第10話 森からの訪問者

 ウーニャとキルザに頼んでいた、冒険者15人を新たな護衛として雇い、ウーニャ達何時ものメンバーを三組に分ける。


 300mの長さの蜘蛛の糸を持たせてウーニャとエミリーは城壁に、キルザとサイナムは常に城壁から300m離れた位置に立つ様に指示する。

 その位置に俺が土魔法で1.5m程の杭を10m間隔で立てて行き、キューロとヘムには50m程離れて後をついて来る様に指示した。

 俺が立てた杭を見て、左右にブレが無いか監視し教えてとお願い。

 ガルムとバルドスは、常に俺の周辺で警戒監視だ。

 

 単純で退屈な作業は二日で終わったので、翌日は全員で25,50,75,100,125,150mと離れて立てた杭の列が、歪になって無いか見て回る。

 俺は10m間隔に立てた杭の中ほどに、新たな杭を立てて行く事を延々と続けて、流石に疲れた。

 

 翌日からは夜間作業で門が閉じられてから300m離れた位置に新たな門を造る。

 一気に造ると噂になるので徐々に造るが、新旧の門の間は通路を挟んで高い杭を土魔法で造り目隠しとする。

 十日後には東西南北の門がほぼ完成し、後は門扉を付けるだけだがこれは伯爵様の仕事。

 

 新たに立てた門の左右は、徐々に城壁を高くしていったので余り噂にはなっていないらしい。

 5m程の高さの城壁を一回り完成させた翌日から、徐々に徐々に城壁を高くしていった。


 同時に、城壁の外側に城壁に沿って幅2m程の外周路をつけ、堀を挟んで連絡橋を多数付けた。

 東西南北の本通路と各方角毎に均等に3本ずつ付けたので、総数は16本にもなったがこれらは点検用である。

 

 完成したのは二月少々経ってからだが、城壁内に周回道路を造ったり城壁に住宅を造る為の仕切り壁を付けたりと、付帯工事に案外時間を取られた。

 一応完成したので伯爵様と共に確認作業を済ませて引き渡し、翌日は内輪の祝いをウーニャ以下の冒険者も招いて伯爵邸でおこなわれた。

 

 俺は約束の土地を、南門の近くに冒険者ギルドが移転するので、ギルドと反対側で250m程離れた場所をもらった。

 

 城壁の内側に造った住宅の管理運営はウーニャ以下6名の冒険者と、後から加わった15名の21名を確保出来た。

 他にも工事に関わった者達を多数雇うつもりだ。

 

 これは城壁造営が本格化する前に冒険者を一同に集め、工事が完成した後は一ヶ月金貨2枚と銀貨5枚の25万ダーラで、永続的に雇用する約束をしていたのだ。

 それと働いてくれるのなら、俺の自由になる住宅を各自に一軒、月に銀貨1枚で貸すと約束していた。

 但し、読み書き計算の出来ない者は読み書き計算が出来る様になる事で、やる気が有る者には教師を俺が手配し無料で教えるとも約束した。

 読み書き計算の出来る者は能力を確認し、程度の低い者は勉強し直してもらった。

 

 貰った土地は4階建ての住宅をぐるりと廻らせ城壁とは逆の構造にした。

 つまり俺の建てた塀の外側に住宅が道路に向かって建っていて、敷地内は見えない構造だ。

 屋根に上がって覗こうとしても、4階の上は急勾配の屋根にしているので上がれない。

 出入りの門は4個所有り正門と裏門を南北に、東西には通用口をと振り分けて造った。

 

 家を建てるのは暫くお預けにして俺は道路側に向かって建てられた3LDKと隣の2LDKを合体させ、本来背後は壁になる筈の処にも部屋を作った。

 つまり2・3階部分は道路側と敷地内に向かっての各5室の10LDKの広さで2・3階合わせて20室を確保している。

 敷地内に向かう部屋の窓は全て逆向きの鎧戸になっていて開かない、風を通し陽の光は差すが敷地内は見えない造りだ。

 

 1階部分は厨房と通用口や倉庫になっている。

 困ったのは馬車置場だ、しかたが無いので通用門から中に入ると厩と馬車置場を作ったが敷地内は一切見えない入れない構造になっている。

 お陰で新たな家は通用門の近くになってしまったよ。


 執事長のナリヤードとメイド長のエメラに、執事ほど大袈裟でない使用人の取り纏め役と家事全般が出来る人を斡旋してもらったので、ある程度の部屋数は必要になってしまった。

 そこそこの広さの家になったが、少数の使用人以外は周辺の住宅に家族共々住んでもらう事にした。


 * * * * * * * *


 城壁建設を始めて一月程して、フィーィとフィーェから別れたエフォ、キュー、ファール、クーッが多数の妖精族を引き連れてやって来た。

 フィーィ達と再会を喜んだ後、ファールが俺の処にやって来てお願いが有ると言いだした。

 俺から預かった魔力玉を持って集落に戻り、集落の全員に魔力を吸収させたそうだ。

 

 皆魔力が上がり魔法の威力も上がって大喜びしたが、他の集落に親兄弟親類縁者が居て、彼等にもこの力を分け与えたい。

 そう言い出し魔力玉を携えて周辺集落を回ったのだそうだ。

 魔力玉にも限りが有るので一人一回の吸収にしてもらい、少しでも多数の同族の力を上げて安全に暮らせる様にと願ったが、魔力玉の数が足りない。

 

