第27話 エルクハイム救援

 《我々妖精族の一族達が街の外、森の外周部に集まって待機している。魔獣達が森の出口に近付いたら攻撃を始める。人族は門を閉ざし迎え撃て、森には我々の仲間達が居るので森に向かって魔法は使うな》

 

 《判った。一つ頼みが在るのだが》

 

 《なにか》

 

 《そこに居る二人にも話せる様にして貰えないか、二人共アルバートの知り合いなんだが》

 

 「二人とも動くな、彼の掌を額に当てるだけだから」

 

 伯爵は扉を開けると傍らに控える衛兵に非常呼集の金を鳴らせ!と怒鳴る。

 

 「まさか妖精族と話す日が来るなんて」

 

 「私もですアルバート様には敵いませんね」

 

 「取り敢えず兵は城壁の上で待機、魔法は森に向かって撃つのは厳禁だ徹底させろ!」

 

 「冒険者ギルドに行く。後は任せたぞハイド、それと街道上に人が居ないか確認と街道を封鎖させろ」

 

 《フィーィ冒険者ギルドのマスターに森に向かって魔法は絶対に撃つなと厳命してね、我々の仲間が闘っているからと。それと魔力切れで魔力玉を使う時には人族には見られない様に気をつけろと全員に伝えておいて》

 

 《判ったフィーェ。そちらはどうだった》

 

 《大丈夫、迎え撃つ準備に取り掛かったよ。城壁の上から攻撃する様に指示した》


 《アールからの伝言だよ~。魔獣相手の攻撃は目と鼻を狙って撃つ様に口を開けたら口の中を攻撃、後は耳の攻撃も楽で簡単に倒せるって。一人で無理なら集団で取り囲んで一斉に目・鼻・口・耳の攻撃か多数で一つの場所を一斉に攻撃しろって》

 

 《皆聞いたな!》

 

 》》

 

 《どれ位集まったかな》

 

 《今の所到着順に番号を割り振っているけど36部族だね。まだまだ増えているよ》

 

 《魔獣の監視グループから明日の朝くらいには足の早い狼狐犬系統の野獣が森を出そうだと言ってるよ》

 

 「ギルドマスターは居るか、ギルドにも妖精族か来ていると思うが」

 

 「はい来ています、フィーィと名乗りました」

 

 《フィーィ聞こえるか私はこの街の領主だ》

 

 《聞こえているよ、何かな》

 

 《君達の姿をこの街の人達に見せて貰えないか、後々君達に危害を加えない様に命令する為にも必用なんだ。それと之から闘う者達にも君達が確実に居ると教えておく必用が在るんだ》

 

 《良いよ我々が居る事が判っていて攻撃はしないだろうから》

 《森に待機している1群から20群まで上昇し一族毎に城壁の上を低空飛行して魔法の試し撃ちも見せてやれ! 人族が我々に手出しをしたら手痛い反撃を受ける事を教えておく必用もあるしね》

 

 それからは壮観の一言だ。数百人規模の集団が横3~4列に並んで飛びながら、一斉に魔法を撃つ轟音と弾け飛ぶ地面。次々と飛来する妖精族の集団の連続する魔法攻撃音、冒険者も兵士も唖然として見ている。

 

 明日からの魔獣戦闘は楽しみだ。

 伯爵はアルバートに城壁の建設を依頼した事を望外の幸運だったと思った。

 アルバート繋がりで魔獣や野獣の襲来を知らせて貰え、尚強力な援軍として妖精族が居ることに。

 

 翌早朝森の中で討伐戦が始まった。

 魔獣達の進路の幅数百メートルを左奇数列右偶数列と間隔を開けて並んだ片側40組が待機、その間を抜ける魔獣野獣達を10~15メートルの高さから連続して魔法を撃ち込む。

 獣達が左右の待ち伏せ攻撃の薄い中央部分を抜けると即座に待機している次集団が待ち構えている。

 最初の五組を先頭に森の出口に向かって左右の列が徐々に幅を狭めながら伸びて行く。

 

 待ち構える左右の列が40段を超える頃、最初の集団が前方に移動し攻撃を仕掛ける。

 攻撃の主体は風刃・水刃・火球・氷槍・雷撃だ土魔法は大型獣の足止めの為に足下に穴を開け足が落ちたら即座に塞ぐ。

 足を土魔法で拘束されて動けない大型獣に攻撃が集中し討伐していく。

 左右に控える一団は到着順に番号を割り振られた各一族は平均300人~400人の集団である。 

 

 早朝から始まった迎撃戦闘は日が昇る頃には森を抜け草原が主戦場になっていた。

 草原に出た獣達の足が早まるが攻撃も熾烈を極める、城壁の前方に20組の妖精族の集団が横一列に控え左右から絞り込む様に殲滅戦が繰り広げられている。

 

 指揮はフィーィが約150メートル程の高さから見て指示を出している。

 常に左の列には奇数番号の一族を配し右に偶数番号の一族を若い番号から順に配置して行く、最後の番号が終ると又若い番号からと見事な采配だ。

 

