第17話 茶番劇高見の見物
「無礼者! 国王陛下の御前である! かぶり物を取り跪け!」
「何様の積もりだ! エスコンティ伯は、何故この様な無礼な輩を謁見の間に引き入れた!」
「顔を見せろ! 屑が!」
「流民風情が、分を弁えろ!」
「衛兵、其奴を跪かせろ!」
次々に沸き起こる怒号と罵声、俺は幕が上がったと考えながら、一際高圧的に怒声をあげる男を見つめると手の平を見せ軽く肩を竦める。
逸れにしても、怒声罵声の全てが感嘆符付きのオンパレードじゃありませんか。
平民の挑発に、怒髪天を衝くとは正に之れだな。
怒り狂った貴族の一団と追従する者達。
俺に冷ややかな視線を向けて来る者と、そんな彼らを冷ややかに見つめる一団
「喧しい!!! 陛下の御前で在る。分を弁えろ!!」
近衛騎士団長の怒声に、一瞬にして沈黙する一団
「騎士団長! その無礼な男を何故咎めぬ!」
おっ、勇気ある発言(蛮勇だな)
「お前達は先ほど予が申した事を聞いてはおらぬのか? 宰相、先程予が申した事を今一度彼らに教えてやれ」
「陛下は、これから予が会う相手には、エルゴア王国国王、シャイニー・エクスノール・エルゴア以下、王家とその家臣たる貴族の全てに対しアルバートは如何なる言動無礼も勝手たるべし。との一筆を認め与えて有る心せよと、その後念を押して」
そこで言葉を切り、閲見室で騒ぎ立てた貴族達をジロリと睨み付ける。
「アルバートに対し地位や権威に依る如何なる威嚇や言動も厳罰に処す。と申されました」
「お前達は予を何だと思っているのだ。騎士団長、先程から好き勝手に騒ぎ立てていた者達を、全て拘束せよ」
近衛騎士団長の合図を受け、公爵が玉座の傍らに控えていた騎士に引き倒される。
逸れを合図に侯爵伯爵子爵と、騒ぎ立てた全ての者が近衛騎士に引き倒され拘束される。
見渡せば概ね6、7人に一人は騎士に拘束されている。
「お前達は予を侮り過ぎだな。あれ程念を押してさえそれを無視し、予とアルバートの会談を邪魔した。其奴等をそれぞれの控室にて拘束しておけ」
オーセン宰相が国王の目配せを受け、静かに謁見の間から下がる。
推測だが拘束した貴族の護衛騎士達の武装解除と監禁だな。
この調子だと拘束された貴族の王都の各屋敷には王国騎士団が派遣されているのは間違いなさそうだ。
江戸時代なら上意書を示して閉門蟄居を申し渡すのだろうが、該当貴族の屋敷を封鎖貴族家の騎士の武装解除にと大忙しだろうな。
「アルバート、恥を晒したな許せ」
要らぬ事は言わぬが吉、軽く腰を折るだけにする。
「別室でゆっくりと話したいので、暫し待ってくれ」
国王は静まりかえる謁見の間で、身動ぎもせず事の成り行きに驚く貴族達を見渡し。
「先程宰相からも聞いたと思うが再度念を押して於く、エルゴア王国国王、シャイニー・エクスノール・エルゴア以下、王家とその家臣たる貴族の全てに対しアルバートは如何なる言動無礼も勝手たるべし。との一筆を認め与えている。心せよ、アルバートに対し地位や権威に依る如何なる威嚇や言動も厳罰に処す。手を出すのなら覚悟を持ってせよ」
静まりかえる閲見の間で、俺は謝意を現す為に45度の最敬礼で応える。
「エスコンティ伯爵、以後も卿の統治する地にアルバートが住まう限り、支援を頼む」
「はっ、心得ております」
国王陛下が静かに謁見の間から下がり、エスコンティ伯爵様と手持ち無沙汰にしていると、従者が呼びに来てくれた。
「エスコンティ伯爵様アルバート様、陛下がお呼びです」
* * * * * * * *
「エスコンティ伯爵様アルバート様です」
従者が俺達に声を掛け、ドアを開けると脇に下がり一礼する。
うむ流石は王家に仕える従者だね、格好いいわ。
部屋に入ると、国王陛下がソファーに深く腰を沈めお茶を飲んでいた。
「礼は不要だ、座って茶でも飲め」
思いっきりざっくばらんになってますやん、陛下。
「この後どうすべきかな、アルバート」
軽く小首を傾げ陛下と伯爵を伺う、何やら話しが出来上がっている様子なので、先程の推測を述べる。
「拘束した貴族の王都の屋敷を抑え別命在るまで家族は蟄居謹慎、護衛の騎士達は武装解除の後一室に監禁かな」
「ふむ」
「それと拘束した各貴族の館や王宮の貴族控室の捜査。拘束した貴族は永年蟄居でしょうかね。無傷で嫡子に爵位の継承は無理でしょうから降格と領地の縮小転封に高額の罰金を課して力を削ぐ、かな。貴族の領地の反乱防止の為には領地の家族は即刻王都の屋敷に呼び寄せ領地は一時官僚の手に委ねる・・・って処ですか」
「アルバート、お前本当に14才かぁ?」
「15才になっています」
陛下の視線に気づいた伯爵様が「私はアルバートに依頼はすれど要求はしませんし、詮索も致しません」
そう告げて、伯爵様が肩を竦めて陛下を見る。
「今回の功績は大きいぞ、報償は何を望む」
伯爵様が困った顔をして首を横に振る。
「陞爵も領地も要らぬのか」
「領都エルクハイムの城壁を300m押し広げて、新たな城壁を築いたばかりです。領地を移りたいとも、爵位を上げたいとも思っておりませんので」
「まぁその辺はまた後ほどな。アルバートはどうだ何か欲しい物は在るか」
「あー、魔獣野獣の在庫が溜まり過ぎて処分したいのです。せめて十頭程度は纏めて売りにに出したいのですが」
「それは王都の冒険者ギルドに連絡しておこう。というかオークションに出す様な物を多数持っているのだな。純白の狐でレッドとか言っていたが」
「はい冒険者ギルドの図鑑には無い種類で拙い鑑定では狐・美味しい・危険としか鑑定出来ません」
国王様爆笑しているよ。気分が悪いので口封じをしてやろう。
「陛下少し献上したい物がありますが鑑定能力の高い方をお呼び下さいませんか。果物二種類と果実酒です」
伯爵様、頬が引き攣ってますよ。
陛下は面白そうな顔をしているので、期待してますね。
従者に大皿を一つと大きめの木箱に、台車を一つ要求する。
大皿には紅玉・・・グラデーションレッドを山盛りにし、木箱には妖精の実をって大きくて数が入らないので四つ程と発酵した物を二つ出す。
妖精の実は初めて見ると呟き、口を切っている二つに興味を示す
「これは発酵しています。この果実には果肉が無く果汁と種のみです。果汁も美味しいのですが口を開け一晩おくと発酵を始めて酒になります」
鑑定をした結果無毒果汁美味、果汁発酵した物は美酒と出た。グラデーションレッドも味香り良しとの結果だ。
果実二つと発酵している物を厨房に送り果実は切り分けて皿に、発酵酒はデキャンタに入れて持って来させる。
ジュース用のグラスは三つ有るのに発酵酒用のグラスが二つしか無い、ぶんむくれだわ。
先ず伯爵様が毒味と証して香りを楽しみ酒を口に含んで・・・良い笑顔だぜ。
陛下が待ちきれずグラスに手を伸ばす、一口含んで鼻から息を抜き、おって顔をする。
もう残りは出してやらないからな。
宰相閣下が何時の間にか座っていて紅玉・・・グラデーションレッドをしゃくしゃく食べている。
「おっそうだ」
陛下が酒のグラスを片手に内懐を探り、一枚のカードを差し出してきた。
「アルバート、これをやろう」
グラスを片手に、伯爵様が噴き出した。
名刺サイズ、漆黒に金色の王家の紋章浮かび、裏に俺の名前とエルクハイムの文字
宰相閣下が説明してくれた。
国内最強カード、通称ブラックカードで国内なら如何なる街もフリーパスだし、貴族にも面会を強要出来る便利物だと。
しかも、冒険者ギルドと商業ギルドで金の出し入れが出来ます。
どちらのギルドに金を預けてもどちらでも出し入れ出来る優れもので、後でカードに魔力を流しておくようにと言われた。
此って、ほぼ無敵!
「これって、ハイド男爵が渡してくれたコインの上位版ですか?」
伯爵様がグラスを掲げて、ウンウン頷きながら笑っている。
酔っ払いの相手よりも、せっかく王都に居るのだから見物とお買い物を楽しみたいので、とっとと帰りましょうよ伯爵様。
「白い狐は後ほど連絡するので、その時に見せてくれ。気に入れば買い取るぞ」
陛下グラスを掲げて呑む気満々ですが、青い顔をしたお貴族様が大量に待っていますよ。
* * * * * * * *
騒ぎも落ち着いたので、白い狐が見たいとの伝言が伯爵様経由で来た。
王宮に行くと、王都冒険者ギルドのギルドマスターを紹介された。
挨拶をして何用かと尋ねると、貴族や大商人も集まっていて俺の出す魔獣の品評会兼即売会だと言われた。
近衛騎士の屋内訓練場に行くと、大勢の人と暇そうな近衛騎士が多数、明らかに非番の者だ。
陛下と宰相が現れると、皆一斉に頭を下げる。
「陛下、何も聞いていませんが何の集まりですか」
「うむ、すまない。アルバートに貰った、妖精の実で造る酒を酌み交わした者達に、白い狐の事を話していたら我も我もとなってのう」
「名も顔も知られてしまったので魔獣を売るのは問題ありませんが、事前に一言言って下さい。嫌なら逃げますので」
「おいおい逃げる気満々か。まぁ皆裕福な者達で買い渋る事はなさそうだぞ」
「はいはい、で宰相閣下は何故」
「アルバートは暗闇の森から珍品を持ち込むので、今日も何かないかと思ってな。それに妖精の実で造る酒が妙に後を引いてな、妻も妖精の実が有るなら購ってこいとの命令じゃ」
「皆さん大変ですねぇ。んじゃ出しますか、最初は白い狐ね。これ今日は売りませんよ。皆さんもっと後ろに下がって下さい」
皆を下がらせた場所を薄く固めると、白い狐を出す。
体高約2.5m、体長約9.5m、鼻先から尻尾の先まで約16m。
「仕留めて即座にマジックバックに入れているために、未だ血が流れていますのでご注意下さい」
一瞬ウォーって声が上がる。
ギルマスのヤンセンさんが「初めて見るし、聞いたことも無い固体だな。これをオークションに掛けたら天井知らずになるぞ」と怖い事を言う。
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