第26話 危険物、取り扱い注意

 《フィーィ聞こえるかな》

 

 《なぁに伯爵さん》

 

 《会えないかな。国王陛下が君達と会って、今まで妖精族に対して人族が行ってきた事を謝罪し、今後人族が妖精達を攻撃しない様にすることを約束したいそうだ》

 

 《判った、近くだから直ぐ行くよ》

 

 《近く?》

 

 《うん、アールがこの街にいる時は此の木に居るの。窓を開けて》

 

 国王陛下に許しを乞い、窓を開ける。

 驚愕の陛下と宰相を尻目に、伯爵に挨拶するフィーィ達。

 二人に妖精族との意思疎通の為に、魔力を合わせる方法を教え許可を貰う。

 伯爵がフィーィ達に頷くと、フィーェが前に出て二人の額に掌を当てる。

 

 《初めましてフィーィだよ》

 《フィーェだよ》

 

 「ああ、シャイニー・エクスノール・エルゴアだ宜しく頼む」

 

 「陛下、口で話さず頭の中の考えを伝えて下さい」

 

 《シャイニー・エクスノール・エルゴアだ、宜しく妖精族のフィーィ、フィーェ殿》

 《宰相のオーセンです》

 

 陛下が深々と頭を下げ、宰相と伯爵が続いて頭を下げた。

 国王は、フィーィ達妖精族に対し人族が行ってきた行為の数々を謝罪。

 以後エルゴア王国では妖精達や妖精族に対し、如何なる攻撃や干渉を許さず反すれば厳罰に処す。

 妖精に対する捏造や歪曲された誹謗中傷を是正すると約束した。


 其れに対し、現在迄妖精達は人族を嫌い攻撃的な性格だと伝えられているが、侮蔑や暴行嘲笑捕獲等に対する反撃をしただけで殺してはいない。

 攻撃的で執拗に攻撃して来ると伝えられているが、攻撃を受けている者は過去に妖精達を攻撃したり捕獲等を試みた者達で、妖精達に近づかない様に排除しているだけだと、フイーィが教えた。


 以後エルゴア王国内で妖精達に対する攻撃や捕獲等の敵対行為に対し、強力な反撃で報いて欲しい。

 それが死に繋がろうとも、妖精や妖精族を咎める事はしないと約束した。

 

 上記をもってエルゴア王国国王として、フィーィ達妖精族と和解した。


 * * * * * * * *


 「大丈夫だったの」

 

 ウーニャが聞いてきたが多分大丈夫だろうと答えておく。


 朝食後のお茶を楽しんでいると、ホテルの支配人がやって来て恭しく頭を下げる。

 

 「オーセン宰相閣下が、アルバート様に御面会を望まれております。如何が為されますか」

 

 ウーニャ達四人が、見事にお茶を吹いたよ。

 

 空き部屋が有るか確認すると、応接室でお待ちですと言われてその部屋で会うことにした。

 支配人の案内で部屋に入ると宰相閣下の最敬礼で迎えられた、テーブルの上にフィーィとフィーェが並んで立っているのを見て、結果を悟った。

 支配人が二人を見て硬直している。

 

 「宰相閣下頭を上げて下さい。それでは話が出来ません」

 

 椅子を勧め、向かい合って座ると開口一番

 

 「我々エルゴア王国は妖精達と全面的に和解する事に合意した。就いては以前アルバート殿がエスコンティ伯爵に宛てた手紙の内容に添って勅令を発する事になる。妖精族とエルゴア王国との協定文書の代理署名と立ち会いを願いたい」

 

 やはりそうなるか、伯爵様頑張ったね。

 

 「尚、謁見の際にアルバート殿の顔を公開しない取り決めを反故にした事に対し、正式にエルゴア国王から謝罪したいので受けて欲しい」

 

 「妖精族とエルゴア王国との和解に対する協定文書の調印及び代理署名は喜んで立ち会います。名前を公開した時点でいずれは顔を知られる事は覚悟していたので、謝罪は必用在りません」

 

 「就いては勅令を発するに、全貴族と成人している家族を王宮に集めて玉座の間にて布告となるので、暫し猶予が欲しい。それに先だって王都では明日触れを出すことにするが、貴族達を召集するのに時間が掛かるので40日後に調印式を行いたい」

 

 まっ逸れは仕方がないので同意し、逸れまでこのシリエラホテルで待つと伝えて会談は終わった。

 帰り際に宰相閣下は国家行事の主賓の一人と為ったので、このホテルの滞在費はエルゴア王国が全て持つので寛いで呉れとウインクしながら言われた。

 

 何とか平穏に終わりそうで何よりだ。

 翌日からは四人と共に王都見物だ、四人は揃いの鎧と服で護衛に見えるので都合が良い。

 伯爵家や王宮からの差し回しの護衛を拒否出来るのは先見の明だね。

 それでも遠巻きに護衛の騎士達が居るけど干渉しなければ問題無い。

 

 6日目には飽きて王都の外へ魔法の訓練にでたが、訓練を始めると近くの森から妖精達がわらわらと集まって来る。

 まるで椋鳥が群れている様で笑って仕舞う。

 先ず100メトルの距離から円弧状に高さ30m幅70m程の障壁を造る。

 ウーニャ、サイナム、ヘムの三人は障壁から30mの所からそれぞれの魔法を撃つ。

 

