第7話 城壁調査

 外壁の改修と言っていたが街の詳細を知らないのは困るな。

 

 「ヤーナさんエルクハイムの地図ってありますか」

 

 「地図は御領主様に確認しないと何とも申しあげられません」

 

 そりゃーそうか、地図って軍事機密だものな。

 地球的規模でいえば中世後半かな、機械文明の兆しすら無い魔法の世界だしなぁ。

 ラノベは楽しく読んでいたけれど、自分が転生して見ると危険汚いキツイの丸っきり3Kの世界+不便で臭いが加わる。

 

 取り留めのない思い出に浸っていると湯浴みをするかと聞かれ、即座にハイって返事をしてしまった。

 

 11才で覚醒してから初めての風呂だ!

 風呂には生活魔法のクリーンでは味わえない癒やしがあるからなぁ。

 お・風・呂・♪ いやー堪能しました(合掌)

 

 風呂上がりに窓を開け涼んでいると、食堂にお越し下さいとヤーナさんに呼ばれついて行く。

 

 家族は王都に行っていて居ないので、気軽にしてくれと言われて食事が始まった。

 カトラリーを使う順番等を教わりながら食べると味も半減だが、この世界で目覚めてから一番美味しい食事だった。

 

 食後のお茶を楽しんだ後、早めに部屋に帰って寝ることにした。


 * * * * * * * *


 「一連の様子をみてどうでした」

 

 「確かに14才とは思えない言動だな。本当にナムラード村から出た事が無いのかね」


 「確かです、村を出てからエルクハイムに来るまでの約三ヶ月は、森の奥でしょうね」

 

 「先ほどの食事のマナーも、カトラリーの順番を知らなくても扱いはある程度慣れておりますね」

 

 「あぁ言葉使いもそうだ。丸っきり辺境育ちの子供のものでは無いな」

 

 「かと言って、貴族としての教育を受けていないが、裕福な市民の子弟でも使わない言葉使いや言い回しがある」

 

 「気付かれましたか? 彼は貴族に対して過剰な恐れを持っていません。といって上下長幼の礼儀は、ある程度守っています」

 

 「それと練兵場での土魔法です。力の見せ方を知っていて、隠す事もしています。私がナムラード村で彼の魔法を見ていますので、それに合わせて今日力を見せました」

 

 「街の買い物では、衣服,夜営用品,生活雑貨、最後に武器のショートソードと大振りの鉈だ。防具は一切買っていない。しかも買おうとしたショートソードは、金貨一枚もしない安物です。店員が先に買った物と比べ身なりに合わない安物だからと指摘して、初めて気がついた様子だと」

 

 「防具を必要としない防御力と、最後に武器買うのは武器を必要としない攻撃力を有すると見るべきだな」

 「門衛の知らせを受け冒険者ギルドでアルバートに会った時、彼は丸腰でマジックポーチ一つでした。食事の時と同じ衣服で戦う為の物ですらありません。極めつけはあの立ち姿です」

 

 「確かにあの立ち姿は、普段武器を身につけている者のものではないな」

 

 「と言うか、武術の訓練を受けた者の立ち姿ではないな」

 

 エスコンティ伯爵、ハイド男爵、ナリヤード執事長の三人は、真剣な顔でアルバートの分析に余念がない。


 多分アルバート自身は、兵士や冒険者達に包囲攻撃されても切り抜ける手立てを持っていると思われる。

 ゴールデンベアやブラックウルフのレッド種を一撃で倒す力を、侮ってはならない。

 これは冒険者ギルドでアルバートが出した魔獣全てが、顎から頭への一撃で討伐されているのをハイド男爵が確認している。


 つまり丸腰で暗闇の森を彷徨い、ゴールドやミスリル級冒険者が束になっても敵わない魔獣を、一撃で倒す力を有すると。

 結論として、アルバートと敵対しない敵に回さない事が確認された。


 * * * * * * * *


 《アール、部屋の窓を開けて外を見て》

 

 《どうした》

 

 《窓の外左の茂みと右に有る木の陰から、アールを見張っているよ》

 

 《有り難う。多分何もしないよ、見張っているだけだよ。》

 

 《フィーィ、フィーェお休み》

 

 さて明日は城壁の改修をするのなら、先ず外から城壁をチェックだな。

 魔獣を売るのは、受け渡しの時期に依っては断るか。


 快適な目覚めだ、やっぱりきちんとしたベットは良いなぁとしみじみ思う。

 顔を洗ってさっぱりする、クリーンでも良いが顔を洗う爽快感が無いのがね。

 風呂の時も思ったが魔道具は便利だから買おう。

 茶道具の大振りの茶碗程の容器の上に魔石、茶碗には湯の注ぎ口が付き、魔力を通すと適温のお湯が一定量溢れてくる。

 水道も一回り小振りだが同じ、明かりも魔石が光っている。


 多分コンロなんかも同じだと思うので、次街に出たら魔道具と家具屋だな。

 湯舟も家具屋に有るかな、色々と欲しい物がでてくる。

 ヤーナに呼ばれて食堂に行く。

 

 「お早う御座います」

 

