第25話 じゆうりよく・すいりよく・らのべ・いみふ

 その日はヨシュケンさんの家に泊まった、ラノベの知識は片より過ぎだな。

 住居の外観は土魔法で固めて魔獣や野獣の攻撃に耐えられる様にしてある。

 内装は木製で土魔法で固めた物は水回りと薪ストーブのみだった。

 

 翌日朝食後に森の里を案内して貰った。

 里は現在3.000人少々のエルフ族、ドワーフ族、猫人族と極少数の多種族が暮らしていると、エルフ族が半数以上でドワーフ族と猫人族が半々と言ったところらしい。

 

 自分で言うのも何だが良くこんな森の中に集落を造って住んでますねと問うと。

 

 「この里に住む大半の者は魔獣や野獣から身を隠す術を知ってますからね。闘う必要は無い生き延びる術を知っていれば良いのです」

 

 「確かにそうだ、盲点ですね」

 

 「貴方の様に膨大な魔力を有し妖精族と共に暗闇の森を歩ける者は殆ど居ません。多分貴方は一人でも自由に森を歩けますよ」

 

 歩く俺達の頭上で俺と共にこの里を訪れた妖精族の子供達とこの里の妖精族の子供達が大騒ぎしている。

 滅多にこんなに大勢の妖精族の客人は無いからだとヨシュケンさんが笑っている。

 

 里を一巡りしてみたが手狭な感じだ、ヨシュケンさんに聞いてみると元はこれで十分だったが人が増えたのでちと狭苦しいなと苦笑い。

 周囲は木が疎らで広げる余地が在るのではと問うと魔獣の妨柵を造るのが大変でなと呟く。

 

 「ヨシュケンさんその妨柵俺が造りましょうか、俺なら2~3日で造れますよ」

 

 「それは有り難いがどうして」

 

 「実は現在エルクハイムに住んでいますが彼らを人族の目に晒す訳にはいきません。俺の家の一画を住居にし近くの森を利用して暮らして居ますが不便なんです。妨柵は俺が造ります報酬として、この地に家を建て自由に行き来出来る権利を下さい」

 

 「里にとって何ら不都合の無い良い話しだが皆と話し合わねばならんから2~3日待ってくれんか」

 

 了解し俺の魔法を少し披露する事に、妨柵の一画に建つ監視櫓に上がりヨシュケンさんの目の前で高さ15メートル幅100メートル厚さ20センチの壁を造りあげる。

 

 「あの壁の厚さは20センチですが丈夫な事は保障します。魔法攻撃の得意な者に壁を攻撃させてみて下さい」

 

 呆気に取られていたヨシュケンさんが村役の者達と確認して来ると言ってあたふたと駆け出す。

 暫くすると里全体が騒がしくなり轟音が響く様になった。

 

 その日の夕食が終わる頃村長の家に三々五々集まる人達、森の里の世話役達だと紹介された。

 昼にヨシュケンさんに提案した事を再度話し、この地に住み着くつもりは無いが俺と共に在る妖精族の別荘みたいな物だと思ってくれと話した。

 

 「あれ程の物を造って家一軒の報酬で満足かな」

 

 「別に多額の報酬を必要としていない、俺達が森に来たときに自由に使える場所が欲しいだけだ。妖精族ならこの地とエルクハイムの街との行き来に差して時間も掛から無いだろう」

 

 「我らにとってこれ程有り難い話しは無い。有り難くお受けしたい」

 

 一人がそう言うと皆一斉に頷いた、明日ヨシュケンさんと世話役全員で広げたい境界の選定に出向く事になった。

 

 翌朝食後のお茶を飲んでいると全員集まったので境界選定に出かける。

 先ず川沿いに有るとはいえ増水対策で100メートル以上離れているが、

 護岸工事をして川辺まで広げる事にする。

 護岸は即座に幅3メートル高さは水面上50センチで一気に造り途中舟の引き込み口も設置し内部に小さな港を造っておく。

 次は境界の杭を設置して行くが終わったのが夕暮れ前なので終わりにする。

 

 明日は本格的な妨柵より頑丈な塀の設置だ、厚さは30センチ程度で高さ15メートルで良いかな。

 周囲には堀を巡らし川の水を一部迂回させれば完璧と一人でニヤつく。

 木の枝の先より30メートル以上離れていて更に30メートルの堀が有る之なら猿獣やスネイク種の魔獣も侵入出来まい。

 

 翌日は本格的な塀の建設だ昨日と同じ川辺から始める。

 先ず水辺の長さ数百メートルを階段状にする、水の増減に併せて水辺に行ける様にだ。

 次いで舟の引き込み口と舟溜まりの港を造る。

 此処までくれば後はひたすら厚さ30センチ高さ15メートルの塀を造って行くが所々塀を支える支柱を付ける。

 

