第11話 新城壁の提案

 翌日も城壁の調査に出る。

 昨日と仕事は同じなので順調だし、ヘムが要領を覚えて言わずとも状態を書き込んでくれる。

 俺は地図を見ながら町並みを想像するが、高低差や建物の高さ等が不明で読み辛い。

 「バルドスさんに、エルクハイムの街って最初は円形だったんですよね」

 

 バルドスさんが地図を覗きこんで頷く。

 

 「で、その外周に沿って何度か街を拡張していますよね」

 

 指差しながら指摘する。

 

 「一度目は5回に亘って拡張し、さらにその外側の場所を8度に亘って拡張したんでしょ」

 

 「何故判るんですか」

 

 真剣な顔で聞いて来る。

 

 「中央の二重丸の部分が最初の街でしょう。その周りの街は隣接する街と境界が歪だし道の接続も無理が有ります。城壁を築いたんだと思いますがその外に再び街を造る時取り壊して街路にしていますから解りますよ」

 

 「再び拡張したと解る理由は何だい」


 「城壁ですよ。曾の城壁を取り壊して再び等間隔で城壁を築こうとしたのだが、地盤が悪く歪になってしまったんです」

 

 その後も取り留めの無い話しをしながら、順調に仕事が進み西門まで来たので今日は早めに仕事を終えた。

 

 ◇  ◇  ◇

 

 伯爵邸に帰り報告の後、城壁の改修修復ではなく新たに城壁を造らないかと提案した。

 現在の城壁から250~350メートル離して新しい外壁を造りませんかと。

 

 「理由は」

 

 「図で説明します」


 紙とペンで中央に横線を一本書く、そして縦に一本の線、線の交わる処を中心に大きな丸を書く。

 

 「これをエルクハイムの街と思って下さい」

 

 そう言いながら地図を横に並べる。

 円の右に東門と書き右回りに下に南門、左側に西門上に北門と書き込む。

 

 「昨日今日で東門から西門まで計って9.000メートル少々です。一周すれば18.000メートル以上になります。つまり長さ18.000メートル幅300メートル以上の土地が生まれます」

 

 「それは分かった、が資金が無いぞ」

 

 「それは伯爵様が改修する筈だった城壁の資金で足ります。只し条件付きですが格安にもなりますよ」

 

 笑い出した伯爵様と呆気に取られて見ている執事長と護衛の騎士達。

 俺も、それはそれはニッコリと極上の微笑みを返しておいた。

 

 少し歪だが直径6.000メートルの円形から6.600 メートルの円形に拡大すると計算で。

 拡大前、直径6.000×3.14=18.840メートル

 拡大後、直径6.600×3.14=20.724メートル

 外周でその差+1.884メートル増えるだけだが。

 

 広さに至っては。

 拡大前半径3.000×3.000×3.14=28.260.000平米

 拡大後半径3.300×3.300×3.14=34.194.600平米

 その差5.934.600平米の土地が増える。

 

 まぁ解り易く長さ18.000メートル以上、幅300メートルの土地が増えると言えば理解しやすいよな。

 執事長が理解したのか目の色が変わっている。

 

 (そりゃー目の色も変わるって、伯爵も爆笑しちゃうよね)

 

 心の中で突っ込みを入れながら、この話し通用するかなって思っている。

 何せ王公貴族の支配する世界だからねぇ。

 エスコンティ伯爵やハイド男爵は話しの分かる貴族だが極めて少数派と見るべきだろう。

 

 地位や肩書、金の有無等様々な要因で他人を見下し侮蔑する奴は多かったからなぁ。

 日本で生きていた時の事が思いださ・・・あれっ?何処でだろう何才のと・き・の

 又だ、思い出せそうで薄靄のベールを被せた様に思い出せない。

 

 アルバートと入れ替わって以後の記憶は鮮明なのに、それ以前のアルバートの記憶もはっきりと判るのに何故。

 ラノベだって読んだ覚えは有るのに内容が思い出せない、神様に会ってないし死んだ記憶なんてこれっぽっちも無い。

 はぁー出るは溜息ばかり也、ってこの言葉もそうだ。

 

 ◇  ◇  ◇

 

 冒険者達との待ち合わせの西門へ送って貰い、今日の仕事を中止する事を告げ一人銀貨2枚を支払って伯爵邸に引き返す。

 伯爵の待つ執務室に行くと冒険者ギルドのギルドマスターのヨドニスと伯爵が、楽しそうに話し合っていた。

 待たせた詫びを言い伯爵に示された席に座る。

 