 「良く眠れたかね」

 

 朝の軽い挨拶と共に朝食が始まる。

 食後執務室い移動し、お茶を飲みながら予定を聞く。

 「取り敢えずゴールデンベアとブラックウルフのレッド種を見せて貰おうか、場所は何処が良いかな」

 

 「屋内訓練場では如何でしょうか、地面ですがアルバートに固めて貰えば問題無いかと」

 

 「そうだな、屋内訓練場なら人目を気にせず出せるか」

 

 屋内訓練場に行き地面を固めた後、ゴールデンベアとブラックウルフのレッド種を並べる。

 二体とも額にラグビーボール形に真紅の毛色に紅い瞳、額からは血が滴り落ちている。

 改めて見るとでかいよなぁ、伯爵があんぐりと口を開けて固まっている(笑)

 

 ハイド男爵に声を掛けられて猶唸っていたが、やおら二体の周りを入念に回って観察した後仕舞ってくれと一言。

 地面を元に戻し血の跡を消す。

 

 執務室に戻り値段の交渉だが、ゴールデンベアとブラックウルフのレッド種の討伐記録が無いとの事。

 冒険者ギルドのギルマスを呼んでいるので、相談してから決めたいと言われて了承する。

 

 「城壁の改修だが、取り敢えず城壁の状態を見て貰おう。街の地図を渡すが軍事機密なので、当家から2名冒険者ギルドから2名を護衛として付けさせてもらうが良いかな」

 

 「結構です。筆記具とメジャー、城壁に印しを付ける道具もお願いします」

 

 「分かった直ぐに用意させる。ヤーナ、アルバート君を部屋へ、用意の品を渡してくれ。用意が出来たら玄関で待っていてくれ」

 

 「アルバート様どうぞ」

 

 別にこのままでも良いのにと思いながらついて行き、部屋に入ると「お召し物の用意が出来ております」って。

 

 言われてびっくり、見ると衣類一式とブーツまで有る。

 聞けば入浴中に仕立屋に寸法を測らせ、取り敢えず一着だけ一晩で作らせたとの事、貴族って怖い。

 くたびれた衣服では伯爵家の沽券に関わるので、有りがたく着替える。

 

 着替えて玄関に行くと護衛らしき、狼人続と虎人族の二人と伯爵様。

 

 「伯爵様、服を有り難う御座います」

 

 先ずお礼を言っておく。

 

 「あぁ気にするな。アルバート君、当家から出す護衛の二人だ」

 

 「ガルムです宜しくお願いします」

 「バルドスです宜しくお願いします」


 虎人族のガルムさん、白狼人族のバルドスさん二人とも2mを越えていて、威圧感ハンパない。

 てか冒険者ギルドからの護衛も似た様な感じかな、嫌な予感。

 

 「あのー伯爵様、冒険者ギルドからの二人も護衛ですよね」

 

 「そうだが、足りないかね」

 

 「いやいや大袈裟でしょう。それに必要なのは、メジャーを持つ二人と記録係です。それと記録係は勿論メジャー持つ一人も、字が書ける必要があります」

 

 「護衛は必要だぞ。昨日市場で買い物中、破落戸が後を付けていたのを知らないのか」

 

 「あー確かに、3~4人居ましたね。少し離れて2人」

 

 「なら必要なのは判るだろ。そ奴らはガルム達に任せて城壁の方を確り見てきてくれ。ガルム冒険者ギルドで、読み書き出来る者を3~4人雇ってくれ」

 

 何か大事になって来ているが、気にしたら負け!

 馬車に乗り込んで出発し冒険者ギルドに立ち寄り、新たに4人の冒険者を引き連れて東門へ。


 東門に二人の冒険者が待っていて合流、猫人がウーニャ狐人族がキルザと名乗った。

 新たに雇ったのはエミリー、サイナム、キューロ、ヘムで、ヘムが猫人で残り三人は人族だ。

 

 各自紹介が終わったので東門から右回りに調査開始、10m毎に城壁に印しを付け距離を書き込む。

 記録係のヘムは俺の隣で距離数を書きながら、50m4とか1とか俺の指示に従って書き込む。

 5良好,4良い,3普通,2やや悪い,1悪い修理要,×破損の6段階で記録する。

 それに加えて壁の上下を確認し、ヘムに伝える。

 

 《アール何しているの》

 

 《お仕事だよ。近くに魔獣は居ないよね》

 

 《んー、ホーンラビットにゴブリンとグレイスネイクが一匹居るね》

 

 《グレイスネイク、何処にいるの》

 

 《アールの左側窪地で寝ているよ》

 

 《分かった有り難う。起きたら教えてね》

 

 左側の窪地か約200mってところかな、確認の為じっと見ているとガルムが不審そうに近寄って来る。

 

 「アルバート様何か?」

 

 「ガルムさん様は付けなくて良いですよ。一寸大きめな野獣の気配がするものですから」

 

 冒険者のキルザが、エッて顔をする。

 唇に指を当て静かにさせ、こちらに気づいていないので静かに行こうと話す。

 エミリー達の緊張が伝わって来るので、楽にして仕事の続行をする様に伝える。

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