 分かっていたとは言え俺の魔力量に声も無く付き従うヨシュケンさんと世話役の面々、夕方には塀は完成し、後日門扉を新調する事になった。

 明日は古い妨柵を土に戻せば完璧だ。

 

 俺が古い妨柵を土に戻し終えると宴会が始まった。

 凄い人出だ3.000人少々と言っていたが、全ての村人が集まったのでは無いかと疑う。

 料理と酒はそれぞれが持ち寄り互いに差し出し交換して料理自慢酒自慢で始終和やかに時が過ぎる。


 ◇  ◇  ◇

 

 宴会から数日後ヨシュケンさんに呼ばれて長老方と呼ばれる人達と会う事になった。

 少し大きめの屋敷で彼等と会ったのだがエルフにしては雰囲気が違う。

 暫し顔を見詰められ一つ二つ頷くとやおら挨拶が始まった。

 

 「ようこそお出でなされたアルバート殿、我らエルフの一員としてお迎えするのは光栄の至りじゃ」

 

 「俺は人族だが」

 

 「見目はな、されど人に在らざるその膨大な魔力は何とされたか御身はご存知か」

 

 「ああ知っている。母親の曾祖母がエルフの一員だったと聞いている。そして生活魔法の発現から間もなく、土魔法を自然に使っているのを見て先祖帰りかも知れないと教えてくれたよ」

 

 「アルバート殿そなたは既にエルフ族としての能力を越えているのじゃ。ハイエルフと呼ばれる者と同等以上の力を有しておる。之から長い時を生きる事になるが覚悟は出来ているかな」

 

 「長い時を生きる?」

 

 「そうじゃエルフの寿命を知っておるか。エルフの寿命は魔力量と生まれながら備わった力に依って250年~500年の時を生きる。時に600年を生きた者もおるでな。我らハイエルフになるともう200年~300年生きる事になる」

 

 「俺がハイエルフとしてその長い年月を生きるって言うのか」

 

 「長き年月を生きた我等が見立てと鑑定は、そなたをハイエルフと見なした。今お幾つかな」

 

 「15才だ」

 

 「人族の身体だがもう少しすれば成長が極端に遅くなるだろう。成体と成るには200年~250年必要で、発情するのはそれからになる。現在同年代でそなた程の魔力を有し、ハイエルフへと成長する見込の有る者は見当たらぬが先は長いか」

 

 「それとこの地の呼び名は森の里では無い、人知れぬ森の中の里を総称して森の里と呼ぶ。知らぬ者は森の里と聞けば一つだと思うだろう。然し各地の森の里の住民はこの地をエルクと呼ぶ、察しの通り近隣の地名でその位置が理解出来るからのう。人跡未踏の筈の暗闇の森に住まう者達の秘密じゃよ、まっ教えたところで街の者がこの地に辿り着けるかどうか」

 

 200年~300年の寿命ならラッキーで済ませるが、最高800年~900年ってどうやって生きろってのよ

 呆けていると更に爆弾が投げ込まれた。

 始めは泉に石を投げ込んだ様に大した衝撃は無かった。

 

 「時にアルバート殿そなたの魔力量なら妖精族の様に飛べるじゃろ。教わって無いのか」

 

 「へっ飛べる。誰が・・・教わる」

 

 「ほれそなたの肩に止まっているフィーィかの」

 

 フィーィに聞いて見たけど小首を傾げて、知らないって念話

 

 「知らないそうですよ」

 

 「ふむー、以前飛べた者は何と言っていたかのう」

 「確かじゆうりよくを断ち切り空に落ちない様にするのだと」

 「浮かべばすいりよくにて思いのままに飛べる等と我らに分からぬ言葉を使いおって」

 「物が落ちるのを止める力だとか何とか」

 

 身体に衝撃が走るとか頭を殴られた様なとか形容詞を実感した。

 が、最後の爆弾は強烈だった。

 

 「らのべは偉大なり等と笑っておったぞ」

 

 それって転生者か転移者でしかも日本人だぞ。

 発狂しそうだった、訳もなく叫び出しそうで頭がくらくらする。

 

 「我らが鑑定で見る限り妖精族達は飛ぶときに魔力の羽を造るがその時全身を魔力で覆ってから魔力の羽が出来るのだ、それからの先が解らぬ」

 「じゆうりよくとか、すいりよくとか、らのべとか申すがのー」

 

 「それそれ自由利よく、水利よくなどはある程度言葉から推測出来たがらのべとはなんぞや」

 

 「奴の言葉で良く出て来たのがいみふだ、いみふとはなんぞやと問えど更に笑いながらいみふと吐かしおって」

 

 おいおい脱線しはじめたぞ、逃げるが勝ちだ。

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