

 

 ダガルドも三度めに俺が目の前に立つと、喋る気になった様だ。

 シャイニーって誰だと聞くと口ごもっていたが、続きを始めるかと呟いたら素直に喋った。

 シャイニー候爵が即売会の噂を聞き、レッド種が欲しくてエスコンティ伯爵に頼んだが断られた。

 それでベルーノを呼び付けて命じたそうで、直接俺の所にノコノコとやって来たのだとか・・・馬鹿ス。

 護衛達も一人を省いて素直になったので、傷の手当をして転がしておく。

 

 解った事は、この五年で10数件の裏仕事を片付けていて、護衛の奴等はそれぞれ雇われた時期がずれているので、はっきりしないものもある。

 シャイニー候爵も何件かは関わりが有るので、いざとなれば保護して貰える約束になっているのだとか。

 

 ノイエマンにサイナムとキューロを護衛につけ、エスコンティ伯爵様に説明するよう送り出した。

 面倒事は伯爵様に限るってね。

 

 

 ハイド男爵が、ガルムやバルドスと共に多数の衛兵を引き連れてやって来た。

 

 「アルバートに脅しを掛ける猛者が現れるとはなぁ。顔を見に来たぞ」

 

 「引き取って呉れないんですか、森まで連れて行って埋めるのは面倒なんですが」

 

 「埋めたら証人が居なくなるだろう」

 

 「良いんですよ。王都に行って、ベルーノさんとシャイニー候爵を静かに埋めてしまえばそれで終わり」

 

 「アルバートなら簡単に出来るところが怖いな。こ奴等は王都に送り、ベルーノとシャイニー候爵の裏事情を吐かせる必用があるので諦めろ。俺達に押し付けたのだから、後は任せろ」

 

 ガルムやバルドスが笑っているぞ、男爵様。


 * * * * * * * *


 伯爵様から夕食の御招待、ダガルドたちを押し付けた小言だろうが、仕方がないので出掛ける。

 伯爵邸に出向くとナリヤードの出迎えで食堂へ、席に着くと伯爵様の愚痴が出るので口封じをすることにした。

 

 「お代官様、ベルーノ商会とシャイニー候爵の事は良しなに」

 

 そう言って空間収納から徳利を二本差し出す。

 

 「以前の物と違い容器の色が違うでしょう、此は大人の逸品です。そのままでは粘りが有りますので、同量の冷たい水で薄めてお召し上がり下さい」

 

 傍らに控えるナリヤードに渡す。

 受け取った伯爵様が香りを確かめると、満面の笑みでハイド男爵に手渡す。

 ハイド男爵も香で察したのか、ニヤリと笑う。

 

 「ナリヤード、グラスと氷を頼む」

 

 「伯爵様、同量の水で薄めないと、濃厚で粘りがあるので呑みにくいですよ」

 

 「味見は?」

 

 「絶品です! 持ち主の特権でたっぷりと味見を致しましたが、好みにも依りますが同量の水で割るのが好きですね。贈り主の名から、サランドの酒と命名しました。未だ外には出していません」

 

 食事の間は俺が帰った後の王宮の様子や、茶番劇の顛末を教えてくれた。

 蟄居させらた公爵以下半数以上の貴族達が、人身売買に関わり自らも婦女子を監禁していたそうだ。彼等は爵位剥奪家財没収のうえ、成人している家族共々犯罪奴隷に落とされたとの事だが、自業自得だ。

 

 ノイエマンが書き取った内容だけでは、ベルーノ商会会長ベルーノを捕縛出来ないが、証人が七名も居れば大丈夫だろうとの事。

 ベルーノを捕縛すれば、シャイニー候爵との関係と依頼内容も明らかになるだろうが、又一騒動だとぼやきが出る。

 王都への護送は伯爵側の責任者数名と、他は冒険者ギルドに任せて犯罪者の護送に偽装するらしい。

 

 サランドの酒は暫く公表しないつもりだったが、懇願されて一本金貨10枚で10本だけ伯爵様に譲った。

 ハイド男爵には、伯爵様に内緒で一本渡しておく。

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