 城壁の上で構える人族達はその凄まじい戦闘に武者震いしながら凝視している。

 まさかあの小さな妖精族があの高威力の魔法を連発し大小様々な獣を蹂躙し続けている。

 妖精族の包囲陣を抜けた獣は城壁の前で幅30メートルに及ぶ掘りに進路を塞がれて止まる。

 

 「撃て!」

 城壁の上からの一斉攻撃命令が下された。

 妖精族の包囲殲滅陣を抜け辿り着いた先にアルバートが築いた、掘りと城壁が立ち塞がり城壁の上からは人族と妖精族合同の苛烈な攻撃が獣達に止めを刺す。

 

 昼過ぎに戦闘は終わった。

 妖精族人族共に被害無し。

 歓声をあげる冒険者や衛兵達が落ち着きを取り戻し、見た物は累々たる魔獣野獣達の屍の列だった。

 

 屍の列は城壁から草原を抜け森の中へと続くいている。

 城壁よりも草原草原よりも森の入口へ、屍の数が増えていることに気づいた者達が黙り込む。

 城壁の上で戦闘を見ていたエスコンティ伯爵やギルドマスターは妖精族の凄まじい戦闘力とそれを動かしたアルバートの力に背筋が凍る。

 

 《終わったよ。伯爵さん》

 

 《ああ有り難う》

 

 《後はお片付けだね。大変そう》

 

 《なぁフィーェ》

 

 《なに、伯爵さん》

 

 《これ、どうしよう。利用するにも多過ぎて》

 

 《アールの様にしまっておけば良いでしょ》

 

 《アルバートは特別なんだよ。普通人族は空間収納を持たないしマジックバッグでも無理だな》

 

 《じゃー穴を掘って埋めちゃえ》

 

 《これ全部埋める穴、掘れるの》

 

 《んー谷に捨てよう》

 

 《取り敢えず欲しい物だけ見に行こうか》

 

 伯爵様は脱力しながらもハイド男爵とギルドマスターを呼び、マジックバッグを持つ者を集めて驢馬に跨がり攻撃が始まった地点まで移動する。

 

 伯爵達は再び顔を引き攣らせる事になる森の中は城壁前や草原より酷い有様で、大半の獣は森の中で討伐されている様だった。

 城壁迄たどり着いた大量の獣はスタンピードの極一部だったと気付いた。

 同行した者達も皆顔を引き攣らせ、又初めて見る大量のレッド種やパープル種を恐々見ていた。

 

 「皆呆けていても始まらない、大物からマジックバッグに入れろ。サブマスは荷車と解体要員を集めて連れて来い。小物は妖精族が穴を掘ってくれるから暇な冒険者や街の連中を雇って穴に投げ込ませろ」

 

 《フィーェ済まないが冒険者が手を挙げて地面を指差したら穴を掘って貰えないかな》

 

 《良いよー皆に連絡したから、伯爵さんは人族の人にも言っておいてね》

 

 レッド種パープル種に森の奥に住まう大物を中心にマジックバッグに仕舞い、入り切らない物は魔石を抜き取り解体して街の住民に無料で振る舞えと激を飛ばす。

 応援に集まった街の者や冒険者達が伯爵様の言葉を聞き歓声を挙げる。

 

 とにかく数が多い、大物だけ片付けるのに丸々二日掛かった。

 妖精族達は森で眠ると言って森の中へ、街の中では一生に1度見る事の無い高級食材の大盤振る舞いに沸き立っている。

 

 翌朝には近隣に飛ばした伝令を受け、魔石を抜き取られた魔獣や野獣を引き取りに馬車や荷車が続々と集まって来た。

 エルクハイムの街に到着し朝市の如く賑わっていた。

 

 魔石だけ抜き取り血まみれに為りながら穴に投げ込む冒険者達。

 空間収納に入れて森の裂け目まで運んで谷底に投棄を繰り返す妖精族達、終わったのが五日目の昼過ぎだった。

 

 人族も妖精族も疲れ果てていたが一切の被害が無かった事に人族は多大な感謝を示した。

 謝礼の金品は妖精族にとって無用の長物と言われて諦め、妖精族に対する言われ無き中傷を訂正する事を約束した。

 又エルクハイムの街中に妖精族に対する如何なる攻撃や捕獲中傷などを一切禁止し、小石一つ投げても厳罰に処すから子供にも重々諭しておけと触れを出した。

 

 そもそも妖精族が人族を攻撃したのは一方的な攻撃を受ける、捕獲しようとする、いきなり掴んで来る、むやみに石を投げる等の攻撃に対する反撃をしただけけなのだ。

 

 その際も人族を死に至らしめる攻撃は加えていない。

 但し1度でも妖精族を攻撃すれば魔力を覚えられ、再び妖精族に近づこうものなら即座に攻撃を受け撃退されていた。

 被害を受けたと訴える者は自分が妖精族を攻撃し、その反撃を受けた事を隠して誹謗中傷していたのだ。

 

 その事実が知れ渡り妖精族から被害を受けたと触れ回っていた者は恥をかく事になった。

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