第8話 カナード・C・エスコンティ伯爵
座ってくれと示されたのは応接セットの超豪華版といった感じのソファーだ。
エスコンティ伯爵と向かい合って座ると、メイドがお茶を入れてくれる。
「君に来て貰ったのはナムラード村で造った塀について興味が有ったのだが、冒険者ギルドに提出した物にも興味が涌いてね」
「土魔法使いなら多少の差はあれ、あれ位は出来るんじゃ無いかな」
こりゃー面倒事になりそうだと考えながら返事をする。
「君はハイド男爵に【土魔法が必要なら条件次第で依頼を受けるぞ】と言ったと聞いてね。君の能力を見た上でエルクハイムの城壁の改修を頼みたい。勿論適正な報酬は払うつもりだ」
「条件と報酬次第で受けても良いですよ」
そう答えると土魔法を見せる事になった。
館に隣接した兵士の訓練場に出向く。
数百メートル四方の練兵場には人影が無い。
聞けば訓練場が見えない場所に移動させ、此処で起こる事に気づかれない様に実戦形式で訓練していると・・・南無兵士の成仏を祈る。
「力を見せるのに要望は有るかな」
「君の自由に使ってくれ」
エスコンティ伯爵の言葉に、練兵場の中央に行き伯爵、ハイド男爵と護衛の騎士と執事を囲む様に1メートル程の手摺りを造る。
「少し揺れるかも知れませんが御勘弁を」
そう断って足元を10メートル程持ち上げる。
直径4メートルの円柱が出来ているが中に立つ彼らには判らない、少し景色が変わった位だろう。
「練兵場の周囲を見ていて下さい」
一声掛けて指差し、指差した所から外周に沿って一気に土魔法の槍を造って行く。
高さ約10メートル太さ1メートルの槍が数百本、時間にして約1分位かな。
「もう一度」
再度数百本の土の槍を造る。
声も無く見ている皆を下に降ろして出来上がった槍の所に連れて行く。
「どうぞ確かめて下さい」
「強度は又後ほど確認出来る物を造ります」
ハイド男爵が惚けているエスコンティ伯爵に声を掛け練兵場を一周する。
30分程掛けて一周して来たので許しを得て消滅させ地ならしする。
練兵場の一画に連れて行き強度確認用に高さ10メートル横15メートル厚さ20センチの壁を造り、左隣に強度を落とした同じ壁をもう一つ造る。
裏に回って太さ30センチ高さ5メートルの石柱を一本、少し離して強度を落とした同じ石柱をもう一本造る。
不思議そうな顔の伯爵様ご一行に説明。
右の壁は持てる能力の最大で造った物、左の壁は強度を落としているが普通の石材よりは固い物だと説明。
裏に有る石柱も向かって右は魔力最大で強固な物、左は石材より固い物と説明する。
後はお抱えの魔法使いに存分に攻撃させて強度を確かめて下さい。
石柱は腕自慢の試し切りにご使用下さい。
些か皮肉混じりに説明をした。
「どうして周囲の土の槍を消したのか」
「あんな物が残っていればどうなるかご存知でしょう」
苦笑いと共に納得頂けて幸です。
護衛の騎士にお抱え魔法使いを呼びに行かせ最大の攻撃力での魔法攻撃、複数人での一斉魔法攻撃や騎士に依る石柱への斬激を加えるも皹一つ付かず。
元の執務室に戻ると。
「凄まじい能力だが壁なら一日でどれ位築けるのか」
「まぁ高さや厚さにも依りますが、数百メートルって所ですかね」
本当の能力は教える気が無いが、ハイド男爵がある程度知っているのでその範囲内で答えておく。
「今有る城壁の強度を上げるだけなら一日で出来ますよ」
しれっと答えてお茶を飲む。
「これだけの能力が有れば暗闇の森での狩りも納得出来るって事だな」
「暗闇の森?」
「知らないのか、君が倒してきた魔獣達は暗闇の森と呼ばれる奥地に棲息しているんだよ」
