第3話 妖精族

 北に向かって歩き始めてて十日程経った頃、そろそろ東に進路を変えるかと考えていると、魔法を使っている音が聞こえてくる。

 魔物相手にしては各種の魔法を連続して使っていて、それと同時に多数の〈ブーン〉っといった羽音が聞こえる。

 音のする方に近づいてみると、立ち枯れの巨木に蜂が群がっていて巨木の開いた穴の中から蜂に向かって魔法で反撃している。

 

 結界を張り静かに近づくと大きな蜂だ。

 周囲を警戒していた蜂の一匹が俺に気づき、近づいて来たので雷撃で撃ち落とす。

 鑑定すると〔蜂・肉食・危険〕日本のスズメ蜂でも危険なのに、丸々と太った体長約30cmの蜂は確実に危険だ。


 幹の直径6、7mは有りそうな巨大な立ち枯れの穴から、多様な魔法で防戦しているのは、穴の大きさからホビットの様な小人族かな。

 取り合えず助ける事にした。

 

 まず巨木を土魔法を使い、チョコレートでコーティングする様に覆ってゆく。

 巨木に群がっていた蜂が邪魔をされて怒り、〈ブンブン〉周囲を飛び回り俺にも多数が襲い掛かって来た。

 蜂の集団を包む様に雷撃魔法をお見舞い、三度繰り返すと大半が焼け焦げて落ちて来る。

 残りの蜂を個別に撃ち落としながら、巨木のコーティングを落とす。

 

 「おーい大丈夫かー」

 

 声を掛けても返事が無い。


 土魔法でハンマーを作り、巨木を〈コンコン〉とノックしていると、又数匹の蜂が未練がましくやって来る。

 そいつを一匹ずつ撃ち落としていると、樹の洞から小さな顔がひよっこり現れた。


 現れた顔は、俺と撃ち落とした蜂の死骸の山を交互に見比べて目を真ん丸にしている。

  又、少数の蜂が近づいて来たのを撃ち落とす。

 

 それを見て樹の洞から覗いていた人が、ひょい、と頭から飛び降りた。

 慌てて助け様としたが、周りは蜂の死骸だらけで歩けない。

 飛び降りた小さな人は、地面に叩き付けられる寸前に背中から羽根が生え、ふわりと浮き上がり俺の前に来た。

 

 「大丈夫だったかい、怪我は無いかい」

 

 小さな人は小首を傾げて俺を見、何か言っているが聴こえない。

 色々言ってみたが、通じ無いし聴こえないので、思わず。


 「ニホン・ゴ・ワカリ・マスカ・フフン♪」


 イヤ、冗談だけどね。

 覚醒してから一度も日本語を使っていなかったので、思わず言っちゃた。

 羽根が動いて無いけど浮いているって事は、多分魔力の羽根で出し入れ自在かな。


 目の前にゆっくりと近づいて来たが、身長30cmくらいで6~7等身の少しぽっちゃり。

 軽い日焼け程度の肌色に濃い緑の髪、目は金色と赤のヘテロクロミア虹彩異色ってやつだ。

 オゥ~、まるでラノベだぁと感心してしまう。

 

 目の前の俺を指差し自分の額を示してから掌を額に当てるゼスチャー、何かを伝えたい様なので頷く。

 俺の額に掌を当て、俺の魔力と自分の魔力を軽く同調させたのが判る。

 少し後ろに下がると

 

 《聴こえるかな》

 

 頭の中に響く声にびっくりしたが、これってテレパシー・・・念話だよな。

 

 「うん聴こえるよ」

 

 そう返事をすると

 

 《魔力を使って話し掛けているの、頭の中で考え話掛けてくれれば判るよ。声に出しても人族の言葉は判らない》

 

 《大丈夫かい》

 

 《有り難う、助かったよ人族の人》

 

 《あぁ、俺はアルバートてんだ》

 

 《フィーィだよ。でも人族がこんな大森林の奥まで良く来られたね》

 

 《まぁね、土魔法と防御結界に雷撃魔法が有れば何とか成るからね》


 その後色々話したが、襲って来た蜂はハンタービーと呼ばれている肉食の蜂で、一度住居が奴等に見つかるとしつこく襲って来るそうだ。

 もう三度襲われているので、そろそろ住居を移動しようかと思っていると聞いた。

 可哀相なので、俺が立ち枯れの巨木を土魔法でコーティングし、ハンタービーが侵入出来ない様にしてあげる事になった。

 

 先ず出入口と窓・換気用の穴等の目印を付けてから巨木全体を土でコーティング、魔物が襲って来ても壊れない様に強化する。

 後は出入口や窓等に庇を付け、窓には頑丈な格子を付け出入口は大きめの扉を設置し、扉の中央に10cm程の丸い穴とそれに合わせた格子の扉を付けた。

 通常は丸い穴から出入りし荷物等は出入口を開ける様にした。

 

 フィーィが不思議そうな顔で、この穴は何って聞いてくる。

 穴の上の握り棒を掴んで足から中に入るんだよ。

 これならハンタービーの頭は通らないだろう、格子戸を閉めればそれより小さな動物の侵入も防げると説明すると大喜びされた。


 その日は妖精の住む樹の隣に、大きめの夜営用ドームを造りフィーィやその仲間達遅くまで話し込んだ。

 

