妖精族を統べる者

暇野無学

第1話 村の異変

 無学の初期作品で、余りにも酷い文章に一度は手直し・・・どうにもならず放置していました。

 無学10話目のお話しが完結したので、再度手直しに挑戦。

 これ以上は読み返したくも無いので、不備は目をつむって下さい。


 * * * * * * * *


 エルゴア王国カナード伯爵領の辺境地ナムラード村、村外れの森の境界に周囲一辺約100m四方を高い石柱で囲い、中央に石造り2階建の家が建っている。

 しかし、何処にも門や入口らしきものは見当たらない。

 村人や兵士が声を掛けるが、一向に返事が無いし人気も無い様子だ。

 

 「本当に、此処にその男は居るのか?」

 

 「はい、いきなり塀を建て此処は俺の土地だと言い出しまして・・・」

 

 村長の返答に困惑する。

 いきなり建てるには大き過ぎる、まるで国境を守る砦並の塀である。

 よく見ると太さは約20cm高さ10~12m、基礎は4~5mは埋め込まれているであろうし、それに一周400mを越えると思われる。

 こんなものを個人がいきなり造れる訳が無い。

 どうも裏が有りそうだと、兵士を連れて来た男は考える。

 

 「今の所、危害は加えられて無いのだな。一度帰って領主様に報告して出直してくるので、余り近寄って刺激をするな」

 

 そう言い残して、兵士達には村には宿泊して警備する様に命令し、男はわずかの護衛を連れて帰って行った。

 

 三日目の昼過ぎに兵士が来て見ると、塀は立派な壁に変わり堀迄出来ている。

 しかも堀の幅は目算20mは有ると思われ、深さに至ってはロープに石を付けて投げ込んでみたが5m程有る。

 御丁寧に立派な門と、それに至る細い橋まで掛かっている。

 これには確認に来た兵士も開いた口が閉まらない。

 

 「昨日の昼過ぎには何の変化も無かったのに、丸一日でこれか。一日でこれ程の工事を成したと言うのか、馬鹿な!」

 

 門に通じる細い橋を渡り門に手を当てると、冷たく重厚な石の感触に身震いする。

 村まで人を走らせて鍛治に使うハンマーを持って来させると、それで門を叩かせたが、大岩に打ち付けた様な鈍い音がするだけで傷一つ付かない。

 塀も確かめ様と思ったが、二人並んで渡るのがやっとの橋では致し方無し。

 これ程の大工事が出来るなら塀の厚さも如何程か。

 取り合えず、御領主様に早馬の伝令を送るしか手の打ち様が無かった。

 

 村に残された兵士達のリーダーは、朝夕に様子を確かめに来ると昼間は村人達と雑談をして過ごしていた。


 * * * * * * * *


 伝令の報告により、領主カナード・エスコンティ伯爵はナムラード村に派遣する部隊の編成を急遽増員して、派遣部隊の責任者ヨルム・ハイド男爵に全権を与えて送り出した。

 

 カナード伯爵領の領都エルクハイムを出立したハイド男爵率いる部隊は、五日目に目的のナムラード村に到着した。

 

 ナムラード村村長ゴルムに詳しい説明を聞き、日も暮れかけていたのでその日は村の広場で夜営をした。

 翌朝村長の案内で問題の家に向かったが、遠目で見てもまるで砦か要塞である。


 目の前に立つと幅の広い堀を廻らせた堂々たる要塞だ。

 だがこんな辺境には必要ないし、隣国とは遥かに隔てている。

 他の領主の地とも遠く離れていて、何の役にも立たない代物だ。

 

 取り合えず鍛治用のハンマーで門扉を叩かせたが、返事が無いので鐘で野獣や魔物の襲来を知らせる非常時用の三連打を打たせる。

 〈カンカンカン カンカンカン カンカンカン カンカンカン・・・〉

 

 10分程鳴らし続けると、漸く門扉の上部に穴が空き人の顔が見えた。


 「煩いなぁ、静かにしろよ」

 

 「お前は此処の住人か?」

 

 問い掛けにそうだと返事が返って来たが、極めて無愛想でしかも成人前の12~3才に見える。

 

 「親は居るか?」

 

 問い掛けに、俺一人だが何の用だ、煩いと宣う。

 

 「お前が勝手に此処の土地を占拠していると、村長から訴えが有り取り調べに来た」

 

 「お前が責任者か?」

 

 「御領主様より全権を委任されて来ている、ヨルム・ハイド男爵だ」

 そう答えると門扉に穴が開いた、門が開いたのでは無い穴が開いたのだ。

 お前一人で来い、怖ければ護衛を連れて来ても良いぞと鼻で笑いながら言われた。

 奥に格子状の明かりが見えている。補佐の騎士と従者二人を連れて門を潜ると門が音もなく閉じた。

 

 「アルバートだ」

 

 目の前の少年が名乗ったが、後にあらゆる勢力が此の少年を味方に引き入れようと躍起になる存在だとは、この時は思いもしなかった。

 

 話を聞くと、元々村の中に土地家屋が在ったが、猟に出た父親が死亡した。

 数ヶ月後に村外れの土地と強制的に交換させられて、家も取り上げられたと話した。

 収穫前の土地を取られた上に、与えられた土地の収穫物も元々の持ち主が俺の物だと難癖を付けて取り上げられた事、それも村長の後ろ盾てでだ。

 

