第9話 新たな城壁
エスコンティ伯爵やハイド男爵は話しの分かる貴族だが、極めて少数派と見るべきだろう。
地位や肩書に金の有無等様々な要因で、他人を見下し侮蔑する奴は多かったからなぁ。
日本で生きていた時の事が思いださ・・・あれっ? 何処でだろう、何才のときの・・・。
又だ、思い出せそうで薄靄のベールを被せた様に思い出せない。
アルバートと入れ替わって以後の記憶は鮮明なのに、それ以前のアルバートの記憶もはっきりと判るのに何故。
ラノベだって読んだ覚えは有るのに内容が所々しか思い出せない、神様に会っていないし死んだ記憶なんてこれっぽっちも無い。
はぁー出るは溜息ばかり也、ってこの言葉もだ。
* * * * * * * *
冒険者達と待ち合わせた西門へ送ってもらい、今日の仕事を中止する事を告げ一人銀貨2枚を支払って伯爵邸に引き返す。
伯爵様の待つ執務室に行くと、冒険者ギルドのギルマス、ヤンセンさんと伯爵様が楽しそうに話し合っていた。
待たせた詫びを言い、伯爵様に示された席に着く。
先ずギルマスが話しを始める。
ゴールデンベアとブラックウルフのレッド種の討伐記録は、150年以上前のもので古すぎて役に立たない事を告げられる。
ゴールデンベアとブラックウルフのパープル種は、50年程前にそれぞれ討伐記録が有り、当時の記録を参考にしたいと言われ了承する。
示された当時の買い取り価格は
ゴールデンベアのパープル種が金貨250枚
ブラックウルフのパープル種が金貨280枚
どちらも別々にオークションに掛けられての落札価格だそうだ。
ギルマスの告げた価格を参考に1.5倍の価格で買い取りたいと、伯爵様に言われて了承する。
ゴールデンベアのレッド種一体金貨375枚
ブラックウルフのレッド種一体金貨420枚
合計金貨795枚だが、快く譲ってくれるお礼に金貨55枚を追加して合計金貨850枚を支払うと言ってくれる。
貴族の面子も有るので、素直に礼を言って頭を下げ有り難く頂く事にした。
王都へ運搬の為に、冒険者ギルドの所有するマジックバッグを使う事。
伯爵様の王都行きに同道し、国王陛下に献上して引き渡すまでの打ち合わせをしてギルマスは帰って言った。
「あーっ」
「どうしたアルバート君」
「忘れていた、ギルドに預けたオークとホーンボアのお肉」
「お肉?」
「オークとホーンボアのお肉、鑑定では美味とあったので足一本分位は売らずに食べたかった」
伯爵様は爆笑しているが、ホイホイとパープルやレッド種を出す訳にいかないとなるとなぁ。
次に冒険者ギルドに魔獣を売り、お肉を引き取れるのは何時になるんだろう。
「俺って間抜けだよな~」
「何だ暗闇の森で食べなかったのか」
「あんなにでかい奴の解体は無理です! せいぜいホーンラビットや鳥位なら出来ますが・・・お肉を山ほど持っているのに、全然食べられ無いなんて」
俺の悲しみを余所に、伯爵様は笑い続ける嫌な奴です。
冒険者ギルドにオークのレッド種をもう一体渡して、解体してお肉だけでも引き取ろうと心に誓う。
笑うのを止めた伯爵様が真剣な顔になり、城壁の話しをしようと提案。
「城壁を新たに造る事にしたいが、普通10m単位で基礎と壁の高さや厚さを決め金額もそれ相応になるのだが」
「城壁の高さと厚さを、どの程度にするのかお考えですか」
「高さはグレイスネイクが出たので現在より少し高くして、8mとし厚さは2mで行けるだろう」
「たたき台としての原案が有りますが、宜しいですか」
伯爵様の了解を得て紙とペンをもらい、紙を横にして描きはじめる。
右端から左に少し横線を引き凸形に線を引く、説明にこれが現在の城壁ですと説明。
さらに左に向かって3/4の所に一際高い凸を引き、これが新しい城壁です。
頷かれる伯爵様、さらに左にペンを進め凹形に線を引き、此処を掘りにします。
そう説明して伯爵様の顔を見、城壁の高さは約14mだと言っておく。
掘りが必要なのかと聞かれたので、ある条件下なら必要になりますと答えておく。
「この城壁10mを、金貨1枚で造ります」
「余りに安いのでは無いのか」
「俺の・・・失礼、私の能力ならこれでも十分稼ぎに成ります。が、条件付きなら格安にも成りますって言ったのを覚えていますか」
「あぁ、条件を聞こうか」
俺の示した条件とは
新たに造る城壁と一体化した住宅を造る。
周回道路と区画割に上下水道の初期設備は、俺の裁量に任せる。
