第16話 王家への献上品

 エスコンティ伯爵様がギルドマスターとマジックバッグでの運搬係を供なって王都に出発したのは新たな城壁が完成して一ヶ月程してからだ。

 前日久し振りに伯爵邸に招かれ執務室に行くと、ギルドマスターとお供の方が待っていた。

 

 遅くなったが明日献上の二体を持って王都に行くので彼に渡してくれと言われた。

 兵士の訓練場にてゴールデンベアのレッド種とブラックウルフのレッド種二体を並べる。

 伯爵様の確認後ギルドマスターのお供の方が、マジックバッグに収納し執務室に引き返して旅の予定等の細部を詰めている。

 話しが一段落した処で徐に壷を二つ取り出す。

 

 「伯爵様これを王家の方々への献上品に加えては如何です」

 

 「「おいそれは!」」

 

 ギルドマスターとハイド男爵が声を揃え、伯爵様が不審顔に。

 

 「滅多に手に入らない物だと伺っておりますので王家の御家族の方々がお慶びになられるかと」

 

 「それは?」

 

 伯爵様の不審そうな問い掛けに。

 

 「火炎蜂の蜜だよな」

 

 「はい、鑑定して頂ければ安全な物だと判りますので、但し出所は伯爵様として」

 

 「判った、出所は秘密にして有り難く献上品に加えさせて貰おう」

 

 「未だどちらのギルドにも売ってはいないよな」

 

 ハイド男爵の問い掛けに黙って頷くと、ギルドマスターが王都にも無い筈だ喜ばれるだろうと呟く。

 

 「手持ちを売り出すのは一ヶ月は待ってくれるか、献上前に市場に出回るのは都合が悪い」

 

 伯爵様にそう言われて黙って頷いておく。

 

 「以前にも言ったが火炎蜂の蜜は小さな壷一つで金貨2枚は確実だが、最近オークションに出た記録が無い。火炎蜂の巣は何故か森の浅い所では滅多に見つからない、見つけても火炎蜂の巣を襲うのは無謀だ。故に火炎蜂の蜜は市場に出回っても少量なんだよ、今なら王家にも在庫は無い筈だから喜ばれるぞ」

 

 ギルドマスターの言葉に、伯爵様が徐に咳ばらいを一つする。

 

 「未だ持っているのか」

 

 「40以上有ります。この間又少し手に入りましたから」

 

 「すまんが2壷、いや出来れば3壷譲って欲しいんだ、貴族の付き合いの手土産には最高の品になるからな」

 

 「手土産なら之ではどうですかと大徳利を出す。30本で一壷分ですし、使い勝手も良いですよ」

 

 大振りの徳利で一本で五合は楽に入る物を出してみた。

 それは、と見慣れぬ容器に不思議な顔で問われる。

 壷では使い辛いので小分けにしています、手土産ならこちらの方が良いかと。

 

 伯爵様唸りながら同じ容器で壷三つ分あるかと聞くので、売るにも使うにも量が多過ぎるので詰め替えていますからと答えると。

 領主様即座に壷三つ分の90本お買い上げ下さいました。

 代金は俺が徳利でギルドに卸す代金と同額を後日支払う事で合意。

 ギルドマスターが2~3本づつオークションに出すから価格は未定ですね、と答える。

 別室で執事長のナリヤードに引き渡した。

 

 ギルドマスター達は今日伯爵邸に泊まり明日早朝伯爵家の馬車と冒険者ギルドの馬車2台で王都に向かう手筈だと。

 

 早朝伯爵家の馬車(馬は居なくて驢馬)には総勢30名の護衛が冒険者ギルドの馬車にも30名の護衛が付き冒険者ギルドと伯爵家の馬車挟んで15名づつ前後に付いて伯爵家の護衛の騎士達は馬車の左右を進む。

 護衛は全員驢馬に跨がり堂々たる隊列を組んでの出立は壮観であった。

 

 俺は無事を祈ってお見送りしてから冒険者ギルドに向かった。

 

 ◇  ◇  ◇

 

 ギルドでサブマスターを呼び出して又少し在庫処分を依頼する。

 内緒でゴールデンベアのレッド種一体を解体して貰いお肉は引き取りで、皮は鞣して魔石や他の有用な物と合わせて後日少しづつ売り払って貰う

 野獣や魔獣は割合簡単に売れるがパープル種とレッド種が全然減らないので何とかしたい。

 

 漸くレッド種のお肉が食べられると思うと顔がニマニマして来る。

 

 三日後に冒険者ギルドに行きサブマスターと解体場に行きお肉の受け取り、解体費用は他の魔獣を売った代金から引いて残金を会議室で受け取る。

 ホーンラビット20匹、グレイウルフ6頭、森林羊8頭、森牛3頭、グレイスネイク1匹を売ったので合計金貨6枚と銀貨1枚になった。

 魔石や貴重部位は後日精算となる。

 

 サブマスのグリムスさんに日頃のお礼として、ゴールデンベアのお肉一塊を渡し礼を言って冒険者ギルドを出る。

 

 ニコニコ顔で帰っていると猫人のヘムとばったり出会う。

 今夜は美味しいお肉だから他の五人も連れて食べにおいでと誘う。

 執事のノイエマンに来ることを伝えておくからねと手を振って別れる。

 

 帰るとヤーナが迎えて呉れたので一緒に調理場に行き料理長のコステロにゴールデンベアのレッド種のお肉、今夜ウーニャ達も来るからステーキにしてとお願い。

 固まるヤーナとコステロを置いて居間に行く。

 

 思い出して再び調理場へ、未だ固まっているヤーナとコステロに火炎蜂の蜜入り徳利を十本渡す。

 火炎蜂の蜜だからお茶に入れてね、必要なら料理にも使って良いからと伝える。

 但し家からの持ち出しは禁止と釘を刺す。

 ヤーナにはお茶をお願いして再び居間に戻る。

 

 ミリンディがお茶とクッキーを置いて下がると妖精族の子供達が跳込んで来る。天井付近にスイングドアを付けているからね。

 寝室の奥には幅3メートル2~4階に屋根裏部屋を通した隠し部屋があるのだ。

 隠し部屋と所有地を一回りする住居の屋根裏が妖精族の住居になっているが、俺の部屋に近い所が良いらしい。

 

 隠し部屋に繋がっていて、寝室・バスルーム・居間とスイングドアで直通だ。

 

 

 

 《はいはい、一つで良いかな》

 

 

 

 この間の名も知らぬ果実を一つ出してティーカップの皿に乗せて出す。

 お茶に徳利から火炎蜂の蜜を入れていると

 

 《あー、蜜が有る♪》

 

 騒がしい、幼稚園か保育園か此処は!

 

 冒険者ギルドで借りた魔物魔獣一覧図鑑や薬草香草図鑑を広げるが、子供達が騒ぐわ暴れるわ頭に落ちて来る纏わり付く乱暴狼藉って言葉を体現する場と間違えている。

 

 夕食の時間になり皆が集まる迄サロンでお喋り、キルザ・サイナム・ウーニャ・ヘムと順次集まり全員揃った処で食堂に行く。

 各自席に着くとぶ厚く切られたお肉が脂の弾ける音と匂いと共に運ばれて来て皆の注目的だ。

 

「之がゴールデンベアのレッドのお肉」

 

 誰とも判らない呟きが聞こえる。

 多分、幻聴だよね。

 

 「さあ冷めないうちに食べよう」

 

 軽く切れるお肉を一切れ口に含む!

 

 「なんじゃーこりゃー!!!」

 

 何処かで聞いた様な台詞を誰かが叫ぶ!

 後は呻き声だけで暫くすると沈黙、カトラリーの音が僅かに聞こえる静かな夕食となった。

 皆黙々と食べ溜め息と共にカトラリーを置く、漸くお肉の感想が語られる頃にデザートが配られる。

 見たことも無い果実、日本で言えば一番大きな林檎を一回り大きくした感じだ。

 薄い紅色のグラデーションの実を半分に切り、伏せて出された物を見て何の実か質問が出る。

 

 「ギルドの図鑑で調べたら、紅玉って名前で滅多に採れないらしいよ」

 

 「はぁーっ、こ、こ、紅玉だって」

 

 悲鳴の様な声のウーニャ。

 

 「滅多に市場に出ない超貴重な果実で、普通オークションで手に入れるものだぞ」

 

 怒られているのかと勘違いする声でご指摘。

 

 「森の奥で沢山手に入ったから遠慮せずにどうぞ。話しの種にも一度は味わってみなよ」

 

 今日の食事会は皆惚けた顔をして帰って行ったよ。

 

 勿論使用人の皆にも漏れなく振る舞ったよ。

 王様や貴族様より良い物を食べているねと、ほくほく顔で呟いて居たらしい。

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