 先ずギルドマスターが話しを始める。

 ゴールデンベアとブラックウルフのレッド種の討伐記録が、150年以上前で古すぎて約に立たない事を告げられる。

 ゴールデンベアとブラックウルフのパープル種は50年程前にそれぞれ討伐記録が有り、当時の記録を参考にしたいと言われ了承して示された当時の買い取り価格は

 ゴールデンベアのパープル種で金貨250枚

 ブラックウルフのパープル種で金貨280枚

 どちらも別々にオークションに掛けられての落札価格だそうだ。

 

 伯爵からその価格を参考に1.5倍の価格で買い取りたいと言われて了承する。

 ゴールデンベアのレッド種一体金貨375枚

 ブラックウルフのレッド種一体金貨420枚

 合計金貨795枚だが快く譲ってくれるお礼に金貨55枚を追加して合計金貨850枚を出すと言われた。

 貴族の面子も有るので素直に礼を言って頭を下げ有り難く頂く事にした。

 

 ギルドマスターと王都への運搬に冒険者ギルドの所有するマジックバッグを使う事。

 伯爵の王都行きに同道して国王に献上し引き渡すまでの打ち合わせをしてギルドマスターは帰って言った。


 「あーっ」

 

 「どうしたアルバート君」

 

 「忘れていた、ギルドに預けたオークとホーンボアのお肉」

 

 「お肉?」

 

 「オークとホーンボアのお肉、鑑定では美味と在ったので足一本分位は売らずに食べたかった」

 

 伯爵は爆笑しているが、ホイホイパープルやレッド種を出す訳にいかないとなるとなー。

 次に冒険者ギルドに魔獣を売ってお肉を引き取れるのは何時になるんだろう。

 

 「俺って間抜けだよなー」

 

 「何だ暗闇の森で食べなかったのか」

 

 「あんなにでかいのを解体は無理です!。せいぜいホーンラビットや鳥位なら出来ますが」

 

 「お肉は山ほど持っているのに食べられ無いなんて」

 

 俺の悲しみを余所に伯爵は笑い続ける嫌な奴です。

 こうなれば冒険者ギルドにオークのレッド種をもう一体渡して解体だけでもして貰おうと心に誓う。

 笑うのを止めた伯爵様が真剣な顔になり、さて城壁の話しをしようと提案。

 

 「城壁を新たに造る事にしたいが、普通10メートル単位で基礎と壁の高さや厚さを決め金額もそれ相応になるのだが」

 

 「城壁の高さと厚さはどの程度をお考えですか」

 

 「高さはグレイスネイクが出たので現在より少し高くして、8メートルとし厚さは2メートルで行けるだろう」

 

 「たたき台としての原案が有りますけど宜しいですか」

 

 伯爵様の了解を得て紙とペンを貰い紙を横にして描きはじめる。

 右端から左に少し横線を引き凸形に線を引く、これが現在の城壁ですと説明。

 さらに左に向かって3/4の所に一際高い凸を引き、これが新しい城壁です。

 頷かれる伯爵さま、さらに左にペンを進め凹形に線を引き此処を掘りにします。

 

 そう説明して伯爵様の顔を見、城壁のや高さは約14メートルだと言う。

 掘りが必要か聞かれたので、ある条件下なら必要になりますと答えておく。

 

 「この城壁を10メートル金貨1枚で造ります」

 

 「余りに安いのでは無いのか」

 

 「俺の・・・失礼、私の能力ならこれでも十分稼ぎに成ります。が、条件付きなら格安にも成りますって言ったのを覚えてますか」

 

 「あぁ、条件を聞こうか」

 

 俺の示した条件とは

 新たに造る城壁と一体化した住宅を造る。

 周回道路と区画割上下水道の初期設備は俺の裁量に任せる。

 城壁と一体化した住宅の運営と権利を全て俺にする。

 家賃収入からの税を城壁完成後から20年間無料とする。

 

 東西南北の新旧門に繋がる道の左右100メートルは伯爵家の優先使用とする。

 新旧城壁の間の土地一カ所を250×200メートルの大きさでアルバートの物とし伯爵家は一切関知しない事。

 エルクハイムがエスコンティ伯爵領て無くなった場合はこの限りでは無い。

 

 この条件で良いなら10メートル金貨1枚で造る。

 城壁建設に関し周辺警備や雑用等はアルバートの指示に従って、人員の手配や賃金等全てエスコンティ伯爵家で負担する。

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