 フィーィ達妖精族は人族とは殆ど接触が無い、と言うか相手にしない。

 遥か昔に人族と付き合っていたが、小さいからと妖精達を見下したり籠に閉じ込めてペットにしようとしたりと散々だったらしい。

 

 その度に妖精達は防御結界を張り仲間を呼び、各種魔法で反撃し懲らしめていた。

 自分達の悪事を隠し、妖精族は無闇矢膤と人族を攻撃すると噂を広め嫌われる様になった。

 人族の余りな身勝手な言い分に呆れ、以後人族を相手にしなくなったらしい。

 

 現在妖精族と親交が在るのは、エルフ族やドワー族に猫人族等と、妖精族を見下さず対等に付き合える少数だけだと教えてくれた。

 

 大森林で生きる妖精族なら知っているだろうと、エルクハイムの方角を尋ねると、エルクハイムの近く迄案内してくれる事になった。

 方角を教えても地形的に真っ直ぐ進めないらしい。

 

 翌朝フィーィとフィーェ、エフォ、キュー、ファール、クーッの六名の妖精達と共に出発した。

 森を歩きながら、妖精達の知る様々な薬草を教えてもらって採取したり、出会う魔獣や美味しいと鑑定に出た動物を倒して空間収納にポイ。

 

 妖精達は、防御結界と雷撃に空間収納は皆持っており、その他に平均2~3種類の魔法が使えるとの事だ。

 ハンタービー相手でも2~3時間は結界を張ったままでも戦えるが、何せ相手の数が多いので仲間達と共同で闘うのだそうだ。

 故に妖精族は複数で行動し、猛禽類やハンタービー等を撃退していると教えてくれた。

 

 エルクハイムに向かってから七日目、確かに方角だけ聞いて歩くのは無理だと理解した。

 森を歩いていると突如として目の前に地面に巨大な割れ目が現れる。

 岩の壁としか思えない岩壁が出現して迂回するのに一日掛かり、ようよう迂回したと思ったら壁を越えての逆戻りだ。

 フイーィ達の案内が無ければ、エルフに道案内を頼まな無い限り、フィーィ達と出会った場所からでは森の迷子になるのが落ちだろう。

 

 今日も夜営用のドームを造り、就寝準備を終わらせてから日課の魔力を使い切る。

 森を彷徨う様になってから、魔力を一気に使い切る為に始めた魔力玉を作っていた。

 

 《何故そんな物を作るの?》

 

 《魔力を使い切って寝ると、目覚めた時には少し魔力量が増えるんだ。でも最近は魔力が増えて、魔法を使って魔力を使い切るのが大変なので、魔力玉にしているのさ》

 

 《良ければ、その魔力塊の魔力を吸わせて貰えないか》

 

 《何故?》

 

 《僕達妖精族の食事は、植物から魔力吸収するのと花の蜜なんだけどアールと魔力を同調させた時、アールの魔力が美味しいと思ったんだ》


 魔力に味があるのか? 美味しいってなんだと思ったが、同意して魔力玉を差し出す。

 フィーィはゆっくりと両手を魔力玉に添えて目を閉じた。

 他の妖精達と俺が見守る中、フィーィの全身から淡い光が溢れ光がおさまると、フィーィが微笑みながら目を開けた。


 《凄いねー、僕の魔力が倍以上になったのが解るよ》

 

 他の妖精達が我先にと魔力玉に手を差し出すのを止め、フィーィに身体の調子を尋ねたが《快調!》と一言。

 取り合えず一晩様子を見て、明日の朝に増えた魔力で魔法を使って結果を見ることにした。


 翌日また土魔法の石柱で森の上まで上がり、30mほど離れた所にもう一本の石柱を立てる。 

 同じ雷撃魔法を比べる為に、クーッに石柱目掛けて雷撃魔法を撃って貰う。

 俺の左に浮かんだクーッが無詠唱で雷撃を放つと〈トーン〉と軽い音がして命中

 

 《僕の魔力ではこれが限界だね。この半分の距離ならもう少し威力が上がるよ》

 

 ふむー、それでもこの距離にしては中々の威力だ。

 次にフィーィが軽い調子で撃つ〈ドーン〉と音がして石柱の一部が欠ける。

 余り魔力を込めて造っていないとはいえ、約30m近い高さの石柱なのでそれなりの強度が有るはず。

 

 次はクーッに火魔法を撃って貰う、これも〈パーン〉と軽い音だがそこそこの威力がある。

 続けてフィーィが撃つと、直径2m位の火球が飛び〈ドーン〉という轟音と共に柱の破片が飛ぶ。

 

 《うーん、大分威力が違うが、以前ならフィーィとクーッではどれ位の差があったんだい》

 

 《フィーィの方が少し、少し強かったよ》

 

 クーッが少しを強調して答えるのが笑える。

 

 《フィーィ身体の調子はどう?》

 

 《調子良いよ! 魔法もそうだけど飛ぶのも早く飛べそうだし、高く高く上がれそう》

 

 それを聞いてフィーィ、フィーェ、エフォ、クーッ、キュー、ファールの六人全員で、一斉に高く飛んでもらった。

 結果フィーィが上昇速度高度ともに断トツで、他の五人を置き去りにしていた。

 フィーィの到達高度は他の五人の二倍以上で、まだまだ上昇していたが降りてきてもらった。

 他の五人を置き去りにして飛ぶフィーィから《ふぁーぁぁぁ・・・凄ーい》なんて声が聞こえて来たので心配になったからだ。

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