第2話 尋問

 ハイド男爵はアルバートの言葉の裏付けを取るために先ず村長からの訴えを再度詳しく聞きなおした。

 

 「村長貴方の訴えとアルバートの言い分が余りにも違い過ぎるのだが、間違いは無いだろうな」

 

 頷く村長を見ながら村に残っていた兵士達のリーダーを呼び出し報告を聞く。

 リーダーの報告を聞いていると村長の顔が強張っていく。

 

 「アルバートとその母親が元々住んでいた場所が話しと違うな。現在の畑と家の持ち主を呼んで来い」

 

 村長の顔が益々強張り青白くなりだした。

 呼び出されたマルセルに何時から今の家に住んでいるのか、元の土地と家は何処かと問い質すと一気にマルセルの顔色も悪くなる。

 畳み掛けてアルバートの父親と狩りに行ったのはマルセルお前と他は誰だ。

 

 「お前はいきなり魔物に襲われてアルバートの父親ヨークが死んだとの報告だが、何故お前達誰一人怪我もせずに済んだんだ」

 

 村長が口を挟もうとするが目で黙らせる。

 ヨークと一緒に狩りに出たマルセルを省く四人を呼び出し一人一人から話を聞く、証言がバラバラでしかも現れた魔物の種類すら別々だった。

 

 「村長お前が持っているマジックポーチを出してみろ」

 

 村長が恐る恐る差し出すマジックポーチのベルトを見るとアルバートの言ったとおり、ヨーク・エイニーナ・アルバートの名前が縦横の角々文字に図案化して書かれていた。

 これは知らなければ只の模様にしか見えない。

 マルセルと村長のゴルムを並べてベルトの模様の意味を教えてやると、震えながらあれこれと言い訳を始めた。

 

 別室で調べた残り四人が狩りに出て何時もは行かない場所にヨークを誘い出した。

 マルセルが後ろから槍で突き差し逃げられない様にし、残りの四人で切り付け殺したと白状しているぞと教えると観念して全てを話した。

 

 ◇  ◇  ◇

 

 一週間後ハイド男爵が再び現れ村長のゴルムとマルセルは家財没収の上終身犯罪奴隷、家族は終身奴隷とし八歳以下の子供は孤児院送り。

 残り四人も終身犯罪奴隷とし家族は不問に為ったと教えられた。

 これからどうするのか聞かれたので後2年で16才の成人だ、16才に成ったら冒険者にでもなるさっと言っておいた。

 

 ハイド男爵が訴えや密告で犯罪者を逮捕出来た場合は一人につき金貨2枚、主犯に対しては5枚支払われるので金貨15枚が支払われる。

 それから終身奴隷として売られる犯罪者家族7名は、一人つき金貨1枚が支払われるので合計22枚だな。

 お前の父親の剣とマジックポーチは返しておく、そう言って部下に剣とマジックポーチを持って来させた。

 中は空っぽだったが父親の形見だし金貨と剣を放り込んで腰に巻く。

 まっ、俺には覚えて間もないとはいえ空間収納って便利魔法が有るが教える必要もないな。

 

 「此処の塀と堀が一晩で出来ていたと報告が有ったが本当なのか」

 

 「この程度なら楽に出来るさ」

 

 「このまま村に居ても住み辛いだろうし領都のエルクハイムに出て来ないか。これ程の土魔法が使えるなら領主のカナード・エスコンティ伯爵に高額で召し抱えられるのも夢ではないぞ」

 

 「俺は誰かに雇われる気は無い、冒険者に成るつもりだ。土魔法が必要なら条件次第で依頼を受けるぞ」

 

 ◇  ◇  ◇

 

 結局ハイド男爵とは近い内に領都のエルクハイムに出向く事を約束させられた。

 その際ハイド男爵から銅貨の3倍程の模様の付いた丸い通行手形を渡され、これを示せばエスコンティ伯爵領内なら自由に通行出来る事。

 エルクハイムの街の門番とカナード伯爵邸の門番に示して、ハイド男爵に面会を望めば取り次いで貰える様にしておくと言われた。

 

