第4話 エルクハイム

 一度地上降りてもらい、フィーィの感想と残り五人の希望を聞き、気分が悪くなったら吸収を止めることを条件に魔力玉を渡した。

 それぞれ順番に魔力を吸収したが、皆の魔力吸収時間がバラバラで固体差が有るのは、人族と同じだと微笑ましかった。

 

 《昨日も魔力が倍以上に増えた気がしたが、今日も倍以上になった気がする》

 

 フィーィの声に、他の皆も頷く。

 多分今まで魔力の増やし方が判らなかったのか、高濃度の魔力を吸収した経験が無いのだろう。

 毎日魔力を吸収して自分の限界を知っていた方が良いので、魔力玉を提供するよと言ったら喜んでくれた。

 

 再び標的の柱に向かって各自得意の魔法を撃つが、着弾音が全然違うし標的の柱がボロボロになったので中止。

 

 午後からエルクハイムに向けて歩き始めたが、フィーィが体長1m程のブラウンスパイダーを見つけて瞬殺する。

 何時もなら仲間が時々蜘蛛の巣に引っ掛かるが、今日は簡単に見つけたと聞いたので、魔力の増大と共に能力も上がっていると思われる。

 

 ブラウンスパイダーの糸袋は、上等な布の原料になると聞いたので取り出して空間収納にポイ。

 時折ブラウンスパイダーを見つけては、フィーィの仲間達が速攻で攻撃する。

 どうも森の中を飛ぶときに、ブラウンスパイダーの巣に引っ掛かると、魔力が足りなければ餌になったりして恨み骨髄らしい。

 今なら能力が上がって巣も簡単に発見出来るし、倒すのも楽なので発見次第殲滅する気らしい。


 漸く木々が疎らになり草原地帯に出たのでフィーィに高く上がってもらい近くに集落がないか見てもらった。

 

 《アール、大きな街が在るよ! 小さな町も!》

 

 《大きな街に行きたいので、方向と距離だけ教えて》

 

 《うーん・・・今の僕なら途中で一回か二回休憩すれば着くね》

 

 駄目だ、フィーィの飛ぶ速度や一回でどの程度飛べるのか知らない。

 まっ、方向が分かれば良いか。

 降りて来たフィーィが肩に乗り方向を教えてくれるので、取り合えず歩き出す。

 

 草原といっても灌木や丈の高い草も生えているので見通しが悪い。

 時折現れるラノベでお馴染みのホーンラビットやゴブリンを倒しながら、夕暮れ前に馬車が通っているのを遠目に確認した。

 今日は街道から目立たぬ様に、小さなドームを造り此処で寝て明日街に向かう事にする。

 

 今日も皆で魔力玉から魔力を吸収していたが、もう魔力量は増えないけど気持ち良いから嬉しいとの返事。

 

 結局俺の魔力玉から魔力を吸収した結果、フィーィが倍の倍の倍と少々で元の約九倍の容量に。

 フィーェもフィーィと同等、エフォは三日目にはもう駄目って言って六倍位かな。

 キューはそれより少し多いくらい、ファールが一番多くて約十倍でクーッはフィーィより少し少ない感じ。

 

 空間収納も直径2mの物をファールが約三個、フィーィはファールより少し少ない。

 フィーェはファールより少し少なく、クーッは二個半位でキューが二個と少々、エフォは二個で目一杯って感じだそうだ。

 

 でも能力はファール、フィーィ、フィーェで約七倍、一番少ないエフォでも五倍近く能力が増えたと喜んでいた。

 

 明日でお別れなので各自五個づつ魔力玉を渡し、他の妖精族にも一度は魔力を吸収させて安心して暮らせる様にとお願いした。

 

 翌日出発する前にフィーィとフィーェが並んで俺と一緒に行くと言い出した。

 今の魔力量と能力なら四人で送り帰しても安心だし、二人でも自分達の身は守れるので、アールも何かと安全便利だよと言われた。

 四人も納得していているし、二人の意思が固いので説得は諦めた。

 ただしエルクハイムの街中に妖精族が入るのは、俺が目立ち過ぎるのと危険になると思われるので、街の外で待っててもらう事にした。

 

 ファール達四人を見送ってから馬車の通る街道に向かって歩く。

 フィーィとフィーェは俺の上空に浮かんで、周囲を監視しながらお喋りする。

 門の前で行列に並んび待つ間に、二人には森の方に離れて貰い念話がどの程度の距離まで通じるのか確認する。

 

 エルクハイムの門前は、早朝な事もあって大して待たずに入れた。

 門衛の兵士に通行手形を示して、薬草や魔獣と野獣を買い取ってくれる場所を聞くと丁寧に教えてくれた。

 その際名前を聞かれアルバートだと答えると、一度領主の館に顔を出しハイド男爵に面会を求めてくれと言われた。

 

 各ギルドの登録は16才からだが、買い取りのみなら年齢制限は無いらしい。

 薬草は、冒険者ギルド商業ギルド薬師ギルドのいずれでも買い取って貰えるとの事。

 魔獣と野獣は基本的に冒険者ギルドだが、商業ギルドでも扱っているので美味い肉と良い毛皮が採れるのなら、持って行けと教えてくれた。

 

