第16話 依頼
オーセン宰相が堪らずに口を出す。
暫しの沈黙の後「排除したい。殺す気は無いが、爵位剥奪の後永年蟄居させる。後継者には爵位の降格と領地の削減又は転封で済ませたい」
「問われれば、私からの献上品だとお答え下さい。討伐者の名は私が存じている、陛下は討伐者の名前など興味が無いとお答え下さい」
「呼べるのか!」
「陛下の覚悟は聞かせて頂きました。もう一つ覚悟を示して下さい。さすれば確約は無理ですが、呼べると思います」
「何なりと」
「一筆頂きたいのです。『エルゴア王国国王シャイニー・エクスノール・エルゴア国王陛下以下、王家とその家臣たる貴族の全てに対し彼の冒険者は如何なる言動無礼も勝手たるべし』と、そして陛下が保障し庇護すれば良いのです」
「そりゃー騒動になるな」
オーセン宰相がぼそりと呟く。
「書面と発表は謁見の時が宜しいかと。夜会の時は諸国の大使や貴族も多数招待していますので、お家騒動は見せられません」
「呼べる保障は」
「彼の者は現在成人前の少年です。側近が最初に出会った時は未だ14才でした。彼は成人すれば冒険者になる予定ですので、依頼があり納得すれば受けて貰えます」
「14才! 少年!」
見事に声が揃ったが、国王陛下と宰相は呆けて現実逃避している。
「現に私は彼に仕事を依頼し、二ヶ月少々で周囲約20.700m高さ14m厚さ2mの城壁を、金貨1.100枚で造りました」
「伯爵の言っている事は判るが・・・理解出来ない。頭がついて来ない」
陛下の情けないぼやきが聞こえるが、華麗に無視する。
* * * * * * * *
「取りあえず今夜はお披露目で諸国の方々や貴族共のど肝を抜いて遣りましょう。討伐者は私エスコンティが知っていると、責任を丸投げして下さればそれで宜しいのです。何せ現物が有りますので」
「討伐者との謁見の話は、明日の午後から話し合ましょう」
夜会は大盛況で在った、何せ王家から面白い出し物が有ると事前に連絡が在ったものだから諸国の大使や国内外の貴族達が多数参集していた。
宴もたけなわとなり国王陛下より重大発表があるとの触れで、会場が静まりかえる。
宰相が壇上で咳ばらいを一つの後、エスコンティ伯爵より国王陛下に献上された物が有るとの発表。
拍子抜けする面々を無視して、全ての招待客を大ホールの壁際に寄せる。
徐にエスコンティ伯爵と顔を隠した冒険者ギルドの運搬係が登場し、エスコンティ伯爵が口上を述べる。
「今宵、国王陛下に対し、世に類い稀なる一品を献上出来る喜びに身も打ち震える思いで御座います。と芝居掛かった口上の後で、顔を隠した冒険者ギルドの運搬係が二体の魔獣を出す」
冒険者ギルドの運搬係は此処でお役御免で静かに退場。
静まりかえる会場に、エスコンティ伯爵の声が響き渡る。
「私カナード・エスコンティが、ゴールデンベアとブラックウルフの最終進化種である、レッド種二体を国王陛下に献上致しました。皆様存分に御検分下さい」
と声高らかに煽る。
「討伐後即座にマジックバックに入れた為に未だ血が足れておりますが額のレッド種の証で在る真紅の文様をご確認下さい。討伐記録が見当たらない一品でしかも当二体は顎下から脳天への一撃で仕留められています」
甲高い悲鳴が響き渡り、震える者、泡を噴いて倒れる者座り込んでしまう者と、阿鼻叫喚とは之かと、国王陛下と宰相にエスコンティ伯の三人がそれを見てほくそ笑む。
大盛況か阿鼻叫喚かはともあれ、夜会は無事に終わった。
討伐者は誰かの問いに、エスコンティ伯爵は微笑みと共に、討伐者は現在暗闇の森探索に行っておりますと答える。
会わせろとの要求には
「討伐者が私の下に狩りの獲物を持参次第王都に呼びましょう」としれっと返答する。
自分が取り込む為に逢わせないのではと勘繰る輩には、暗闇の森に討伐者が居ますので会いに行かれますか、討伐者が向かった森の入口迄は御案内出来ますよと答える。
「私は陛下より、討伐者が現れる次第謁見したいので連れて来る様、仰せつかっております。謁見の時には、陛下よりの触れが出るでしょうからその時に会えますよ」
そう答えた数日後、ハイド男爵より早馬で連絡があり、アルバートが森より帰還したと。
使者に予め用意の書状を持たせ送り返す。
書状には、国王陛下が謁見を"希望"されていること。
それに際し条件として〔エルゴア王国国王シャイニー・エクスノール・エルゴア国王陛下以下、王家とその家臣たる貴族の全てに対しアルバートは如何なる言動無礼も勝手たるべし〕
との一筆を認め、謁見の場で国王陛下が保障し庇護すると宣言する確約を貰っていること。
つまり謁見の場で国王陛下に膝づく必要も無いとの事だ。
非公式謁見に際し極少数の者には顔を晒す必要が在るが、その後の公式謁見の場で顔を晒す必要は無い。
アルバートに対し地位や権威に依る如何なる威嚇や言動も厳罰に処す。
アルバートが保有する魔獣野獣の類いは、王都で国王陛下の名の下に数に制限無く自由に売却しても良いと記されている。
