第13話 魔法のあれこれ

 「以前にも言ったが、火炎蜂の蜜は小さな壷一つで金貨2枚は確実だが、最近オークションに出た記憶が無い。火炎蜂の巣は何故か森の浅い所では滅多に見つからない、見つけても火炎蜂の巣を襲うのは無謀だ。故に火炎蜂の蜜は市場に出回っても少量なんだ。今なら王家にも在庫は無い筈なので、喜ばれるぞ」

 

 伯爵様が咳ばらいを一つして、徐に「未だ持っているのか」と聞いてくる。

 

 「40本以上有ります。この間、又少し手に入りましたので」

 

 「すまんが2壷、いや出来れば3壷譲って欲しいんだ、貴族の付き合いの手土産には最高の品になるからな」

 

 「手土産ならこれではどうですかと大徳利を出す。30本で一壷分ですし、使い勝手も良いですよ」

 

 大振りの徳利で、五合は楽に入る物を出してみた。

 それは、と見慣れぬ容器に不思議な顔で問われる。

 壷では使い辛いので小分けにしています、手土産ならこちらの方が良いかと。

 

 伯爵様唸りながら同じ容器で壷三つ分あるかと聞くので、売るにも使うにも量が多過ぎるので詰め替えていますからと答える。

 伯爵様即座に壷三つ分、90本をお買い上げ下さいました。

 代金は、俺が徳利でギルドに卸す代金と同額を後日支払う事で合意。

 ギルマスが2~3本ずつオークションに出すから価格は未定ですね、と答える。

 別室で執事長のナリヤードに引き渡した。

 

 ギルマス達は今夜伯爵邸に泊まり、明日早朝伯爵家の馬車と冒険者ギルドの馬車の2台で王都に向かう手筈だと。

 

 早朝伯爵家の馬車には総勢30名の護衛がつき、冒険者ギルドの馬車にも30名の護衛がつき、2台馬車を挟んで15名ずつが前後を進む。

 護衛は全員驢馬に跨がり、堂々たる隊列を組んでの出立は壮観であった。

 

 俺は旅の無事を祈ってお見送りしてから冒険者ギルドに向かい、サブマスを呼び出して又少し在庫処分をお願いする。

 内緒でゴールデンベアのレッド種一体を解体してもらい、お肉は引き取ると伝える。

 皮は鞣して魔石や他の有用な物と合わせて、後日少しづつ売り払ってもらう

 野獣や魔獣は割合簡単に売れるが、パープル種とレッド種が全然減らないので何とかしたい。

 

 漸くレッド種のお肉が食べられると思うと、顔がニマニマしてくる。


 三日後に冒険者ギルドに行き、サブマス立ち会いでお肉を受け取る。

 解体費用は、他の魔獣を売った代金から引き残金を会議室で受け取る。

 ホーンラビット20匹、グレイウルフ6頭,森林羊8頭,森牛3頭,グレイスネイク1匹を売ったので合計金貨6枚と銀貨1枚になった。

 魔石や貴重部位は後日精算となる。

 

 サブマスのグリムスさんに日頃のお礼として、ゴールデンベアのお肉一塊を渡し礼を言って冒険者ギルドを出る。

 

 ニコニコ顔で帰っていると、猫人のヘムとばったり出会ったので「今夜は美味しいお肉だから他の五人も連れて食べにおいで」と声を掛け、執事のノイエマンに来ることを伝えておくからねと、手を振って別れる。

 

 帰るとヤーナが迎えてくれたので一緒に調理場に行き、料理長のコステロにゴールデンベアのレッド種のお肉を渡し、今夜ウーニャ達も来るからステーキにしてとお願いする。

 レッド種のお肉と聞き、固まるヤーナとコステロを置いて居間に行く。

 

 ちょいと思い出し再び調理場へ、未だ固まっているヤーナとコステロに火炎蜂の蜜入り徳利を十本渡す。

 火炎蜂の蜜だからお茶に入れる様に言い、必要なら料理にも使って良いからと伝えておく。

 但し、家からの持ち出しは厳禁と釘を刺し、ヤーナにお茶をお願いして再び居間に戻る。

 

 ミリンディがお茶とクッキーを置いて下がると、天井近くに設けられたスイングドアから、妖精族の子供達が飛び込んで来る。

 寝室の奥には幅3m、2~3階を繋いだ隠し部屋がある。

 隠し部屋と、所有地を一回りする住居の屋根裏が妖精族の住居になっているが、俺の部屋に近い所が良いらしい。

 

 妖精族の住居は隠し部屋に繋がっていて、寝室,バスルーム,居間とスイングドアで行き来できる。

 

 《アール、美味しい実が欲しい!》

 

 《はいはい、一つで良いかな》

 

 《有り難とうなの、アール》

 

 この間の名も知らぬ果実を一つ出してティーカップの皿に乗せて出し、お茶に徳利から火炎蜂の蜜を入れていると

 

 《あー、蜜が有る♪》

 

 騒がしい、ここは幼稚園か保育所か!

 

 冒険者ギルドで借りた魔物魔獣一覧図鑑や薬草香草図鑑を広げるが、子供達が騒ぐわ暴れるわ頭に落ちて来る纏わりついたりと、俺の部屋を乱暴狼藉って言葉を体現する場と間違えている。

 

 夕食の時間になり皆が集まる迄サロンでお喋り、キルザ、サイナム、ウーニャ、ヘムと順次集まり全員揃ったところで食堂へ行く。

 各自席に着くと、ぶ厚く切られたお肉が脂の弾ける音と共に運ばれて来て、皆の注目的だ。

 

〈これがゴールデンベア、レッド種のお肉〉

 

 誰とも判らない呟きが聞こえたが、多分幻聴だよね。

 

 「さあ冷めないうちに食べよう」

 

 軽く切れるお肉を一切れ口に含む!

