第9話 今後の方針

 「一連の様子をみてどうでした」

 

 「確かに14才とは思えない言動だね。本当にナムラード村から出た事が無いのかね」

 

 「確かです。村を出てからエルクハイムに来るまでの約3ヶ月は森の奥でしょうね」

 

 「先ほどの食事のマナーもカトラリーの順番を知らなくても、扱いはある程度慣れておりますね」

 

 「あぁ言葉使いもそうだ、丸っきりの辺境育ちの子供のものでは無いな」

 

 「といって貴族の教育を受けてはなさそうだが、裕福な市民の子弟でも使わない言葉使いや言い回しがある」

 

 「気づいていますか、彼は貴族に対して過剰な恐れを持っていません。といって上下長幼の礼儀はある程度守っています」

 

 「それと練兵場での土魔法です。力の見せ方を知っていて隠す事もしています。私がナムラード村で彼の魔法を見ていますから、それに合わせて今日力を見せました」

 

 「街での買い物では、衣服、夜営用品、生活雑貨、最後に武器のショートソードに大振りの鉈だ。防具は一切買っていない、しかも買おうとしたショートソードは金貨一枚もしない安物です。店員が先に買った物と比べ身なりに合わない安物だからと指摘して、初めて気がついた様子だったと報告を受けています」

 

 「防具を必要としない防御力と最後に武器買うのは武器を必要としない攻撃力を有すると見るべきだな」

 

 「門衛の知らせを受けて冒険者ギルドでアルバートに会った時、彼は丸腰でマジックポーチ一つでした。食事の時と同じ衣服で戦う為の物ですらありません。極めつけはあの立ち姿です」

 

 「確かにあの立ち姿は普段武器を身につけている者のものではないな」

 

 「と言うか武術の訓練を受けた者の立ち姿ではないな」

 

 エスコンティ伯爵、ハイド男爵、ナリヤード執事長の三人は、真剣な顔でアルバートの分析に余念がない。

 多分アルバート自身は伯爵領の兵士や冒険者達に包囲攻撃されても、切り抜ける手立てを持っていると思われる。

 

 ゴールデンベアやブラックウルフのレッド種を一撃で倒す力を侮ってはならない。

 これは冒険者ギルドでアルバートが出した魔獣全てが、顎から頭への一撃で討伐されているのをハイド男爵が確認している。

 

 つまり丸腰で暗闇の森を彷徨いゴールドランク・ミスリルランクの冒険者が束になっても敵わない魔獣を、無傷でしかも一撃で倒す力を有すると。

 結果アルバートと敵対しない敵に回さない事に決まった。

 

 ◇  ◇  ◇

 

 《アール部屋の窓を開けて外を見て》

 

 《どうした》

 

 《窓の外左の茂みと右に有る木の陰からアールを見張っているよ》

 

 《有り難う。多分何もしないよ、見張っているだけだよ。》

 

 《フィーィ、フィーェお休み》

 

 

 

 さて明日は城壁の改修をするのなら、先ず外から城壁をチェックだな。

 魔獣を売るのは受け渡しの時期に依っては断るか。

 

 ◇  ◇  ◇


 快適な目覚めだ、やっぱりきちんとしたベットは良いなぁとしみじみ思う。

 顔を洗ってさっぱり、クリーンでも良いが顔を洗う爽快感が無いのがね。

 

 風呂の時も思ったが魔道具は便利だから買おう。

 茶道具の大振りの茶碗程の容器の上に魔石茶碗には湯の注ぎ口、魔力を通すと適温のお湯が一定量溢れてくる。

 水道も一回り小振りだが同じ、明かりも魔石が光っている。

 多分コンロ等も同じだと思うので次に街に出たら魔道具屋と家具屋だな。

 湯舟も家具屋に有るかな、色々と欲しい物が有る。

 ヤーナに呼ばれて食堂に行く。

 

 「お早う御座います」

 

 「良く眠れたかね」

 

 朝の軽い挨拶と共に朝食が始まる。

 食後執務室に移動してお茶を飲みながら予定を聞く。

 

 「取り敢えずゴールデンベアとブラックウルフのレッド種を見せて貰おうか、場所は何処が良いかな」

 

 「屋内訓練場では如何でしょうか地面ですがアルバートに固めて貰えば問題無いかと」

 

 「そうだな屋内訓練場なら人の目を気にせず出せるか」

 

 屋内訓練場に行き地面を固めてから、ゴールデンベアとブラックウルフのレッド種を並べる。

 二体共額にラグビーボール形に真紅の毛色に紅い瞳、額からは血が滴り落ちている。

 改めて見るとでかいよなぁ。

 伯爵があんぐりと口を開けて固まっている(笑)

 

 ハイド男爵に声を掛けられて猶唸っていたが、やおら二体の周りを入念に回って観察した後仕舞ってくれと一言。

 地面を元に戻し血の跡を消す。

 

 執務室に帰り値段の交渉だが、ゴールデンベアとブラックウルフのレッド種の討伐記録が無い。

 冒険者ギルドのギルドマスターを呼んでいるので話し合ってから決めたいと言われ了承する。

 

 「城壁の改修だが取り敢えず城壁の状態を見て貰おう。街の地図を渡すが軍事機密なので当家から2名冒険者ギルドから2名を護衛として付けさせて貰うが良いかな」

 

 「結構です。筆記具とメジャー城壁に印しを付ける道具もお願いします」

 

 「分かった直ぐに用意させる。ヤーナ、アルバート君を部屋に、用意の品を渡してくれ。用意が出来たら玄関で待っていてくれ」

 

 「アルバート様どうぞ」

 

 別にこのままでも良いのにと思いながらついて行く。

 部屋に入ると

 

 「お召し物の用意が出来ております」

 

 言われてびっくり、見ると衣類一式とブーツまで有る。

 聞くと入浴中に仕立屋に寸法を測らせ取り敢えず一着だけ一晩で作らせたとの事、貴族って怖い。

 くたびれた衣服では伯爵家の沽券にも関わるから有りがたく着替える。

 着替えて玄関に行くと護衛らしき、狼人続と虎人族の二人と伯爵様。

 

 「伯爵様服を有り難う御座います」

 

 先ずお礼を

 

 「あぁ気にするな。アルバート君、当家から出す護衛の二人だ」

 

 「ガルムです宜しくお願いします」

 「バルドスです宜しくお願いします」

 

 「アルバートです宜しくお願いします」

 

 虎人族のガルムさん、白狼人族のバルドスさん二人とも2メトル越えででかいんですけど、威圧感ハンパない。

 てか冒険者ギルドからの護衛も似た様な感じかな嫌な予感。

 

 「あのー伯爵様冒険者ギルドからの二人も護衛ですよね」

 

 「そうだが足りないかね」

 

 「いやいや大袈裟でしょう。それに必要なのはメジャーを持つ二人と記録係です。それと記録係は勿論メジャー持つ一人も字が書ける必要があります」

 

 「護衛は必要だぞ。昨日市場で買い物中ゴロツキが後を付けていたのを知らないのか」

 

 「あー3~4人居ましたね。少し離れて2人」

 

 「なら必要なのは判るだろ。そ奴らはガルムたちに任せて城壁の方を確り見てきてくれ。ガルム冒険者ギルドで読み書き出来る者を3~4人雇ってくれ」

 

 何か大事になって来ているが気にしたら負け!

 馬車に乗り込んで出発、冒険者ギルドに立ち寄り新たに4人の冒険者を引き連れて東門へ。

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