城壁と一体化した住宅の運営と権利を、全て俺にする。
家賃収入からの税を、城壁完成後から20年間無料とする。
東西南北の新旧の門に繋がる道の、左右100mは伯爵家の優先使用とする。
新旧城壁の間の土地一カ所を、250m×200mの大きさで俺、アルバートの物とし伯爵家は一切関知しない事。
但し、エルクハイムがエスコンティ伯爵領て無くなった時はこの限りでは無い。
この条件で良いのなら、20mを金貨1枚で造る。
但し城壁建設に関し、周辺警備や雑用等は俺の指示に従って、人員の手配賃金等をエスコンティ伯爵家で負担する。
追加情報として、城壁と一体化して建設する住宅は4階建てにする。
建物の壁自体が城壁の強度を上げ、建設材料の削減に寄与する。
1階辺り1.600~1.900戸を見込、4階建てで7.000~7.600戸の予定で在ることを話す。
道路等を含めれば18.000m×250mの相当数が伯爵家の自由に出来る事になる。
建設予定住宅数にも驚いていたが、自由に出来る土地の広さは魅力的だった様である。
エスコンティ伯爵、ハイド男爵、執事長に、事務方と思われる数名で話し合っていたが、簡単に結論が出た様だ。
「アルバート君、大工事に成るが出来るのか?」
「はい、壁自体は一日400mを目処に建てられます。2ヶ月も有れば城壁は完成します」
「そんなに早く建てられるのか」
「明日の夜、街の外で壁を造って御覧にいれます。壁よりも、壁と一体化させる住宅の方が面倒です。建設を始めるにあたり、住民達からの目隠しと情報統制の手筈を整えて下さい。野次馬に妨害されたくありません、出来て仕舞えばこっちのものですが」
翌日の城壁造成見学の護衛は、伯爵家からとウーニャ以下6名の合同で深夜に行う事になった。
夕暮れ時に一番人通りの少ない西門から伯爵様御一行が出発。
伯爵様以下ハイド男爵に執事長と伯爵家の護衛ガルムとバルドス他5名に、ウーニャ以下6名の冒険者で護衛。
城壁から3kmの所に仮設キャンプを作り、月が登るのを待つ。
《フィーィ、フィーェ見える。俺達の処からお月様の方を見ているから注意してね》
《見えてるよー。判った、近くにはゴブリンとホーンラビットとスライムしか居ないよ》
《有り難とう》
俺達一行は土魔法で直径10m程の夜営用ドームを造り、中で冒険者達が焚く焚火でお茶を沸かしのんびりしている。
馬車や大型の驢馬達は、高さ5m程の塀に囲まれて草を噛んでいる。
この世界に馬が居ないのは驚きだが、サラブレッドより大きな驢馬いる。
しかも蹄では無く牛や山羊の様な蹄だから、荒れ地や山岳地も行けるらしい。
月も程よい高さに上がったので始める事に、土のドームを消し準備。
目印の左の位置から右の位置まで、一気に高さ14m厚さ2m長さ600mの壁を造る
呆気にとられる伯爵様や、同行の護衛と冒険者達御一行様を案内する。
「伯爵様確認して下さい」
左の端に行き厚さと高さ裏側の堀を確認してから、右の端まで歩く。
途中任意の場所を示してもらい、そこを崩して厚さが2m有るのかも確認して行く。
「一日400mと言いましたが、今日は600m造ってみました」
「身体は何とも無いのかね」
「はい、この程度で有れば何の問題も有りません。壁の強度は、現在の城壁の1.3倍程度になります。流石に、お試しで造った壁並の強度にすると身が持ちませんので」
「然し、聞いてはいたが凄まじいな」
「時間が有るので住宅をどの様に造るかも見ておいて下さい」
そう告げて壁から少し離れてもらい、壁から直角に50cm程の壁を10m、6m、10mと間を空けて4枚造る。
壁と壁の間に3m間隔で横に繋げて仕切り4階建てにする。
「建物と建物の間に6mの間が有りますが、そこに階段を設けますが面倒なので今日は止めておきます。伯爵様これなら壁が倒れる事も無いし、上は兵士が歩くにも支障は有りませんよね」
「あぁ、あぁ問題ない」
了解を得たので、明日からは城壁建設の下準備を冒険者達とすることに決定。
ウーニャ達に当分の間来てもらえるか確認し、下準備が終わったら冒険者をもう少し増やすので、真面目で口の固い者を選んでおいてと頼む。
伯爵様にも了解をもらい、夜明けを待って西門から帰還。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます