第23話 アルバートの帰還
エスコンティ伯爵はエルクハイムの住人達に対して、妖精達に対する如何なる攻撃や捕獲中傷などを一切禁止し、小石一つ投げても厳罰に処すと触れをだした。
そもそも妖精族が人族を攻撃したのは、一方的な攻撃を受けたり捕獲しようとする。
いきなり掴んで来たりむやみと石を投げる等の攻撃に対して、反撃をしただけけなのだ。
その際も人族を死に至らしめる攻撃は加えていない。
但し、1度でも妖精を攻撃し反撃を受ければ、以後妖精に近づこうものなら即座に攻撃を受け撃退されていた。
被害を受けたと訴える者は自分が妖精に対して攻撃し、その反撃を受けた事を隠して誹謗中傷していたのだ。
* * * * * * * *
全ての片づけが終わり、漸く街が落ち着きを取り戻した頃にアルバートがエルクハイムに戻って来た。
街の入口で入門待ちの人々に混じり佇んでいると、衛兵が走って来て敬礼と共に「伯爵様がお待ちです」と大声で呼ばわる。
列を離れ衛兵の案内に従い門を潜ると、伯爵家の馬車が待機しているではないか、手回しの良い事でと溜息を吐く。
渋々乗って伯爵家に向かい馬車を降りると、フィーェが肩に飛び降りて来た。
《フィーィは》
《伯爵さんの所だよ》
それで伯爵家の馬車が待機していたのか。
やれやれフィーィや妖精族の皆には、余り伯爵家や冒険者ギルドに関わるなと言わなければ、面倒事が増えるだけだ。
執事長のナリヤードに迎えられ伯爵の待つ執務室に入ると、満面の笑みで伯爵が立ち上がり迎えてくれた。
「アルバート君、妖精族の派遣を感謝する」
「今回は支援してもらえましたが、次が有るとは思わないで下さいね」
フィーィが頭の上に乗って来て寝転んでいる。
「でだ、彼らに謝礼を申し出たのだが拒絶されて困っている。君から彼等に有用な物を都合してもらえないか、費用はこちらで全て出すので頼むよ」
「必用無いっていうか、彼等と対等に付き合い如何なる攻撃もしなければ良いだけです。エルクハイムに被害が無くて良かったですよ」
「何時の間に彼等と知り合っていたんだね」
「初めてエルクハイムに来た数日前にですよ」
余り正確には教えてやらない。
冒険者ギルドが非常呼集を掛けたので、冒険者達に報酬を支払わなければならない。
だが討伐の殆どを妖精族が担ったので、冒険者達には最低限の報酬しか支払えないのだと言われた。
話しが良く判らないので先を促すと、冒険者ギルドのマジックバッグに保管した魔獣を、王都に送り売却した金を冒険者に配りたいのだそうだ。
それは構わないが何故王都なのかと問えば、魔獣野獣の死骸を片付けるのに小物は埋めその他は妖精族に手伝ってもらい谷底に投棄した。
それでも大量の獣の肉をエルクハイムの街のみならず、近隣の町や村にも呼び掛けて配ったので、エスコンティの領内では売れないらしい。
笑ってしまった。
供給過剰で値崩れして、パープル種やレッド種が二束三文でも売れないなんてね。
「伯爵様と冒険者ギルドで自由にして下さい。俺にも妖精族にも異存は有りません。マジックバッグに入っているなら、他の領都に持って行けば多少なりとも高値で売れますよ」
伯爵様暫し考えてギルドとも相談して割り振ろう。他の領主達に格安で振る舞えば、王都ででかい顔が出来ると言うものだと悪い顔をして笑っている。
我々も良い肉が多数手に入り、当分は美味い肉が食べられるとほくほく顔である。
付き合っていられないので伯爵家をお暇し、馬車で家まで送ってもらった。
帰る間際に、伯爵様が陛下から預かっている物だと手渡された物は魔力測定盤で、これが一番嬉しい。
久し振りの我が家だな。
玄関前でノイエマンとヤーナが出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ。アルバート様」
「あぁただいま、皆無事で良かったよ。紹介するよフィーィどフィーェだよ後で皆を集めて改めて紹介して話す事がある」
ホールでも皆の出迎えを受けた後、久し振りに居間で腰を下ろす。
ウーニャ、キルザ、エミリー、サイナム、キューロ、ヘムの六名と屋敷のメイドやコックに厩番から御者まで全員をホールに集めフィーィ達妖精達を紹介する。
300数十人の妖精達と対面の後、皆に妖精と話しが出来る様に魔力を合わせる。
皆目を白黒させていて、見ている分には面白い。
妖精達は俺の居間と寝室から通じる隠し部屋に住んでいることを教え、以後は掃除等では自由に居間寝室に入っても良いと許可する。
* * * * * * * *
落ち着いたので魔力測定盤の実験だ、50cm角の四隅を切り落とした正八角形に近い形だ。
外周の円に目盛りが有り、0~100の数字が時計回りに刻まれ、次に五重の円に各区分けされ舛が一回りしていて内周には又目盛りと0~100の数字がこれも時計回りだ。
中央に手形のマークが有るだけ。
手を置くが何も起きないので魔力を込める。
一瞬淡い光と共に0~100数字の下で紅色の線が時計回りにグングン伸び五重の円が出来て止まり、次ぎに真紅の線が紅色の線の上に伸び四週半で止まる。
次ぎに内周の所に紅色の線が現れ又時計回りに線が伸びこれは72の所で止まった。
結局外回り十回廻って五本の真紅の線、内回り一本の線が描かれて終わり。
外周と内周間に四角く区切られた所には、生・風・水・火・土・雷・結・空・・・の文字が浮かび赤い円が見える。
生・風・水・火・土・雷・結・空・・・
とはっきり浮かび上がり俺が現在使える魔法を示していた。
薄い文字で氷・聖・闇が見え文字の頂点に赤い点が一つ。
生・土・雷・結・空の文字は赤い線で囲まれているが・風・水・火・は線が途中で止まり真円にはなっていない。
赤い線が一周しているのは完全に物にしている魔法だ、風水火は習得途中であることを示しているか、その程度の能力しか無いかのどちらかだろう。
問題は赤い点だけの表示だ、推測では潜在能力は有ると思われる。
* * * * * * * *
フィーィ達を紹介した後夕食を共にした後、大事な話が有ると居間に誘った。
ウーニャ達六人の前に魔力測定盤を出す。
何か〈ウゲッ〉って声が聞こえた様だが・・・考えたら負け!