 ハイド男爵は帰り際に村人全員を俺の家の周囲に集めて、塀を崩して出来た土の山全体に木々の苗木を植えさせた。

 勿論堀の周囲にも小山を築きそこも木々の苗木を大量に植えさせた。

 

 近々新しい村長が来るから指示に従え、俺の家には近づくな。

 この家とアルバートの事は一切口外禁止とする。

 狩り以外で村を出る時には新しい村長の許可を貰って出ること、無断で出るなら覚悟を持ってしろ。

 此事が周辺地域や他の地域に漏れたら厳しい罰則を与えると、散々脅してから俺に待っているぞと言って帰って行った。

 

 ◇  ◇  ◇

 

 俺は植樹された木々の苗木の周辺や築きあげた土に魔法で大小大量の土剣を生やし誰も俺の家の周囲には立ち入れない様にしてから、母親の墓地の隣に父親ヨークの剣を埋めた。

 

 父親が亡くなる一年程前10才の時に生活魔法と地魔法が使える事が判った。

 母親の曾祖母がエルフなのでエルフ族と人族の子供や孫達にエルフの魔法の才能を受け継ぐ者が時々現れるからそれだろうと教えてくれた。

 生活魔法を覚えるのが早いからもしかしたらと思っていたそうだが、俺が畑の土で遊んでいるのを見て無意識に土魔法を使って穴を掘っていたらしい。

 

 父のヨークは元冒険者なので、多少魔法の素養も有り魔力の練り方と身に纏う身体強化を徹底的に教えられた。

 父のヨークが使えた魔法は防御結界と雷撃だが、防御結界はベテランシルバーランク冒険者の打ち込みには耐えられないし、雷撃魔法も人を失神させるには至らなかったそうだ。

 基本は教えてくれたが俺も才能が無いのか今の処基本止まりであった。

 

 11才の時に父ヨークが狩りの途中魔物の不意打ちを喰らって死亡、その後村長とマルセルに依って家屋や畑を無理矢理交換させられた。

 俺が村長の息子のゴードに大怪我を負わされたのはそれから間もない頃で、元々身体の弱かった母のエイニーナはそれを苦にして病床に伏す様になった。

 

 あの日村長の息子ゴードとその取り巻き連中に袋叩きにされて気を失い路上に放置されていたのを、夕方心配して捜していた母のエイニーナに発見されて助かった。

 

 目覚めた時に俺は何処に居るのか解らなかったが、意識がはっきりするうちに、俺、鳴海彰吾の意識とアルバートの意識が二重に存在していた。

 夢でも見ているのかと思ったが俺の意識は自由に思考しているのに対し、アルバートの意識は意識と云うより記憶の様に俺の思考を補佐していると分かった。

 二重人格?、にしては俺はこんな貧しい生活を知らない、アルバートの意識からは人族・エルフ族・人狼族・妖精族等訳の解らない知識が沸き上がって来る。

 

 怪我も治り普通に生活出来る様になっても俺の意識の底にアルバートの記憶が有る。

 あれっ、アルバートの意識の中に鳴海彰吾の記憶が、あれっ、あれっ、れれれ

 

 でも今は鳴海彰吾として考えているのなら、鳴海彰吾としてアルバートの身体から離れる事が出来ない。

 夢でないのは確かだ、となると考えられるのは輪廻転生なのか?

 

 嫌々、俺は死んだ覚えは無い!、断じて無い!

 ラノベの異世界転移とか転生では死後の世界で神様とかに会って・・・記憶にないなぁ。

 と言って鳴海彰吾の記憶も家族の事はすっぽり抜け落ちているし、数学の知識も加減乗除の四則演算と分数位は分かるけど、この先も朧気に知っていたような・・・

 日本人で学校に行って・・・歳は28才・・・かな、何処に住んで居たのか人が沢山居て高い建物も在った様な想いもするがよく解らない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る