第12話 妖精族の隠れ家

 ノイエマンに、家具調度類は少し豊かな商人くらいの感覚で頼むと言っておいたのに、伯爵様が全て取り揃えてくれたのだと。

 あちゃーってところだが仕方がない、以後生活全般は少し裕福な家程度でと頼んでおく。

 

 礼状を書くから此と一緒に届けてくれと、火炎蜂の蜜の入った徳利を20本渡す。

 来客用だけは多少見栄を張っておけと指示、先に渡した資金は足りているかと問うと、使用人達の為の実費だけで殆ど残っていると言われた。

 

 空間収納から金貨の袋を10個出して預け、収支報告は一週間に一度で良いと告げる。

  金貨が残り700枚程有るので、もう少し冒険者の装備を揃えて森に行こうかな。


 3階に上がると敷地側の一番右が執事室、続いて左に俺の執務室、隣が居間で次がトイレや浴室、その奥が寝室だ。

 向かいは廊下で壁を挟んで街路側に食堂やノイエマンやヤーナの自室、他の部屋は客間として開けてある。

 

 夕食はノイエマン、ヤーナと共に取り早めに居間に引き篭る。

 寝室は掃除の時以外は入室禁止、居間も掃除と呼ばれた時以外は入室禁止にしてある。

 お茶位自分でいれるし、此処と寝室は妖精族のたまり場になっているので不味いのだ。

 なので居間と寝室の天井には緊急避難口として4個所ずつ穴を開けて蓋は軽く押し上げると飛び込める仕組みだ。

 

 使用人達には理解出来ない物が居間と寝室に有る、壁に沿って張られた4本のロープだ。

 天井から70cm壁から1m程離して張られたロープは、妖精族が部屋に遊びに来た時の休憩場所なのだ。

 妖精族達がロープにずらりた並んで止まると壮観である。

 

 この部屋は道路側の屋根の部分と繋がっていて、急傾斜の屋根裏は道路側の家屋からは入れない仕組みになっている。

 敷地内の塀には通路側の屋根裏に繋がる隠し扉が沢山有るので、中は妖精族の住宅や仮の宿になっている。

 工事中は遠慮していた妖精族達も、工事終了と同時に遠慮無く遊びに来るし、子育てには森の中より安全だと此処に移り住んだ者も沢山居る。


 何かベビーラッシュが起きているんですが、俺の魔力玉のせいではないよね。

 安全な場所ではあるが子供達には狭すぎるのと、飛行訓練や森で安全に生活していく知識は此処では教えられない。

 皆と話しあった結果、森に子供達の訓練専用宿泊施設を造る事にした。


 ノイエマンに暫く森に行くと告げると、護衛を付けると煩かったが一人の方が安全だ。

 翌朝朝食を済ませこの街に来た時に作った冒険者御用達の服装を纏い腰に大振りの鉈を下げる。

 玄関ホールに行くとお馴染みのガルムとバルドスの二人が如何にも森に行く格好で立っている。

 

 「どうしました、二人共」

 

 「君が森に行くのなら、護衛に付けと伯爵様に命じられてね。君はエスコンティ領の重要人物の一人だからな」

 

 「森の奥に有る裂け目の向こうに行くので、連れて行けませんよ。他人の安全まで保障出来ません」

 

 どう説得しても頑として聞かないので、森の裂け目までなら冒険者を雇って彼等と行動する事を条件に許可した。

 但し裂け目の向こうには連れて行かない、冒険者達と共にキャンプ地で待つこと。

 三週間程度で戻る予定なので、それを過ぎたら冒険者達と引き返すことをくどい程念をおした。

 

 冒険者ギルドでサブマスターにお願いして、森の裂け目まで行ける冒険者を5名程推薦してもらい彼等と共に森の奥へ向かう。

 冒険者の4人はシルバークラスて1人はゴールドになったばかりだと聞いた。

 

 仕事内容を聞いた冒険者達は難色を示した。

 ギルマスが裂け目の手前までの護衛で、行きに8日と現地で一週間待っても俺が現れなければ、勝手に撤収しても良いと確約して不詳不精承知した。

 手当もシルバークラスに一日銀貨5枚、ゴールドクラスに銀貨8枚を約束した。

 目の前で日当分の金貨42枚をギルドに預ける。

 

 森に入って三日目、程よい立ち枯れの巨木を発見したので泥でコーティングし、目立たぬ様に出入口の扉を付けておく。

 

 《フィーィ、皆に木をくり抜くのは自分達てやってと言っておいてね》

 

 《分かった沢山ついて来ているので、半数は此処で住処造りをさせるよ》

 

 《頼むねー》

 

 冒険者に何をしているのか聞かれたので、森の目印を作っているんだと答えておく。


 六日目に森の裂け目に着いたので、此処にベースキャンプ用の大型のドームを造り、此処で待つように指示して裂け目を越える準備。

 フィーィ達に、裂け目の小さい場所に誘導してもらったんだけど内緒だ。

 裂け目は30m程度なので、対岸とこちら側からアーチ状の橋を架けて渡る。

 

 呆気に取られる冒険者を無視して橋を渡っていると、早速シルバーフォックスのお出ましだ。

 前足を地面に減り込ませて固定し、動け無くしてから地面から土槍をかちあげて仕留める。

 橋を崩してからシルバーフォックスを回収し、ガルム達に手を振って森の奥に向かう。


 * * * * * * * *


 「とんでもねぇなぁ。一人で向かう筈だよ」

 「俺達は此処まででも荷が重いのになぁ」

 

