第24話 森の里

 早朝の門の前にはそこそこの行列ができていて朝の開門を待っている。

 

 どうも周囲から浮きまくっている感じだ、装いは冒険者風だが武器も持たず仲間も居ない極めつけは上等な衣服だ。

 案の定衛兵から待ったが掛かったが現れた上官にブラックカードを見せて事なきを得る。

 衛兵の最敬礼に送られて街道に出たが何処に通じる道かも分からない。

 

 《フィーィ・フィーェ宜しくね》

 

 《森には入らないの》

 

 《もう少し歩いてからね》

 

 皆早足で追い越して行くが一人のんびり歩く。

 護衛も居ない開放感はサイコーだね。

 陽も高くなってきたので森へと向かう、遠くに見える森は黒々として懐かしい。

 

 木々が疎らに生える所から奥へ奥へと森に入り、辺りが薄暗くなる頃には周囲は大勢の妖精族が乱舞し賑やかである。

 涙が出そうになる程嬉しい。

 

 何時もの夜営と同じ直径6メートル程のドームを造り、中にベッドやテーブルと少し離れて折り畳み椅子をセット流し付きの作業台には魔道具のコンロを置き薬缶を乗せる。

 ドームの中入口の少し横には焚火台を造り薪を載せ火を付ける。

 

 焚火台から少し離れた椅子に座り炎を眺めながら妖精族達とお喋りタイム。

 とはいかず子供達の果物頂戴蜜欲しいの大合唱と、大暴れして落ちて来る子を受け止めたりと大忙し。

 大人達はドームの天井付近に張り巡らせたロープに腰掛けてのんびりしている。

 エルクハイムの家にも帰りたいな、ノイエマンやヤーナは元気にしているかな。

 

 王都を出て一週間目に森の裂け目に到達した。

 途中冒険者達と遭遇しそうになると、妖精族達が教えてくれるので進路を変えながらだが今回は早かったな。

 

 さあ本格的な森に入る、今回はどんな珍しい物が見つかるか楽しみだ。

 森に入って3日目位からは子供達が肩や頭の上に止まりお喋りや遊びながらで楽しい。

 今回は今までよりもっと奥まで行ってみたいので余り寄り道はしていない、三つ目の裂け目を越え四つ目の裂け目の手前で不思議な花を見つけた。

 見つけたと言うより妖精族が歌う花が有ると教えてくれて探しに行った結果だ、夜に歌う花の為に歌声が聞こえると言われる場所に夜営して待機だ。

 

 小さなドームを造りベッドを設えると俺はドームの外にキャンバス製の椅子を出し座り込む。

 周囲に魔獣や野獣の気配は無いし妖精族達が周辺を警戒しているので安心して居られる。

 傍らに土魔法で造った小さなテーブル、上には妖精の実の発酵酒を満たしたグラスが有る。

 至福の時間だ。

 小さなテーブル上を照らす小さな炎のランプ、仄かな灯がグラスを浮かび上がらせている。

 周囲の木々の梢には大勢の妖精族が集い、枝に腰掛けたりハンモックに揺られたりしながら静かに花の歌声を待つ。

 

 フィーェとフィーィが近くの枝に仲良く並んで腰掛けて微笑んでいる。

 

 《歌声が聴こえる》

 

 《皆静かにして》

 

 耳を澄ますと微かな音がヒューヒュー聴こえる。

 腰掛けていたフィーェの背に魔力の羽が生え浮かび上がるフィーィが続きゆっくりと音の方に進む。

 俺は椅子に腰掛けたまま待つ、動くと音で邪魔になるからね。

 ヒューヒューと言う音は高く低く数を増しながら聴こえ確かに唄っている様に思える。

 

 《見つけたよ。静かに着いて来て》

 

 2分も掛から無かった。

 月の光も届かぬ漆黒の闇の中、花びらが淡い光りに包まれ浮かび上がって見える。

 生活魔法の灯を点けよく見る、掌程の花びらが5片透き通るような柔かな光を放ち花の中央に杏程の実?葉は小さなレモン型で密集している。

 鑑定の結果は(新月花)花びらは上級ポーションの材料で実は猛毒、花の茎を握り花びらを引っ張って一枚一枚収穫してゆく。

 

 暫くすると妖精族も花びらの収穫方法を理解し手伝ってくれる、実は猛毒なので触らない様に注意だ。

 沢山の花びらが集まり空間収納に入れて今夜はお休みなさい。

 フィーィとフィーェが俺のドームの中に入って来たので天井にハンモックが吊れる様に細工して一緒に眠る。

 

 翌日は新たな妖精族の一団が現れ魔力玉の提供を要請された、聞けば20日程奥地に住まう一族で友人から魔力玉の話しを聞き魔力の増大と魔法の威力の嵩上げは一族の安寧に繋がるとやってきたのだ。

 エルクハイムを訪れたが俺やフィーィ達が居なかったので暫く待って居たのだが、諦めて帰る途中俺が森に居ると聞きお願いに来たと。

 

 快く魔力玉を出して先ず一人一回だけ魔力の吸収をしてもらい、魔力の増大と魔法の威力を確認してもらった。

 然る後奥地に居る仲間達にも先ず一人一回の魔力吸収をして余れば複数回魔力を吸収すれば良い。 

 魔力を吸収しても力の増大が出来なくなったらそれが魔力増大の限界だから他の人に魔力玉の魔力を吸収させて下さい。

 足りなければ又来てくれればお渡ししますから

、そう言って20個程の魔力玉を彼らに与えた。

 一人が前に出て拳を胸に当て

 

 《クリューナと、妖精族の名に掛けて貴方の危機には参上します》

 

 《妖精族の名に掛けて》

 そう言って奥地に帰って行った。

 

 《アール!有り難う》

 

 《どうしたフィーィ》

 

 《アールのお陰で仲間達が安心して暮らせる様になるのが嬉しいの。フィーィの一族は常にアールと共に在るからね》

 

 ウン?、フィーィの "一族は常に" アールと共に・・・

 

 《フィーィ、聞きたい事が在る。ひょっとしてエルクハイムの俺の家に居たのはフィーィの一族全てか》

 

 《そうだよ、(最初にフィーィと妖精族の名に賭けてと誓った時アールと共に在る)と願ったら一族もアールと共にと願ったんだよ。だから今も一族全てが居るよ。留守番だけ残してるけどね》

 

 どおりで何時も沢山の妖精族が居る筈だ。

 そこに魔力玉の礼を言いに来た妖精族の一団と遊びに来た集団が加わってたのか。

 でもまぁ良いか、仲間が増えるのは悪い事ではないしな。

 

 ぼちぼちエルクハイムに近づく進路を取りたいのでフィーィに頼む。

 時々念話の届く範囲で接触する妖精族同士で情報交換している様で挨拶に来る小集団がちらほらと居る。

 

 《アールに御挨拶を》

 

 拳を胸に当て一礼する。

 俺も拳を胸に当て軽く一礼する。

 フィーェに挨拶されたら何も言わなくても良いから同じ動作をし、敬意を示せば良いと教わったから。

 

 俺の前に来て(アールに御挨拶を)って言ってくれるのはアールの魔力玉で魔力を増やしアールの魔力が分かるからお礼の挨拶に来てるんだよって言われた。

 大地の裂け目を何度か越えた頃挨拶に来た妖精族からエルフの長が会いたがっているので里に寄って貰え無いかと懇願された。

 

 エルフの里に着いたのは6日後で一週間も掛かるとはね、妖精族は空を飛ぶから距離感が違うのを忘れていたよ。

 川沿いの開けた地に土魔法で杭を建て連ねて防壁にしている、建物も外観は土魔法でしっかりと固めて魔獣の侵入を許しても立て篭もれる様になっている。

 

 門前で迎えてくれたのが村長だった。肩の近くに一人の妖精族が居てフィーェと拳を胸に当てての挨拶を交わしている。

 

 「森の里にようこそお出で下されたお客人」

 

 「始めましてアルバートです。何か私に御用の様ですが」

 

 「この森の里の長をしているヨシュケンと申すアルバート殿良く参られた。我らの友人である妖精族に大いなる力を与えて下さり感謝している」

 

 「それは私も同様です私の友人たちに偏見無きお付き合いを頂き感謝しております」

 

 「此処では客人に茶を振るまうのが習慣ですのでお付き合い願えますかな」

 

 「はい喜んで」

 

 エルフの里に招き入れられ村長の家で茶の接待を受ける。

 

 「この地に住まう妖精族も魔力の関係か子供が少なく又中々子供が出来なかったんですが、貴方の魔力玉で個々の魔力の増大が出来て事態は好転しました喜ばしい事です」

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