 ウーニャは水魔法と土魔法をほぼ会得し結界魔法を練習中だが、何せ教える妖精達は生まれながらに結界魔法を使えるので教え方が判らない。

 そこで俺の出番だが、俺は父親から小石を投げられて防ぐ練習だった。

 ウーニャには小石を上空に投げて防ぐとか、虫が飛んで来たら止める事から始めさせた。 

 

 ヘムは雷撃魔法を完全にマスターし、結界の強化と自分以外のものに結界を張る練習中だ。

 サイナムはひたすら火魔法のファイアーボールを壁に向かって打ち込む。

 最近は皆イメージが明確になったので、少ない魔力で魔法が使える様になり連射も楽々だと喜んでいる。

 この方法は他には漏らさない様にと、厳重に口止めしておいた。

 

 キルザは魔力を纏い身体強化の練習に余念が無い。

 魔法が使え無いのは残念だが、身体強化だけで身体の切れや身体能力の大幅アップを喜んでいる。

 

 問題なのは妖精達で、俺の造った障壁を射的場の壁代わりに魔法を使っての遊びに夢中だ。

 空間収納から取り出した石を上空から落とすと、下で待ち構える一団が一人づつ魔法を打ち出す。

 風魔法でそれを弾き飛ばして妨害し、ファイアーボールを水魔法で消して邪魔をする等、やりたい放題である。

 それも俺のファイアーボールの速度をイメージしているので、速度が上がり的を数個から時には数十個投擲したり落としたりして遊ぶが、百発百中だ

 時には数個から数十個の的が乱舞し、実に楽しそうなので黙って見ている。

 

 そんなある日、初めての妖精族の訪問を受け、族長サランドの挨拶の後手土産に貰ったのは、あの妖精の実だ。

 だが濃いチョコレート色で非常に固い、聞けば固くなる前は妖精達も好んで飲むが固くなると香は良いが飲めなくなる。

 だが魔獣達が好んでこの実を齧り、中の汁を舐めているので多分アールに喜んで貰えると思うと差し出された。

 叩くと硬質な音がする、中身は大分減っているが蒸発したのだろうと思われる。

 腐らずに中の果汁が残っているのなら、発酵している可能性が高いので旨い酒の予感がする。

 早速上部を切断すると芳醇な香が漂う、思わず笑みが零れるとはこの事だね♪

 もっと沢山有るので持って来るよと取りに行こうとするので、魔獣達の分は残しておいてとお願いする。

 魔獣達は枝の低い所や落ちた果実を齧っているので、心配ないと言われたのでお願いした。


 集まった果実は70、80個位は有った。

 お礼に魔力玉を渡し、必要な一族がいれば分け隔てなく魔力を与えてとお願いし、無くなれば何時でも取りに来て良いと伝えて別れた。

 

 フィーィとフィーェが同じ実なら沢山有ると教えてくれたので、機会が有れば持ってきてと頼んでおく。

 

 これは非常に良い物だが、それだけに危険な臭いがするとほくそ笑む俺。

 取り扱い注意のラベルを貼っておかなければならない。


 「アルが悪い笑顔をしている」とサイナムに突っ込まれた。


 * * * * * * * *


 玉座の間に居並ぶ貴族とその家族達。

 

 従者の、フィーィ様一族ならびに五部族団、代理署名人アルバート様、と呼ばれて玉座の間に入る。

 居並ぶ貴族とその家族達の響きの中、俺とフィーィ以下の妖精族が指定の線で止まり軽く一揖する。

 

 俺の横にフィーィとフィーェ、背後に横15列三段に並ぶ五部族代表270名の妖精達。

 玉座と俺との中間に丸テーブルが一つ。

 国王陛下が玉座を下り俺も前に進み出てお互いに右に回る。

 

 テーブルの左右にエルゴア国王と俺が向かい合い、フイーィとフィーェが俺の前に浮かぶと、宰相閣下の声が響く

 

 「エルゴア王国と妖精族は過去の柵を捨て、以後対等の関係で有る事を認め、此に署名する」


 お互いの前に置かれた書面にサインし、交換して再びサイン。

 エルゴア王国国王陛下の名と、妖精族代表フィーィの名前の下に代理署名人アルバートと記す。

 

 参集する貴族の面前で署名した書類を各自が保管、国王陛下と握手してエルゴア王国と妖精族の友誼はなった。

 疎らな拍手が、貴族達の妖精達に対する思いを如実に物語っている。

 国王陛下が玉座に戻り、宰相閣下が貴族達を見渡し言葉を発する。

 

 「勅命」

 

 居並ぶ貴族達が姿勢を正す。

 

 「エルゴア王国と妖精族とは対等なものとする。以後妖精族に対し如何なる攻撃捕獲中傷等不利益をもたらす事を許さず。反すれば厳罰を持って報いる事になるので、各領地に戻り次第領民に周知徹底せよ」

 

 「はっ」

 

 「尚、子供の悪戯で小石を投げる様な事が必ず起きるが、逸れは周知しなかったお前達と親の責任と見做す。悪戯で投げられる小石は、妖精にとって命に係わる物だと夢々忘れるな。これから各自の前に妖精族の一員が行き額に掌を当てるが目を閉じ受け入れよ。魔力を合わせる事により妖精族と意思の疎通が可能になる」

 

 フィーィに頷くと前列から順に貴族の列に向かい額に手を当てて行く。

 魔力合わせが終わり妖精族が列に戻るとオーセン宰相に頷く。

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