 仕方なく村外れに建っていたぼろ小屋に住み、交換させられた痩せた土地を耕していた。

 母親が病死すると、此の土地を明け渡して出て行けと言い出したので、拒否すると殴る蹴るの乱暴の上小屋も叩き壊されたそうだ。

 だから誰にも手出しが出来ない様に、堀を廻らせ塀を建てたのだと。

 聞いていて頭が痛くなってきた。


 村長やお前の土地を取り上げた者達から事情を聞いて、悪い様にはしないと言ったら鼻で笑われた。

 

 護衛の騎士が〈さっきから何だその態度は!〉と激昂するも気にもしていない。


 「お前のその剣でその格子が切れるのか? ハンマーを持っている者が居るのだからハンマーで壊してみろ」


 笑いながら言われて、従者が何度となく格子をハンマーで叩くが、一欠けらの破片どころか皹すら入らない。


 「四人も居れば、一人位は魔法が使えるのがいるのだろうが、俺を殺せば此処から出ることも出来ずに日干しになるぞ」


 と言われて鼻で笑われる始末だ。

 高濃度の魔力を込めて造られたと思われる格子は、簡単に破壊出来る物ではないだろう。

 これ程の物が造れるのなら、俺達を即座に埋めてしまえるだろう。

 この騎士は状況判断が出来ていない、間抜けだと判ったので以後他の者に替えよう。


 取り敢えずアルバートの話の確認が先なので、村長達の話を聞いてから判断する事にする。

 今此処で判断を誤れば、途轍も無い魔法使いを敵に回す事になる。

 これ程の土魔法使いは先ず聞いた事が無い、取り込めれば良い結果を生むだろう。

 ハイド男爵はそう考えながら、又来る事を約束して村へ引き返した。


 ハイド男爵はアルバートの言葉の裏付けを取るために、先ず村長からの訴えを再度詳しく聞いた。

 

 「村長、貴方の訴えとアルバートの言い分が違い過ぎるのだが、間違いは無いだろうな」

 

 頷く村長を見ながら、村に残っていた兵士達のリーダーを呼び出す。

 村長の顔が強張っているが、素知らぬ顔でリーダーから報告を受ける。

 

 「アルバートとその母親が元々住んでいた場所が、話しと違うな。現在の畑と家の持ち主を呼んで来い」

 

 村長の顔が益々強張り、青白くなりだした。

 呼ばれてやって来たマルセルという男に、何時から今の家に住んでいるのか元の土地と家は何処かと問い質すと、一気にマルセルの顔色も悪くなる。

 アルバートの父親と狩りに行ったのは、マルセルお前と他は誰だとたたみ掛ける。


 「お前は、いきなり魔物に襲われてアルバートの父親ヨークが死んだ。

と報告をしているが、何故お前達は誰一人怪我もせずに済んだのだ」

 

 村長が口を挟もうとするが、目で黙らせる。

 ヨークと一緒に狩りに出たマルセルを省く四人を呼び出し、一人一人から話を聞くと証言がバラバラだし、現れた魔物の種類すら違った。

 

 「村長、お前が持っているマジックポーチを此処へ置け」

 

 村長が恐る恐る差し出すマジックポーチのベルトを見ると、アルバートの言ったとおりヨーク・エイニーナ・アルバートの名前が縦横の角々文字に図案化されて書かれていた。

 これでは知らなければ只の模様にしか見えない。

 マルセルと村長のゴルムにベルトの模様の意味を教えてやると、震えながらあれこれと言い訳を始めた。


 別室で調べていた残りの四人が、狩りに出て何時もは行かない場所に誘い出し、マルセルが後ろから槍を突き差したと自白した。

 槍を背中に突き立てられて逃げられないヨークを、残りの四人で斬り殺したと白状した。

 マルセルにお前はどうなんだとたたみ掛けると、観念して真相を話し出した。


 * * * * * * * *


 一週間後、責任者のハイド男爵がアルバートの所へ現れた。


 「村長のゴルムとマルセルは家財没収の上終身犯罪奴隷、家族は終身奴隷とし八歳以下の子供は孤児院送り。残り四人も終身犯罪奴隷とし家族は不問になる。元の畑と家は君に返される」


 「今更返されても、どうにもならないさ」

 

 「お前は、これからどうするんだ」


 「後2年で16才に成るので、冒険者にでもなるさ」

 

 「訴えや密告で犯罪者を逮捕出来た場合には、一人につき金貨2枚主犯に対しては5枚支払われるので、金貨15枚がお前に支払われる。終身奴隷として売られる犯罪者家族7名は、一人につき金貨1枚が支払われるので合計22枚だな。それとお前の父親の剣とマジックポーチは返しておく。


 そう言って部下に剣とマジックポーチを持って来させた。

 中は空っぽだったが父親の形見だし金貨と剣を放り込んで腰に巻く。

 まっ、俺には覚えて間もないとはいえ空間収納っていう、便利な魔法が使えるのだが教える事もないので黙っておく。

 

 「此処の塀と堀が一晩で出来ていたと報告を受けたが、本当か」


 「この程度の物なら、問題なく作れるさ」


 「この村に居ても住み辛いだろうし、領都のエルクハイムに出て来ないか。これ程の土魔法が使えるのなら、ご領主のカナード・エスコンティ伯爵様に、高額で召し抱えてもらえるぞ」


 「誰かに雇われる気は無い。冒険者に成るつもりなので、依頼なら条件次第で受けるよ」

 

 何だかんだで、ハイド男爵から近い内に領都のエルクハイムに出向く事を約束させられた。

 その際、ハイドから銅貨の3倍程の大きさで模様の付いた丸い通行手形を渡され、これを示せばエスコンティ伯爵領内なら自由に通行出来る事。

 エルクハイムの街の門番とカナード伯爵邸の門番に示して、ハイド男爵に面会を望めば取り次いで貰える様にしておくと言われた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る