第15話 王家の度量
王家へ、ゴールデンベアとブラックウルフのレッド種を献上したい旨の申入れをしても、一向に連絡が無かったが漸く王都に参上せよとの連絡が来た。
王家の封蝋がなされた書状にはゴールデンベアとブラックウルフのレッド種を持参し、王都に到着次第宰相に連絡せよと合った。
ゴールデンベアとブラックウルフのレッド種二体の知らせに、信頼出来ずに献上を受ける前に確認しようとする姑息な事に鼻白む。
最もこの二種のレッド種が討伐された記録が見当たらないのに、いきなり二体なので無理もないか。
屋敷でアルバートからゴールデンベアとブラックウルフのレッド種二体を受け取り、冒険者ギルドの運搬専門の者がマジックバックに収納。
翌日2台の馬車で王都に向かった。
伯爵家の護衛騎士30名と冒険者ギルドの護衛30名が、2台の馬車の前後左右を囲んでの旅は、物々し過ぎるが仕方がない。
王都に到着し伯爵邸に入ると、執事に用意の書状を持たせ王宮に向かわせた。
何時もなら改めて王家の使いが返書を届けに来るのだが、返書は執事に持たせて来た。
翌日正午にゴールデンベアとブラックウルフのレッド種を持参せられたし、と、オーセン宰相の名で記されていた。
先ず宰相閣下が御検分なされるか、と笑みが零れる。
アルバートの気持ちが判るよと、皮肉な考えが浮かぶ。
翌日冒険者ギルドのギルドマスターと運搬係に、護衛の騎士30名を従えて王宮に参上、4名の護衛と共に先ずエスコンティ伯爵家の控えの間に入る。
然る後宰相閣下に面会を申し込む。
待つことなく従者が現れ、宰相閣下がお待ちですと面会場所へ先導する。
曲がりくねった通路を抜けた先は近衛騎士団の屋内訓練場で在った。
既にオーセン宰相と国王陛下が待っており、慌てて臣下の礼を執るべく膝まずく。
「良い、エスコンティ伯、久しいのう」
「陛下には御機嫌麗しゅう・・・」
「固い挨拶は抜きにして見せてもらおうか」
「はい、ですが倒して即座にマジックバックに保存していた物で、出せば血が滴り落ちて汚れますが宜しいですか」
「良い、出してみよ」
「はっ、御検分下さい」
ギルドの運搬係に合図する。
いきなり魔獣が目の前に現れる。
ゴールデンベアレッド種、体高約3.5m、体長約7m、鼻先から尾の先迄約約10m。
ブラックウルフレッド種、体高約4m、体長約9m、鼻先から尾の先迄約18m。
国王陛下とオーセン宰相に、お付きの近衛騎士や従者も魔獣の巨体を見て呆けている。
「陛下、御検分を」
伯爵に声を掛けられても、目の前の魔獣の大きさと血の匂いに膝が竦んでいる様だった。
仕方がない、陛下に獣の説明をするが討伐の様子は説明出来ない。
「冒険者ギルドに持ち込まれましたが、衆目に晒すのは不味いと討伐者に仕舞わせ、見た者には箝口令を敷きました。私が確認の為に当屋敷にて少数の者と見た以外、今回運搬の為に出したのみで未だ血が滴り硬直もしていません」
唸り続けていた国王陛下が「良くぞ之程の魔獣仕留めらる猛者がいるとは」
「陛下良く御覧下さい、二体共顎から頭にかけて一撃で仕留められています」
伯爵の言葉に、宰相が驚愕の表情のまま伯爵の顔と横たわる魔獣を二度三度見て、ゴールデンベアの頭の所に行き傷を確認する。
レッド種を示す、眉間の真紅の炎の模様が貫かれている。
ブラックウルフの傷も、額の炎の模様を貫かれているのを見て再び低い唸り声を漏らす。
ギルドの運搬係に二体を収納させクリーンの魔法で清掃させる。
陛下と宰相が落ち着いたのを確認すると。
「陛下、陛下とオーセン宰相に冒険者ギルドのマスターと四人で、重大なお話が御座います」
真剣な伯爵の声を聞き、戸惑いながらも気を引き締めた様だ。
宰相と顔を見合わせ返答に詰まる二人に「この場にいる者達に厳重な口止めを願います」
「聞こう」
陛下の一声に宰相も頷き歩き出す。
伯爵が従者に運搬係を伯爵家の控室に案内を頼み、ギルドマスターを促し陛下の後に続く。
オーセン宰相の執務室に近い部屋に招かれ、護衛の近衛騎士を扉の前で待機させる。
「申せ」
「実は今回ゴールデンベアとブラックウルフを持ち込んだ者は、未だ多数のパープル種やレッド種の魔獣を討伐しています」
声も無く顔を見合せる国王陛下と宰相。
ギルドマスターに頷くと、ギルドマスターが説明を始める。
「そもそもエスコンティ伯爵側近の知り合いが、冒険者ギルドに換金の為に魔獣や野獣を売りたいと持ち込んだのが発端です。その側近の男を介しての取引でしたが、解体場でその男が取りだしたのが、ゴールデンベアとそのパープル種とレッド種の三種、ブラウンベアとそのパープル種とレッド種の三種、ブラックウルフとパープル種とレッド種の三種、グレイウルフとパープル種とレッド種の三種、シルバーフォックスとパープル種とレッド種の三種です」
「なんと・・・それは真か?」
「ここでギルドのサブマスが獲物を出すのを止めました。が未だ有るのかとの問いかけに『オークとそのパープル種とレッド種の三種、ホーンボアとそのパープル種とレッド種の三種等、未だ沢山有ると答えました』話を聞くと『暗闇の森の奥には、こんなのばかり居る』と答えたそうです」
此処までギルドマスターに話をしてもらい、ギルドマスターはお役御免で控えの間へとさがる。
「側近が聞いた話ですと、彼は森の裂け目を超えるとも言いました。我々が谷と呼ぶ物です。それを二つ三つ超えると事もなげに」
「その話は信じられるのか」
「側近が調べた限りでは、エルクハイムの街に現れる三月程前に、森に入り、以後消息不明でした。どうしていたのか、問うと森を彷徨っていたと返答しました。先程のギルドマスターの話しだけでも、魔獣を21体出しています」
「彼は取り込めるのか」
「無理だと思います。反発されれば我が国の損失です。無理をすれば手痛い反撃を受けるでしょう」
「それ程の者か」
「土魔法ですが私の練兵所は周囲約1.000m有ります。1分も掛からず幅1m高さ10mの土槍を数百本立てました。そのすぐ後に同じく数百本の土槍を作って見せました」
「まさか・・・それ程の魔力を有するのか」
「話は未だ有ります。その後幅15m高さ10m厚さ20cmの壁を二つ作造り、片方は最大魔力を使って作ったもの片方は城壁より少し固い物だと言いました。個人の最大魔法攻撃処か多人数で魔法の一斉攻撃にもびくともしません。厚さ20cmの壁がです」
「臣下に出来ないか、必要なら爵位も授けよう」
「無理でしょう、彼は誰かに臣従する気は在りません。側近が私に逢わせる為に不作法や言葉使いに如何なる責も取らせないと約束し、私にも一筆書かせて渡しました。それ迄は買物の為に市内の案内人を付けようすれば『嫌ですよ。気に入らない相手を、武器に手を掛けて威嚇する様な人は』と言われました」
「権力に阿る気はなし・・・か」
「はい、私は彼と敵対する気は毛頭御座いません。臣下の中の権威や身分に拘る者は彼の周辺から排除しています」
「そこまで必要か?」
「先程の二頭を見ても、彼の力量が判りませんか。ギルドマスターの話は信じられませんかギルドで彼は21体の魔獣を出しそのうち14体は進化種のパープルとレッドですよ」
少しの間を措いて伯爵が最後の言葉を投げる。
「進化種のレッド二体を見、私の話とギルドマスターの話を聞いて尚、信じることが出来ないのであれば、陛下もそれまでの人でしょう」
そう国王に告げると、エスコンティ伯爵は静かに頭を下げた。
国王と宰相が呆気に取られて伯爵を見た。
会見は終わった。
陛下や宰相がどう動くか、行動の如何に依っては王家が傾くと見ている。
伯爵が国王陛下に言わなかった事がある。
彼は成人すれば冒険者になるつもりだと言った。
無理強いでなく冒険者には仕事を依頼出来るので、彼が納得すれば陛下の望みにも協力してくれるだろう。
* * * * * * * *
翌日、再び陛下より呼び出しを受けた。
十日後に諸国の大使や国内外の貴族を招いた夜会が行われるので、その時に進化種のレッド二体を伯爵からの献上品として披露目の後、王都の冒険者ギルドに引き渡すので用意しておくようにと。
「エスコンティ伯よ、討伐者の身元を明かす気は無いのだな」
「陛下、その約束で譲り受けました。いま一つ陛下にでは無く王家の方々にささやかな献上品が御座います」
「ほう我が家族にか?」
「はい火炎蜂の蜜を二壷程ですが、お受け取り頂ければ幸に御座います」
鑑定係とワゴンの用意を願い、取り出した壺二つをワゴンに乗せる。
鑑定係が即座に鑑定し、火炎鉢の蜜に相違ございませんと告げて頭を下げる。
「エスコンティよ、近々夜会がある。其方の献上品を、その場にて披露したいが出来るか」
「問題御座いません」
* * * * * * * *
夜会当日打ち合わせの為に早めに王宮に入り、国王陛下にオーセン宰相と三人で密談となる。
「エスコンティ伯よ、近年傍若無人に振る舞う貴族供がおるのは知っておるな」
「はい、御親族の方々も含めて色々画策している様で御座いますね」
「そうだ、情けない事に御親族の方々もだよ。今夜進化種のゴールデンベアとブラックウルフ二体のレッド種を出せば、どうなると思う」
「彼のお方なら『討伐者を出せ! 召し抱えて遣わす』と申されましょう」
「そう、だが代役は立てられない」
「代役は無理でしょうね。必ず実力を示せとなりますので」
「どうすれば良い。討伐者不在では・・・」
「陛下は、彼の方々をどうなされたいのですか」
「エスコンティ伯爵!」
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