 高く引き取ってくれる所なら何処でも良いが、先ずは冒険者ギルドだな。

 衣服や装備がだいぶくたびれて来たので新しい物に替えたいし、きちんと調理された物を食べたい欲求には抗えない。

 何せ塩味だけの肉と、鑑定で食用可と出た野菜を茹でたり焼いたりしたものを塩味で食べて来たので、塩味にはうんざりしている。

 野菜なんて鑑定で食用可と出るので、食べると苦いえぐい筋だらけってのが結構ある。

 二回目の鑑定では食用可苦いとかえぐいとか出るんだが、最初に教えろよって毒づいてしまう。


 目に付いた屋台で串焼き肉やスープを買い込み、その場で頬張る。

 料理の練習と。調味料を手に入れるのを忘れない様にしなければ。

 冒険者ギルドへ向かっていると、道沿いに屋台が並び旨そうな臭いが漂ってくる。

 まだまだ食べ足りないが、冒険者ギルドで買い取って貰ってから満足するまで食べよう。

 

 ラノベでも、冒険者ギルドの朝は混み合っていると読んだ覚えがあるので、お約束の絡みは無しに願いたい。

 周囲を見渡しても鎧を着込み、槍や弓を手にし腰にロングソードやショートソードを挿して、朝食を食べている人が多数見受けられる。

 歩きながら食べ、門に向かっている冒険者風の者も多い。

 

 急がず慌てず空いてます様にと願いながら冒険者ギルドへむかう。

 盾に槍と剣を交差させた看板が見え、冒険者ギルド発見!

 何かテンションが揚がるんですけど(笑)目の前には、西部劇に出て来る様なスイングドアだ。

 ラノベのテンプレ無しでお願いしますと考えながら中へ、正面のカウンターには綺麗なお姉さんが・・・一人も居ない。(泣き、ラノベの嘘つきー)

 ゴッツイ叔父さん叔母さんの鎮座ましますカウンターに向かい、空いているところに声を掛ける前に「アルバート君ですか」と問い掛けられた。


 頷くと暫くお待ち下さいと言われ、その職員は裏へと消えた。

 カウンターの前でぼんやりしていると、ドタドタと数名の足音と共にハイド男爵とそのお供がやってきた。

 門番が御注進に及んだな。

 空間収納に溜まっている、魔獣や野獣に薬草等を売り捌いてから逢いたかったが、仕方がないので御挨拶。

 

 「お久しぶりです」

 

 「遅かったな。待ち侘びたぞ」

 

 ニコニコ笑いながら目の前に立つ。

 

 「手持ちの物を売り払ってから、そちらに伺おうと思っていたのですが」

 

 「あぁ来るのが遅いので村に人を遣ったら、森に入ったきり帰って来ないと言われた。無事に此処に着いたのなら、どの程度の物を狩って来たのか興味があって見に来たんだ」

 

 「えーっと熊と狼に狐に猪、それにオークかな。それとは別に薬草と蜂蜜等も有ります」

 

 ハイド男爵の隣に立っていた男性が、本当かと聞くので沢山有りますと応える。

 

 「あぁ紹介しておこう、エルクハイム冒険者ギルドのサブマスターグリムスだ」

 

 紹介されたサブマスターが、疑わしそうな顔付きのまま解体場で出してくれと言って歩き出す。

 ハイド男爵が苦笑しながらついて行き、その後に続く。

 無理も無い、まだ14才の見るからにガキが、熊や狼に猪とオーク等と言っても信じられないのだろう。

 

 サブマスの後について行くと、広い解体場が在った。

 此処に出してくれとの言われたので、取り合えず各種一体ずつ出すことにした。

 

 ゴールデンベアと呼ばれる金毛の熊に、同じ金毛のレッド種とパープル種の三体を並べて置く。

 金毛の隣にはブラウンベアと同じ種のレッドとパープル、次にブラックウルフのレッドとパープルの三種。

 その隣に、グレイウルフにレッドとパープルの三種を置く。

 どれ位まで買い取ってくれるのかなと考えながら、シルバーフォックスにパープルとレッド3体を並べてる。


 「一寸待て!」


 と悲鳴の様な声がして、サブマスが青い顔でお前が狩って来たのかと詰め寄って来る。

 

 「はい、森の奥に行くとこんなのばっかり出て来ますからね」

 

 「猪やオークと言っていたが、それもレッド種とパープル種を持っているのか」

 

 持っていると答えると、猪とオークを出したら取り合えず止めてくれと言われて出すのを止めた。

 サブマスのグリムス以下、ハイド男爵や以前俺を怒鳴り付けた騎士と従者も青ざめた顔で見ている。

 

 ハイド男爵が俺の側に来て、後で詳しい事を話すので全てのレッド種とパープル種を仕舞ってくれと言われた。

 サブマスのグリムスが抗議していたが、ハイド男爵がこんな物を大量に出したらどんな事が起こるか判っているのか、と聞くと黙ってしまった。

 領主とギルドマスターで話しあってからだと言われて、渋々頷いている。

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