第19話 直談判

 陛下と宰相が落ち着いたのを確認すると。

 

 「陛下重要な話しが御座います」

 

 真剣な伯爵の顔を見て戸惑い乍も気を引き締めた様だ。

 

 「この後陛下と宰相閣下冒険者ギルドマスターと四人で重大な話が有ります」

 

 宰相と顔を見合わせ返答に詰まる二人に。

 

 「もう一つ、この場に居る者達に厳重な口止めを願います」

 

 「解った」

 

 陛下の一声に宰相閣下が周囲の者に箝口令を敷き国王陛下の後に続く。

 伯爵が従者に運搬係を伯爵家の控室を案内を頼み、ギルドマスターを促し陛下の後に続く。

 宰相閣下の執務室に近い部屋に招かれ近衛騎士を扉の前で待機させる。

 

 「申してみよ」

 

 「実は今回ゴールデンベアとブラックウルフを持ち込んだ者は未だ多数のパープル種やレッド種の魔獣を討伐しています」

 

 声も無く顔を見合せる陛下と宰相閣下。

 ギルドマスターに頷くとギルドマスターが説明を始める。

 

 「そもそもエスコンティ伯爵側近の知り合いが、冒険者ギルドに換金の為に魔獣や野獣を売りたいと持ち込んだのが発端です。その男が取り出したのは」


 【ゴールデンベアとパープル種とレッド種の三種

 ブラウンベアとパープル種とレッド種の三種

 ブラックウルフとパープル種とレッド種の三種

 グレイウルフとパープル種とレッド種の三種

 シルバーフォックスとパープル種とレッド種の三種です】

 

 「ここでギルドのサブマスターが出すのを止めました。が未だ有るかと聞くと」

 

 【オークとパープル種とレッド種の三種

 ホーンボアとパープル種とレッド種の三種

 未だ沢山有ると言います】

 

 「話を聞くと暗闇の森の奥にはこんなのばかり居ると言いました」

 

 此処まで話して貰ってギルドマスターは私の控えの間へと近衛騎士に送らせた。

 

 「側近が聞いた話ですと、彼は森の裂け目を超えるとも言いました。我々が谷と呼ぶ物です。それを二つ三つ超えると事もなげに」

 

 「その話は信じられるのか」

 

 「側近が調べた限りでは現れる三ヶ月程前に一人で森へ入って行ったと聞き、以後消息不明でした。どうしていたのか、問うと森を彷徨っていたと言います。先程のギルドマスターの話しだけでも、魔獣のパープル種とレッド種を含め21体出しています」

 

 「彼は取り込めるのか」

 

 「無理だと思います。反発されれば我が国の損失です。無理をすれば手痛い反撃をくいます」

 

 「それ程の者か」

 

 「土魔法ですが私の練兵所は周囲約1.000メートル有ります。1分も掛からず幅1メートル高さ10メートルの土槍を数百本立てました。そのすぐ後に同じく数百本の土槍を作って見せました」

 

 「それ程の魔力を有するのか」

 

 「話は未だ有ります。その後幅15メートル高さ10メートル厚さ20センチの壁を二つ作ってこう言いました片方は最大魔力を使って作ったもの片方は城壁より少し固い物とです。個人の最大魔法攻撃処か多人数で魔法の一斉攻撃にもびくともしません。厚さ20センチの壁ですよ」

 

 「臣下に出来ないか、必要なら爵位も授けよう」

 

 「無理でしょう。彼は誰かに臣従する気は在りません。側近が私に逢わせる為に不作法や言葉使いに如何なる責も問わないと約束し、私にも書かせ渡しました。それ迄は買物の為に市内の案内人を付けようとしたら 『嫌ですよ、気に入らない相手を武器に手を掛けて威嚇する様な人は』と云われました」

 

 「権力に阿る気はなし、か」

 

 「はい私は彼と敵対する気は毛頭御座いません。臣下の中の権威や身分に拘る者は彼の周辺から排除しています」

 

 「そこまで必要か」

 

 「先程の二頭を見ても彼の力量が判りませんか、ギルドマスターの話は信じられませんかギルドで彼は21体の魔獣を出しそのうち14体は進化種のパープルとレッドですよ」

 

 少しの間を措いて伯爵が最後の言葉を投げる。

 

 「進化種のレッド二体を見、私の話とギルドマスターの話を聞いて尚陛下が彼に無理強いするなら陛下もそれまでの人でしょう」

 

 そう云ってエスコンティ伯爵は静かに頭を下げた。

 

 国王も宰相も呆気に取られて伯爵を見た。

 

