第8話 提案

 5分もしない内に騒ぎが起きた。

 数匹のゴブリンの群れがホーンラビットの縄張りに入った為、ホーンラビットがゴブリンにが突っ込んだみたい。

 

 〈グギャワー、ギャギギガー、ゴワーゲッ〉とか煩いの何の。

 

 《アール、グレイスネイクが起きたよ》

 

 鎌首を持ち上げてゴブリンを見るが、俺達も見つけた様だ。

 

 ウーニャとキルザが前に出るのを止めて下がらせ、ガルムとバルドスが左右に立つのを少し離れて貰い、足元を10m程持ち上げる。

 早い、もう50m程先まで来ている。

 蛇って嫌なんだよなー、などと考えながら進行方向に土魔法で大きな輪を作り、頭が入ると一気に絞り込む。

 25m先で首を絞められたグレイスネイクがのたうち回る、大きさは17、8m胴回り30~40cmってところかな。

 蛇は厄介だね首だけで無く頭全体を包み込む様に土魔法で押さえてから下から土槍で突き上げる。

 頭を潰しても胴体は暴れるので暫く放置、足場を下げると冒険者達は全員武器を手にしている。

 

 「仕留めたけれど胴体が当分の間のたうつから、収まるまで休憩しよう」

 

 ガルムとバルドスに声をかける。

 

 「ウーニャとキルザ達も休憩しよう。阿保なゴブリンも居なくなったみたいだよ」

 

 ウーニャが嫌そうな顔で「蛇はしぶといから嫌ですねー」と呟く。

 猫人のウーニャにとって、蛇は大嫌いだろうな。

 

 「まぁね、仕留めても当分ジタバタ暴れるので、マジックポーチに入れる気にも為らないしね」

 

 「でも凄いですね。グレイスネイクをあっと云う間に仕留めるなんて、どちらが護衛なんだか分からないや」

 

 他の冒険者達も呆気に取られているが、無視してお茶にする。

 ガルムさんとバルドスさんも、苦笑いしながら隣でお茶を飲む。

 良い天気だよねー。

 

 休憩中にウーニャの冒険者カードを見せてもらった。

 銀色のカードで片面が盾に槍と剣が交差する絵柄の下に登録地名と番号、反対面に持ち主の顔とその下に名前と性別年齢で一番下に赤い横線が2本入っている。

 顔は魔法で写すらしい、その下は名前と性別年齢で一番下の2本の線は2級で1級の上の区別線だと。

 

 つまりウーニャは、エルクハイム登録の登録番号〇〇〇番でウーニャ♀ムニュムニュ才でシルバーランク2級ってことか。

 一級二級と上がり次の階級になるって事か、なるほどね。

 二級から一級だと線を消さなきゃならないから、一級二級と上がるのは合理的なのね。

 まっ、将棋や囲碁も、数が多い段位の方が強かったしな。

 

 因みにアイアン・ブロンズ・シルバー・ゴールド・ミスリルの5段階でミスリルの上に特級って名誉階級が有るってさ。


 東門から始めた調査は南門までも行けずに終わった。

 冒険者の皆に聞けば、ウーニャとキルザは数日間の約束なので、明日は南門で待っていて貰う事にした。

 エミリー、サイナム、キューロ、ヘムの四人には、明日も来てくれるのなら個人的にも雇いたいと話して来てくれる事になった。

 

 調査中に倒したグレイスネイクは、冒険者達に受け取りを拒否されたので空間収納にポイする。

 ホーンラビットが思いのほか取れたので、全て冒険者に受け取って貰う事にした。

 臨時収入は良いことだしね。

 

 そんなこんなで伯爵邸にかえり、執務室で今日の調査結果の報告をする。

 借りた地図と今日の調査範囲から、エルクハイムの街は直径約6km程の少し歪な円形で、馬車で通った限りでは手狭に感じた。

 調査出来た範囲では城壁は土台部分が弱い為に、下から傷んでいて現在のままなら遠からず崩れる部分が出ると思われる。

 

 ヘムに書かせた10m間隔の報告書は↓(基礎)1(最低レベル)×(不良)の印しばかり、壁自体の状態も3~1ばかりで状態の良い場所が殆ど無い。

 以上の事を伝えて、土魔法で土台の補強と外壁の表面部分だけを補強するのが、早くて安上がりだと報告する。

 伯爵様からは現在の城壁は高さ約5m厚さ2mで、上部を歩ける様にしているだけだと聞かされた。

 土台から修復すれば1mを金貨数枚では無理だろう。

 一度崩して基礎を固めて城壁を積み直すと、新たに城壁を築くより高額になるだろう。

 

 明日も調査は続けるが、多分残りも似た様な状態だろうと告げる。

 序でに、急遽雇ったヘム達4人も引き続き来てもらうにしたと告げて報告を終る。

  労いの言葉を受け部屋に引き上げると入浴を進められ、お風呂でのんびり過ごす。


 * * * * * * * *


 執務室にガルムとバルドスが静かに入ってきて目礼する。

 

 「どうだった」

 

 「14才の才覚では有りませんね」

 

 「城壁の調査に際し、見事な手際と進行でした」

 

 「調査報告書を御覧になられたと思いますが、側で見ていて最初は何をしているのか解りませんでした」

 