「村の者は谷の向こうとか裂け目の先とか呼んでいたのでね。確かに裂け目を幾つか越えると森が暗いよなぁ」
「「谷を幾つか越える!」」
伯爵様御一行の声が揃う。
変な物を見る様な目で人を見ないで欲しいなぁ、等と考えてしまう。
「今日はこれまでにしたい。頭がついて来ない」
伯爵様の言葉に皆疲れた顔で同意している。
宿の手配もしていないだろうから伯爵邸に泊まる様に言われるが断る。
「アルバート城壁改修の依頼とレッド種二匹の買い取りの話をしに、毎日宿と館を往復する気か」
言われて見れば面倒だよなぁ、伯爵邸に泊まるのはもっと面倒な予感がする。
思案中にハイド男爵が、城壁の改修には綿密な打ち合わせが必要だ。
魔獣の買い取りも謝礼を支払って、もこちらの引取の都合もあると言われて困惑。
結局気に入らなければ交渉途中でも勝手に打ち切って、出て行っても良いとの条件で泊まる事になった。
メイド長を呼び暫く俺が滞在するので客間に案内する様に指示する。
「アルバート必要な物が有れば遠慮なくメイドに言ってくれ」
「有り難う御座います」
軽く頭を下げ礼を言って退室する。
メイド長に連れられて客間に入ると新たなメイドが頭を下げる。
「アルバート様付きメイドのヤーナです」
「私はメイド長のエメラです、何か御入用な物が有れば遠慮なくお申しつけ下さい」
「有り難う御座います。アルバートです宜しく」
メイド長のエメラが深々と頭を下げて出て行く。
部屋を見渡して溜め息しか出ない、何十坪有るんだよと思わず日本人の突っ込みがはいる。
失敗したなぁ。
出会った魔獣は鑑定結果が危険・美味しいとしか出なかったので、ホイホイ狩っていたから騒がれるとは思わなかった。
ホーンラビットや野牛の類いを大量に出して換金すべきだったな、反省!。
でもまぁ御蔭で衣食住全てを賄って有り余る程に為ったから、結果オーライって事にしとこ。
「アルバート様お茶をどうぞ」
言われて柔かなソファーに深々と腰掛ける。
《フィーィ・フィーェ聞こえる。今何処に居るの》
《アール大丈夫?、アールが入った建物の近くの大きな樹の上だよ》
《暫く此処に居る事になりそうだから、二人は森に帰る》
《森まで行くと声は聞こえても来るのが遅くなるから此処に居るよ。》
《良く葉の繁った枝にハンモックを吊しているから快適だよ》
お茶を飲みながらのんびりお話し、念話って便利♪。
どれ位の距離まで話しが通じるのか一度試しておこう。
外壁の改修と言っていたが街の詳細を知らないのは困るな。
「ヤーナさんエルクハイムの地図って在りますか」
「地図は御領主様に確認しないと何とも申しあげられません」
そりゃーそうか、地図って軍事機密だものな。
地球的規模でいえばヨーロッパの中世かな、機械文明の兆しすら無い魔法の世界だしな。
ラノベは楽しく読んでいたけれど自分が転生して見ると、危険汚いキツイの丸っきり3Kの世界+不便で臭いが加わるんだ。
取り留めのない思い出に浸っていると湯浴みをするかと聞かれ、即座にハイって返事をしてしまった。
11才で覚醒してから初めての風呂だ!、生活魔法のクリーンでは味わえない・お・風・呂・♪
いやー堪能しました(合掌)
風呂上がりに窓を開け涼んでいると食堂にお越し下さいとヤーナさんに呼ばれついて行く。
家族は王都に行っていていないから気軽にしてくれと言われて食事が始まった。
カトラリーを使う順番等を教わりながら食べると味も半減だが、この世界で目覚めてから一番美味しい食事だった。
食後のお茶を楽しんだ後、早めに部屋に帰って寝ることにした。
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