 会見は終わった。

 陛下や宰相がどう動くか、行動の如何に依っては王家が傾くと見ている。

 伯爵が国王陛下に云わなかった事が有る。

 彼は成人すれば冒険者になるつもりだと、無理強いで無く冒険者には仕事を依頼出来る。彼が納得出来れば陛下の望みにも協力してくれるだろう。

 

 翌日再び陛下より呼び出しが在った。

 十日後に諸国の大使や国内外の貴族を招いた夜会がある、その時に進化種のレッド二体を伯爵からの献上品としてお披露目の後王都の冒険者ギルドに引き渡すので用意しておいてくれと。

 

 「エスコンティ伯よ討伐者の身元を明かす気は無いのだな」

 

 「はい陛下、その約束で譲り受けました。いま一つ陛下にでは無く王家の方々にささやかな献上品が御座います」

 

 「ほう我が家族にか?」

 

 「はい火炎蜂の蜜を二壷程ですがお受け取り頂ければ幸甚に御座います」


 ◇  ◇  ◇

 

 夜会当日打ち合わせの為ギルドマスターと運搬係を供なって早めに王宮に入る。


 陛下と宰相閣下と三人で密談となる。

 

 「エスコンティ伯爵よ近年傍若無人に振る舞う貴族供がおるのは知っておるな」

 

 「はい、御親族の方々も含めて色々画策している様で御座いますね」

 

 「そう情けない事に御親族の方々もだよ。今夜進化種のゴールデンベアとブラックウルフ二体のレッドを出せばどうなると思う」

 

 「彼のお方なら『討伐者を出せ!召し抱えて遣わす』と申されましょう」

 

 「そう、だが代役は立てられない」

 

 「代役は無理でしょうね。必ず実力を示せとなりますから」

 

 「どうすれば良い。討伐者不在では」

 

 「陛下は彼の方々をどうされたいのですか」

 

 「エスコンティ伯爵!」

 

 宰相閣下が堪らず口を出す。

 暫し沈黙の後。

 

 「排除したい。殺す気は無いが爵位剥奪の後永年蟄居させる。後継者には爵位の降格と領地の削減又は転封で治めたい」

 

 「では本日は私からの献上品だと発表して下さい。討伐者の名を聞かれたら私が存じておる陛下は討伐者の名前など興味が無いとお答え下さい」

 

 「呼べるのか!」

 

 「陛下の覚悟は聞かせて頂きました。もう一つ冒険者に対し、国王陛下として覚悟と度量を示して下さい。されば確約は無理ですが呼べるでしょう」

 

 「何なりと」

 

 「一筆頂きたいのです。『エルゴア王国国王シャイニー・エクスノール・エルゴア国王陛下以下王家とその家臣たる貴族の全てに対し彼の冒険者は如何なる言動無礼も勝手たるべし』と、そして陛下が保障し庇護すれば良いのです」

 

 「そりゃー騒動になるな」

 

 宰相閣下がぼそりと呟く。

 

 「書面と発表は謁見の時が宜しいかと。今夜は諸国の大使や貴族も多数招待していますからお家騒動は見せられません」

 

 「呼べる保障は」

 

 「彼の者は現在成人前の少年です。側近が最初に出会った時は未だ14才でした」

 

 「「14才!、少年!」」

 

 又陛下と宰相が呆けて現実逃避している。

 

 「彼は成人すれば冒険者になる予定です、依頼があり納得すれば受けて貰えます」

 

 「まさかまさか14・・・」

 

 「現に私は彼に依頼し二ヶ月少々で周囲約20.700メートル高さ14メートル厚さ2メートルの城壁を金貨2.200枚で造りました」

 

 「伯爵の云っている事は判る。が理解出来ない、頭が着いて来ない」

 

 陛下の情けないぼやきが聞こえるが華麗に無視する。

 

 「取りあえず今夜はお披露目で諸国の方々や貴族共のど肝を抜いて遣りましょう。討伐者は私エスコンティが知っていると、責任を丸投げして下さればそれで宜しいです。何せ現物が有りますから」

 

 「討伐者の謁見の話は明日の午後から話し合ましょう」

 

 夜会は大盛況で在った、何せ王家から面白い出し物が有ると事前に連絡が在ったものだから多くの諸国の大使や国内外の貴族が参集していた。

 

 宴も酣となり国王陛下の重大発表が在るとの触れがでて会場が静まりかえる。

 宰相閣下が壇上で咳ばらい一つの後、エスコンティ伯爵から国王陛下に献上の品が在るとの声明。

 拍子抜けする面々を無視して全ての人々を大ホールの壁際に寄せる。

 徐にエスコンティ伯爵と顔を隠した冒険者ギルドの運搬係が登場しエスコンティ伯爵が口上を述べる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る