 で、エフォ、キュー、ファール、クーッの4人で、エルクハイムに魔力玉を分けて欲しいとお願いに来たのだ。

 お礼と言っても、人族の俺に価値ある物を差し出せ無いので、俺が森に居る時は妖精族が全力で補佐しようとなった。


 《妖精族、ファールの名に賭けて誓う》

 

 そう言って胸に拳を当て頭を下げると、それに倣ってエフォ、キュー、クーツも胸に拳を当てて《妖精族の名に賭けて》と言って頭を下げた。

 

 嬉しかった、種族と自らの名に賭けて誓ってくれた事に応えよう。

 

 《頭を上げてくれ、足りるか判らないが今有る魔力玉は全て渡そう。君達妖精族全てに行き渡る事を願っているよ》

 

 空間収納から有るだけの魔力玉を出し、ファール達に渡した。

 ファール達はそれぞれの空間収納に手分けして収納してゆく。

 

 《此からも魔力玉は増えて行くので、時々受け取りに来るといいよ。俺の魔力が限度まで吸収出来て魔力量が増大したら、皆がもっと安全に暮らせるだろう》

 

 《妖精族の仲間達にも喜んでもらえる、有り難とう。魔力玉の魔力を吸収した皆はアールの魔力を判っているので、森で会ったら出来る限りの事はするよ》

 

 そう言って、他の冒険者達に知られないよう静かに森に帰って行った。

 それから2ヶ月位たった頃ファール達の集落から、子供連れの妖精達が数十人単位で訪ねて来る様になった。

 俺の魔力を吸収したお陰で魔力量が増大し、伴侶を得て魔力を掛け合わせて卵を造ったらしい。

 聞いていて頭の中が???マークで一杯になる。

 何と妖精族は伴侶と魔力を合わせて小さな卵を造るらしい、産むんじゃ無いんだ!

 出来た卵に二人で魔力を注ぐと、数週間で妖精族の子供が誕生するのだと。

 聞いてこの世界の神秘を垣間見た思いになる。

 

 生まれた妖精族の子供は数年の間、常に親の傍を離れずに行動し生活全般を覚えるのだと。

 魔力量の増大した今は、安心して子連れで飛べるのでお礼の挨拶に来たのだと言われた。

 

 魔力量の増大により、念話の距離も15km位になり緊急救助要請でも瞬間的なら20km程度の距離で話せるらしい。

 連続飛行も普通に飛ぶなら半日程度は軽いと言われた。

 全力で飛ぶとどれ位飛べるのかと聞くと、40~50km位飛ぶと一休みしないと飛べなくなるらしい。

 

 一つ困ったのは、妖精族って小さい上に良く似ているんだよな、つまり誰が誰だか判らない。

 名乗ってくれても直ぐに判らなくなるので参った。

 子供達は親が俺の魔力を吸収して魔力量が増大し子供を作ったので、俺の魔力パターンが刷り込まれていて、兄弟同然に懐かれ纏わり付かれて大変だった。

 

 彼等の食事は基本、植物の葉や幹に出来る瘤に溜まる魔力の吸収と花や樹液の甘い物なので、彼等が訪ねて来ると火炎蜂の蜜を提供している。

 これは喜ばれる、火炎蜂の蜜は好物の一つらしい。

 妖精族が30センチ位の身体なのに、蜂の大きさが8cm程有るので防御結界を張っても、大量の大型犬に飛び掛かられた人間の状態になり、蜜集めは大変だそうな。

  勿論御土産は火炎蜂の蜜だ、大きめな湯呑み程の入れ物に入れて渡すと喜んでもらえて俺も嬉しい。


 城壁建設が進むとどうしても人手が足りなくなる。

 最初に集めたウーニャ以下6名と、追加の15名の冒険者だけだと支障をきたす様になったので、伯爵様に掛け合って人を増やす事にした。

 だが問題発生、多数の冒険者を使うと街の諸々を請け負っていた冒険者が居なくなり、街の運営に支障が出るのでギルドから待ったが掛かった。

 

 ウーニャ、キルザ、エミリー、サイナム、キューロ、ヘムの6人を集め、意見を聞くと仕事が無くて困っている者は沢山いると聞いた。

 スラムとその周辺に住む者達で、真っ当な仕事に就きたいが雇ってもらえない者が多いのだとか。

 

 人が増え読み書き出来るなら出退勤の管理から、伯爵邸への連絡事項まで含め仕事は山程有るので、身体が不自由でも雇う。

 

 そう言って、ウーニャ達に知り合いで真面目な者を集めさせた。

 浮浪児も居たが、真面目に仕事をする者は継続的に雇ったので、人はどんどん増えた。

 彼等の通勤が大変なので、ドームの宿舎を造り無料で寝食を与える代わりに、真面目に働く者は工事が終っても仕事を与えると約束した。

 

 新たな城壁内の草苅や小動物の排除、後片付けから各種物の運搬と必要な仕事が次々と湧き出て来る。

 仕事の打ち合わせすら儘為らない世界では、伝令は欠かせぬ存在で足の早い者なら少年少女も雇った。

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