第21話 じゆうりよく・すいりよく・らのべ・いみふ

 「アルバート殿、そなたは既にエルフ族としての能力を越えているのじゃ。ハイエルフと呼ばれる者と同等以上の力を有しておる。これから長い時を生きる事になるが、覚悟は出来ているかな」

 

 「長い時を生きる?」

 

 「そうじゃエルフの寿命を知っておるか。エルフの寿命は魔力量と生まれながら備わった力に依って250年~500年の時を生きる。時に600年を生きた者もおるでな。我らハイエルフになると、もう100年から200年長く生きる事になる」

 

 「俺がハイエルフとして、その長い歳月を生きると言うのか?」

 

 「長き年月を生きた我等が見立てと鑑定は、そなたをハイエルフと見なした。今お幾つかな」

 

 「15才だが」

 

 「人族の身体だがもう少しすれば成長が極端に遅くなるだろう。成体と成るには150年~200年が必要で、発情するのはそれからになる。現在同年代でそなた程の魔力を有しハイエルフへと成長する見込の有る者は見当たらぬが・・・先は長いか」

 

 「それとこの地の呼び名は森の里では無い、人知れぬ森の中の里を総称して森の里と呼ぶ。知らぬ者は森の里と聞けば一つだと思うだろう。然し、各地の森の里の住民はこの地をエルクと呼ぶ、察しの通り近隣の地名でその位置が理解出来るからのう」

 

 200年~300年の寿命ならラッキーで済ませられるが、最高700年~800年ってどうやって生きろってのよ!

 呆けていると更に爆弾が投げ込まれた。

 始めは泉に石を投げ込んだ様に、大した衝撃は無かった。

 

 「時にアルバート、そなたの魔力量なら妖精達の様に飛べるじゃろ。教わって無いのか」

 

 「へっ、飛べる! 誰が? 教わる?」

 

 「ほれそなたの肩に止まっているフィーィかの」

 

 フィーィに聞いて見たけど、小首を傾げて知らないって返事だ。

 

 「知らないそうですよ」

 

 「ふむー、以前飛べた者は、何と言っていたかのう」

 「確かじゆうりよくを断ち切りて、空に落ちない様にするのだと」

 「浮かべばすいりよくにて思いのままに飛べる等と、我らに分からぬ言葉を使いおって」

 「物が落ちるのを止める力だとか何とか」

 

 身体に衝撃が走るとか、頭を殴られた様なとかの形容詞を実感したが、最後の爆弾は強烈だった。

 

 「らのべは偉大なり、等と笑っておったぞ」

 

 それって転生者か転移者で、しかも日本人だぞ。

 発狂しそうだった、訳もなく叫び出しそうで頭がくらくらする。

 

 「我らが鑑定で見る限り、妖精達が飛ぶときに魔力の羽を造るが、その時全身を魔力で覆ってから魔力の羽が出来るのだ、それから先が解らぬ」

 「じゆうりよくとか、すいりよくとか、らのべとか申すがのー」

 「それそれ自由利よく、水利よくなどはある程度言葉から推測出来たが、らのべとはなんぞや」

 「奴の言葉で良く出て来たのがいみふだ、いみふとはなんぞやと問えど更に笑いながらいみふと吐かしおって」

 

 おいおい脱線しはじめたぞ、逃げるが勝ちだ。

 

 俺っていう転生者が居るのなら、他にも居て不思議ではない。

 転生者か転移者かは不明だが、確実に一人それも日本人がいたのは間違いない。

 重力・推力・意味不と手掛かりまで残している。

 これは彼等には教えられないし、俺も黙っていよう。

 

 だが空を、しかも妖精達の様に空が飛べるんだ!

 飛んだ実績を持つ者が手掛かりを示唆してくれているのに、飛べなかったら恥だ。

 彼等には見せられないので、練習はエルクハイムでしよう。

 そうしてエルクハイムに向けて旅立つ準備を済ませ、別れの時に凶報が訪れた。

 

 数十人の妖精達が慌ただしく現れ、俺とフィーィの名を呼ぶ。

 

 《この里と、エルクハイムの街の中ほどにある裂け目、エルクハイム側で大量の魔獣や野獣が東に向かっていると。向かう先は多分エルクハイムの街になる》

 

 フィーィもフィーェも俺を見詰める、裂け目からエルクハイムまで冒険者の足で一週間、六日掛かるだろう。

 魔獣野獣の類いなら2、3日で到達する恐れがある。

 エスコンティ伯爵やギルマスに知らせる手立ては有るが、それは妖精族を危険に晒す事になる。


 《アール『フィーィはフィーィと妖精族の名にかけて』と誓ったよ。アールが困れば助けると》

 

 《そしてエルクハイムの街には、私達の子等やアールの友達も沢山居る。私も『フィーェと妖精族の名にかけて』と誓ったよ》

 

 《妖精族の名にかけて》

 

 居合わす妖精族の大合唱だ

 

 《有り難とうフィーィ、フィーェ、妖精族の皆。エルクハイム救援に手助けしてくれる妖精族に連絡をして、エルクハイムに近い森に応援の仲間達を集めてくれるかな》

 