 ガルムとバルドスが冒険者達に、帰っても話題にするなよと念を押す。

 

 二日目の昼前に良さそうな枯木を見つけた、と言ってもフィーィ達が上空から探して道案内をしてくれているので楽だ。

 

 風魔法が使える妖精達が、集団で風刃を使い木に穴を開ける作業に取りかかる。

 木っ端は風魔法で吹き出し、又風刃を打ち込んで穴を広げる。

 あっと言う間に大きな洞を造る。

 

 彼等にとってのキャンプ地であり、寝るのはハンモックなので丁寧に造る必要は無い、洞で充分なのだそうだ。

 大きな洞を造ると上下に通路用の穴を開け、又洞を造る。

 何段も洞を造り、大人数でも充分にハンモックを吊る事が出来る様にしてから、最後は火魔法で焼いて刺やささくれをなくす。

 後は幹まわりを土魔法でコーティングし、出入口を付けて終わり。

 

 森の上部に木の梢が出ていて目印も付けているので妖精族なら通りすがりでもキャンプ地や集落だと分かるんだと。

 成るほど土魔法で枯木をコーティングするときに、梢の先までコーティングしてくれと言う訳だ。

 

 周囲を警戒していた妖精族の一人が、美味しい実がなっている木を見付けたと報告して来た。

 実は薄い紅色のグラデーションの綺麗な実で、周囲に甘い香りが漂っている。

 

 数人が最初のキャンプ地設営組に知らせると言って飛んで行く。

 近くまで飛べば念話で知らせ、念話の方角に飛べば合流出来るので迷う事は無いと教えてくれる。

 

 2時間もしないうちに戻って来たが、また増えて無いか? 

 キャンプ地が出来たので街まで知らせに行ったら、待ちきれない子供達にせがまれて親共々来たらしい。

 途中俺に魔力玉の礼を言いにき来た集団と合流したので、大規模な集落がそっくり移転してきた様な騒ぎになった。


 子供達に美味しい実の成る木を教え、蜜を堪能すると森の中を高速で飛ぶ訓練を始めた。

 残りの妖精族で実の収穫、程よく熟れた実だけでも数百個あるし完熟し過ぎたのは絞ってジュースにする。

 急いで漉すために布を出し、漏斗と蜜を容れているのと同じ壷を造る。

 後はひたすら絞るだけだが、大きな漏斗の上に格子状の台を付けひたすら押し潰す。

 6本目で終わり、大収穫で良いお土産になったと喜んでいる所へ、飛行訓練組が帰って来た。


 子供達の《火炎蜂の巣を見つけた、あれ欲しい》の大合唱で催促される。

 

 《40本近く持っているから今日で無くても良いだろう、又今度にしようよ》

 

 説得は聞き入れられず《アール、あれ欲しい、蜂の蜜欲しい》

 子供達や大人迄が大合唱で催促、俺がどうやって火炎蜂の蜜を収穫するのか興味があるらしい。

 

 《今欲しいの!》

 

 小さな妖精族の子供達のおねだりに負け、火炎蜂の巣を見に行く。

 火炎蜂の巣は比較的小さく容器にして4~5本位かなといった大きさだ。

 子供達に防御結界を張らせ蜂が来たら、結界に雷撃魔法を重ねて倒すんだよと教えている。

 

 俺は気付かれ無いように静かに近づき、巣の出入口を土魔法で素早く塞ぎ後は巣全体を覆い隠す。

 後は下を漏斗状にして蜜受けの壷を置いたらゆっくり土魔法で覆った巣を絞っていくだけだ。

 子供達は興味津々で壷に落ちる蜜を眺め、大人達は今の魔力量なら俺達でも出来そうだと話し合っている。

 

 四日目の朝に待ち合わせの場所に戻り、さくさく帰宅した。

 冒険者達には無理を言って来て貰ったので、火炎蜂の蜜を一壷進呈して無事帰宅。


 * * * * * * * *


 エスコンティ伯爵が、ギルマスとマジックバッグを持った運搬係を供ない、王都に旅立ったのは新たな城壁が完成して一ヶ月程後のことだ。

 前日久し振りに伯爵邸に招かれ執務室に行くと、ギルマスとお供の方が待っていた。

 

 明日献上品の二体を持って王都に行くので、運搬係の彼に渡してくれと言われた。

 兵士の訓練場にて、ゴールデンベアのレッド種とブラックウルフのレッド種二体を並べる。

 伯爵様の確認後ギルマスのお供の方が、マジックバッグに収納し執務室に引き返して旅の予定等の細部を詰めている。

 話しが一段落した処で徐に壷を二つ取り出す。

 

 「伯爵様、これを王家の方々への献上品に加えては如何です」

 

 「おいそれは!」

 

 ギルマスとハイド男爵が声を揃え、伯爵様が不審顔になる。

 

 「滅多に手に入らない物だと伺っておりますので、王家の御家族の方々がお慶びになられるかと」

 

 「此は?」

 

 伯爵様の、不審そうな問い掛けに。

 

 「火炎蜂の蜜だよな」とギルマスが答える。

 

 「はい、鑑定して頂ければ安全な物だと判ります。但し出所は伯爵様として・・・」

 

 「判った、出所は秘密にして有り難く献上品に加えさせて貰おう」

 

 「未だ何処にも売っていないよな?」


 ハイド男爵の問い掛けに黙って頷くと、ギルマスが王都にも無い筈だ喜ばれるだろうと呟く。


 「手持ちを売り出すのは一ヶ月は待ってくれるか、献上前に市場に出回るのは都合が悪い」


 そう頼まれたので、頷いておく。

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