ウーニャ、キルザ、エミリー、サイナム、キューロ、ヘムの顔を一人づつ見渡し「魔力測定盤は知っているな」と尋ねる。
頷く彼等に、これはその上位版で潜在魔法能力の有無まで確認出来る。
試す試さないは自由だがこの部屋を出たら忘れてくれ。
ヘムが即座に試すと名乗りでた。
他の者には少し離れてもらい、魔力測定盤に魔力を流してもらう。
外周の線は一周目の文字盤で73の所で止まり、内周は77の所だ。
生・風・火の字が浮かび丸い線が途中で止まっていて、雷・結に赤点が付いている。
ヘムに推測を説明する。
「数字の下の赤線は魔力が73だと思う。生・風・火は現在ヘムが使える魔法を示し、雷・結の赤点は多分潜在魔法能力が有ると思う。練習して使えるかどうかは判らないが、方法は有るのだが効果は人による。内側の赤線は魔力量を示していると思われる。魔力を増やす練習をすれば増えるかも知れない」
ヘムが使える魔法は当たっているし、使える魔法の回りに有る赤い線の長い程得意で強い魔法だと教えてくれた。
赤点が示すのは使えるかも知れない魔法なら、練習してみると嬉しそうだ。
「正直手に入れたばかりで詳しい事は言えないが、潜在魔法能力は間違い無いと思う」
教会に高い金を払って教えてもらう事なので、ヘムに感謝された。
次はエミリーが名乗り出た。
結果は魔力量はヘムとほぼ同じ75だが内側の線は83だ、潜在魔法能力だが生・風の二つに赤点が付いている。
エミリーにもヘムと同じ説明をして生活魔法はヘムに教われば使える様になるかもと伝え、後で皆を集めて詳しい話しをするからと言って待っていてもらう。
キルザとキューロは魔力が33と31で内側の線が68と70で潜在魔法能力無し。
ウーニャが赤線一本と半周で内側の線が一周していて、潜在魔法能力は生・水・土・結・空と有ったので、魔力が150と伝え、潜在魔法能力の説明をしていたが、途中で〈待て!〉と命じてお座りをさせる。(嬉しさの余り発狂)
サイナムも魔力量が57で、内側の線は56で、生・火の潜在魔法能力有りと出た。
先ず皆を集めて魔力測定盤の事は秘密だと口止め、無料で魔力測定や潜在魔法能力の有無を教えているのが知られると、教会を敵に回す恐れが有るからだと説明。
「銀貨五枚だもんねー」
ウーニャのぼやきに皆が笑う。
ウーニャ、エミリー、サイナム、ヘムには、使える魔法の威力アップの方法を教えるが、威力が上がるか否かは人によりけりで保障は出来ないと言っておく。
キルザとキューロには魔力量が少なくて、潜在魔法能力が発現していない可能性が有ること。
本人の努力では魔力量を増やす手だては無いが、一つ試したい事が有るので協力を依頼する。
全員毎日寝る前に魔力を練る・・・魔力を循環させる練習をしてもらい、一月後に再度検査する事を伝えて解散した。
魔法の教師は誰にと思ったが、妖精達の中にそれぞれの教師が居るではないか。
ノイエマンとヤーナを呼んで空地になっている敷地に家を建て様と思っていると伝える。
基本は玄関ホールを入って正面に中折れ式の階段で2階は左側に予備室・食堂・執務室・居間・寝室の5部屋向かいにノイエマンの執務室とヤーナの仕事部屋後は予備室に。右側は客間と客用サロンにする。
3階はノイエマンとヤーナの私室を各一室で後は使用人部屋に、一階はホールの隣に客間が必用だろうけど後は任せる。
屋根裏は妖精族の住居にするので、出入口一つ以外は必用無し。
条件は裕福な商人程度の内装で伯爵様の手出しは無用、ゴテゴテした装飾は必要無い。
費用の予定は金貨5.000枚位迄で、設計図が出来たら見せてくれと言ってノイエマンに丸投げだ。
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