第20話 エルフの里
翌日は新たな妖精族の一団が現れ、魔力玉の提供を要請された。
聞けば20日程奥地に住まう一族で、友人から魔力玉の話しを聞き魔力の増大と魔法の威力の嵩上げは、一族の安寧に繋がるとやってきたのだ。
エルクハイムを訪れたが俺やフィーィ達が居なかったので、暫く待っていたのだが諦めて帰る途中、俺が森に居ると聞きお願いに来たそうだ。
快く魔力玉を提供し、一人一回魔力の吸収をしてもらい魔力の増大と魔法の威力を確認してもらった。
奥地に居る仲間達にも先ず一人一回の魔力吸収をして、余れば複数回魔力を吸収すれば良い。
魔力の吸収が出来なくなれば、それが魔力増大の限界なので他の人に魔力玉の魔力を吸収させる様に言っておく。
足りなければ又来てくれればお渡ししますから、そう伝えて20個程の魔力玉を彼らに与えた。
一人が前に出て拳を胸に当てる。
《クリューナと、妖精族の名にかけて貴方の危機には参上します》
《妖精族の名にかけて》
口々に誓いの言葉を残し、彼等は奥地に帰って行った。
《アール!有り難う》
《どうしたフィーィ》
《アールのお陰で、仲間達が安心して暮らせる様になるのが嬉しい。フィーィの一族は常にアールと共にあるからね》
ウン?、フィーィの "一族は常に" アールと共に・・・
《フィーィ、聞きたい事がある。ひょっとしてエルクハイムの俺の家に居たのは、フィーィの一族全てか》
《そうだよ、(最初にフィーィと妖精族の名にかけてと誓った時、アールと共に在る)と願ったら一族の皆もアールと共にと願ったんだよ。だから今も一族全てが居るよ。留守番だけ残してるけどね》
どおりで、何時も沢山の妖精達が居る筈だ。
そこに魔力玉の礼を言いに来た妖精族の一団と遊びに来た集団が加わってたのか。
でもまぁ良いか、仲間が増えるのは悪い事ではないしな。
ぼちぼちエルクハイムに近づく進路を取りたいので、フィーィにお願いする。
時々念話の届く範囲で、接触する妖精族同士で情報交換している様で、挨拶に来る小集団がちらほらと居る。
《アールに御挨拶を》
拳を胸に当て一礼する。
俺も拳を胸に当て軽く一礼する。
フィーェに、挨拶されたら何も言わなくても良いから同じ動作をして敬意を示せば良しと教えてもらった。
俺の前に来て《アールに御挨拶を》と言ってくれるのは、俺の魔力玉で魔力を増やし、俺の魔力が分かるのでお礼の挨拶に来てるんだよって教えられた。
森の大地の裂け目を何度か越えた頃に、挨拶に来た妖精族からエルフの長が会いたがっているので、里に寄ってもらえないかと懇願された。
お願いに応えてエルフの里に向かったが、里に着いたのは6日後で一週間も掛かると思わなかった。
妖精族は空を飛ぶので、距離感が違うのを忘れていた。
川沿いの開けた地に土魔法で杭を建て連ねて防壁にしている、建物も外観は土魔法でしっかりと固めて魔獣の侵入を許しても立て篭もれる様になっている。
門前で迎えてくれたのが村長で、肩の近くに一人の妖精族が居てフィーェに拳を胸に挨拶を交わしている。
「森の里にようこそお出で下されたお客人」
「始めましてアルバートです。何か私に御用の様ですが」
「この森の里の長をしているヨシュケと申す、アルバート殿良く参られた。我らの友人である妖精族に、大いなる力を与えて下さり感謝している」
「それは私も同様です。私の友人達と偏見無きお付き合いをして頂き、感謝しております」
「此処では客人には茶を振るまうのが習慣ですので、お付き合い願えますかな」
「はい、喜んで」
エルフの里に招き入れられ、村長の家で茶の接待を受ける。
「この地に住まう妖精族も、魔力の関係か中々子供が出来なかったんです。貴方の魔力玉で魔力量が増大し、事態は好転しました喜ばしい事です」
その日はヨシュケさんの家に泊まったが、ラノベの知識は片より過ぎだな。
住居の外観は土魔法で固めて魔獣や野獣の攻撃に耐えられる様にしている。
内装は木製で土魔法で固めた物は水回りと薪ストーブのみだった。
翌日朝食の後森の里を案内して貰った。
里は現在3.000人少々のエルフ族、ドワーフ族、猫人族と極少数の多種族が暮らしている様で、エルフ族が半数以上でドワーフ族と猫人族が半々と言ったところらしい。
自分で言うのも何だが、良くこんな森の中に集落を造って住んでますねと尋ねて見た。
「この里に住む大半の者は、魔獣や野獣から身を隠す術を知っていますからね。闘う必要は無い、生き延びる術を知っていれば良いのです」
「確かにそうだ、盲点ですね」
「貴方の様に膨大な魔力を有し、妖精達と共に暗闇の森を歩ける者は殆ど居ません。多分、貴方は一人でも自由に森を歩けますよ」
ゆっくりと歩く俺達の頭上で、俺と共にこの里を訪れた一族の子供達とこの里の子供達が大騒ぎしている。
こんなに大勢の妖精族の客人は滅多に来ないからだと、ヨシュケさんが笑っている。
里を一巡りしてみたが手狭な感じだ、ヨシュケさんに聞いてみると元はこれで十分だったが人が増えたのでちと狭苦しいなと苦笑い。
周囲は木が疎らで広げる余地が在るのではと問うと魔獣の妨柵を造るのが大変でなと呟く。
「ヨシュケさん、その妨柵を俺が造りましょうか。俺なら2、3日で造れますよ」
「それは有り難いがどうして」
「実は現在エルクハイムの街に住んでいますが、彼らを人族の目に晒す訳にはいきません。俺の家の一画を住居にし近くの森を利用して暮らしていますが不便なんです。妨柵は俺が造りますので、報酬としてこの地に家を建て自由に行き来出来る権利を下さい」
「里にとって何ら不都合の無い良い話しだが、皆と話し合わねばならんので2、3日待ってくれんか」
了解し俺の魔法を少し披露する事に、妨柵の一画に建つ監視櫓に上がりヨシュケさんの目の前で、高さ15m幅100m厚さ20cmの壁を造りあげる。
「あの壁の厚さは20cmですが丈夫な事は保障します。魔法攻撃の得意な者に壁を攻撃させてみて下さい」
呆気に取られていたヨシュケさんが、村役の者達に確認して来ると言ってあたふたと駆け出していった。
暫くすると里全体が騒がしくなり轟音が響き始めた。
その日の夕食が終わる頃に村長の家に三々五々集まる人達、森の里の世話役達だと紹介された。
昼にヨシュケさんに提案した事を再度話し、この地に住み着くつもりは無いが、俺と共に在る妖精族の別荘みたいな物だと思ってくれと話した。
「あれ程の物を造って、家一軒の報酬で満足かな」
「別に多額の報酬を必要としていない、俺達が森に来たときに自由に使える場所が欲しいだけだ。妖精族なら、この地とエルクハイムの街との行き来に差して時間も掛から無いだろう」
「我らにとってこれ程有り難い話しはない。有り難くお受けしたい」
一人がそう言うと皆一斉に頷いたので、明日ヨシュケさんと世話役全員で広げたい境界の選定に出向く事になった。
翌朝食後のお茶を飲んでいると全員集まったので、境界選定に出かける。
先ず川沿いにあるとはいえ、増水対策で100m以上離れている護岸を川辺まで広げる事にする。
護岸は即座に幅3m高さは水面上50cmで一気に造り途中舟の引き込み口も設置し内部に小さな港を造る予定。
次は境界の杭を設置して行くが、結構時間がかかり夕暮れになったので終わりにする。
明日は本格的な妨柵より頑丈な塀の設置の予定で、厚さは30m程度で高さ12mで良いかな。
周囲には堀を巡らし、川の水を一部迂回させれば完璧と一人でニヤつく。
木の枝先より30m以上離れていて、更に30mの堀を造れば猿獣やスネイク類の魔獣も易々とは侵入出来まい。
本格的な塀の建設は昨日と同じ川辺から始める。
先ず水辺の長さ数百mを階段状にする、水の増減に併せて水辺に行ける様にだ。
次いで舟の引き込み口と舟溜まりの港を造る。
此処までくれば後はひたすら厚さ30cm高さ12mの塀を造って行くだけだが、所々塀を支える支柱を付ける。
分かっていたとは言え、俺の魔力量に声も無く付き従うヨシュケさんと世話役の面々。
夕方には塀は完成し、後日門扉を新調する事になった。
門扉が完成すれば、古い妨柵を土に戻せば完璧だ。
* * * * * * * *
新しい門扉は大急ぎで作られて設置され、俺が古い妨柵を土に戻し終えたその夜、宴会が始まった。
凄い人出だ、3.000人少々と言っていたが、全ての村人が集まったのでは無いかと疑う。
料理と酒はそれぞれが持ち寄り、互いに差し出し交換して料理自慢酒自慢で始終和やかに時が過ぎる。
宴会から三日後、ヨシュケンさんに呼ばれて長老方と呼ばれる人達と会う事になった。
少し大きめの屋敷で彼等と会ったのだが、エルフにしては雰囲気が違う。
暫し顔を見詰められ一つ二つ頷くとやおら挨拶が始まった。
「ようこそお出でなされたアルバート殿、我らエルフの一員としてお迎えするのは光栄の至りじゃ」
「俺は人族だが」
「見た目はな、されど人に在らざるその膨大な魔力は、何とされたか御身はご存知か」
「ああ知っている。母親の曾祖母がエルフの一員だったと聞いている。そして生活魔法の発現から間もなく、土魔法を自然に使っているのを見て先祖帰りかも知れないと教えてくれた」
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