 「専門家でも無いでしょうに10m間隔で区切り、基礎、城壁の下段、中段、上段と区別し記録していくとは予想外でした」

 

 ガルムとバルドスが交互に話す。

 

 「そして、あのグレイスネイクを討ち取った手際です」

 

 ガルムが頷きバルドスに同意する。

 

 「最初は城壁の点検中です、彼は突然城壁から遥か離れた地点を見ていたのです。聞けば一寸大きめの野獣の気配がする、と言ったのです。だがこちらに気付いていないからと、仕事を続ける様に指示しました」

 

 「それから5分もせずに騒ぎが起きました。ホーンラビットの縄張りに入ったゴブリンが攻撃されて騒ぎ出しました。グレイスネイクが気づいて我々の方に近づいて来たとき、アルバート様が突然高く上がりグレイスネイクの方を向くと、突然グレイスネイクが大暴れしだしたのです。後から聞いた話ですが、土魔法でグレイスネイクの首を押さえ、地面から脳天に向けて土槍を突き刺したと」

 

 「確かにあれは蛇が首を押さえられた時の暴れ方でした。しかし冒険者も我々も、何もする事なくあっと言う間に終わりました」


 「遠くの野獣の気配を察知し、襲って来るとなった時の素早い攻撃は見事でした」

 

 「それに自分の足元を土魔法で高く上げ、視界を確保し敵を確認して攻撃した手際が良すぎます。暗闇の森を彷徨っていたと聞いた時には、とても信じられませんでしたが・・・」

 

 「魔獣では無い只の野獣とは言え、あの大きさのグレイスネイクですからね」

 

 「笑ったのはグレイスネイクを倒した後です。蛇は首を落としても暫くは胴体が暴れますが、彼はお茶にしようと座り込みましたよ」

 

 「直ぐ傍で死んでいるとは言え、グレイスネイクがのたうち回っているのですからね」

 

 そう報告して、ガルムとバルドスは疲れた様子でお茶を飲んだ。


 * * * * * * * *


 翌日も城壁の調査に出る。

 昨日と仕事は同じなので順調だし、ヘムが要領を覚えて言わずとも状態を書き込んでくれる。

 俺は地図を見ながら町並みを想像するが、高低差や建物の高さ等が不明で読み辛い。

 「バルドスさんエルクハイムの街って、最初は円形だったんですよね」

 

 バルドスさんが地図を覗きこんで頷く。

 

 「で、その外周に沿って何度か街を拡張していますよね」

 

 指差しながら指摘する。

 

 「一度目は5回に亘って拡張し、さらにその外側の場所を8回に亘って拡張したんでしょ」

 

 「何故判るんですか」と真剣な顔で聞いて来る。

 

 「中央の二重丸の部分が最初の街でしょう。その周りの街は隣接する街と境界が歪だし道の接続も無理が有ります。城壁を築いたんだと思いますがその外に再び街を造る時取り壊して街路にしていますから解りますよ」

 

 「再び拡張したと解る、その理由は何だい」


 「城壁ですよ。元の城壁を取り壊して再び等間隔で城壁を築こうとしたのだが、地盤が悪く歪になってしまったんでしょう」

 

 その後も取り留めの無い話しをしながらも順調に仕事が進み、西門まで来たので早めに仕事を終えた。


 * * * * * * * *


 伯爵邸に帰り報告の後、城壁の改修修復ではなく新たに城壁を造らないかと提案した。

 現在の城壁から250~350m外側に新しい外壁を造りませんかと。

 

 「理由は」

 

 「図で説明します」


 紙とペンで中央に横線を一本書く、そして縦に一本の線、線の交わる処を中心に大きな丸を書く。

 

 「これをエルクハイムの街と思って下さい」

 

 そう言いながら地図を横に並べる。

 円の右に東門と書き右回りに下に南門、左側に西門上に北門と書き込む。

 

 「昨日今日で東門から西門まで計って9.000m少々です。一周すれば18.000m以上になります。つまり長さ18.000m幅300m以上の土地が生まれます」

 

 「それは分かった、が資金が無いぞ」

 

 「それは伯爵様が改修する筈だった、城壁の修繕資金で足ります。只し条件付きですが格安にもなりますよ」

 

 笑い出した伯爵様と、呆気に取られて見ている執事長と護衛の騎士達。

 俺も、それはそれはニッコリと極上の微笑みを返しておいた。

 

 少し歪だが直径6.000mの円形から6.600mの円形に拡大すると計算で。

 拡大前、直径6.000×3.14=18.840m

 拡大後、直径6.600×3.14=20.724m

 外周でその差+1.884m増えるだけだが。

 

 広さに至っては。

 拡大前半径3.000×3.000×3.14=28.260.000m2

 拡大後半径3.300×3.300×3.14=34.194.600m2

 その差5.934.600平m2の土地が増える。

 

 まぁ多少の誤差は在るが長さ18.000m以上、幅300mの土地が増えると言えば理解しやすいよな。

 執事長が理解したのか、目の色が変わっている。

 

 そりゃー目の色も変わるって、伯爵も爆笑しちゃうよね。

 

 心の中で突っ込みを入れながら、この話しが通用するかなって考える。

 何せ王公貴族の支配する世界だからなぁ。

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