 

 「なんじゃ、こりゃー!!!」

 

 誰かが叫ぶが、後は呻き声と咀嚼音だけで、カトラリーの音が僅かに聞こえる静かな夕食となった。

 皆黙々と食べ、溜め息と共にカトラリーを置き、満足してお肉の感想が騙られる頃にデザートが配られる。


 見たことも無い果実、日本で言えば一番大きな林檎を一回り大きくした感じだ。

 薄い紅色のグラデーションの実を半分に切り、伏せて出された物を見て何の実かと問いかけてくる。

 

 「ギルドの図鑑で調べたら、グラデーションレッドって名前で滅多に採れないらしいよ」


 「はぁーって、グラデーションレッドだって!」


 悲鳴の様な声で叫ぶ、ウーニャ。


 「滅多に市場に出ない超貴重な果実で、普通オークションで手に入れるものだぞ」

 

 罵声を浴びせるが如くの声で指摘された。


 「森の奥で沢山手に入ったから遠慮せずにどうぞ。話しの種にも一度は味わってみなよ」


 今日の食事会は、皆惚けた顔をして帰って行ったよ。

 勿論使用人の皆にも漏れなく振る舞った。

 皆、王様や貴族様より良い物を食べているねと、ほくほく顔で喜んでいたらしい。


 冒険者ギルドでサブマスのグリムスさんに面会、以前ギルドで魔力を測定した魔道具が欲しいのだが、どうすれば手に入るか聞いた。


 魔力測定盤と身も蓋も無い呼び名だが、冒険者ギルドや商業ギルド、教会や貴族位しか持って無いし無茶苦茶高いらしい。

 冒険者ギルドに有る魔力測定と、魔法の有無だけを判定する魔力測定盤ですら金貨200枚もすると言われた。

 魔力測定盤でも魔力と各種魔法の潜在能力の有無が測定出来る、上質な魔力測定盤なら金貨500枚は必要になるらしい。


 但し、魔法の潜在能力が有ると判定されても、発現するかどうかは神のみぞ知るだそうだ。


 金貨500枚、50.000.000ダーラ、聞けば大きな街の教会に行けば各種魔法の潜在能力判定迄出来る、魔力測定盤が有るそうだ。

 但し、銀貨5枚の嬉捨が必要になる。

 まぁ50.000.000ダーラもする物を使うので当然だな。

 銀貨5枚で、魔力と魔法の潜在能力が判るなら金貨500枚も支払う必要は無い。


 裕福な者や貴族なら、銀貨5枚を払って調べるのだろうが、平民や貧しい者には無理だ。

 生活魔法の様に多数の者が自然発現して使えるのなら魔力自体は有るが、どの様な魔法の潜在能力が有るのか知らなければ、努力のしようも無いって事だな。


 四大魔法の風水火土に雷氷結空聖闇が10大魔法と呼ばれ、普通に魔法と言われるのは風水火土と生活魔法の5つらしい。

 生活魔法は、使える人が余りにも多いので、普段は魔法とすら認識されていないようだ。

 雷氷結が次に発現し最後が空聖闇は極めて少なく普通に魔法と呼ばれる範疇から外れるので普通は魔法と言えば風水火土になってしまうのだと。


 魔法の原点に戻れば、先ず生活魔法が使える様になる。

 俺もそうだった。

 生活魔法でもクリーンが使える者が3人の内2人だと聞いた、と言う事はその2人はクリーンが使えない者より魔力量が多い事になる。


 クリーンが使える者は、使えない者よりも生活魔法の便利度が格段に上だとも聞く。

 薪の着火の炎も何とか焚付けに火が付くものから、薪に直接火が付くのとでは差が大きい。

 ウオーターはコップ一杯の水から、料理に使う鍋一杯の水の差だし。

 ライトは手元を照らす明かりから、部屋を煌々と照らす明かりだそう。


 魔力量の差に依って、使える魔法の威力を示している。

 生活魔法が使える者は、風水火土の魔法潜在能力者といえる。


 妖精達は防御結界と雷撃に空間収納を全員使えるし、それ以外の複数魔法も使っている彼等は特殊な部類か。


 現在俺の使える魔法は土魔法・防御結界・雷撃魔法・空間収納・生活魔法で他の能力は不明だ。

 父母に習ったのはこれだけで他の能力の有無すら知らない。

 防御結界と雷撃魔法は人並みより劣る位だったが、魔力が上がるに連れ強力になった。


 魔力量の増大が強力な魔法になるのなら、雷撃と結界に空間収納が使える俺は、潜在能力の有無は別にして全ての魔法を使う魔力を有する事になる。


 魔法の発現は何らかの理由で魔力量が上がった結果、潜在能力として持っていた魔法が使える様になっただけなのだろう。

 とすれば潜在能力が有ると解れば、先ず魔力量の増大を優先し魔力の増大に共なって魔法の練習をすれば・・・。


 この理屈が正しいのなら、それに母親が言っていた母親の曾祖母がエルフ族で俺がエルフの先祖帰りなら異常な魔力量の説明が付く、潜在能力が有れば潜在能力の示す魔法が使える筈だ。

 エルフ族は魔法を得意とし様々な魔法を使うと・・・うん、ラノベの知識は偉大だ。

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