 《判った。人族には見つからない様に集めて、連絡を待つよ》

 

 《待機場所からこのエルク里までの間を、念話の届く間隔で案内を手配しておいて》

 

 村長のヨシュケンから紙とペンを借り、書状を認める。

 

 エスコンティ伯爵宛の物と、冒険者ギルドのギルマス宛の二通必要だ。

 この書状を持参した妖精は、俺アルバートの友人にして仲間である。

 彼が額を指差し掌を向けて来たら、黙って受け入れて欲しい。

 彼が掌を額に当てると、彼との意思の疎通が可能となる。

 詳細は彼に聞けば良い。

 

 追伸として

 エルクハイムに近い森の裂け目付近に、大小無数の魔獣や野獣が集まり東に向かっているが、エルクハイム到着まで二日程度と思われる。

 書状を持参した妖精の一族や他の一族が、エルクハイム救援の為エルクハイム近郊に集結しつつある。


 厳重注意事項。

 彼等に対し、如何なる手出しも無用に願う。

 他愛ない手出しも容認しない、小石一つの投擲も敵対行為と見なしエルクハイム救援を放棄するだろう。

 冒険者、衛兵、領民や子供達にまで、その旨を徹底されん事を願う。

 アルバート。

 

 二通の書状を書き終え表書きには

 緊急、エスコンティ伯爵宛 発アルバート。

 緊急、冒険者ギルドマスター宛 発アルバート。

 

 二通を書き終えるとフィーェとフィーィを呼びフィーェには伯爵邸に出向き門番の目の前数メトル離れた所で良く見える様に空間収納から書状を出し門番に見える様に落としてくれ、と頼む。

 危険だから余り近付かないようにと念押し、大量の魔力玉を渡して送り出す。

 

 フィーィも同じだが、より危険な冒険者ギルドへ行って貰う。

 冒険者ギルドの中に入ったら真っすぐ奥に向かい机に座っている人の目の前で書状を取りだし机の上に落としたら即座に逃げ出す事と念押しして、魔力玉を多数渡して送り出す。

 

 今此処に居る妖精達に各自二個づつ魔力玉を渡し魔力の増大をしておく事。

 魔法を使って魔力が減ったら魔力玉から魔力を補給する様に全員に伝えて貰う。

 そしてエルクハイム救援に向かう妖精族達に魔力玉を二個づつ渡してゆく。

 結構合ったが全て渡し終えたので徒歩でエルクハイムに向かう為に、ヨシュケンさんや長老達に別れを告げて森に入った。


 * * * * * * * *


 フィーェは飛び立って3時間程で伯爵邸に到着した。

 門衛の目の前で2度ほどクルクルと回ると門衛より少し高い所から預かった書状を取りだし門衛に見せると落とした。

 びっくりして硬直している門衛の注意を引く為に、書状の上に乗り2度3度飛び跳ねてから高みに上がり門衛の様子を探る。

 

 流石に書状の上で飛び跳ねた事で書状の存在に気づき、宛名を読むや駆け出した。

 

 一方のフィーィは大胆だった。

 冒険者ギルドに飛び込むと奥に行き一際大きい机に座る男の目の前に浮かぶと、やおら書状を取りだし男に見せつけた。

 男はびっくりしていたが目の前に出された書状を見て、宛先がギルドマスターなのを確認すると黙って手を出した。


 書状を受け取り立ち上がって歩きだそうとして振り返り、フィーィに手招きをして再び歩き出す。

 ギルドの職員達は静まり帰っている。

 伝説かお伽話の住人の妖精族が現れたのだ。

 然も、書状を携えて。

 

 一方書状を受け取った男は、ギルマスの執務室をノックと同時に中に入り「アルバート様からの書状です! 妖精が届けに来ました!」と怒鳴る。

 ギルマスは無作法な入室を咎める処か、男の肩付近に浮かぶフィーィを見て驚いた様子ながらも、アルバートからの書状を妖精が届けに来たのなら急ぐと思い開封する。


 一読し、少し考えて再度読み返す。

 フィーィを見詰めて自分の額を指差す。

 フィーィはニッコリ笑い掌をギルマスの額に当て暫し

 《聞こえる》

 

 「良く聞こえるぞ」

 

 《人族の言葉は判らない。頭の中で考えて答えて》

 

 《あっぁぁ、聞こえるよ。アルバートの書状は本当か》

 

 《本当だよ。今我等の仲間達が、アールのお願いでこの街の近くに集まっているよ。魔獣や野獣を倒せる人を集めて、闘う準備を急いで。私達が先ず魔法で攻撃をする、撃ち漏らしたら始末して。それから我々妖精族に対して攻撃したり捕獲しようとしない事。小石の一つでも投げてきたら、我々は敵に回るからね。他の人族にも徹底しておいて》

 

 「わっ判っ」《判った、皆に伝えて徹底させるよ》

 

 「サブマス、緊急召集の鐘を打ち鳴らせ!」

 

 冒険者ギルドは大混乱になりながらも、魔獣野獣の暴走を迎え撃つ準備を始めた。

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