第22話 戦闘開始

 一方伯爵邸では衛兵の持ち込んだ書状を、先ず執事長が受け取り伯爵の執務室に向かった。

 執事にアルバートからの書状だと渡され開封する。

 

 読み進む伯爵の顔が強張り、ナリヤードこの書状を持参した者を呼べ!と怒鳴る。

 何時にない伯爵の態度を訝しみながら、玄関から外に出て衛兵を呼び・・・衛兵が玄関の前で立っている。

 その傍らにフィーェが浮かんでいる。

 

 流石は伯爵家の筆頭執事である。

 びっくりはしたが動じる様子も見せず「書状を持参した者はそれか?」と尋ねる。

 全力で頷く衛兵を無視して、フィーェを指でチョイチョイと手招きするときびすを返して歩き出す。

 フィーェも迷わず着いてゆき、伯爵の執務室に着くとノックと同時に「入れ!」の声。

 執事が部屋に入ると、背中に隠れて居たフィーェが姿を現す。

 書状とフィーェを交互に見返す伯爵、執事の咳払いにはっとしフィーェを見て頷く。

 伯爵の顔の前に浮かんだフィーェ、見詰める執事とハイド男爵の沈黙の中伯爵の額に手を当てて暫し

 

 《フィーェだよ聞こえる》

 

 驚愕しながらも頷く伯爵。

 

 《頭の中で私に話し掛けてきて。人族の言葉は判らないから》

 

 《アルバートの書状は・・・本当か?》

 

 《アールは森の奥、エルフ族の森の里に居る。魔獣や野獣の群れを見つけた仲間が、野獣達がこの街に向かっているとアールに教えたの》

 

 《到着まで後二日程度のか》

 

 《見つけたのは今日の朝、後一日半位には魔獣の群れは森を出るだろうね『フィーェと妖精族の名にかけて』と、アールと約束をした。だからお前達人族の救援に来た》

 

 《アルバートは来れないのか》

 

 《無理! 人族の足で12日掛かる、森の里に居る》

 

 《二週間か、私達はどうすれば良い》

 

 《我々妖精族が魔法で迎撃するので、撃ち漏らしを頼む。アールの書状に在るだろうが、我々に手を出すな!、捕らえ様としたり小石の一つでも投げたら敵に回るからな。我々はアールの様に優しく無いぞ》


 《判った。配下の者達に伝えて徹底させるよ》


 《我々妖精族の各部族が、街の外森の外周部に集まって待機している。魔獣達が森を出たら攻撃を始める。人族は門を閉ざし迎え撃て。森には我々の仲間達が居るので、森に向かって魔法は使うな》

 

 《判ったが。一つ頼みが在るのだが》

 

 《なにか?》

 

 《そこに居る二人にも話せる様にして貰えないか、二人共アルバートの知り合いなんだ》

 

 「二人とも動くな、彼の掌を額に当てるだけだから」

 

 伯爵は扉を開けると傍らに控える衛兵に「非常呼集の鐘を鳴らせ!」と怒鳴る。

 

 「まさか、妖精と話す日が来るなんて」

 

 「私もです。アルバート様には敵いませんね」

 

 「取り敢えず兵は城壁の上で待機、魔法は森に向かって撃つのは厳禁だ徹底させろ!」

 

 「冒険者ギルドに行く。ハイド、後は任せたぞ。それと街道上に人が居ないかの確認と、街道を封鎖させろ」


 * * * * * * * *


 《フィーィ、冒険者ギルドのマスターに、森に向かって魔法は絶対に撃つなと厳命してね。我々の仲間が闘っているからと。それと魔力切れで魔力玉を使う時には人族には見られない様に気をつけろと全員に通達しておいて》

 

 《判ったフィーェ。そっちはどうだった》

 

 《大丈夫、迎撃準備に取り掛かったよ。城壁の上から迎え撃つ様に指示した》

 

 《アールからの伝言だよ。魔獣相手の攻撃は目と鼻を撃つ様に口を開けたら口の中を攻撃、後は耳の攻撃も楽で簡単に倒せるって。一人で無理なら集団で取り囲んで一斉に目・鼻・口・耳の攻撃か多数で一つの場所を一斉に攻撃しろって》

 

 《皆聞いたな!》

 

 《オー》

 

 《どれ位集まったかな》

 

 《到着順に番号を割り振っているけど、36部族だね。まだまだ増えているよ》

 

 《魔獣の監視グループから明日の朝くらいには足の早い狼、狐、犬系の野獣が森を出そうだと言ってるよ》


 * * * * * * * *


 「ギルドマスターは居るか! ギルドにも妖精が来ていると思うが」

 

 「はい来ています、フィーィと名乗りました」

 

 《フィーィ聞こえるか私はこの街の領主だ》

 

 《聞こえているよ。何かな》

 

 《君達の姿をこの街の人達に見せて貰えないか、後々君達に危害を加えない様に命令する為にも必用なんだ。それと、これから闘う者達にも君達が確実に居ると教えておく必用があるのだ》

 

 《良いよ、我々が居る事が判っていれば攻撃はしないだろう。森に待機している1群から20群まで上昇し、一族毎に城壁の上を低空飛行して魔法の試し撃ちも見せてやれ! 我々に手出しをしたら、手痛い反撃を受ける事を教えておく必用もあるしね》

 

 それからは壮観の一言だ。数百人規模の集団が横3~4列に並んで飛びながら、一斉に魔法を撃つ轟音と弾け飛ぶ地面。次々と飛来する妖精達の集団が、連続して行う魔法攻撃に冒険者も兵士も唖然として見ている。

 明日からの魔獣討伐戦は楽しみだ。


 * * * * * * * *


 翌早朝、森の中で討伐戦が始まった。

 魔獣達の進路の幅数百メトルを左奇数列右偶数列と間隔を開けて並んだ五組が待機している。

 その間を抜ける魔獣野獣達を、10~15mの高さから連続して魔法を撃ち込む。

 獣達が左右の待ち伏せ攻撃の薄い中央部分を抜けると即座に待機している次集団が攻撃を開始する。

 最初の五組を先頭に森の出口に向かって左右の列が徐々に幅を狭めながら伸びて行く。

 

 待ち構える左右の列が20段を超える頃、最初の集団が前方に移動し攻撃を仕掛ける。

 攻撃の主体は風刃・水刃・火球・氷槍・雷撃だ土魔法は大型獣の足止めの為に足下に穴を開け足が落ちたら即座に塞ぐ。

 足を土魔法で拘束されて動けない大型獣に、攻撃が集中して討伐されて行く。

 左右に控える一団は到着順に番号を割り振られた各一族200人~300人の集団である。 

 

 早朝から始まった迎撃戦闘は陽が昇る頃には森を抜け草原が主戦場になっていた。

 草原に出た獣達の足が早まるが攻撃も熾烈を極める城壁の前方に10組の妖精族の集団が横一列に控え左右から絞り込む様に殲滅戦が繰り広げられている。

 

 指揮はフィーィが約150m程の高さから見て指示を出している。

 常に左の列には奇数番号の一族を配し右に偶数番号の一族を若い番号から順に配置して行く、最後の番号が終ると又若い番号からと見事な采配だ。

 

 城壁の上で待ち構える冒険者や兵達は、その凄惨な戦闘に武者震いしながら凝視している。

 まさか、あの小さな妖精達が高威力の魔法を連発し、大小様々な獣を蹂躙し続けている。

 妖精族の包囲陣を抜けた獣は、城壁の前で幅30mに及ぶ掘りに進路を塞がれて止まる。

 

 「撃て!」


 城壁の上に控える魔法使い達に、一斉攻撃命令が下された。

 妖精族の包囲殲滅陣をくぐり抜けて辿り着いた先に、人族の城壁と掘りと城壁からの苛烈な攻撃だ。

 

 昼過ぎに戦闘は終わった。

 妖精族人族共に被害無し。

 歓声をあげる冒険者や衛兵達が落ち着きを取り戻して、改めて見た物は累々たる魔獣野獣達の屍の列だった。

 

 屍の列は城壁から草原を抜け森の中へと向かっている。

 城壁よりも草原、草原よりも森の入口と屍の数が増えていることに気づいた者達が黙り込む。

 

 城壁の上で戦闘を見ていたエスコンティ伯爵やギルドマスターは、妖精族の凄まじい戦闘力とそれを動かしたアルバートの力に背筋が凍る。

 

 《終わったよ。伯爵さん》

 

 《ああ、有り難う》

 

 《後はお片付けだね。大変そう》

 

 《なぁフィーェ》

 

 《なに、伯爵さん》

 

 《これ、どうしよう。利用するにも多過ぎて》

 

 《アールの様に、しまっておけば良いでしょ》

 

 《アールは特別なんだよ。普通人族は空間収納を持たないしマジックバッグでも無理だな》

 

 《それじゃー、穴を掘って埋めちゃえば》

 

 《これを全部埋める穴、掘れるの》

 

 《んー、谷に捨てよう》

 

 《取り敢えず、欲しい物だけ見に行こうか》

 

 伯爵様は脱力しながらもハイド男爵とギルドマスターを呼び、マジックバッグを持つ者を集めて驢馬に跨がり攻撃が始まった地点まで移動する。

 移動しながら、伯爵達は再び顔を引き攣らせる事になった。

 森の中は城壁前や草原より酷い有様で、半数以上は森の中で討伐されている様だった。

 同行した者達も皆顔を引き攣らせ、又初めて見るレッド種やパープル種を恐々と見ていた。

 

 「皆呆けていても始まらない、大物からマジックバッグに入れろ。サブマスは荷車と解体要因を集めて連れて来い。小物は妖精族が穴を掘ってくれるので、暇な冒険者や街の連中を雇って穴に投げ込ませろ」

 

 《フィーェ、済まないが冒険者が手を挙げて地面を指差したら穴を掘って貰えないかな》

 

 《良いよー、皆に連絡したので、伯爵さんは人族の人にも言っておいてね》

 

 レッド種パープル種や森の奥に住まう大物を中心にマジックバッグに仕舞い、入り切らない物は魔石を抜き取り解体して街の住民に無料で振る舞えと激を飛ばす。

 応援に集まった街の者や冒険者達が、伯爵の言葉を聞き歓声を挙げる。

 然しとにかく数が多い、大物だけ片付けた時には日も落ちて薄暗くなっていた。

 

 妖精族達は森で眠ると言って森の中へ、街の中では一生に1度も見る事の無い高級食材の大盤振る舞いに沸き立っていた。

 翌朝には近隣に飛ばした伝令の知らせを受けて、魔石を抜き取られた魔獣や野獣を引き取りに、馬車や荷車が続々とエルクハイムの街に到着し朝市の如く賑わっていた。

 

 魔石だけ抜き取り血まみれになりながら穴に投げ込む冒険者達。

 空間収納に入れて森の裂け目まで飛び谷底に投棄を繰り返す妖精達、終わったのが五日目の昼過ぎだった。

 

 人族も妖精族も疲れ果てていたが、一切の被害が無かった事に人族は多大な感謝を示した。

 謝礼の金品は妖精達にとって無用の長物と言われて諦め、妖精達に対する言われ無き中傷を訂正する事を約束した。

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