連絡を受け宰相閣下に報告すると共に、上記の内容を認めた条件を提示し王都来訪と謁見を依頼したと報告した。
アルバートの保有する魔獣や野獣を、数量の制限無く自由に売却出来る権利を条件に謁見を依頼したのだ。
彼はいずれ冒険者になる予定なので、依頼なら受けると言い。現に城壁建設の依頼を受けたし、レッド種二体の取引にも応じた。
「彼は難物ですな」
「いえ、地位や権威の横暴に屈する気が無いだけでしょう。出した書状の内容で依頼に応じて貰えると思っています」
返事は5日後に来た。
アルバートが了解した事。数日後に伯爵家の馬車で王都に向かうと。
その書状を持って再び宰相オーセンの下に向かった。
最近は王宮に頻繁に出入りし、オーセン宰相と密談ばかりしているので噂が飛び交っているらしい。
謁見予定日は20日後に決まりその旨を早馬にて送り、王都に向かう馬車の位置は随時早馬にて連絡せよと厳命。
今回は国内貴族のみに通達がなされた。
オーセン宰相は近衛騎士団の中に潜む、問題の貴族達に繋がる騎士の選別に忙しいらしい。
当日該当騎士達は一堂に集められ監視下におかれた。
それ以外の騎士達は謁見の間に控える事になるが、その数が異様に多くなるのを不思議がっていた。
オーセン宰相より件の謁見者は、魔獣のレッド種を一撃で倒す猛者なので、何か有ればこの数でも心許ないので、気を抜かない様に叱咤されている。
四日前にアルバートが王都に到着しエスコンティ伯爵邸に入る。
エスコンティ伯爵の家族との顔会わせは無く、謁見の用意と打ち合わせを済ませる。
公式謁見の前日エスコンティ伯爵と共に王宮に向かい、オーセン宰相と内密の面談を装った非公式謁見。
アルバートの出で立ちは踝迄有る長いローブにフードを被り顔の前面は沙の布で人相が判別出来ないものだ。
伯爵と二人従者の案内で部屋に入り待機、近衛騎士に守られた立派な身なりの二人が入室する。
近衛騎士を室外で待機する様に命じる国王陛下。
「アルバートか良く来てくれた、予がシャイニー・エクスノール・エルゴアである」
「エスコンティ伯爵領、エルクハイム在のアルバートです」
フードを上げ軽く一揖する。
「座ってくれ」
陛下の一言で、向かい合って着席する。
「今回無理を言って来て貰ったのは他でもない、茶番劇に付き合って貰う為だ」
「はい伯爵様より大筋は伺っています。私に危害が及ばない限り反撃は致しません」
「うむ、明日の謁見場所には多くの近衛騎士が待機しているが、茶番の後始末役でな気にしなくてよいぞ」
そう言って隣に控える宰相に頷く。
傍らに置かれた革袋を二つ前に置き迷惑料ですと差し出す。
「依頼は受けると聞いたのでな、茶番劇の出演料じゃ」
ニヤリと笑う国王陛下、ならば軽く頭を下げて遠慮無く頂戴する。
「処で魔獣野獣を多数保有していると聞いたが、珍しい物は有るのかな」
「はい冒険者ギルドの図鑑にもない、純白の狐です。外観から鑑みてシルバーフォックスの類いと思われますが、進化種のレッドです」
「ほおー、是非見て見たいな」
「茶番が終われば何時でも」
ニヤリと笑い、可愛く小首を傾げて答える。
可愛いと見るか小生意気と見るかは、見る者の主観に依るが。
玉座の間には、エルゴア王国の全てといって良い程の貴族が参集していた。
居並ぶ貴族達は、ゴールデンベアのレッドとブラックウルフのレッド二体の進化種を討伐した猛者に対する、興味と期待に沸き立っていた。
従者の合図と共に宰相や近衛騎士団長が入室し玉座の左右に控え、最後に国王陛下が姿を現す。
陛下の姿が現れると同時に、謁見の間の左右に控える貴族達が一斉に跪く。
「楽にせよ。皆に伝えおく事が有る。これから予が会う相手には、エルゴア王国国王、シャイニー・エクスノール・エルゴア以下、王家とその家臣たる貴族の全てに対しアルバートは如何なる言動無礼も勝手たるべし。との一筆を認め与えて有る。心せよ」
暫し貴族達の反応を確かめた後再び宣言する。
「アルバートに対し地位や権威に依る如何なる威嚇や言動も厳罰に処すので肝に銘じておけ」
近衛騎士団長が背後に居並ぶ近衛騎士達に「これから現れる相手は、ゴールデンベアやブラックウルフの進化種を一撃の下に屠る猛者である。外見に惑わされず心せよ!」と檄を飛ばす。
「はっ」
騎士達の返答を受け、扉の側に控える従者に合図を送ると、従者は高らかに入場者の名を告げる。
「カナード・エスコンティ伯爵様、アルバート様」
エスコンティ伯爵と並んで謁見の間に入る。
教えられた場所でエスコンティ伯爵は跪くが、隣にいる俺は立ったまま軽く一揖する。
「カナード・エスコンティ伯爵領、エルクハイム在、アルバートです」
「良く参った。予がエルゴア王国国王、シャイニー・エクスノール・エルゴアで在る」
「お招き感謝致します」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます